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目次

避けぬ三佐 山本周五郎

【朗読】避けぬ三佐 山本周五郎 読み手アリア

避けぬ三佐 山本周五郎 あらすじ

冬の駿河国。屈強な武士・国吉三左衛門が、痩せこけた臆病な小犬を連れて悠々と歩いていた。彼は「避けぬ三左」と呼ばれ、どんな矢玉も、人の流れも、運命さえも避けることのない男だった。ある日、仲間から天気を問われるも、彼の返答は意外なものだった。「これから嫁をもらいにゆく」。彼が訪れたのは上司・大橋弥左衛門の家。戦の気配が漂う中、彼はあえて結婚を申し出た。理由はただ一つ徳川家が関東へ移封され、将来の戦いは長きにわたる。ならば、子や孫へと忠義を繋がねばならぬ。彼はまだ見ぬ女性を妻に迎えようとし、それが駿府で“かぐや姫”と称えられる絶世の美女・鷲尾小萩であることを知らなかった。しかし運命は待ってくれない。婚儀の前に、小田原征伐の出陣命令が下る。

避けぬ三佐 主な登場人物

  • 国吉三左衛門(くによし さんざえもん)
    徳川家の武士で、榊原康政の家臣。「避けぬ三左」「天気の三左」と呼ばれる豪胆な男。人や矢玉、雨さえも避けず、どんな状況でも「いい天気だ」と言う。徳川家の関東移封を知り、子孫に忠義を繋ぐために結婚を決意する。

徳川家の武将たち

  • 榊原康政(さかきばら やすまさ)
    徳川四天王の一人。三左衛門の主君であり、彼の覚悟を理解し、戦場でも特に気にかける。関東移封の意義を三左衛門に説き、新たな時代の到来を示す。

  • 大橋弥左衛門(おおはし やざえもん)
    榊原家の年寄(重臣)で、槍組の侍大将。三左衛門の縁談の相談を受けるが、彼の突飛な申し出に驚く。

  • 鷲尾八郎兵衛(わしお はちろうべえ)
    榊原家中の勇士で、三左衛門が結婚を申し込む小萩の兄。三左衛門の申し出を快諾し、戦場まで駆けつけて婚約の成立を伝える。

その他の重要人物

  • 鷲尾小萩(わしお こはぎ)
    三左衛門が嫁に迎えようとする女性。駿府で「かぐや姫」と称される絶世の美女。三左衛門は彼女の顔を見たことすらないが、兄の武名を信じて縁談を決める。

  • 名もなき若侍たち
    三左衛門に天気を尋ねる駿府の若侍たち。彼の変化に気づき、「まさか恋患いか」と噂する。

  • 敵将・松田康長(まつだ やすなが)
    北条氏の武将で、山中城を守る。最終的に討死する。

  • その他の徳川家臣

    • 酒井忠次(さかい ただつぐ)
    • 井伊直政(いい なおまさ)
    • 本多忠勝(ほんだ ただかつ)
    • 鳥居元忠(とりい もとただ)
    • 大久保忠世(おおくぼ ただよ)

    ※いずれも徳川家の重臣で、小田原征伐に参戦している。

アリアの備忘録

三左衛門は、どんな状況でも決して避けない男。矢が飛んできても、人とぶつかりそうになっても、運命さえも逃げずに真正面から受け止める。戦場でも堂々と敵城の前に立ち、「降伏しろ」と叫ぶその姿は、まさに武士の理想だ。そんな豪胆な彼が連れているのは、痩せこけた臆病な小さな犬で、これはきっと彼の繊細さや優しさを象徴していたと思う。戦場では屈強な武士として恐れられる彼が、見たこともない女性を信じ、その未来を守ろうとする姿には、ただ強く戦うだけではなく、守るべきものを持つことこそが本当の強さなのだということでしょう。彼が「ああ、いい天気だな」という一言はただの天気の話ではなく、彼の心の迷いがすっきり晴れたことを示していた。この話は、どんな時代を生きる者にもどんな困難があろうと自分の道を信じて進め!と周五郎氏は云いたかったのだと思う。

