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めおと蝶 山本周五郎

【朗読】めおと蝶 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「めおと蝶」です。(昭和25年)信乃は嫁に行く前ずいぶん早くから秘かに西原知也を愛していた。それはまだ人を愛するということがどういうことであるか自分でも分からない年頃だったので、その時は本能的な自己保護と羞恥から知也を避けていた。彼は亡くなった父の友人の子で、長いこと親族のように付き合っていた。そして家族ぐるみで蛍狩りに行ったとき、信乃は知也にふいに抱かれる。彼が肩を抱きしめた激しい力、頬や唇にうけた気の遠くなるような接触。この出来事が信乃には罪のように感じられていた。その時の一瞬の戦慄に似た深い感覚の歓びは、憚り隠すもの、不道徳なもの、受けてはならぬもの、恥ずべきものというふうに思えた。その意識が上村との縁談を信乃に承諾させた。信乃は今、良人を愛することができない。それが高じて憎むようにさえなっていた。そんな時、良人が忘れていった罪科書の中に西原知也の名があった。罪科は死、国老や重臣数名を暗殺しようとした首謀者ということだった。

めおと蝶 主な登場人物

信乃・・・大目付上村良平の妻。甲之助という男子が一人ある。

文代・・・信乃の妹、信乃の良人、良平を石仏と云って嫌っている。

西原知也・・・亡くなった父の友人の子で、気性の明るい、感動しやすい、多少乱暴ではあるが思い遣りの深い、誰にでも愛される素質を持っている。破牢して信乃に匿われる。

上村良平・・・信乃の良人。小心者の出、国家老の井巻済兵衛に認められて大目付にまで出世する。信乃を愛している。

 

めおと蝶 覚え書き

とりつく島のない・・・相手を顧みる態度が見られないこと。

なまじ・・・完全ではなく中途半端なこと。

渦紋(かもん)・・・渦の形の模様。

吝嗇(りんしょく)・・・ひどく物惜しみをすること。けち。

仮借(かしゃく)・・・多めに見てやり、まあまあと赦すこと。

間歇(かんけつ)・・・一定の時間を置いて、物事が起こったりやんだりすること。

軽侮(けいぶ)・・・軽んじあなどること。人を見下しばかにすること。

説諭(せつゆ)・・・悪い行いを改めるように言い聞かせること。

批議(ひぎ)・・・批評、批判。

輾転(てんてん)・・・転がること、回転すること。

瀆職(とくしょく)・・・私欲のために職責を汚すこと。

糊塗(こと)・・・一時しのぎにごまかすこと。

蒼茫(そうぼう)・・・ほの暗いさま。

 

 

ゆうれい貸屋 山本周五郎

【朗読】ゆうれい貸屋 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「ゆうれい貸屋」です。この作品は昭和25年講談雑誌に掲載されました。47歳の作品です。怠け者で仕事もせずゴロゴロしている弥六の家へ、宙にさまよっている女幽霊お染が出ます。お染は薄情な男に騙された恨みから、その男と家族一族みんなとり殺してしまいます。恨みは晴らしたものの人を恨み死にに死んだものは成仏できないため、この世をさまよっているのでした。しかし弥六がお染の美しさに感嘆すると、お染は弥六に女房にしてくれと云います。そして二人はあっという間に夫婦になり夜だけの夫婦生活を送るようになります。食事は毎日お染がどこかの店から調達するが、店賃を払う金はありません。そこでお染が人を恨んでいる人たちに幽霊を貸す商売を思いつきます。この商売が大当たりして雇われ幽霊たちはひっぱりだことなるのでした。

ゆうれい貸屋 主な登場人物

弥六・・・桶職人、父母が死んで怠け者の本性が出て働かなくなる。

お兼・・・弥六の妻。内職で弥六を支えるが実家に帰ってしまう。しかし実は本人に内緒で仕送りをしている。

平作老・・・家主。弥六にたびたび意見する。

お染・・・幽霊。元辰巳芸妓。弥六と夫婦になる。

 

