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【朗読】日本婦道記より「松の花」山本周五郎 読み手アリア

日本婦道記より「松の花」山本周五郎 読み手 アリア

 

こんにちは! 癒しの朗読屋アリアです。今回の朗読は、山本周五郎作 日本婦道記より「松の花」です。日本婦道記の第1作にふさわしい山本周五郎の生母をモデルに書かれた作品です。千石の老職・藤右衛門の妻のやす女は、三十年も寝起きを共にした夫の目には何の苦労も心配もなく、いつまでも嫁いできたときと同じのびやかさ、明るくおっとりとしているように見えていたのに、やす女が亡くなってから次々と夫の知らぬ面が見つかります。いつも蔭で終わることのない努力に生涯をささげ、自分のことは置いておいて、まずは周囲のことを考え、見返りさえ求めなかったやす女の姿に読みながら涙が止まりませんでした。読み終えて背筋がピンと端座した話でした。(写真は松の花です)

 

松の花

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日本婦道記 松の花のあらすじ

老年の佐野藤右衛門はお勝手係の役目から解かれて藩譜編纂の係を命ぜられた。以来書斎で下役の者たちが書き上げた「松の花」という稿本に目を通している。やがて妻やす女の臨終が伝えられた。30年連れ添った妻は去年の夏から病の床につき、治る見込みのない病におかされ当人も周りの者たちも覚悟はできていた。妻が亡くなると藤右衛門は妻の唇にまつごの水を取り、ふと夜具の外に出たまだあたたかみのある妻の手を夜具にいれてやろうとそっと握った。その時その手がひどく荒れてざらざらしているのに気付いた。その手の荒れているのを見つけたとき、自分の知らない妻の一面を見たような気がした。

アリア
ここから藤右衛門は次々に妻やす女の真の姿を知っていくんだ。
かん太
弔問客の帰った通夜の深夜、書斎で机に向かう藤右衛門の耳に看経の声が聞こえる。息子を呼ぶと家士しもべの女房たちだった。彼らはやす女を実の親のように慕っていたという。藤右衛門はまたしても自分の知らぬ妻の一面をみつけて驚いた。
アリア
やす女の形見分けで引き出しから衣類を出してみると全て木綿の着古して継のあたったものばかりだった。生前嫁に「武家の奥はどのようにつましくとも恥にならぬが、身分相応の御奉公をするためには、つねに千石千両の貯蓄を欠かしてはならぬ。」とさとしていたんだ。
かん太
武家の格式のため千石の体面を保ちながら、決まった食録でやりくりするのはたやすいことではないんだ。藩の御勝手都合で食録のないことが続くとか、非常な物価高騰とか百人近い家士だちの武具調達など全て佐野家では無事に過ごしてきたんだ。
アリア
藤右衛門は今までどんな場合にも心を労することなく、打ち込んで御奉公することを当たり前なことで誰のたまものとも考えたことはなかった。自分のすぐそばにいる妻がどんな人間か知らず、妻が亡くなるまでまるで違う妻しか知らなかったんだ。
最後に藤右衛門が稿本「松の花」に序すべき章句を思いつき、妻やす女が彼の心の中に紙一重の隙もないほどぴったりと溶け込み生きていると感じます。

覚え書き

稿本 (こうほん)・・・更に良くするつもりで、いったん書いた原稿。

煩務 (はんむ)・・・わずらわしくて忙しい勤務。

壮者 (そうしゃ)・・・働き盛りの者。

烈女 (れつじょ)・・・信念を貫きとおす激しい気性の女子。

節婦 (せっぷ)・・・節操をかたく守る女性。

空隙 (くうげき)・・・すきま。

看経 (かんきん)・・・禅宗で声を出さずにお経を読むこと。

誦経 (ずきょう)・・・経文をそらで覚えて唱えること。

回向 (えこう)・・・死者の冥福を祈ること。

頌む (ほむ)・・・ほめる、たたえる。

蕭殺(しょくさつ)・・・もの寂しいさま。

洒脱(しゃだつ)・・・あかぬけしていること。

 

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