野分 山本周五郎

【朗読】野分 山本周五郎

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「野分」です。この作品は昭和21年、講談雑誌に掲載されました。野分とは、秋に吹く暴風のことだそうです。台風です。大名の庶子に生まれ、相続問題の渦中にいる又三郎は、料理茶屋「蔦萬」の女中お紋と知り合い、やがて彼女の祖父籐七老人とも酒を飲む間柄となる。やがて又三郎は武士をやめ、町人となって、お紋を妻に娶り、籐七老人と三人で人間らしく生きたいと思うようになります。しかし情勢の変化で戸沢家を継ぐことになります。町人になる夢はあきらめても、お紋を妻に貰いたい又三郎は、思い切って籐七老人に相談するのでした。

野分 主な登場人物

楢岡又三郎・・・二十四歳。藩主、能登守戸沢正陟の庶子だが、楢岡兵庫という家臣の二男として育てられた。やがて嗣子問題が起こり、彼を中心として家臣の間に対立と暗闘が始まったのを見て、自分の身分と境遇を呪うようになった。

お紋・・・料理茶屋「蔦萬」の女中。又三郎に心を寄せている。

籐七・・・お紋の祖父。植木職。

野分 覚え書き

鄙(ひな)・・・年から離れた土地。いなか。

違背(いはい)・・・規則、命令などにそむくこと。

阿諛(あゆ)・・・顔色を見て、相手の気に入るようにふるまうこと。

暗闘(あんとう)・・・表立たない形で、密かに争うこと。

傀儡(かいらい)・・・操り人形。

去就(きょしゅう)・・・どう身をしょするか。

規矩(きく)・・・考えや行動の基準にするもの。

栄耀(えいよう)・・・大いに栄えてはぶりのよいこと。

社稷(しゃしょく)・・・国

 

 

 

釣忍 山本周五郎 

釣忍 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「釣忍」です。この作品は度々舞台化、ドラマ化されている人気作品です。釣忍といえば夏の風物詩ですが、この作品では小さな縁先に枯れたと思われる釣忍が出てきます。ほかにお菜や蚊遣り、鼠不入、団扇、蚊帳、浴衣、お寺の鐘なども出てきます。長屋の日常んだ、なにかあったのか生活が細かく描かれているところもこの作品の魅力です。

釣忍 主な登場人物

定次郎・・・乱行のあまり二十歳のとき勘当され、ぼて振りの魚屋をして女房おはんと二人で暮らしている。

おはん・・・定次郎の女房。門前町の芸妓だった。

為吉・・・定次郎と同じ年の二十三歳。将棋相手。版木職人

佐太郎・・・呉服屋「越前屋」の若旦那。定次郎の異母兄。定次郎を呼び戻しに来る。

釣忍のあらすじ(※ネタバレ含みます)

定次郎が仕事から帰って片付け物をしていると、おはんが帰ってきた。その後すぐに相長屋の為吉が通りかかって今夜の将棋の約束をした。定次郎が湯から帰ると膳が並んでいた。おはんの様子がいつもと違うので「どうしたんだ、なにかあったのか」とおはんの顔を見守ると、「今日ね、あんたの兄さんて人が来たの、日本橋の越前屋っていう呉服屋さんで、お名前は佐太郎。あんたはその人の弟さんだって云ったわ。」定次郎は自分が越前屋の後添いの息子であることをおはんに隠していた。ついに兄・佐太郎に住居を突き止められた。定次郎はすぐに引っ越しをすることにしたが、ある日、帰ると佐太郎が訪ねてきていた。

アリア
佐太郎は、越前屋を勘当された定次郎が、放蕩をやめて真面目に働いていることを知り、自分も母親も、親類たちも定次郎が帰って来るのを待っていると云うんだ。おっ母さんが泣いて待っているなら帰ってほしいとおはんも云うんだ。
かん太
物語のはじめに膳へ並んだ夕餉が「針魚の片身は糸づくり、片身は吸い物、うるめは焼いて、ほかに二品、わかめに浅蜊のぬたと、塩昆布と燗徳利」でした!美味しそう!お酒の量に意味があって、毎晩のお酒が一本。そして三本の日。一合を二人で分けた日、盃に受けたり返杯した酒、椀の蓋で飲む、汁椀で呷るなどで描かれています。