 

ゆだん大敵 山本周五郎

【朗読】ゆだん大敵 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「ゆだん大敵」(昭和20年)です。老田久之助が殿の御秘蔵人だということは、長岡藩で知らぬものはなかった。本当の姓は郷田というが、藩主の幼名が老之助で、その幼名の一字を与えて「そのほう一代に限り老田を名乗れ。」と下命があったことにもそのあらわれがある。(四日のあやめ/新潮文庫)

かん太

ゆだん大敵 主な登場人物

老田久之助(郷田)・・・七歳の時、幼君(忠辰)のお相手に御殿へ上がった。幼君の一番のお気に入りだった。

牧野忠辰・・・十歳で家を継いだ長岡藩主。久之助を幼い頃から信頼している。文治・武治にも生涯に残した功績が多い。

鬼頭図書・・・五十歳くらい。類のない偏屈人で若い時から城の内外の草取りを役目に乞う。徹底した簡素な生活を送る。

郷田権之助・・・久之助の父。江戸から長岡の久之助のところへ身を寄せ、老後を彼の側で終るつもりでいる。

横堀賢七・・・久之助の道場の門人。一刀流を会得しており、久之助の指導に不満を持つ。

和田藤吉郎・田口久馬・早川駿五郎・大槻甚右衛門・・・久之助の道場の門人。

淵田主税助(ふちだちからのすけ)・・・神道流の武芸者で、当家に仕えたいと手練を見せに来る色の白い眉の秀でた美男。

ゆだん大敵 覚え書き

中興(ちゅうこう)・・・いったん衰えた物事や状態を、再び盛んにすること。

頴悟聡明(えいごそうめい)・・・賢く、理解する力がすぐれていること。

師傅(しふ)・・・貴人の子弟を養育し教え導く役の人。

胆力(たんりょく)・・・事にあたって怖れたり、尻込みしたりしない精神力。

文治(ぶんじ)・・・学問や教養などで世を治めること。

武治(ぶじ)・・・武力によって治めること。

某(なにがし)・・・名を知らない人。また、それとは定めない人。

面詰(めんきつ)・・・面と向かって、とがめなじること。

惜別(せきべつ)・・・別れを惜しむこと。

向後(きょうご)・・・今からのち。今後。

侍読(じとう)・・・藩主に学問を教授するもの。

代稽古(だいげいこ)・・・師匠の代理として、弟子などに稽古をつけること。

天成(てんせい)・・・生まれつき。

慇懃(いんぎん)・・・真心がこもっていて、礼儀正しいこと。

嘱望(しょくぼう)・・・人の前途・将来に望みをかけていること。

偏屈(へんくつ)・・・性質が頑なで素直でないこと。

下肥(しもごえ)・・・人間の大小便を肥料にしたもの。

君寵(くんちょう)・・・主君から目をかけられること。主君から受ける寵愛。

似非(えせ)・・・似てはいるが本物ではない、にせものである。

下緒(さげお)・・・日本刀の鞘に装着して用いる紐のこと。

瑣末(さまつ)・・・重要でない、小さなことであるさま。

難物(なんぶつ)・・・取り扱いにくい事物、または人物。

珍羞(ちんしゅう)・・・珍しくてうまい御馳走。

節高(ふしだか)・・・ふしくれだっているさま。

俊秀(しゅんしゅう)・・・才知にすぐれていること。また、その人。

精彩(せいさい)・・・美しい色どり、鮮やかなつや。

舌を巻く・・・圧倒されて言葉が出ない。

こちたし・・・度を越している、ひどくたくさんだ。

為人(ひととなり)・・・生来の性質、人柄。

眼目(がんもく)・・・目、まなこ。

