【朗読】一人ならじ 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は山本周五郎作「一人ならじ」(昭和19年)です。主人公の栃木大助は、「痛い」「弱った」「参った」「困った」など決して云わない。どんな場合にもおよそ受け身になることを口にしない。壮烈なもののふの話です。
一人ならじ 主な登場人物
栃木大助・・・甲斐の武田晴信の家臣で馬場信勝に属し、戦時の時は、足軽二十人頭である。身分も風貌も平凡だが我慢強い。
馬場信勝・・・武田晴信の武将。
高折又七郎・・・馬場信勝の鞍脇のさむらい。戦場で抜群のはたらきをし、あとへひかぬ気質、弁舌、腕力もぐんと人を抑えている。
東堂舎人助・・・馬場信勝の足軽がしら。川中島ノ合戦から凱旋して間もなく、娘の初穂と栃木大助の婚約を披露した。
初穂(お弓)・・・17歳。栃木大助の許婚者。父に婚約を破談にされるが・・・
一人ならじのあらすじ (※ネタバレを含みます)
栃木大助は五歳くらいの時、父に「武士はがまん強くなければならぬ。」と訓えられて以来、「痛い」「参った」「弱った」「困った」などとは決して云わない。身分も風貌も平凡で目立たない存在だった。十五歳の時、父が馬場信勝の前に彼をめみえに連れていって、「幼少より我慢強く、これまでかつて痛いと云ったことも泣き言も口にしたことがない。」と大助を披露すると、「それなら皆で一度音をあげさせてやろう。」と云いだすものがあり、よかろうというので隙をねらってやってみたが、本当にどうやっても弱音をあげなかった。しばらくはそのがまん強さがよく噂にのぼった。大助が二十二歳の時、また彼の名が人々の耳に新しく甦るようなことが起こる。武田晴信は越後の上杉輝虎と川中島の決戦を挑んだ。その出陣祝いのとき、みんな杯をあげながらそれぞれ戦場に臨む覚悟を述べあう中に、栃木大助だけが妙なことを云った。「生きぬいてまいりたい・・・・・」酔っていた人々はこれを「大助が命を惜しがる」栃木らしいと笑った。
一人ならじ 覚え書き
郎党(ろうとう)・・・主家の一族や従者。
戦塵(せんじん)・・・戦場にたつちり、ほこり。転じて戦争の騒ぎ。
軍兵(ぐんぴょう)・・・兵士。兵卒。
軒昂(けんこう)・・・意気が高く上がるさま。奮い立つさま。
訥々(とつとつ)・・・口ごもって、つっかえながら言う。
郷国(きょうこく)・・・故郷。ふるさと。
城将(じょうしょう)・・・城を護る大将。
智謀(ちぼう)・・・知恵をはたらかせたはかりごと。巧みな計略。
好防善戦(こうぼうぜんせん)・・・うまく防ぎ、力をつくしてよく戦い抜くこと。
余勢(よせい)・・・残りの軍勢。
丘陵(きゅうりょう)・・・小さな山、丘
蹂躙(じゅうりん)・・・ふみにじること。暴力、強権などをもって他を侵害しること。
堅固(けんご)・・・かたくて、こわれにくいこと。
巧者(こうしゃ)・・・手慣れていて巧みなこと。
若駒(わかごま)・・・若い馬。春駒。
架橋(かきょう)・・・橋を架けること。また、その橋。
鬨(とき)・・・合戦で士気を鼓舞し、敵に対して戦闘の開始を告げるために発する叫び声。
小勢(こぜい)・・・少ない人数。また、そのさま。
挟撃(きょうげき)・・・両方から挟み撃ちにすること。
鉞(まさかり)
楔(くさび)・・・固い木材や金属で作られた道具。
鎧師(よろいし)
人品(じんぴん)・・・人としての品格。特に、身なり、顔立ち、態度などを通して感じられる、その人の品位。
忿り(いかり)
ふたしなみ・・・心得のないこと。不断の用意、心がけが足りないこと。また、そのさま。
死地(しち)・・・死ぬべき場所。死に場所。
毀誉褒貶(きよほうへん)・・・ほめること、けなすこと、さまざまな評判。