釣忍 覚え書き

盤台(ばんだい)・・・魚屋が魚を運ぶのに用いる、浅く作った楕円形、または円形の大きなたらい。

針魚(さより)

版木(はんぎ)・・・木版印刷で、文字や絵などを彫り付けた木版。日本では主にヤマザクラ・ツゲなどの材を用いた。

ぼて振り(ぼてふり)・・・天秤棒に魚をつりさげて売り歩く行商人。

庇間(ひあわい)・・・建て込んだ家の間の、ひさしとひさしとが接するような狭いところ。

経緯(たてぬき)・・・この作品では、たてよこと読み仮名が付いてます。

眼力(がんりき)・・・目で物を見る力。物事の善悪・真偽・成否などを見抜く力。

恢復(かいふく)

足駄(あしだ)・・・雨の日などに履く、高い歯の下駄。歯は差し歯で磨り減ると差し替える。

癇癖(かんぺき)・・・怒りっぽい性質。

対蹠的(たいしょてき)・・・二つの物事が正反対の関係にあるさま。

慨く(なげく)・・・心を揺さぶる思いでいっぱいになる。

総後架(そうこうか)・・・長屋で多人数共用の便所。

千筋(せんすじ)・・・色違いの縦糸を4本ずつ配列して織った細い縦縞。

帷子(かたびら)・・・裏をつけない衣服の総称。ひとえもの。

吝嗇(りんしょく)・・・ひどく物惜しみをすること。また、そのさま。

大磐石(だいばんじゃく)・・・物事の基礎がしっかり据わって揺るぎのないこと。

棒ばな(ぼうばな)・・・棒のはし。棒のさき。

 

 

 

 

 

鍔鳴り平四郎 山本周五郎 

【朗読】鍔鳴り平四郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「鍔鳴り平四郎」(昭和27年)です。鍔鳴りとは刀を鞘(さや)におさめるとき、鍔(つば)が鯉口(こいぐち)と打ち合って発する音のことです。平四郎が自分の刀、兼定に友達として話しかける場面が面白かったです。「お、怒るんじゃない、兼定、が、がまんするんだ、つ、つ、鍔鳴りをしたって抜いてはやらんぞ、しずまれ!兼定」

鍔鳴り平四郎 主な登場人物

安田平四郎・・・せっかちで単純な男。何でも善か悪かをはっきりさせて処置する。家中のものと喧嘩し、八人の髷を抜刀流で切り落とし、浪人してしまった。

お千代・・・向こう隣にすむ辻講釈師の娘。親身になって平四郎の身の回りの世話をしてくれている。

志保・・・大久保相模守の用人、松宮主殿の娘。父親が役目の失策で咎めを受け切腹した。一時的に身を隠すために仲田啓之進に連れられ平四郎に預けられる。

 

鍔鳴り平四郎 覚え書き

忿然(ふんぜん)・・・激しく怒るさま

粗忽(そこつ)・・・軽はずみなこと。そそっかしいこと。

尾羽(おは)・・・鳥の尾と羽。

人語(じんご)・・・人間の言葉。

左手(ゆんで)・・・左方の手。

二一天作(にいちてんさく)・・・ものを半分ずつに分けること。折半すること。

片門前(かたもんぜん)

至極(しごく)・・・極限に達していること。この上ないこと。

余日(よじつ)・・・ある期日までに残っている日数。残りの日数。

いみじくも・・・非常にうまく、適切に。

御霊屋(おたまや)・・・先祖の霊や貴人の霊を祭っておく建物。霊廟。

辻講釈(つじこうしゃく)・・・道端で講談を語り、往来の聴衆から銭をもらうこと。

浪宅(ろうたく)・・・浪人のすまい。浪人の住む家。

 

 

 

長州陣夜話 山本周五郎

【朗読】長州陣夜話 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「長州陣夜話」です。この作品は昭和11年キングに掲載されました。月刊誌キングは、今の講談社が大正14年から発行していた全年齢向けの雑誌です。昭和初期には発行部数100万部を超えたそうで、当時の人気ぶりがうかがえます。