忿懣(ふんまん)・・・怒りが発散できずもいらいらすること。

他見(たけん)・・・ほかの人が見ること。また見せること。

手練(しゅれん)・・・熟練した手際。よく慣れてじょうずな手並み。

水際立つ(みずぎわだつ)・・・あざやかに際立つ、他と区別されて著しく目立つ。

刹那(せつな)・・・瞬間、時間の最小単位、きわめて短い時間。

卒然(そつぜん)・・・事が急に起こるさま、だしぬけ。

双眸(そうぼう)・・・両方のひとみ。

昂然(こうぜん)・・・意気の盛んなさま、自信に満ちて誇らしげなさま。

又ぞろ・・・同じようなことがもう一度繰り返されるさま。

表白(ひょうはく)・・・考えや気持ちなどを、言葉や文章に表して述べること。

貶る(そしる)・・・相手を悪く云う。けなす。

暗愚(あんぐ)・・・物事の是非を判断する力がなく、愚かなこと。

 

 

 

 

 

わたくしです物語 山本周五郎

【朗読】わたくしです物語 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「わたくしです物語」です。この作品は昭和29年富士に掲載されました。主人公・忠平考之助は美男であった。どこにこれといって取柄がなく、学問も武芸も中くらいなのに容貌姿態だけは群を抜いていた。彼の家中の一般の定評は、「あれは底のぬけたどびんだ」見かけばかりで使いみちがないということだった。見かけが平凡ならだれも気にしないが、男振りがみずぎわ立っているために中くらいの才能が無能にみえるのだ。いつもの学問にも武芸にも秀でた主人公と違って、イケメンだけど取柄がない主人公が新鮮でした!ばあやの桃代がちょっと強烈なキャラクターで、考之助の膳の魚の骨を取ってあげたりご褒美をあげたりするんです!そんなマザコンな考之助の話、是非聞いてください。

わたくしです物語 主な登場人物

忠平考之助・・・忠平は老職格。温和で気が弱く、はきはきしない性格。19歳で使い番に就くが25歳で辞職し、焚火の間の取り締まりとなる。

知次茂平・・・国家老。8年前に亡くなった考之助の父と莫逆の友だった。その時せつに考之助の将来を託され、後見として指導・援助することを誓約した。

伊久・・・考之助の許嫁者。考之助に破約されたので、他の人との間に赤ちゃんができたと云って忠平家に匿ってもらう。

 

 

一人ならじ (いちにん) 山本周五郎 

【朗読】一人ならじ 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は山本周五郎作「一人ならじ」(昭和19年)です。主人公の栃木大助は、「痛い」「弱った」「参った」「困った」など決して云わない。どんな場合にもおよそ受け身になることを口にしない。壮烈なもののふの話です。

一人ならじ 主な登場人物

栃木大助・・・甲斐の武田晴信の家臣で馬場信勝に属し、戦時の時は、足軽二十人頭である。身分も風貌も平凡だが我慢強い。

馬場信勝・・・武田晴信の武将。

高折又七郎・・・馬場信勝の鞍脇のさむらい。戦場で抜群のはたらきをし、あとへひかぬ気質、弁舌、腕力もぐんと人を抑えている。

東堂舎人助・・・馬場信勝の足軽がしら。川中島ノ合戦から凱旋して間もなく、娘の初穂と栃木大助の婚約を披露した。

初穂(お弓)・・・17歳。栃木大助の許婚者。父に婚約を破談にされるが・・・

一人ならじのあらすじ (※ネタバレを含みます)

