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さぶ10 山本周五郎

【連載朗読】さぶ10 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さぶ10」です。七月の大暴風の後から行われていた南の護岸工事は九月下旬には終わりかけ、寄場の中にはそれまでにない、なごやかで親密な気風がうまれたようだった。しかし栄二はまた口数が少なくなり、いつもできるだけ独りでいようとした。おすえも休みごとに訪ねてきたが栄二は会わなかった。栄二は金持ちが金の力で、目明しがお上の威光をかさに、何の咎もない自分を罪人にし、半殺しのめにあわせたことを繰り返し反芻し苦しんでいた。十月になり、護岸修理があと一日か二日で終わるところまできていた。石垣の外に沿って杉丸太の杭を打ち込む工事で、その日は七人しか働いていなかった。栄二は地盤に穴を掘る係だったが、あと五本だという、その四本目を掘っているとき、突然石垣が崩れて栄二をその下に押しつぶしたのだった。

さぶ10 主な登場人物

小頭の伝七・・・五十五六歳、見たところは七十の年寄り。痩せて皺たるんで、栄二が石に押しつぶされてもとうてい力を貸すことはできない。

さんてつ先生(滝本直道)・・・目つきのするどい中年の痩せた医者。ほとんど無報酬で寄場の世話をする。

中島坦庵・・・山城樫の外科医。南蛮流とオランダ流の医学に通じ、外科では当代五指のうちにあげられる名医。栄二の足の手術を行う。

さぶ10 覚え書き

 

 

 

さぶ2 山本周五郎

【連載朗読】さぶ2 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さぶ2」です。(二の一~二の五)二人が小料理屋「すみよし」に行ったのは、二た月後の四月だった。そこで二人は、若い女中に「あたしのこと覚えてない」と聞かれる。彼女は五年前に、両国橋のところで傘をさしていけといった子だった。名はおのぶ。二人は休みの日には「すみよし」へ通うようになったが、さぶはすっかりおのぶが好きになったようで、なんとか口実をつくっては手土産を買ってゆくが、自分では渡せず、栄二に頼んで渡すのが例になっていた。もちろんおのぶもそれに感づいていた。「すみよし」を出てから堀っ端のところでさぶは急に立ち止まり、

かん太
「おら、思うんだが・・・」さぶは糊作りしかできない自分のゆく先に望みがもてないことをみじめな弱々しい声で栄二に話すのだった。
アリア
そんなさぶに栄二は、「もしおれが自分の店を持つようになったら、おめえといっしょに仕事をしようと思うんだ。二人で一緒に住み、おめえの仕込んだ糊でおれが表具でも経師でも立派な仕事をして見せる。お互いにいつか女房をもらうだろう、そして子供もできるだろうが、それからも二人は離れやしねえ。いつまでも二人でいっしょにやっていって、芳古堂に負けねえ江戸一番の店に仕上げるんだ。」おめえはどう思う、おれとやるのはいやか。と云うんだ。

さぶ2 主な登場人物

おのぶ・・・小料理屋「すみよし」の女中。十八歳。五年前に二人に会ったことがある。

おみつ・・・十九歳。「芳古堂」の娘。嫁にいった。あまり器量よしではなく、家にいる時分から人の好き嫌いが激しくて職人たちのあらさがしをしたり、ありもしないことを親に告げ口をするというふうだった。嫁にいっても不平が多く、しばしば実家に帰ってはみんなに当たりちらすのだった。

和助・・・「芳古堂」の兄弟子。五月に浅草の東仲町に「香和堂」という自分の店を持ち、十五歳の小僧、半次をもらっていった。

さぶ2 覚え書き

へちまもねえ・・・糸瓜の皮とも思わない、つまらないものとも思わない。少しも気にかけない。

追従(ついしょう)・・・他人の気に入るような言動をすること。

地廻り(じまわり)・・・盛り場をなわばりとしてぶらぶらするならず者。やくざ。

糊の仕込み・・・さぶの糊の仕込みの様子をちょっと。五升樽くらいの桶に、小麦粉をよく水で練り上げて袋に入れて揉むと白い水が出る、それを沈殿させて壺にいれて日陰の土に壺の半分を埋めて貯える。そして二年から三年ねかせる。