長州陣夜話 主な登場人物

小弓・・・二十歳。矢崎家の長女、父も母も死んだあと、十一歳になる弟の棋一郎を手一つ守り育てている。毎朝未明に起出て武道を励む。信次郎の許嫁者。

館皮信次郎・・・大番組二百五十石を取る。小弓の許嫁者。

棋一郎・・・小弓の弟。悪戯盛り。鉄輪独楽が欲しく賭けがしてみたい。

仙太・・・十四歳、佐多浜の漁師の孤児。預けられた伯父の家に居つかず、城下町の悪童たちと勝手放題に暴れまわる悪戯小僧。なぜかいつも小銭をもっていて気前よく仲間の者を潤すので少年たちに人気がある。

長州陣夜話 覚え書き

裂帛(れっぱく)・・・きぬを引き裂くような音。鋭い声。

袂別(べいべつ)・・・別れ

野卑(野卑)…」言動が下品でいやしいこと。

青銭(せいせん)・・・寛永通宝四文銭の通称

賭銭(とせん)・・・賭け事にかけた金銭。

 

雨あがる 山本周五郎

【朗読】雨あがる 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「雨あがる」です。(昭和26年)(おごそかな渇き/新潮文庫)周五郎作品の中でも特に人気のある作品で、何度も舞台・ドラマ・映画化されています。「雨あがる」は、主人公の浪人者・三沢伊兵衛と妻おたよの人柄がとても魅力的です。降り続くなが雨に、食う物にさえ事欠いた安宿の貧しい人たちが、よくある諍いを起こしていた。その様子を見て伊兵衛は「自分が何とかする」と云い、すぐにいそいそと元気な足取りで城下町の方へ歩いていきます。四時間のちに戻った彼は酔っていたが、彼の後ろから米屋が米俵を、八百屋は一と籠の野菜を、魚屋は盤台二つに魚を、酒屋は五升入りの酒樽に味噌醤油を、そして菓子屋のあとから大量の薪と墨などを五六人の若者や小僧たちが運んできます。同宿者たちは活気で揺れあがり、そしてにぎやかな酒宴が始まります。

かん太
鏡研ぎの武平が「こんな事が年に一遍、いや三年に一遍でもいい、こういう楽しみがあるとわかっていたら、たいてえな苦労はがまんしていけるんだがなあ」とつくづくと溜息をつくんだ。
アリア
妻おたよと「賭け試合はもう決してしない」と約束していたにもかかわらず、伊兵衛は、みんなをほっておけないし、雨は止まないし、じっとしておけなくて賭け試合をするんだ。

雨あがる 主な登場人物

三沢伊兵衛・・・幼い頃ひどく躰が弱く、弱気な性質で、引っ込み思案の泣いてばかりいる子だった。禅寺へ預けられ、そこの住職にたいそう愛されて、十四五になるとすっかり変わって、体も健康に、気質も明るく積極的になった。学問も武芸も類のないところまで上達したにもかかわらず、彼はそのために主家を浪人しなければならなかった。

おたよ・・・伊兵衛の妻。九百五十石の準老職の家に生まれ、豊かにのびのびと育った。それが伊兵衛との放浪の旅の苦労で、体も弱り、すっかり窶れてしまった。

玄和・・・禅寺の住職。幼い伊兵衛を預かり愛す師匠。石中に火あり、打たずんば出でず、が口癖で、伊兵衛はこの言葉を守り本尊のようにしていた。そしてたいていの場合、打開の途がついた。

