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目次

正雪記まとめ5 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ5 山本周五郎 読み手アリア

正雪記まとめ5 あらすじ

第1部8の1〜第2部1の3

夜明け前、与四郎は西へ向かう決意をし、小松と従者たちも後を追う。険しい山道を進むうち、猪之助は道の危険を訴えるが、与四郎は黙して答えない。森の奥深くで野宿した夜、小松はそっと寄り添い、「決してあなたを離さない」と囁くが、与四郎は冷たく沈黙する。

疲労と飢えが一行を襲い、ついに猪之助と藤吉は武器を取り、与四郎と対峙する。剣が閃き、猪之助は倒れ、藤吉も無力化される。狂気のように迫る小松を与四郎は突き放し、小松は「決してあなたを諦めない」と叫ぶ。

その後、傷を負った与四郎は意識を失い、隠れキリシタンの部落で救われる。そこで与四郎は、信仰に生きる人々の静かな暮らしを目の当たりにし、やがて天草の乱の勃発を知る。彼は運命を感じ、再び旅立つ。夜空には、御嶽山で見た自身の星が輝いていた。

正雪記まとめ5 主な登場人物

🔸与四郎・・・孤高の旅人で剣士。寡黙で冷徹な一面を持つが、内には強い意志を秘めている。小松や従者たちと山を越えるが、彼らと衝突し、ついには決別する。彼も傷を負い、隠れキリシタンの村で救われる。

🔸小松・・・名家勾坂家の娘。気高く、情熱的な性格で、与四郎への激しい執着を持つ。過酷な旅にも耐えるが、次第に精神的に追い詰められ、ついには与四郎に刃を向ける。最後まで彼を自分の手に入れることを誓う。

🔸猪之助・・・勾坂家に仕える従者。忠義に厚く、武術にも長ける。険しい道を進む与四郎に反発し、ついに戦いを挑むが敗北する。負傷し、与四郎の前から姿を消す。

🔸藤吉・・・もう一人の勾坂家の下僕。投げ笄の名手で、猪之助と共に与四郎と戦うが敗れる。戦闘の後、気絶して動けなくなる。

🔸増六・・・隠れキリシタンの部落・田島の長。落ち着いた人格者で与四郎を救い、信仰の教えを説く。やがて天草の乱の決起を知り、戦いへ向かう覚悟を決める。

🔸才助・・・増六の息子。父と共にキリシタンの信仰を守り、天草の乱への参加を決意する。

🔸天草四郎・・・神の使いとされ、キリシタン信徒たちを率いる。

ーその他ー

🔸シュモン善兵衛・・・隠れキリシタンの伝令。天草四郎の決起を知らせにくる。

🔸松倉氏・・・苛烈な統治を行う領主。一気の原因だと言われる。

🔸寄せての武将たち・・・幕府軍側の大名や武士たち。島原の乱鎮圧に動く。

 

 

正雪記まとめ6 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ6 山本周五郎 読み手アリア

正雪記まとめ6 あらすじ

第2部1の4〜3の3

与四郎は、知人、味平兵庫が勾坂喜兵衛を助けようとしていることを知り、城中への潜入を決意する。そこで彼は、狂信的な宗教儀式とその中心にいる神秘的な少女・テレーズ・かなえを目撃する。捉えられた与四郎は、恩人・増六と再会。信仰に疑念を抱く増六と共に城を脱出しようとするが、脱出直前に裏切りが発覚し、増六は決死のしんがりを務めて戦死する。そのおかげが、与四郎ら五人は脱出に成功する。

その後、与四郎は幕府総大将・松平信綱に接触し、死者のふわけを提案する。これにより城の食糧不足が明らかになり、幕府の総攻撃は延期される。そして、浪人たちの隊結成の許可を得るための交渉が始まる。戦乱の中で与四郎は、己の運命が大きく動き始めたことを確信するのだった。