かん太
後戻りする話ばかりするさぶに栄二は、「おめえはいつも気持ちを支えてくれる大事な友達なんだ。おめえはみんなにぐずやぬけてるなどとも云われながら、辛抱強く、黙って、石についた苔みてえに、しっかりと自分の仕事にとりついてきた、おらあその姿を見るたびに、これが本当の職人根性ってもんだって自分に云いきかせたもんだ。」って励ますんだ。

さぶ3 山本周五郎

【連載朗読】さぶ3 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さぶ3」(三の一~三の五)二人は二十三歳になった。初めて二人だけで綿文の襖の張替えに行き、五日目に下張りにかかっていた。がっしりした本間襖で、刷毛を持って向かい合うだけでも気持ちが引き締まり、いかにも仕事をするという快い昂奮が全身に感じられるようであった。しかし翌日、朝飯を済ませてでかける支度をしていると、親方の芳兵衛が来て栄二に「おまえはゆかなくていい」と云った。栄二にはその理由がわからず、見当もつかないので頭が混乱し、やけな気持ちで酒でも飲んでやろうと街を歩いた。

さぶ3 主な登場人物

おすえ・・・綿文の中働き。十九歳になり、お嫁の話があるが、なかなかうんと云わない。

おその・・・綿文の中十九歳になるが、縁遠い生まれつきだという。「栄ちゃん、あたしのことお嫁に貰ってくれないかしら」と目じりで栄二を見つめながら云う。

おのぶ・・・堀江町の「すみよし」の女中。二十一歳。ぼんやり歩く栄二に声をかけ、店で酒を飲ませる。さぶの気持ちを栄二に伝えられるが、どうしても好きになれないという。

和助・・・香和堂の主人。綿文の旦那の高価な古金襴の切が一枚なくなり、それが栄二の道具箱から出てきたことを栄二に伝える。

 

さぶ3 覚え書き

反故紙(ほごがみ)・・・書きそこなうなどして不要になった紙。

鏝(こて)

水茶屋(みずちゃや)・・・江戸時代、道ばたや社寺の境内などで、茶を飲ませて休息させた店。茶店。

虫拳(むしけん)・・・拳遊びの一種。親指が蛙、人差し指が蛇、小指をナメクジに見立てて勝負する。蛙は蛇に、蛇はナメクジに、ナメクジは蛙に負ける。

 

 

さぶ4 山本周五郎

【連載朗読】さぶ4 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さぶ4」(四の一~四の五)です。突然、親方に綿文の仕事から外された栄二はその理由がわからず、浅草の兄弟子・和助の店へ相談に行った。そこで栄二は、自分に綿文で盗みをした疑いがかかっていることを知る。芳古堂では、七、八年前に栄二が帳場の銭を盗んでいた過去もあり、今すぐにはどうしようもないと云われる。栄二は、まったく覚えのない濡れ衣を着せられ、十年も勤めた店を追い出され、ひと言の言い訳も聞いてもらえずかっとなり、生まれて初めて、世間も人も信じられなくなり、どうにでもなれと、すてばちな気持ちで飲みあるいたうえ、ゆきあたりばったりに女と寝るのであった。五日も飲み続けた栄二は、酔って芳古堂の先代からのとくい先、綿文へ怒鳴り込む。芳古堂の親方は、すぐに綿文へ詫びにゆき、栄二は店から放逐すると約束し、浅草の和助の店にも置くなと命じる。行き場のない酔った栄二をさぶは「すみよし」に連れていく。そこに綿文から暇を取ったおすえが駆け付け、自分の家にいっしょにいこうと云う。