栃木大助は五歳くらいの時、父に「武士はがまん強くなければならぬ。」と訓えられて以来、「痛い」「参った」「弱った」「困った」などとは決して云わない。身分も風貌も平凡で目立たない存在だった。十五歳の時、父が馬場信勝の前に彼をめみえに連れていって、「幼少より我慢強く、これまでかつて痛いと云ったことも泣き言も口にしたことがない。」と大助を披露すると、「それなら皆で一度音をあげさせてやろう。」と云いだすものがあり、よかろうというので隙をねらってやってみたが、本当にどうやっても弱音をあげなかった。しばらくはそのがまん強さがよく噂にのぼった。大助が二十二歳の時、また彼の名が人々の耳に新しく甦るようなことが起こる。武田晴信は越後の上杉輝虎と川中島の決戦を挑んだ。その出陣祝いのとき、みんな杯をあげながらそれぞれ戦場に臨む覚悟を述べあう中に、栃木大助だけが妙なことを云った。「生きぬいてまいりたい・・・・・」酔っていた人々はこれを「大助が命を惜しがる」栃木らしいと笑った。

かん太
これを聞いた足軽がしらの東堂舎人助に説明を求められるんだけど、奉公について語った大助の言葉に舎人助は感動するんだ。大助の覚悟の理窟なしでごく単純に割り切った、性根とでもいうものが舎人助をうったんだ。

一人ならじ 覚え書き

郎党(ろうとう)・・・主家の一族や従者。

戦塵(せんじん)・・・戦場にたつちり、ほこり。転じて戦争の騒ぎ。

軍兵(ぐんぴょう)・・・兵士。兵卒。

軒昂(けんこう)・・・意気が高く上がるさま。奮い立つさま。

訥々(とつとつ)・・・口ごもって、つっかえながら言う。

郷国(きょうこく)・・・故郷。ふるさと。

城将(じょうしょう)・・・城を護る大将。

智謀(ちぼう)・・・知恵をはたらかせたはかりごと。巧みな計略。

好防善戦(こうぼうぜんせん)・・・うまく防ぎ、力をつくしてよく戦い抜くこと。

余勢(よせい)・・・残りの軍勢。

丘陵(きゅうりょう)・・・小さな山、丘

蹂躙(じゅうりん)・・・ふみにじること。暴力、強権などをもって他を侵害しること。

堅固(けんご)・・・かたくて、こわれにくいこと。

巧者(こうしゃ)・・・手慣れていて巧みなこと。

若駒(わかごま)・・・若い馬。春駒。

架橋(かきょう)・・・橋を架けること。また、その橋。

鬨(とき)・・・合戦で士気を鼓舞し、敵に対して戦闘の開始を告げるために発する叫び声。

小勢(こぜい)・・・少ない人数。また、そのさま。

挟撃(きょうげき)・・・両方から挟み撃ちにすること。

鉞(まさかり)

楔(くさび)・・・固い木材や金属で作られた道具。

鎧師(よろいし)

人品(じんぴん)・・・人としての品格。特に、身なり、顔立ち、態度などを通して感じられる、その人の品位。

忿り(いかり)

ふたしなみ・・・心得のないこと。不断の用意、心がけが足りないこと。また、そのさま。

死地(しち)・・・死ぬべき場所。死に場所。

毀誉褒貶(きよほうへん)・・・ほめること、けなすこと、さまざまな評判。

 

 

 

一代恋娘 山本周五郎

【朗読】一代恋娘 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「一代恋娘」です。(昭和13年/講談雑誌)周五郎先生35歳の作品です。同年に書かれた「牡丹花譜」に少し似ています。水戸の若君吉孚は素晴らしい美男で、水戸の光源氏ともっぱらの評判だった。副将軍三十五万石の公達で二十一歳、それで天下第一の美男ということで人気が高かった。登城、その他で行列が通ると、常に沿道は人垣を築いた。その行列が通る時、必ず筆屋の前に現れるずばぬけて美しい一人の町娘があった。

一代恋娘 主な登場人物

徳川吉孚(よしたね)・・・綱条(つなえだ)の世子。病弱な体質で頬は透き通るように美しい。二十一歳。妻とはうまくいっていない。

千賀(芙蓉)・・・唐物商、奈良屋伝右衛門の娘。十七歳、目元に少し険があるが、ずばぬけた美しさで髪飾りも衣装も贅をつくしている。いつも手代風の若者と乳母が付き添っている。

