【朗読】妻の中の女 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「妻の中の女」(昭和30年)(あとのない仮名/新潮文庫)です。江戸から前触れなしに不意をついて帰国してきた江戸家老・信夫杏所(58歳)は代々の城代家老で、その「並びなき威勢」と底抜けの「わがまま」と、絶え間なしの「遊蕩」とで誰知らぬ者はなかった。また城代家老としての過去を知っている者は(老職や当時の側近は)、そのきわだった業績と、まれにみる俊敏さと、「軽薄に隠れた」老獪さを忘れてはいなかった。杏所は「御用金調達」のために予告なしに来たのだが、帰国して五日目に開いた老職会議では黒書院の上座に座り、初めから威猛高で会議というよりは、一方的に要求を押し付けるという感じだった。そんな信夫杏所に物申したのは三年前、殿じきじきに任命された勘定奉行・若杉泰二郎だった。
妻の中の女 主な登場人物
信夫杏所・・・58歳・代々城代家老だが、八年前に自分から無理に望んで江戸家老として赴任する。自由に遊蕩するために43歳まで独身だった。結婚した初世に対して冷淡で、江戸へも同伴しなかった。
若杉泰二郎・・・27歳・勘定奉行。国許で誰よりも人望がある、役目にはきわめて忠実で、才腕と実行力があるし、年には似合わぬほど温厚で謙遜。
初世・・・41歳・杏所の妻。面長のおっとりした顔立ちで、地蔵眉と、やや尻下がりの眼とに、こぼれるような愛嬌があった。
しほの…19歳・泰二郎の婚約者。大村直人(年寄役肝入)の娘。堀普請の手伝いで力仕事もするし、陽に焼けるから浅黒い肌が引き締まって、眼つきにも口ぶりにも健康で爽やかな力感が満ち満ちていた。
大沢五郎太夫・・・二十代・江戸邸の剣術師範。抜刀流(田宮派)の上手で、杏所の推挙によって召し抱えられた。杏所に心酔している。
妻の中の女 覚え書き
碁笥(ごけ)・・・碁石を入れる丸い容器。
後刻(ごこく)・・・しばらく時間の経ったのち。のちほど。
山方(やまかた)・・・山のある地方。
威勢(いせい)・・・人を恐れ従わせる力。
孤閨(こけい)・・・ひとり寝の部屋。転じて、夫の長い留守の間、妻が一人で暮らすこと。
本卦返り(ほんけがえり)・・・生まれた年の干支と同じ干支の年がくること。数えで61歳になること。
雛妓(しゃく)・・・すうぎ。一人前でない芸妓。半玉。
一顰一笑(いちびんいっしょう)・・・ちょっとした表情の変化。人の顔色、機嫌。
蕩児(とうじ)・・・正業を忘れて酒色にふける者。
老獪(ろうかい)・・・いろいろ経験を積んでいて、悪賢いこと。また、そのさま。
末席(ばっせき)・・・最も立場の低い人が座る席。
繁多(はんた)・・・物事が非常に多いこと。また、そのさま。
土性骨(どしょうほね)・・・性質・根性を強調、または、ののしっていう語。ど根性。
多寡(たか)・・・多いことと少ないこと。その量、額、多少。
適否(てきひ)・・・適すること、適さないこと。
徒食(としょく)・・・働かないで遊び暮らすこと。
助勢(じょせい)・・・力を添えて援助すること。
傲岸(ごうがん)・・・おごり高ぶって、いばっていること。
人望(じんぼう)・・・信頼できる人物として、人々から慕い仰がれること。
威猛高(いたけだか)・・・相手を威圧するような態度をとるさま。
査問(さもん)・・・調べ問いただすこと。
周旋(しゅうせん)・・・売買・交渉などで、当事者間に立って世話をすること。
名聞(みょうもん)・・・名声が世間に広まること。世間での評判。
踏査(とうさ)・・・実際にその地へ出かけて調べること。
畚(もっこ)・・・ふご。竹、わら・縄などで網状に編み、四隅につりひもをつけ、物を入れて運ぶ道具。
瑣末(さまつ)・・・重要でない、小さなことであるさま。
一揖(いちゆう)・・・軽くおじぎをすること。
野天(のてん)・・・屋根のないところ。家の外。
生きた空もない・・・生きた心地がしない。恐怖や苦しみを表現する言い方。