さぶ5 山本周五郎

【連載朗読】さぶ5 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さぶ5」です。(五の一~五の五)栄二には綿文の主人の金襴の切れが、なぜ自分の道具袋に入っていたかわからない、覚えがないし、何かわけがあるに相違ないと主人に確かめに綿文へいくが、店に因縁をつけにきた者として火消の頭と若い者二人に雪の積もった道へひきずりだされ、二人がかりでぶん殴り、踏んだり蹴ったりされた。次には番小屋で岡っ引きと子分に十手でさんざんに打ち据えられ、足蹴にされ、番小屋の隅に転がされた。そこへ町廻り与力の青木功之進、同心の安井友右衛門、下役の岡村次兵衛の三人が見廻りの途中に立ち寄った。青木は栄二に事情を聞くが、復讐しか考えられない栄二は何も答えない。やむを得ず、青木は栄二を北町奉行所に連れていく。栄二は奉行所の仮牢に七日入れられ、又左衛門は自分で吟味をし、いろいろ親切にふるまう。しかし栄二の態度は変わらなかった。功之進は綿文の方を調べたが、「ただどなり込んで狼藉をされた」というだけで、栄二の素性や身許について何も話さなかった。栄二のこれまでのしらべでは、ほかに余罪はないようだから、本来ならこのまま召放しにするところだが、住居も請人も申立てず、職の有無も云わぬ以上、無宿人の処分はまぬかれない。栄二は石川島の人足寄場に送られることとなった。

かん太
栄二には復讐心しかなかった。世間全体が敵だった。金持ちは金の力で、役人は権力で罪のない者を罪人にすることができる。自分のように金も権力もない者には、かれらに対抗することはできない。これが事実なんだと思うと怒りがまた突き上げてくるのだった。
アリア
石川島の人足寄場に送られても誰とも口を訊かず、自分の殻に閉じこもっている栄二。彼はもっこ部屋に入ることになった。

さぶ5 主な登場人物

青木功之進・・・町廻り与力二十七か八、痩せ型で背丈が高く、細面の浅黒い顔は際立って目鼻がはっきりしていた。いかにも自制心と意思の強さを示しているような顔つき。

安井友右衛門(同心 )      岡村次兵衛(下役  )      青木又左衛門(北の奉行所・上席与力   功之進の一族)     

岡安喜兵衛・・・役所詰元締役。

松田権蔵(赤鬼)・・・寄場差配。五十ばかりの雄牛のような躰つきで肩に肉が瘤のように盛り上がり、赤黒い顔に目と口ばかり大きく、鋸の目を立てる時のような 耳障りな声をしている。

小島良二郎・・・人見張役。四十四、五歳。やさ男で着物の衿を首をしめるほどひき合わせ、あまったるい声で何かをなでるような話し方をする。

(もっこ部屋)

伝七・倉太・才次(小頭)

金太・・・博奕でしょっぴかれ石川島へ送られた。

次郎吉・・・栄二がどこかで会ったことがあると思う。

与平・・・女房を殺しそこなって石川島へ送られた。

さぶ5 覚え書き

通用金(つうようきん)・・・世間に通用している貨幣。

内済(ないさい)・・・表沙汰にしないで内々で事を済ませること。

吟味(ぎんみ)・・・罪状を調べただすこと。

激発(げきはつ)・・・はげしい勢いで起こること。激しく奮い立つこと。

牢問い(ろうどい)・・・江戸時代の拷問のうち、むち打ち、石抱き、海老責の三つ。

劈く(つんざく)・・・勢いよく突き破る。

狼藉(ろうぜき)・・・無法な荒々しいふるまい。乱暴な行い。

無宿人(むしゅくにん)・・・江戸時代、百姓、町人が、駆け落ち・勘当などによって人別帳から名前を外された人。

無頼(ぶらい)・・・正業に就かず、無法な行いをすること。

仁恵(じんけい)・・・思いやりの心と恵。

 

 

 

           

 

 

 

さぶ6 山本周五郎

【連載朗読】さぶ6 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、、山本周五郎作「さぶ6」(六の一~六の五)です。もっこ部屋にいる次郎吉という男に見覚えがある栄二。ある時、次郎吉が女衒の六だと気づき、「すみよし」のおのぶの代わりに殴る。それからもっこ部屋の人足たちは栄二に一目置くようになった。しかし、もっこ部屋の若い小頭の才次だけはそうではなく、あからさまに栄二に対して反感を示し、仕事の割り振り、仕事をしている時でも栄二にだけ特に厳しく当たった。しかし栄二は自分の中に固く閉じこもり何の反応も示さなかった。栄二のその態度が才次はいっそう苛立ち、怒りに駆られ、我慢をきらして栄二に挑みかかるが、栄二に半殺しの目にあわされ、病人置き場に十余日いることになる。ある日の夕方、番所にさぶが訪ねて来る。