奈良屋伝右衛門・・・唐物商。奈良屋は長年の水戸家御出入り商人で、勘右衛門と伝右衛門は昵懇の仲。

美濃部又五郎・・・水戸藩士。

松並勘右衛門・・・水戸藩老中。

八重子・・・吉孚の妻。将軍綱吉の娘として嫁してきた。吉孚十四歳、八重子十歳の時から形だけ夫婦として成長してきたが、二人の間に愛慕の情はない。

徳川光圀・・・吉孚の祖父。頼房の三男。水戸家二代藩主。

徳川綱条・・・松平讃岐守頼重の子。水戸家三代藩主。光圀の養子。

一代恋娘 覚え書き

姦しく(かしましく)・・・口やかましい、うるさいこと。

大童(おおわらわ)・・・一生懸命になること、夢中になること。

蹲う(つくばう)・・・平伏する。

衆人環視(しゅうじんかんし)・・・大勢の人が周囲を囲むようにして見ていること。

駕籠訴(かごそ)・・・江戸時代、幕府の重職にある人や大名などの駕籠が通るのを待ち受けて直訴すること。

乱心(らんしん)・・・心が乱れて狂うこと。

唐物商(からものしょう)・・・貿易商。

憐憫(れんびん)・・・あわれむこと。

昵懇(じっこん)・・・親しく打ち解けてつきあうこと。

鞠杖(きゅうじょう・ぎっちよう)・・・木製の鞠を打つ杖。

打鞠(だきゅう)・・・奈良時代に中国から伝わった遊戯、現在のポロのような。

渇仰(かつごう)・・・心から慕うこと。

舌鋒(ぜっぽう)・・・言葉つきの鋭いことを矛先に例えていう。

権高(けんだか)・・・プライドが高くて傲慢なこと。

御寝(ぎょしん)・・・おやすみ

御簾中(ごれんじゅう)・・・正妻。

 

 

 

 

 

 

 

 

一領一筋 山本周五郎

【朗読】一領一筋 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読アリアです。今回は、山本周五郎作「一領一筋」です。(昭和21年)鴨部五郎左衛門は癇癪の強い人で、いつも眉をしかめて唇をへの字なりにして、何もかも気に入らないと云いたそうな目であたりを見回す。我が強くて自分がよしと信じたことは中々後へ引かない。しかし癇癪があろうと我が強かろうと、藩政の実務にすぐれた才腕があるため無くてはならぬ人物の一人に数えられていた。しかし残念なことには彼には男子がなく、娘一人しかいなかったため選り抜きの婿を手に入れなければならなかった。五郎左衛門が婿にと目をつけたのは、同じ家中の番頭、内田覚右衛門の三男圭之介だった。

かん太
滑稽ものです!登場人物が少ない作品だよ。娘もほとんど出てこないんだ。

一領一筋 主な登場人物

鴨部五郎左衛門・・・52歳。讃岐のくに高松藩の年寄役。若い者に煙たがられている。いつも「うるるるけふん」というような喉頭運動をする癇癪持ち。娘八重の婿に、家中随一の有能な圭之介を迎える。

八重・・・五郎左衛門の一人娘。圭之介の妻。

内田圭之介・・・25歳。番頭、内田覚右衛門の三男。おっとりとした物腰で立ち居も言葉つきも幼い頃から変わらない。江戸で文武両道に秀でた才能を開いてぬきさしならぬ人物となった。

