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矢押の樋(やのしのとい) 山本周五郎

【朗読】矢押の樋(やのしのとい)山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「矢押の樋」(昭和16年)です。延宝八年から天和元年、二年の天候不順で奥羽一帯は五穀不作続きだった。同三年の春から飢饉状態が現れ始めた。農民たちは絶望し、土地を去ろうとする者も出始めていた。

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矢押の樋 主な登場人物

矢押 梶之助・・・二十五歳。監物の弟。少年の頃から我が強く乱暴者で、亡き父は梶之助を「矢押家の瘤」と云っていた。

矢押 監物・・・二十九歳。家老職、梶之助の兄。明敏寡黙な老成人。幕府へ借款を申し込みに行く向田藩の使者となる。

吉井幸兵衛・・・北見村の豪農。加世の父。内濠から大樋をかけようという梶之助に協力する。

加世・・・幸兵衛の娘。梶之助を想っている。

外村重大夫・・・勘定奉行。梶之助が内濠で水練しているのを見つけ叱責する。

塩田外記・・・国家老。監物の舅。

 

矢押の樋 あらすじ(※ネタバレを含みます)

干害で飢饉状態の表れた向田藩では、糧米買い付けに奔走していたが資金が足らず埒が明かない。米の大出廻り地方が不作で奥羽諸国の大藩が一時に買い付けるので、現銀仕切りでないと商人が動かなくなっていた。そこで、幕府に借款願いを出すため、矢押監物を江戸に使者に出した。今、家中の若手の者たちは、お救い小屋の仕事や、水脈探し、井戸掘りなど炎暑を冒して山野に働いている。しかし、矢押梶之助はそれらに出なかった。噂では北見村の豪農、吉井幸兵衛の家に碁を打ちに通ったり、幸兵衛の娘、加世に執心などと取り止めのないうわさもあった。

かん太
矢押兄弟はこうと決めると後へ引かない性分だよ。兄・監物は幕府に借款を願いに行き努力したけれど不首尾に終わるんだ。監物は主家の使命を帯びた者がどう身を処するか、主命の重さを示すんだ。
アリア
梶之助も水が滾々と吹き出す城の内濠に大樋をかけようとする。彼の言葉が心に残るよ。
「城縄張りは重いものだが農民たちは今、一滴の水でも欲しいのだ。そして城にはそれが満々とあるのだ。若し農を以て国の基とするのが事実なら、そういう場合には城濠の水も切ろうという藩政の方向を示すことが重大だ。それによって農民たちは新しい希望を持つであろう。」

矢押の樋 覚え書き

四方(あたり)

剽軽た(ひょうげた)・・・気軽でおどけた感じのすること。また、その感じ。

不届者(ふとどきもの)・・・取り決めや法に従わないもの。

取糺す(とりただす)・・・厳しくただす。きつくただす。

干害(かんがい)・・・日照りのために生じる農作物などの災害。

山野(さんや)・・・山や野原、のやま、いなか。

生色(せいしょく)・・・いきいきとした顔色。元気そうな様子。

疲弊(ひへい)・・・心身が疲れて弱ること。

糧米(りょうまい)・・・食料にする米。

借款(しゃっかん)・・・政府の長期的な賃借。

水練(すいれん)・・・水泳の練習。

嘱望(しょくぼう)・・・人の前途や将来に望みをかけること。

寸暇(すんか)・・・ほんの少しの空き時間。

一抹(いちまつ)・・・ほんのわずか。

窮民(きゅうみん)・・・生活に困っている人々。

余人(よじん)・・・当事者以外の人。また、他の人。

落口(おちぐち)・・・水の流れの落下するところ。

斯様(かよう)・・・このよう、このとおり。

枯死(こし)・・・草木が枯れてしまうこと。

真向(まっこう)・・・正しく向かうこと。まっすぐに向かうこと。

掌(たなごころ)・・・てのひら。

悲歎(ひたん)・・・悲しみ嘆くこと。

目睫(もくしょう)・・・きわめて近いところ。

山塊(さんかい)・・・山系、山脈から離れ、ひとまとまりになっている山地。

基(もとい)・・・土台、基礎、また、物事の根本。

眉宇(びう)・・・まゆの辺り。まゆ。

冥加(みょうが)・・・思いがけない幸せ。

二世(にせ)・・・現世と来世。今生と後生。この世とあの世。

淋漓(りんり)・・・水、汗、血などがしたたり流れるさま。

奔流(ほんりゅう)・・・勢いの激しい流れ。

 

 

 

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