さぶ6 主な登場人物

次郎吉・・・(勝あにい)女衒の六。

立松伯翁(たてまつはくおう)・・・心学の教師。六十歳くらいで茶色に油びかりした禿げた大きな頭、はちきれそうに丸い顔に厚い大きな唇をもっている。

才次・・・栄二に半殺しにされ恨みを持つが、余罪で伝馬町に移される。

松田権蔵・・・寄場差配。栄二を気に入っている。

 

 

さぶ6 覚え書き

追従・・・他人の気に入るような言動をすること。

女衒(ぜげん)・・・女を遊女屋などに売ることを業とする人。

野詰め

緩慢(かんまん)・・・動きがゆったりしてのろいこと。

枯淡(こたん)・・・人柄・性質などがあっさりしていて、しつこくないこと。

一隅(いちぐう)・・・一方のすみ、かたすみ。

五布(いつの)・・・表裏とも並幅の布を五枚縫い合わせて仕立てた布団。

喉笛(のどぶえ)・・・のどぼとけのあたり。

 

 

さぶ7 山本周五郎 

【連載朗読】さぶ7 山本周五郎 読み手アリア

 

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、「さぶ7」です。(七の一~七の五)栄二は自分を恨んでいる才次ともう一度やるつもりだった。今度こそ対等に本気でぶっつかるつもりでいた。しかし才次は余罪がばれて伝馬町へ送られてしまった。本当にそんな余罪があったのだろうか、おれのように世間の罠におとされたんじゃあないのか、と栄二は思った。それからのち栄二はようやく周囲の人間や出来事を注意して見るようになった。そして少しづつ人と口をきくようになった。それを誰よりよろこんだのは与平であった。五月に入ると、五日おきに訪ねてきていたさぶが姿を見せなくなった。栄二はいつも会うことはなかったが、さぶを気にする自分に肚を立てた。六月に入ると油絞りのこぶが暴れだして大騒ぎになった。元結作りの松造が島から出る際に、こぶが夫婦約束をしている女、おとよを一緒に連れ出したからだった。

かん太
栄二は、寄場にいる人間がみな世間からのけ者にされ、痛めつけられ、騙されたりぺてんにかけられたり、暗くおぞましい経験をしたことに気づくんだ。

 

さぶ7 主な登場人物

才次・・・元小頭。栄二に半殺しにされ病人置き場にいたが、余罪がばれて伝馬町へ移された。

万吉・・・二十七歳、「に組」の火消しだったが、派手な喧嘩で相手の三人にけがをさせて寄場に送られた。栄二が才次をやっつけてからずっと話しかけてきていた。なんでも金銭の高で評価する。

ご一・・・5年前に寄場に送られた百姓部屋のもの。11歳から野良仕事をし、笹薮だらけの荒地を七反歩もおこし、水を引いて田に作った。しかし地主にすべて取り上げられてしまう。ご一はやけになって地主の屋敷に火をつけようとして捉まった

おとよ・・・三十歳、女置き場の女。多情で云い寄る男なら誰にでも身を任せる。こぶの清さんと逢っていたが、松造にちょっかいを出されて熱くなる。

こぶ(清七)・・・油絞りの中でも暴れ者で首に瘤がある。おとよに首ったけ。

松造・・・三十一歳、元結い作り。行状もよく、外使いでしゃばに出る時におとよを妻に迎えたいと思っている。万吉を云いくるめて、こぶとの仲を裂こうとする。

 

 

さぶ7 覚え書き

おためごかし・・・表面は人のためんいするように見せかけて、実は自分の利益を図ること。

纏持ち(まといもち)・・・火事場の最前線に立ち、高く掲げて火元や風向きを知らせ、火消したちの士気を高める役割をもつ。

おっぴしょれる・・・へしおれる

公事師(くじし)・・・江戸時代、当事者に代わって訴訟を進めたり、手続きを指導したりすることを業としていた者。

古証文(ふるしょうもん)・・・古い昔の証文。古くなって効力を失った証文。

矢来(やらい)・・・竹や丸太を縦横に荒く組んで作った囲い。

雑役(ざつえき)・・・主な業務以外の種々雑多な仕事。

掛矢(かけや)・・・樫の木などの堅木で作った大きな槌。くい打ちや扉を破るのに用いる。

 