松平頼重・・・高松藩主。8歳の頃児小姓として側へあがった圭之介に目を付け寵愛した。

一領一筋 覚え書き

喉頭(こうとう)・・・呼吸器の一部。

強弁(ごうべん)・・・無理に理屈をつけて自分の意見や言い訳を通そうとすること。

弄する(ろうする)・・・思うままに操る、もてあそぶ。

選り抜き(えりぬき)・・・多くの中から選んで抜き出す。

学頭(がくとう)・・・学校長。

嚢中の針(のうちゅうのはり)・・・優れた才能を持つ人は、凡人の中に混じっても、自然とっその才能が目立ってくるということ。

儕輩(さいはい)・・・仲間、同輩など。

一列一隊(いちれついったい)・・・どれも同じであるさま。

蕭々(しょうしょう)・・・ものさびしいさま。

寝鳥(ねとり)・・・ねぐらで寝ている鳥。

佶屈(きっくつ)・・・かがまって伸びがないこと。曲がりくねっている。

虚説(きょせつ)・・・根拠のない噂。

退下(たいげ)・・・御前を下がること。

稀覯(きこう)・・・めったに見られない珍しいこと。

 

 

 

七日七夜 山本周五郎

【朗読】七日七夜 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「七日七夜」です。この作品は昭和26年講談倶楽部に掲載されました。四男ひやめしの本田昌平の話です。二男三男は冷飯くらい、四男五男は拾い手もない古草鞋。などという通言があって、士農工商ひっくるめた相場で、なかでも侍はつぶしが利かないのと体面があるだけ実情は一番深刻だったという。本田は旗本で三千石、長兄は勘定奉行の勝手係なので役料の他に別途収入があるにもかかわらず吝嗇漢で、次弟を町奉行の書記に出し、三男は家扶の代役に使い、四番目の昌平は「本田家には類のない能無し」といってほとんど下男のように扱われた。長兄の兄嫁も彼をいびり、下男下女まで軽蔑した態度を取るのだった。ある日とうとう昌平の忍耐はぷつんと切れ、兄嫁を脅して二十五両の束五つを奪い、そのまま新吉原の遊女やで大尽遊びをするのであった。

かん太
兄嫁についたすばらしく辛辣な悪態が、「おれの残りの冷飯でも食え」なんだよ。ひどい目にあってたんだね。

七日七夜 主な登場人物

本田昌平・・・二十六歳、ものごとを我慢することに自信を持つ。下男以下に扱われ続けて堪忍袋の緒をぷつんと切って、兄嫁から金を奪って出奔する。

佐兵衛・・・仲屋の常連客。

徳治・・・餝職人、仲屋の常連客。

千代・・・仲屋の主人の娘。病気になった昌平の世話をする。

弥平・・・仲屋の主人、昌平を気に掛ける。

七日七夜 覚え書き

通言(つうげん)・・・世間一般に行われている言葉。

第一義(だいいちぎ)・・・最も大切な根本的な意義、または価値。

擬古体(ぎこたい)・・・昔の風習や様式を真似ること。詩文で古体になぞらえて作ること。

艶冶(えんや)・・・なまめかしくて美しいこと。

酒池肉林(しゅちにくりん)・・・酒や肉が豊富で豪奢な酒宴のこと。

 

 

 

 

万太郎船 山本周五郎

【朗読】万太郎船 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「万太郎船」(昭和16年)少年少女ものです。長崎屋という大頭梁の二代目、万太郎は、十三四のころから職人たちと同様に仕事場で木屑だらけになって働きだした。そればかりでなく、たえず何か新しい工夫を考えだした。ところが父親の万助が死ぬと間もなく、彼はだんだん仕事場から遠のきだして、一日中ぼんやりとなすこともなく日を暮らすようになった。

かん太
万太郎は、「金は使ってしまえば無くなってしまうものだ。あたしは舟大工だ。あたしにとって一番大事なのは金じゃない。仕事だ。この新しい舟を立派に造りあげることのほうが、十万二十万の金よりあたしにはたいせつなんだぜ。」と云って新しい舟の動力の研究に打ち込みます。読後さわやかな気持ちになる発明ものです。

