【朗読】めおと蝶 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「めおと蝶」です。(昭和25年)信乃は嫁に行く前ずいぶん早くから秘かに西原知也を愛していた。それはまだ人を愛するということがどういうことであるか自分でも分からない年頃だったので、その時は本能的な自己保護と羞恥から知也を避けていた。彼は亡くなった父の友人の子で、長いこと親族のように付き合っていた。そして家族ぐるみで蛍狩りに行ったとき、信乃は知也にふいに抱かれる。彼が肩を抱きしめた激しい力、頬や唇にうけた気の遠くなるような接触。この出来事が信乃には罪のように感じられていた。その時の一瞬の戦慄に似た深い感覚の歓びは、憚り隠すもの、不道徳なもの、受けてはならぬもの、恥ずべきものというふうに思えた。その意識が上村との縁談を信乃に承諾させた。信乃は今、良人を愛することができない。それが高じて憎むようにさえなっていた。そんな時、良人が忘れていった罪科書の中に西原知也の名があった。罪科は死、国老や重臣数名を暗殺しようとした首謀者ということだった。
めおと蝶 主な登場人物
信乃・・・大目付上村良平の妻。甲之助という男子が一人ある。
文代・・・信乃の妹、信乃の良人、良平を石仏と云って嫌っている。
西原知也・・・亡くなった父の友人の子で、気性の明るい、感動しやすい、多少乱暴ではあるが思い遣りの深い、誰にでも愛される素質を持っている。破牢して信乃に匿われる。
上村良平・・・信乃の良人。小心者の出、国家老の井巻済兵衛に認められて大目付にまで出世する。信乃を愛している。
めおと蝶 覚え書き
とりつく島のない・・・相手を顧みる態度が見られないこと。
なまじ・・・完全ではなく中途半端なこと。
渦紋(かもん)・・・渦の形の模様。
吝嗇(りんしょく)・・・ひどく物惜しみをすること。けち。
仮借(かしゃく)・・・多めに見てやり、まあまあと赦すこと。
間歇(かんけつ)・・・一定の時間を置いて、物事が起こったりやんだりすること。
軽侮(けいぶ)・・・軽んじあなどること。人を見下しばかにすること。
説諭(せつゆ)・・・悪い行いを改めるように言い聞かせること。
批議(ひぎ)・・・批評、批判。
輾転(てんてん)・・・転がること、回転すること。
瀆職(とくしょく)・・・私欲のために職責を汚すこと。
糊塗(こと)・・・一時しのぎにごまかすこと。
蒼茫(そうぼう)・・・ほの暗いさま。