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榎物語 山本周五郎 

榎物語 山本周五郎 読み手 アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「榎物語」です。この作品は1962年昭和37年に雑誌に掲載されました。主人公さわは、「榎屋敷」で育ちます。榎屋敷の東南の隅に樹齢500年以上といわれる榎が高く梢を伸ばし、枝を広げていた。さわは、この榎の前で泣いたり、国吉と言葉を交わしたり、国吉と末の約束をします。また山津波で悲劇に遭うときも榎のそばにいた。物語の後半では、山津波でなくなった葉川村に唯一残った榎の前で野点の茶をすすめ、それで暮らしをたてる。そして足助の告白も榎のそばで聞き、そして最後は榎のそばで目が開きます。どんな時も揺るがない榎の存在が心に残る作品でした。

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榎物語 主な登場人物

~前半~

河見さわ・・・躰がひよわく、器量もあまりよくない。河見家の長女らしくない人のうしろに隠れたり、どこかの隅にいる。

河見なか・・・さわの妹。姿かたちも美しく愛嬌もあり、頭もすばしっこい。小さい頃から人気者。

河見半左衛門・・・代々七カ村の庄屋を勤める。さわを「まるで貰われてきたようなおかしな子」と云っていた。

国吉・・・河見家の下男。雑役。さわと末の約束をする。

足助・・・河見家の飯炊き老僕。国吉とさわが榎のところで毎日のように逢っているのを、あるじ半左衛門に告げる。

~後半~

はつ・・・柏屋の女中

おすげ・・・柏屋の女中。山津波の前、木綿問屋の健次と夫婦約束をした。泥水の中で離ればなれになってから彼と再会する日を待っている。

越前屋重兵衛・・・絹物問屋、越重。小出で指折りの資産家。山津波の際、さわと他十人余りの避難者を自分の持ち家に引き取って世話をした。さわに身寄りがないので、榎のそばに住居と茶道具を用意してくれる。

越前屋安二郎・・・越重の若旦那。月に二、三度さわの安否と不足なものはないか気遣ってくれる。三年以上もさわと結婚したがっている。

佐平(国吉)・・・河見家を出て、江戸で絹糸商の店を持つようになる。名も佐平と改めた。

榎物語のあらすじ(※ネタバレ含みます)

河見家は七代前に苗字帯刀をゆるされ、代々七カ村の庄屋を勤めていた。小出は会津藩に属し、絹と木材の集散地で、河見家でも広い木山を持っているため、庄屋のほかに藩の山方の差配を命ぜられ、榎屋敷の周りには樵たちの長屋があった。さわは躰がひよわく器量もあまりよくなかった。いつもどこかの隅か、人の後ろに隠れていた。妹のなかは姉とは反対で、姿かたちも美しく、愛嬌もあり、頭もすばしっこく小さい時から人気者だった。河見家には下男や雇人が十四五人いたが、国吉はなんにでも使われる雑役だった。男ぶりもぱっとせず、負けぬ気ばかり強くてめはしがきかず、人に親しまないので、誰にも好かれないばかりか山猿といってバカにされていた。国吉とさわの立場はどこかに共通したものがあり、早くからお互いの間に、哀れなというおもいが、ひそかにかよっていたようであった。さわが十五になった年、指に棘を刺したところに国吉が来て、何かの草の葉を焙ったのを患部に貼ってくれたことが愛情の芽生えとなった。それから二年経って、二人は榎の下で話をした。さわは、泣いていた自分を気にかけてくれた国吉に新しい感情がめざめる。それから二人はいつも榎の蔭で逢うようになった・・・周囲の者に殆ど関心を持たれていない二人は人目を忍ぶ必要はなかった。しかし、老僕足助だけはさわと国吉が榎のところで毎日逢っていることを、あるじ半左衛門に告げた。

かん太
国吉は河見家を放逐されてしまうんだ。さわは、国吉がこの土地から出てゆく前に、必ず一度は逢いにくると信じて、明け方と黄昏の人に気付かれない時刻に榎のところに行った。
アリア
数日後、二人は榎のところで逢うんだよ。初めて抱き合って末の約束をした。国吉は江戸へ行って出世し、さわを迎える。石にかじりついても出世するので待っていてくれと云った。さわも五年でも十年でも、たとえ一生涯でも国吉を待つと云った。さわはこの約束を何時も心に生きていくんだ。それは・・・続く

榎物語 覚え書き

饗応(きょうおう)・・・酒や食事などを出してもてなすこと。
機智(きち)・・・その場に応じて、とっさに適切な応対や発言ができるような鋭い才知。
叢林(そうりん)・・・樹木が群がっている林。
礫(つぶて)・・・小石を投げること。また、その石。
緩慢(かんまん)・・・動きがゆったりしてのろいこと。
劈く(つんざく)・・・勢いよく突き破る。つよく裂き破る。
咆哮(ほうこう)・・・猛獣などがほえたけること。また、その声。
土風炉(どぶろ)・・・茶の湯で土を焼いて作った風炉。
野点(のだて)・・・野外で茶または抹茶をいれて楽しむ茶会。
真間の手児奈(ままのてこな)・・・手児奈はうら若い乙女であったが、自分を求めて二人の男が争うのを見て、罪の深さを感じたか、自ら命を絶ったという伝説、万葉集に山部赤人に感興を覚えて詠んだ歌がある。
不調法(ぶちょうほう)行き届かず、手際の悪いこと。また、そのさま。

 

 

 

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