青山主膳・・・永井家の老職。伊兵衛の武芸の腕と高邁なる御志操を見込む。

雨あがる 覚え書き

こぬか雨・・・雨滴が霧のように細かい雨。

毒口(どくぐち)・・・にくまれ口、あくたれぐち。毒舌。

敵愾心(てきがいしん)・・・敵に対して抱く憤りや、争おうとする意気込み。

辛辣(しんらつ)・・・云うことや、他に与える批評の、きわめて手厳しいさま。

柔和(にゅうわ)・・・性質や態度が、ものやわらかであること。また、そのさま。

劈く(つんざく)・・・勢いよく突き破る。つよく引き破る。

喪家(そうか)・・・不幸のあった家。喪中の家。

誓文(せいもん)・・・神に懸けて誓う言葉。また、それを記した文書。

懇願(こんがん)・・・ねんごろに願うこと。ひたすらお願いすること。

中風(ちゅうふう・ちゅうぶう)・・・脳卒中の発作の後遺症として主に半身不随となる状態。

口腹(こうふく)・・・飲み食い、また食欲。

守り本尊(まもりほんぞん)・・・身の守りとして信仰する仏。また、その仏像。

適要(てきよう)・・・重要な箇所抜き書きすること。また、その抜き書きしたもの。

無類(むるい)・・・たぐいがないこと。比べるものがないほど優れていること。

珍奇(ちんき)・・・珍しくて風変わりなこと。

熟慮(じゅくりょ)・・・よくよく考えること。色々なことを考えに入れて、念入りに検討すること。

時節(じせつ)・・・何かをするのによい時期、機会。

落魄(らくはく)・・・衰えて惨めになること。落ちぶれること。

けんのん・・・危険な感じがするさま。また、不安を覚えるさま。

同道(どうどう)・・・連れたって行くこと。連れていくこと。

謙譲(けんじょう)・・・へりくだりゆずること。自分を低めることにより、相手を高めること。

粗忽(そこつ)・・・失礼なこと。また、そのさま。

惘然(もうぜん)・・・呆然と同じ。あっけにとられているさま。

何誰(どなた)

多弁(たべん)・・・よくしゃべること。言葉数の多いこと。

悍馬(かんば)・・・気が荒く、制御しにくい馬。暴れ馬。

鳥目(ちょうもく)・・・銭の異称。金銭の異称。

辟易(へきえき)・・・ひどく迷惑してうんざりすること。

 

 

 

雪崩 山本周五郎

【朗読】雪崩 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「雪崩」(昭和19年)です。(怒らぬ慶之助/新潮文庫)宝永四年十一月に富士山が噴火した。同じ年の十二月、信濃のくに諏訪郡下諏訪の伊那屋という宿に二人の兄妹が草鞋を脱いだ。彼らは父の敵討ちのためにやってきたのだった。

雪崩 主な登場人物

水野善之助・・・二十三歳、越前福井藩士。細面で睫毛の長いどこかしら控え目な目もとと少し薄手の引き締まった口元。

加代・・・十八歳、善之助の妹。ふっくらと丸顔だが目もと口元は兄の善之助によく似ている。

八木真兵衛・・・六尺近い背丈で膚の浅黒い引き締まった秀抜な体躯。頬も眉もまぎれがなく、全体にすっぱり割り切れた感じの風貌。

水野久右衛門・・・善之助、加代の父。酒癖があり、癇強くわがままな一徹人。

雪崩 覚え書き

草鞋を脱いだ・・・旅の途中で宿泊する。旅宿に落ち着く。

士道(しどう)・・・武士の守り行うべき道義。武士道。

性をつける(しょうをつける)・・・性根をしっかりすえる。意識感覚をはっきりさせる。

淳朴(じゅんぼく)・・・かざりけがなく素直なこと。

仲裁は時の氏神(ちゅうさいはときのうじがみ)・・・喧嘩や口論の仲裁は、氏神が現れたような好都合なものだから、その調停にしたがうのがよい。

辛苦(しんく)・・・つらく苦しい思いをすること。

皚々(がいがい)・・・雪や霜で辺り一面が真っ白くみえるさま。

桐油(とうゆ)・・・きりあぶら。アブラギリ類の種子を搾油して得られる油脂。

慇懃(いんぎん)・・・真心がこもっていて礼儀正しいこと。

横車(よこぐるま)・・・横に車を押すように、道理に合わないことを無理に押し通そうとすること。

無法(むほう)・・・道理に外れていること。乱暴なこと。

三寒四温(さんかんしおん)・・・晩秋から初春において、三日間くらい寒い日が続いたのちに四日間くらい暖かい日が続いて、これを繰り返すこと。

桑圃(そうほ)

製絹業(せいけんぎょう)

産米(さんまい)

根幹(こんかん)・・・物事のおおもと。根本。中心となるもの。

旧弊(きゅうへい)・・・古い習慣や制度などの弊害。

多寡(たか)・・・多いことと少ないこと。多いか少ないかの量、額。

怒気(どき)・・・怒った気持ち。

人煙(じんえん)・・・人家から立ち上る煙。転じて人の住む気配。

雪庇(せっぴ)・・・雪のかぶった山の尾根、山頂などにできる雪の塊。

 