 

 

さぶ8 山本周五郎

【連載朗読】さぶ8 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さぶ8」です。(八の一~八の六)清七の暴行で三人が大けがをした。清七は大牢へ送るということになりかねなかったが、栄二は清七を大牢へ送るなら自分も一緒に送ってくれと居直った。清七が暴れた時、罰をうけるなら一緒だと男の約束をし、それを信じて清七は掛矢を捨てたのだ。結局、清七と栄二は一緒に三十日の手鎖押籠めという処分になった。ある日、おすえが訪ねて来た。おすえはさぶから手紙がきて、栄二が寄場にいることを知った。さぶは行方がわからなかった栄二を探し続け、ついには浅草の香和堂で古金襴の切れのいきさつを知る。さぶは「氷に火がついても栄さんがそんなことをする筈がない。」と栄二を信じているし、おすえもまた栄二を信じていた。しかし栄二の頭には、自分をひどい目に合わせた者たちへの復讐しかなかった。おすえは、栄二がどんな辛いくやしい思いをしているかわからないが、さぶがどんな気持ちで栄二を探していたか、さぶの手紙を読んだ自分がどんな気持ちだったか、お互いに分かり合おうとすればこそ、友達があり夫婦があるんじゃないかと説得するが、栄二は黙って行ってしまう。三十日の押し込めが終わり、栄二と清七を祝うため、もっこ部屋ではみんなが手銭を出して、酒を買い、ささやかな膳でなごやかな時間を過ごす。そしてその夜、大嵐が寄場を襲った。

かん太
さぶもここで丁度半分くらいです。清七との信頼関係、もっこ部屋のみんなで今後は助け合っていこうと語り合う。栄二はそれぞれの身の上を知り、なんと可哀そうな人たち、なんと残酷な世間だろうと思いながら自分を痛めつけた人たちへの復讐心をっ燃やすのだった。そして大嵐の夜・・・。

 

さぶ8 主な登場人物

清七(こぶ)・・・31歳。上州のどこか貧しい百姓の三男に生まれ、五つか六つの時に岩風呂で見たものから女が恐くなった。しかし、おとよだけは初めて会ったときから恐くなかった。寄場では手に負えない乱暴者といわれるが、極めて大人しい小心者で愚かしいほど善良な男。十五の年に故郷を出奔し、土方や人足をしながら二十二歳で江戸に出た。江戸でも土方や人足をしたが、四年前に三人を相手に喧嘩してけがをさせ、役人の手に渡された。しかし彼には請人がなく、故郷のことが云えないため無宿人として五年の期限付きで寄場へ送られた。

さぶ8 覚え書き

強硬(きょうこう)・・・自分の立場、主張を強い態度であくまでも押し通そうとすること。

大牢(たいろう)・・・江戸時代、江戸小伝馬町の牢で、戸籍のある庶民の犯罪者を入れた牢。

否応(いやおう)・・・不承知と承知。諾と否。

定番(じょうばん)・・・常に番をすること。

上方(かみがた)・・・江戸時代に京都や大阪をはじめとする畿内を呼んだ名称。

御破算(ごはさん)・・・今までの行きがかりを一切捨てて、元の何もない状態に戻すこと。

法度(はっと)・・・禁じられていること。

小股をすくう・・・人の油断やすきを利用して自分の利をはかる。

十両がとこ・・・十両くらい。

大恩(だいおん)・・・大きな恩、深い恩。

われ勝ち(われがち)・・・人よりも優位に立ち、先行しようとするさま。

おだてとともれえ籠にゃあ乗らねえぞ・・・おだてと、とむらい籠には乗らないぞ。

 

 

 

