【連載朗読】さぶ12 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、「さぶ12」です。年が明けてから栄二は清七の作ってくれた撞木杖を腋の下にかって、歩く稽古を始めていた。その間じゅう与平はあせるなあせるなと子供をあやすように側を離れなかった。栄二は今、おととしの十二月の出来事そのものは赦せないにしても、そのために知った新しい世間や、多くの人たちとの経験が、どんな貴重でありがたいものだったか、ということをつくづくと感じていた。そして自分が受けた屈辱や暴行の事実を思い出しても、以前のように逆上するほどの怒りは感じられなくなっていた。そして八人の無宿者が寄場へ送られてき、そのうち義一、りゅう、昌吉の三人がもっこ部屋にまわされた。寄場では持ち物を厳重に検査され、刃物とか花札、賽ころなどはもちろん取り上げられてしまう。にもかかわらず義一は花札を手にし、夜になると皆を博奕に誘うのだった。半月ほどするうち、義一の誘惑に負けて花札へ手を出す者が出始める。
さぶ12 主な登場人物
義一・・・(やまっかがしの義一)二十六、七歳。無宿者で寄場のもっこ部屋に送られてきた。背丈は中くらいだが筋肉の緊まった敏捷そうな体つきで、美男といってもいいほどの顔立ちで、それが却って険のある鋭い眼や、歯切れのいい啖呵に凄みを与えている。仕事にも出ず、寝起きも勝手次第、起きれば花札を弄り皆に賭博をすすめた。
りゅう・・・十八か九歳くらい。無宿者で寄場のもっこ部屋に送られてきた。義一をしんから尊敬しているようすで、あにきあにきとついてまわり、義一の用をたすのに血まなこだった。
昌吉・・・三十がらみ。無宿者で寄場のもっこ部屋に送られてきた。細面で頬骨の尖った痩せた小さな体つきで、いつも薄笑いを浮かべる不気味な男。
さぶ12 覚え書き
哀訴(あいそ)・・・同情をひくように強く嘆き訴えること。
苦悶(くもん)・・・肉体的、または精神的に苦しみもだえること。
劬わる(いたわる)・・・ねぎらう。
欲得ずく(よくとくずく)・・・欲得に基づいて物事をすること。打算的なこと。
片腹痛い(かたはらいたい)・・・身の程をわきまえない人に対して痛々しくて気の毒に思うこと。
おひゃらかし・・・冷やかす、からかう。
匕首(あいくち)・・・つばのない短刀。あいくち。
箔が付く(はくがつく)・・・値打ちが高くなる。貫禄がつく。