 

 

 

青嵐(せいらん)山本周五郎

【朗読】青嵐(せいらん)山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「青嵐」(昭和23年/講談雑誌)です。登女は、嫁してきてまだ十二日めに夫に隠し子があることを知る。相手の女が突然訪ねてきてそう云ったのだ。登女は強い衝撃を受けた。良人は三年も前からその女と関わりを持って子供まで生しているのに、自分という妻を迎えて平然と寝起きしている。こんなひどい侮辱があるだろうか、頭のくらくらするような怒りと絶望でいっぱいになった。しかし登女はそのことを夫にも姑にも相談できないのであった。

 

青嵐(せいらん) 主な登場人物

登女・・・十九歳、嫁してきてすぐに良人に隠し子のあることを知り傷つくが、その子を農家に預けて面倒をみる。

伊能半兵衛・・・三百三十石の表祐筆。温和でいつも明るい眉をしている。酒もあまり飲まず、人柄も才分も極めて平凡。余暇には野山を歩いて雑草を採っては絵に描き、分類して集めるのが楽しみ。

おつね・・・伊能半兵衛の子を産んだ、子の面倒を見てほしいと登女のところにやってくる。

松太郎・・・おつねが名をつけた子。

萩女・・・半兵衛の母、登女の姑。

遠藤又十郎・・・表祐筆、半兵衛のずっと前からの友人。だらしのないところがある。

観魚楼(かんぎょろう)・・・袖ヶ浦の大きな料亭。広い庭がすぐに海へと続いている。おつねが働いている料亭。

 

青嵐(せいらん) 覚え書き

当歳(とうさい)・・・その年に生まれたこと。

軽侮(けいぶ)・・・軽んじあなどること。

表祐筆(おもてゆうひつ)・・・武家の職名。文書、記録の作成をした。

本草綱目(ほんぞうこうもく)・・・中国の本。分量が多く内容が最も充実している。動植物、鉱物、名称、薬効など書かれている。

朴直(ぼくちょく)・・・飾り気がなく正直なこと。

恬淡(てんたん)・・・欲がなく、物事に執着しないこと。

入用(いりよう)・・・必要であること。

苦悶(くもん)・・・肉体的、精神的に苦しみもだえること。

叢林(そうりん)・・・木が群がって生えている林。

入費(にゅうひ)・・・物事をするのにかかる費用。

重任(じゅうにん)・・・重要な職務、任務。

ざんぶ・・・事実でないことを云い立てて他人をそしること。

 

 

 

 

 

青竹 山本周五郎

【朗読】青竹 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「青竹」です。この作品は昭和17年「ますらを」に掲載されました。39歳の作品です。

井伊直政の家臣、余呉源七郎は、別に衆に抜きん出た男ではなく、口数も少なく、関ケ原の戦いで島津豊後を討ち取った功績を持ちながら、名乗り出ず、その後も目立つことを望みません。やがて直政に信頼されている源七郎は、直政の二男、直孝の守り役に抜擢されます。そこでもきめどこを決めて、あとはあるがままに任せる、守り役としてそういう柔軟な心の広さに直政は心を打たれます。そんな源七郎に老臣の竹岡兵庫は娘との縁談を持ちかけるのだが・・・。武士の生き様に心打たれる話しでした。