さぶ9 山本周五郎

【連載朗読】さぶ9 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さぶ9」です。七月の大暴風の後、おすえが栄二のところにやってきた。大あらしの時から栄二のことが心配でたまらなかったのだ。栄二は相変わらずおすえに対して素っ気なく、おすえはさぶの手紙を四通置いて帰って行った。字の下手なその手紙には日付がなく、内容はどれも栄二のことを心配し、自分の近況が書かれていた。そこには栄二に心配させないように葛西でゆっくり養生し、脚気も腸も九月頃にはすっかりよくなるだろうと気楽に書いてあるが、栄二にはさぶの辛い明け暮れがあらわに感じるのであった。寄場では、全部の人足で大あらしと高波の後片づけと再建にかかっていた。おすえは五日めごとに来ていたが、八月の十一日には「すみよし」のおのぶが訪ねてきた。おのぶはさぶのことで話があって来たのだ。さぶは芳古堂から手紙一本で暇を出されていた。その理由をおのぶから知らされた栄二は愕然とするのだった。またおのぶは、復讐しか頭にない栄二に、それは自分本位でそんなことにかかりあうことはない、それよりも栄二のために苦労もし、心配もしている人たちのことを考えるように云う。

かん太
寄場にいる人たちの中には「一生ここで暮らしたい」と考える人が少なくなかった。この寄場のたてまえは、江戸市中の多くの浮浪者、小泥棒、牢を出ても職も身寄りもない者などを集めて手職を与え、賃銀を貯えさせ、機会があれば市中へ出て一般市民と同じ生活のできる人間にするということだった。
アリア
栄二は与平からその話を聞いて、世間の下積みになって、世間のからくりに振り回されながら、その日その日をかつかつに生きている人たちがここへきたら、やっぱり二度と世間に戻りたくないと云うだろうと思い、さぶもその組だと思うのだった。

さぶ9 主な登場人物

おのぶ・・・「すみよし」の女中。さぶのことを話に寄場に訪ねてくる。そこで女衒の六が死んだことを知る。

さぶ・・・脚気と腸を患って実家の葛西へ帰っているが、そこでも追い使われている様子。六月に芳古堂から暇を出される。

成島治右衛門・・・寄場の奉行。

さぶ9 覚え書き

無法(むほう)・・・道理にはずれていること。乱暴なこと。

上げ潮・・・満ちて来る潮。満ち潮。

横物(よこもの)・・・横に長く書かれた書画や、それを表層した軸物や額。

頬桁(ほおげた)・・・ほおぼね、ほおがまち。

すべた・・・女性を卑しめ罵る言葉。顔のみにくい女性。

雑用(ぞうよう)・・・こまごましたものの費用。雑費。

一心(いっしん)・・・心を一つの事に集中すること。

悪辣(あくらつ)・・・情け容赦なくたちが悪いこと。あくどいこと。

 

 

さるすべり 山本周五郎

【朗読】さるすべり 山本周五郎 読み手アリア 

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「さるすべり」です。この作品は、昭和18年40歳、富士に掲載されました。物語の舞台は、徳川家康の会津征伐と石田三成が挙兵の間で揺れる時期です。伊達政宗が妻子を人質に取られながら家康に忠誠を誓うという苦悩を抱えています。家康から白石城を撤退の命令を受けた政宗は不満を抱きつつも従います。その決断に基づき、浜田治部介は白石城の守りを任され、わずか五十人の兵で城を守る大役を引き受けます。

さるすべり 主な登場人物

浜田 治部介(はまだじぶのすけ)・・・二十七歳、伊達政宗の家臣で、肩幅の広い筋肉質の逞しい体つきで、眉尻のちょっと下がったおっとりとした顔立ち。性格は物静かで口数が少ない。しかし上からも下からもよく信頼されている。白石城の守りを任される。

伊達政宗・・・家康の命令に従い、白石城からの撤退を指示するも、内心では不満を抱いている。

片倉景綱・・・政宗の重臣で、政宗の右腕的存在。治部介を信頼している。

石田三成・・・物語の背景で挙兵し、会津の上杉景勝と連携して徳川家康と対立する。

奈保・・・浜田治部介の妻。夫に会いたい一心で、命の危険を冒して白石城に辿り着くが・・・

多紀勘兵衛、半沢市十郎、比野五郎兵衛・・・治部介の家臣。