【朗読】日本婦道記 墨丸 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作 日本婦道記より墨丸です。この作品は昭和20年婦人倶楽部に掲載されました。お石は五歳の時、みなしごとして鈴木家へ引き取られた。その時、平之丞は11歳、ずいぶん色の黒いみっともない子だと思った。お石ははきはきして立ち居もきちんとして、明るいまっすぐな性質に恵まれていた。色が黒いので平之丞の友達からは「お黒どの」とか「鳥丸」などと呼ばれていたが、平之丞はある時哀れになり、「黒いから墨丸がいい」と云い出し、それ以来少年たちは「墨丸」と呼ぶようになった。お石が十三歳になった年、平之丞の大切にしている翡翠の文鎮を貸してくれという。お石が思いつめた顔をしているのを見て平之丞は苦笑して「失くしてはいけないぞ」と云いながら取ってやった。お石は鈴木家に滞在する琴の名手、検校に師事して琴を習い始める。検校はお石は恵まれた才能を持つと云って絶賞した。そのころから平之丞はお石を見なおすようになり、だんだん心を惹かれるようになる。そしてそれがもっとも自然であり望ましくもあると信じたから鈴木家の嫁にと母に頼んだのだった。
日本婦道記 墨丸 主な登場人物
お石(墨丸)・・・5歳の時鈴木家へ引き取られる。琴も和学も才能があり、見かけも大きくなるにつれ肌は小麦色に、艶々と健康なまるみを帯びて髪もいつか赤みがとれ背丈も高くなった。下女に代わって風呂場を掃除したり、釜戸の火を焚いたり、薪を作ったり、料理は特に巧みで、粗末な材料からどんな高価なものかと思わせるようなものをよく拵えた。
平之丞・・・お石が来た時11歳だった。お石がいなくなってはじめてお石の存在の大きさに気づく。二十七歳で友人松井六弥の妹そでと結婚する。
鈴木宗兵衛・・・平之丞の父。吟味役。お石が誰の子か誰にも伝えないまま死ぬ。日記にも書かれておらず、証拠は何もなかった。
松井六弥・・・平之丞の友人。妹そでが平之丞と結婚する。
小出小十郎・・・お石の父。浪人者だったが、島原の陣でめざましくはたらき、前藩主忠善に見いだされて篤く用いられた。しかし、一徹な奉公ぶりで諫言をずばずば云い、忠義の怒りに触れて生涯蟄居となり、その日のうちに切腹して死んだ。
日本婦道記 墨丸 覚え書き
古雅(こが)・・・古風で優雅なこと。またそのさま。
文箱(ふばこ)・・・書状などを入れておく手箱。
琅玕(ろうかん)・・・翡翠の中でも最高級品のこと。
貶られる(そしられる)・・・けなす、おとしめる。
雪白(せっぱく)・・雪のように白いこと。
観桜(かんおう)・・・桜の花を観賞すること。
機微(きび)・・・表面だけでは知ることのできない、微妙な趣や事情。
御胤(おたね)
廉直(れんちょく)・・・心が清らかで私欲がなく、正直なこと。
無比(むひ)・・・ほかに比べるもののないこと。
諫言(かんげん)・・・目上の人の過失などを指摘して忠告すること。
重科(じゅうか)・・・重い罪科。重罪。
直諫(じきかん)・・・遠慮することなく率直に目上の人をいさめること。
嘆賞(たんしょう)・・・すぐれたものとして感じ入ること。
条理(じょうり)・・・物事の筋道。
惘然(もうぜん)・・・呆然と同じ。
述懐(じゅっかい)・・・思いを述べること。
讒訴(ざんそ)・・・他人をおとしいれようとして事実を曲げて言いつけること。
鞠問(きくもん)・・・罪を問いただすこと。
卒爾(そつじ)・・・だしぬけに。突然に。
蕭々(しょうしょう)・・・ものさびしい。
蒼茫(そうぼう)・・・見渡す限り青々として広いさま。