【連載朗読】さぶ11 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さぶ11」です。栄二は治療を始めてから五十日以上も経って無精髭が伸び、日光に久しく当たらないので顔色はなま白く肉もたるんでるが、体そのものは回復し、眼つきや口許に健康な若さがよみがえってきた。まだ与平はつきっきりで栄二の世話をしてくれ、それは実の父親にしても珍しいほど行き届いた世話ぶりだった。栄二は自分の中に起こった変化を自分で確かめようとして懸命だった。隙間風の冷たさや胴ぶるいを意識して味わったり、急がずに一つ一つをじっくり考えた。そして一枚の金襴の切れで自分の一生がめちゃめちゃになったという考えかたが間違いだったと認めるのだった。そしてさぶは「すみよし」で、おのぶが栄二のことを前から好きなことを知るのだった。栄二はさぶの書いた手紙を手本に手習いを始めていた。芳古堂の親方はいつも「うまい字を書こうと思うな、字はその人の本性を現すものだ。自分を偽らずにただ正直に書け。」といつもそう云ってた。栄二はさぶの字こそ本筋だということに気づいたのだった。そしてさぶに、卑下ばかりしないで、じっくりと自分を見るように云うのだった。もっこ部屋では、栄二に字を習いたいという者が少しづつ増え、十人ちかくにまでなった。そしてそれがまた新たな問題につながるのだった・・・・。
さぶ11 主な登場人物
清七(こぶ)・・・栄二のために桜の木で杖を作ってくれる。
立松伯翁(はくおう)・・・寄場の心学教師。栄二が自分を差し置いて字を教えると聞いてひどく自尊心を傷つけられる。
おのぶ・・・「すみよし」の主人が死んでから、すみよしの養女になり、三十五歳の板前と結婚して店をやっていこうという話が出て悩んでいる。栄二に相談に来る。
さぶ11 覚え書き
撞木杖(しゅもくづえ)・・・握りが丁字形になっている杖。
掻巻(かいまき)・・・袖のついた着物状の寝具。防寒着のこと。
草双紙(くさぞうし)・・・江戸中期以降に流行した大衆的な絵入りの小説本の総称。
反故(ほご)・・・書き損なったりして不要になった紙。
本筋(ほんすじ)・・・本来の筋道。血統や流派。
符牒(ふちょう)・・・商品につける値段や等級を示すしるし。
唐様(からよう)・・・中国風の書体。
和様(わよう)・・・書道で、日本風の書体。
明窓浄机(めいそうじょうき)・・・明るい窓と清潔な机。転じて、学問をするのに適した明るく清らかな部屋。
詠嘆(えいたん)・・・物事に深く感動すること。