正雪記まとめ6 主な登場人物

🔸由井与四郎・・・主人公、知略と行動力に優れ、城内へ潜入して勾坂喜兵衛を救おうとする。幕府の総大将・松平信綱に接触し、浪人隊の結成を目指す。

🔸味平兵庫・・・与四郎の旧知の剣士。粗野で口が悪いが、義に厚い。勾坂喜兵衛を救うために城へ潜入するが、捕えられる。

🔸勾坂喜兵衛・・・若い郷士の息子で、剣の師・味平兵庫と共に戦場へ赴く。城内へ潜入し、捕虜となるが、与四郎らの手引きで脱出。

🔸丸橋忠也・・・宝蔵院流の槍術家。戦場で武名をあげようとする野心を持つ。与四郎たちと共に脱出し、浪人隊の一員となる。

🔸増田六郎右衛門・・・増六。かつて与四郎の命を救ったキリシタンの男。城内で信仰を疑い始め、与四郎に協力するが、脱出直前に戦死する。

🔸テレーズ・かなえ・・・日本人の母とイギリス人の父を持つ混血の少女。神の声を聞く存在として崇拝されている。与四郎によって城から連れ出される。

🔸松平信綱(豆州)・・・幕府軍の総大将。「伊豆豆州」と称される老獪な策士。与四郎の進言を聞き入れ、浪人隊の編成を認める。

🔸五郎丸・・・与四郎に仕える野生児のような少年。機敏で賢く、偵察や連絡係として活躍する。

ーその他の人物ー

 

【幕府軍】              【原城(一揆側)】
┌───────┐          ┌────────────┐
│ 松平信綱(総大将)│───統率──→│ 天草四郎時貞(総大将)│
└───────┘          └────────────┘
│                     │
│(部下)                 │(信仰・指導)
↓                     ↓
┌─────────┐      ┌───────────┐
│ 酒井三十郎(側近)│      │ 山田右衛門佐(副将)│
└─────────┘      └───────────┘
│                     │
│                     │(指導者)
↓                     ↓
┌──────────┐     ┌───────────┐
│ 石谷十蔵(監察役) │     │ テレーズ・かなえ(聖女)│
└──────────┘     └───────────┘
↑(交渉)            ↑(救出)
│                 │
【浪人勢】      │                 │
┌──────────┴───────────┐
│ 由井与四郎(主人公) ──── 信頼 ────┐
└──┬─────┬─────┬──────┘
│     │     │
信頼│   旧友│    共闘
↓     ↓     ↓
┌──────────┐ ┌───────────┐
│ 味平兵庫(剣士)  │ │ 勾坂喜兵衛(武士)  │
└──────────┘ └───────────┘
│            │
│ 共闘           │ 救出
↓            ↓
┌──────────┐   ┌──────────┐
│ 丸橋忠也(槍術家) │   │ 増田六郎右衛門(浪人)│
└──────────┘   └──────────┘
│(城内で協力)

戦死(脱出失敗)

 

 

 

武家草鞋 山本周五郎

【朗読】武家草鞋 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「武家草鞋」です。この作品は昭和20年、富士に掲載されました。宗方伝三郎は出羽の国、新庄の藩士で二百石の書院番を勤めていた。清廉潔白で謹直な性質だったが周囲との折り合いが悪く、極めて孤独なおいたちをした。人は彼を偏狭な男だとか傲慢な独善家だと罵った。世間の人には彼の純粋に生きようとする態度が滑稽で煙たかったようだった。貞享三年、新庄藩に家督問題が起こり、伝三郎は上役や老臣たちと衝突して戸沢家を退身してしまう。それから彼は心のどこかの敗北感と、負けて逃げ出すような屈辱的な感じから逃れられない。わずかな貯えを持って江戸へ出てもその生活は武家生活におけるような生優しいものではなく、彼の廉潔心は叩きのめされる。やがて貯えが無くなるまで安宿に泊まり、無くなってからは野宿をしながら水を飲み飲み辿り着いた先で、彼は老人に救われる。

武家草鞋 主な登場人物

宗方伝三郎・・・新庄藩を退身した浪人。武士でなくともよい、清潔に生きる道さえあればどんなことでもしよう。そう思って世の中へ入っていくが順応することができず苦しむ。

