【朗読】夏草戦記 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「夏草戦記」(昭和18年3月)です。慶長五年(1600年)6月のある日の昏れがたに、岩代のくに白河郡の東をはしる山峡のけわしい道を越えてきた一隊百二十余人の見知らぬ武者たちが、竹置(たけぬき)という小さな谷あいの部落へ入って野営した。この武者たちは、侍大将小谷弥兵衛が伊達政宗にさずけられた特別の任務を強行するため、本軍に先行して間道を進み、敵の白石城を攻撃するあしばを確保しようと白河の旧関のあたりから山道へと分け入っていた。季節は夏、道は険しかった。しかも夜になって野営すると、どこから忍び寄ってくるのか不意に敵の夜襲を受けるのだった。三瀬新九郎は、この隊が白石へ強行することは隠密で、伊達の本家でも知っている者は少なく、しかも山峡の知られざる間道をゆくのだから、よし敵が探り当てたにせよ、かくまで正確に宿営地を襲うことは尋常では不可能だと不審に思った。そこで幼い頃からの友人、戸田源七とともに「内通者」がいないか隊士たちを密かに監視するようになった。
夏草戦記 主な登場人物
三瀬新九郎・・・まじめなよごれのない顔つきで、口の重そうな、いかにも北国人らしい厚みのある人柄が温かく印象に残る人。野武士に襲われていた初という娘とその父を助ける。相良隊の尖隊士で内通者を探る。
戸田源七・・・新九郎と古い友人。新九郎より一つ年上だが、新九郎の人柄に敬服して兄事している。二人で内通者を探っている。無口な性質。
相良勘兵衛・・・小谷隊の副将。岩代の田村の庄の出身。顎骨の張った眉の濃い、唇をいつもへの字なりに引き結んだ頑固そうな男。何か気に入らないことがあると、ぺっぺっと唾を吐き散らす癖がある。
小谷弥兵衛・・・伊達政宗の侍大将。「松川菱の差物」とさえいえば名の通るもののふ。ことに先駆けを戦うのに巧者だった。新九郎に目をかける。
吉岡小六・・・小谷隊の副将。
初・・・小谷隊の後を追ってくる娘。野武士に襲われているところを新九郎に助けられる。
夏草戦記 覚え書き
馬印(うまじるし)・・・大将の乗馬の側に立てる目印。
旗指物(はたさしもの)・・・戦場で用いられた旗、飾り物。所属や任務の目印。
腰兵糧(こしびょうろう)・・・腰につけて携える食料。
立ち番(たちばん)・・・一定の場所に立って、警戒、監視をするもの。
先鋒隊(せんぽうたい)・・・戦闘で部隊の先頭に立って進むもの。
がんどう提灯(がんどうちょうちん)・・・正面のみを照らす、持ち主を照らさない強盗(がんどう)の提灯。
誰何(すいか)・・・相手が誰か分からない時に、呼びかけて問いただすこと。
険阻(けんそ)・・・地勢のけわしいさま。
間道(かんどう)・・・抜け道、近道。
詠嘆(えいたん)・・・物事に深く感動すること。
切通し(きりどおし)・・・山や丘などを部分的に削って作った道。