青竹 主な登場人物

余呉源七郎・・・井伊直政の家臣。戦では大将を討っても功名とは思わないで、ただひと筋に戦う。

井伊直政、直孝・・・近江国佐和山城主。徳川の武将。

竹岡兵庫・・井伊家の老臣。源七郎に娘との縁談を持ちかける。

本田平八郎忠勝・・・井伊家の家臣に関ヶ原の戦いで島津軍の阿多ぶんごを討ちとめた者はいないかと探していた。

青竹 覚え書き

手兵(しゅへい)・・・手元に置いて直接率いている部下の兵士。

危地(きち)・・・危険な立場や状況。

恬淡(てんたん)・・・欲がなく、物事に執着しないこと。

野武士(のぶし)・・・山野に隠れて追いはぎなどを働いた武装集団。

牢人(ろうにん)・・・主家を去ったり失った武士。

平首(ひらくび)・・・平侍の首

雑兵(ぞうひょう)・・・金銭で雇われた兵。

訥々(とつとつ)・・・口ごもってつっかえながら言うこと。

暴勇(ぼうゆう)・・・乱暴で向こう見ずなこと。

明敏(めいびん)・・・頭の働きが鋭いこと。

闊達(かったつ)・・・度量が広く、細かいことにこだわらず、心のままふるまうこと。

理路(りろ)・・・物事の道理

ろうたけた・・・美しくて気品がある。

鋭鋒(えいほう)・・・鋭いほこさき。

鈍根(どんこん)・・・生まれつき頭の働きが鈍いこと。

増上慢(そうじょうまん)・・・悟りを得ていないのに得たと思って高ぶった慢心のこと。

 

 

 

非常の剣(非常のつるぎ)山本周五郎

【朗読】非常の剣 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「非常の剣」です。周五郎先生33歳、昭和11年の作品です。この頃から「キング」「講談雑誌」「婦人倶楽部」「講談倶楽部」「少年倶楽部」などに次々と作品を発表されています。この年に発表された作品は他に、「半化け又平」「入婿十万両」「暗がりの乙松」「無頼は討たず」「彦四郎実記」などがあります。個人的には昭和10年代の作品もとても好きです。

杉田弦八郎は、三日前に御達しが下り洲の鼻の番所頭に任ぜられた。役料も百石増しとなり、これを機会に何とか昇進の途を開いてやろうと思っている。さっそく叔父の根上棋兵衛に報告にいき、棋兵衛の娘で許嫁者の弓江との結婚の許しをもらいに行った。その夜は井染橋の満須屋で、同役たちが祝宴を催してくれることとなっていた。その祝宴の席で弦八郎は、旧い友達、建部金吾に会う。彼は酒のため出世が遅れて今では洲の鼻の番所で記録方を勤めていた。彼は番所勤めが二年になるので内情も色々と知っているが、どことなく歯に衣を着せた口ぶりだった。そしてふいに盃を置くと番所に泊まる出役というので先に帰ってしまった。しばらくすると若い番士が「密貿易船を抑えた。」と云って入ってきた。就任早々の事件、弦八郎は酔いも一気に醒め、張り切った気持ちで酒楼を出たのであった。

非常の剣 主な登場人物

杉田弦八郎・・・島原藩洲の鼻の新しく番所頭に任ぜられる。

根上棋兵衛・・・島原藩馬廻り五百石、弦八郎の叔父。武辺一徹の頑固親爺。関ケ原、大坂両陣に目覚ましい手柄をたて、主君松倉右京太夫から伝家の鎧一領を賜った。今は全くの閑職。ことわざを一言言う度に持ち出すので「諺の棋兵衛殿」と呼ばれている。

弓江・・・棋兵衛の娘、弦八郎の許嫁者。

建部金吾・・・弦八郎の旧い友人、番所の記録方、

野村源兵衛・・・目附頭

笹目元右衛門・・・目附役番所総取締方、

生田九之進・・・目附役番所総取締方次席。

楢山源七・・・目附役番所総取締方

非常の剣 覚え書き

ぬけに・・・密貿易

四挺櫓(しちょうろ)・・・ちょうろは、四本の櫓を使って操る船、江戸時代に一番速かったのは八挺櫓だそうです。

曲汀(きょくてい)・・・曲がりくねった入江。

多島海(たとうかい)・・・多数の島が点在する海域。

暗躍(あんやく)・・・人に知られないように密かに策動すること。

兇徒(きょうと)・・・殺人や謀反などの悪行を働くもの。

踪跡(そうせき)・・・事が行われた後。

嫣然(えんぜん)・・・美人がにっこり笑うさま。

沸然(ふつぜん)・・・自然に湧き上がるさま。

吉左右(きっそう)・・・よい知らせ。

悄然(しょうぜん)・・・元気がなくうちしおれているさま。

豁然(かつぜん)・・・視野が大きく開けるさま。

盃盤(はいばん)・・・杯と皿鉢。

浮かれ女(うかれめ)・・・遊女。

禍根(かこん)・・・わざわいの起こるもとや原因。