牧野市蔵・・・元郷士の老人。伝三郎を救い自宅で養生させる。村の子供たちに読み書きを教えたり、ろうそくを作って売ったりしている。

いね・・・市蔵の孫娘。村の娘に裁ち縫いを教えたり、わらびを育てたり、わらびから質のいい糊を作ったりする。

武家草鞋 覚え書き

祈念(きねん)・・・神仏に願いがかなうように祈ること。

清廉潔白(せいれんけっぱく)・・・心が清くて私欲がなく、後ろ暗いことがないこと。

信条(しんじょう)・・・固く信じて守っていること。

偏狭(へんきょう)・・・自分だけの狭い考えにとらわれること。

廉潔(れんけつ)・・・私欲がなく、心や行いが正しいこと。

興隆(こうりゅう)・・・勢いが盛んになること。

勃興(ぼっこう)・・・にわかに勢力を得て盛んになること。

卑賎(ひせん)・・・人としての品位が低いこと。

憤懣(ふんまん)・・・怒りが発散できずいらいらすること。

老耄(ろうもう)・・・おいぼれること。

慚愧(ざんき)・・・自分の見苦しさや過ちを反省して心に深く恥じること。

憤怒(ふんぬ)・・・ひどく怒ること。

艱難(かんなん)・・・困難に出会って苦しみ悩むこと。

 

 

武道仮名暦 山本周五郎 

【朗読】武道仮名暦 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「武道仮名暦」(昭和14年)です。

武道仮名暦 主な登場人物

戸来(へらい)伝八郎・・・二百石の同心組頭。色の浅黒い、眉の濃い、逞しい肩つきで物にこだわらない明るい闊達な性質で朋友にも敬愛されていたが、思ったことは何でもずばずば云うので時々喧嘩をする難があった。

お縫・・・池田玄蕃の娘。伝八郎の従兄妹。伝八郎のことを・・・

池田玄蕃・・・御側頭。伝八郎の伯父。幼い頃父母を亡くした伝八郎の後見人。喧嘩の多い伝八郎を、主君に懇願して三年間の江戸詰にして貰った。

海部信之介・・・同心組。庄田流の小太刀に秀で、若手の中では十指に数えられている。お縫のことを・・・

曽根忠太・山田募(つのる)・・・同心組。伝八郎の友人で将曹の動きを密かに探っている。

津田将曹・・・南部藩国老。津軽藩に操られている。

 

武道仮名暦のあらすじ(※ネタバレを含みます)

戸来伝八郎は南部藩二百石の同心組頭である。食録は少ないが、南部家で戸来といえば数百年来の譜代で、三人まで家老を出している由緒ある家柄だった。彼は幼い頃父母を失い、伯父の池田玄蕃の後見で育ったが、喧嘩早いところから三年間の江戸詰めとなっていた。南部藩と津軽藩の確執は長く、津軽家は今も南部に対して徹底的な打撃を与えてやろうと、種々謀略を廻らせているという密報を受け、伝八郎は急遽帰国した。同心組の友人、曽根と山田には前もって手紙で探索を頼んでおいた。しかし二人の報告は、伝八郎の予想を裏切って、国境にも、津軽に操られている津田将曹にも異常はなかったし、疑わしいものがなかった。

武道仮名暦 覚え書き

気根(きこん)・・・根気のあるさま。根気。精力。

朽木(くちき)・・・きゅうぼく。くちた木。

顛倒(てんとう)・・・ひっくり返ること。

小才(こさい)・・・こざいともいう。その場に合わせて、うまく始末をつける能力。

一蹴(いっしゅう)・・・すげなくはねつけること。

拱手傍観(きょうしゅぼうかん)・・・手を出さないで、ただ、眺めていること。

忿懣(ふんまん)・・・怒りが発散できずにいらいらすること。腹が立ってどうにもがまんできない気持ち。

早世(そうせい)・・・早く世を去ること。早死。夭折。

出来(しゅったい)・・・事件が起こること。

宿怨(しゅくえん)・・・かねてからの恨み。年来の恨み。

謀計(ぼうけい)・・・はかりごと。相手をだます計略。

侵犯(しんぱん)・・・他国の領土や権利などを不法に侵すこと。

密報(みっぽう)

繁多(はんた)・・・用事が多く忙しいこと。また、そのさま。

殊勝(しゅしょう)・・・とりわけすぐれているさま。

禍根(かこん)・・・わざわいの起こるもとや原因。

更迭(こうてつ)・・・ある地位・役目にある人を他の人と代えること。

追従(ついしょう)・・・他人の気に入るような言動をすること。こびへつらうこと。

蔬菜(そさい)・・・青物野菜。

凌ぎ(しのぎ)・・・苦しい局面やつらいことを、なんとかもちこたえて切り抜けること。

 

 