万太郎船   主な登場人物

万太郎・・・二十六歳。舟大工。舟を漕ぐのに櫓や櫂や帆ではなく、もっと速く、そして波や風を乗り切って動かすことのできる方法を研究する。

長崎屋・・・お膝元の舟大工の中でも三番とさがらぬ店。お上の御用まで勤める立派な頭梁。職人は八九十人、相川町から玉井町へかけての地面、百四五十軒の家作、河岸割りの株もあったが、万太郎の道楽(舟の新らしい工夫)で二年で三千両消えてしまった。

仁兵衛(冬木河岸)・・・長崎屋の子飼いの職人で、腕を見込まれて三十の年にじぶん一軒の仕事場を持たせてもらった頭梁株。万助亡き後の財産管理と万太郎の後見を頼まれている。

万助・・・長崎屋の大頭梁。万太郎の父親。四年前に亡くなる。

お雪・・・十六歳。指折りの資産家廻船問屋、佐野屋庄左衛門の娘。万太郎の許嫁者。

おすえ・・・百姓の娘。十六歳。十二歳から大商人の店に奉公に上がるが、年頃になり、その家の倅に目を付けられ逃げ出す。実家に帰るも行方知れずとなっていたため絶望し、身投げする。

平吉・・・仁兵衛の息子。二十三歳で、手の付けられないのら息子。

万太郎船 覚え書き

身代(しんだい)・・・一身に属する財産。資産。身上。

根っきり葉っきり・・・何から何まで含めて根こそぎ。

無いが意見の総じまい・・・放蕩や遊興にふける者は、金を使い果たせば自然におさまるということ。

子飼い(こがい)・・・商家や職人の家で、子どもの時から奉公人や弟子として養育すること。

家作(かさく)・・・人に貸して利益を上げるためにつくった持ち家。

舷側(げんそく)・・・船体の側面。ふなばた。ふなべり。

転舵(てんだ)・・・船や飛行機のかじの角度を変えること。

石地蔵(いしじぞう)・・・無口な人。色恋に反応を示さない人のたとえ。

閑寂(かんじゃく)・・・物静かで趣のあること。ひっそりとして落ち着いていること。

汀(みぎわ)・・・波打ち際。水際。

忿怒(ふんぬ)・・・ひどく怒ること。

 

 

 

 

三十ふり袖 山本周五郎

【朗読】三十ふり袖 山本周五郎 読み手アリア

 

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「三十ふり袖」です。この作品は昭和29年講談倶楽部に掲載されました。家庭の事情で婚期が遅れ、病気の母を抱えて内職で生活を立てている27歳のお幸が、巴屋の旦那喜兵衛の囲い者になることになる。お幸は生活に追われることはなくなるが、金で買われた自分を哀れに思い、喜兵衛に心も体も許すことができない・・。お幸の気持ちよりも旦那喜兵衛の真心が切ない話でした。

三十ふり袖 主な登場人物

お幸・・・小柄だがゆったりしてみえる。顔立ちはのびやかで眉と目の間が広く、唇の線も豊かに波をうっている。一口にいうとおかめ顔で髪もちょっと赤く、決していい器量ではないが全体におっとりした温かさがあって向き合っている相手になんとなくしっとりした気分を与える娘。

喜兵衛・・・巴屋の旦那。固太りのがっちりした躰で色が黒く、眉毛が薄く小さな眼つきで全体が田舎の小地主という感じ。話しぶりや飲み食いの様子は変に堅苦しく陰気なほう。口下手。

お文・・・お幸の母。痛風の持病がある。喜兵衛の人柄を見抜く。

平吉・お松・・・飲み屋みと松の主人と女房。喜兵衛にお幸を紹介する。

三十ふり袖 覚え書き

痢病・・・赤痢の類。

おためごかし・・・表面は人のためにするように見せかけて実は自分の利益を図ること。

逼塞(ひっそく)・・・落ちぶれて世間から隠れ、ひっそりと暮らすこと。