武道宵節句 山本周五郎

【朗読】武道宵節句 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「武道宵節句」です。この作品は昭和13年、新少年に掲載されました。兄妹ものです。兄妹の父、村松将太夫が老職と意見の衝突をして小笠原志摩守を退身してから十五年。二君に見えずと云って清貧のうちに父は死し、母も五年以前に父を追って逝った。それから今日まで兄の三樹八郎は、兄弟の運命を開拓するために寝食を忘れて活躍してきたが、梶派一刀流免許皆伝の腕前も士官の途がなくては役に立たず、ついにどうにもならないところまできた。今宵は雛祭りの宵節句で、少しばかりの馳走を整えたが、それは兄妹の最後の晩餐のつもりで、夜半になったら妹を刺し、自分も屠腹して潔く世を辞そうと覚悟していた。そこへ・・一人の若侍が闇討ちに遭っていて、助勢を頼まれることになる。

武道宵節句 主な登場人物

村松三樹八郎・・・浪人、宵節句の馳走を最後の晩餐として妹と世を辞そうと考えている。

加代・・・三樹八郎の妹、十九歳。兄に頼り切っている。

山県銀之丞・・・大垣の石川備前守の家臣、同じ家中の剣術指南役が妹春枝を嫁にと望んできたが、良からぬ人物だったので断ったところ、主君から預かっていた石川家の家宝の短剣を盗まれる。

武道宵節句 覚え書き

二君(じくん)・・・二人の君主。

屠腹(とふく)・・・切腹。

相伴(しょうばん)・・・人の相手をつとめて一緒に飲み食いすること。

叱呼(しっこ)・・・大声で呼ぶこと。怒鳴ること。

峰打(みねうち)・・・刀のみねで相手を打つこと。

金瘡(きんそう)・・・刃物による切り傷。

温湯(おんとう)・・・あたたかい湯。

艱難(かんなん)・・・困難に出会って苦しみ悩むこと。

梨花一枝(りかいっし)

吉瑞(きちずい)・・・めでたい印。

逆銅(ぎゃくどう)・・・相手の左胴を打つこと。

一閃(いっせん)・・・ぴかっと光ること。ひとひらめき。

頬桁(ほおげた)・・・ほおぼね。

 

 

武道絵手本 山本周五郎

【朗読】武道絵手本 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「武道絵手本」です。(昭和15年譚海)信田孫次郎は槍術の修行の旅中に岡崎藩の老職水野将監と知己になる。二人は雨に降籠められた旅籠の一室で十年の知己のように話合った。話題の中心は武芸と戦術。鉄砲大砲が発達してきては、もはや剣法、槍術の類は児戯に等しいと将監は主張した。しかし孫次郎は、最後の勝利を決するものは敵陣へ突っ込んで城陣を占領する刀槍隊であり、それなくしてはいかなる戦闘も決定的ではない。しかし現在の武術の多くは実戦に役立たぬものだからこれらを根本から改革し、そういう意味の新しい槍隊を作りたいと孫次郎は熱心に語った。将監は孫次郎の説に感服し、その人物にもほれ込んだので、岡崎藩に仕官できるよう推挙するから、その槍隊をまず岡崎藩で作ってもらいたいと彼を岡崎に伴ってくる。

武道絵手本

信田孫次郎・・・27、8歳 甲斐の国巨摩郡の郷士の子。幼少の頃から槍術の才能があり、18歳の頃には近郷で彼の相手に立つものは無くなった。そこで江戸へ出て下石派、中村派の門を叩き、相模の無辺流、尾張家の原田一郎兵衛、筑後の離想流も学んだ。その際、岡崎藩の老職、水野将監と知己になる。

水野将監・・・岡崎藩の老職。新しい火器に幻惑されていたが、孫次郎の説に感服し、その人物に惚れこむ。

七重・・・将監の娘。

杉村壱岐之助・・・27,8歳。七重の従兄で馬の指南役。藩一番の腕達者、家柄もいいので誰も頭を押さえるものがなく我儘。

武道絵手本 覚え書き

突惚(とつこつ)・・・物事が急に起こること。

食客(しょっかく)・・・客の待遇で抱えておく人。

笈(きゅう)・・・修験者などが荷物を収めて背負う箱。

児戯(じぎ)・・・子供の遊び。幼稚なこと。

周旋(しゅうせん)・・・交渉で間に立って世話すること。

喜色満面(きしょくまんめん)・・・喜びを顔いっぱいに表すこと。

推ばん・・・人をある地位や役職に引き上げること。

 

水たたき 山本周五郎 

【朗読】水たたき 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「水たたき」です。(昭和30年)この作品に登場するかわいい女「おうら」が魅力いっぱいです。周五郎作品に出てくる女性は可愛くて魅力的ですね。

水たたき 主な登場人物

辰造・・・料理屋「よし村」の主人。三十三歳の時、料理屋「紋重」の女中おうらを嫁にもらい、道楽も女とも手を切った。

おうら・・・明るくてみんなに好かれ可愛がられるタイプ。自分のことを「おたふくでとんま」と云う。

角田与十郎・・・二十八歳で裏の長屋に住む浪人。病身の妻と四歳の孝之助の三人家族。

徳次郎・・・「よし村」の板前だったが、半年前から浅草の並木で「大吉」という料理屋をやっている。

安吉・豊治・平吉・おまき・・・「よし村」の職人と女中。

久七・・・渡職人。腕のいい職人だが、酒飲みでどこにも長くいつくことができない。

いせ・・・おうらの叔母。亭主はすでに亡く、二人の子があり、ひどく貧乏。おうらのためにつきあいを遠慮すると云っている。

水たたきのあらすじ (※ネタバレを含みます)

辰造は「あのこと」があってから二年近く人づきあいをしなかった。三十三で結婚するまで気ままな遊蕩に耽り好きな女を囲った。金には不自由しなかったので、そういう色ごとが辰造にとって何より強い誘惑であり、よろこびであった。三年ちょっと前に、同業の寄合が「紋重」であったとき、辰造は紋重の若い女中おうらに逢った。おもながの顔に目鼻立ちがぱらっとして器量よしというよりも、まだ子供っぽく、あどけないような感じの方が目についた。辰造は仲人ぬきで紋重へじかに話し、道楽もやめる、女とも手を切る。そう云ってねばった。紋重では夫婦とも反対したが、おうらは「あたしぜひゆきたい」と云い、二人は結婚した。おうらは鏡をみるたびに「おたふくだわねえ」と感じ入ったように呟く。とんまなことも嘘ではない、よく躓いて転ぶし、物を忘れるし、聞き違いや云い違いはのべつだった。けれども辰造にとってはそれが却って好ましく可愛らしく思えた。

かん太
辰造は「人間は生きているうちのことだ。何もかも生きているうちのことだ。死んでしまえば一切がおしまいだ。生きているうちにできるだけのことを経験し、味わい、楽しむのが本当だ。」辰造はそう信じ、そういうふうに生きてきた。
アリア
だから、おうらにも色々な経験をさせてやりたい。自分は飽きるほど遊蕩をし、女をかこったこともある。同じことを全部とはいわないが、せめて浮気の一度くらいは味あわせてやりたい。と思ったんだよ。
かん太
辰造は、それほど愛情が深かったんだ・・・。何度も「おまえ浮気をしたい相手がいたらしてもいいぜ。」とよく云ったんだよ。そしてそれがきっかけで、おうらが・・・・・

水たたき 覚え書き

煮方(にかた)・・・調理場で物を煮ることを受け持つ者。板前に次ぐ役目。

きすぐれ・・・酩酊すること。泥酔者のこと。へべれけになること。

追従(ついしょう)・・・他人の気に入るような言動をすること。こびへつらうこと。

尺五(しゃくご)・・・五尺のこと。標準的な人間の身長を指した。

紙本(しほん)・・・紙に書いた書画・文書。

落款(らっかん)・・・書画が完成した時、作者が署名し、または押印すること。

遊印(ゆういん)・・・自分の名や号を用いずに、好みの語句などを彫った印。文人が自分の書画などのサイン代わりに用いる。

家蔵(いえくら)・・・財産・身代。

真贋(しんがん)・・・本物と偽物。また、本物か偽物かということ。

舌鋒(ぜっぽう)・・・言葉つきの鋭いことを、ほこ先に例えていう語。

新吉原(なか)・・・江戸時代、明暦の大火後に日本橋から浅草に移転した遊郭の呼称。

のべつ・・・絶え間なく続くさま。ひっきりなしに。

池畔(ちはん)・・・池のほとり。いけのはた。

朋輩(ほうばい)・・・同じ主人に仕えたり、同じ先生についたりしている仲間。

四万六千日(しまんろくせんにち)・・・7月10日の観世音菩薩の縁日。東京浅草寺では境内にほおずき市が立つ。

索漠(さくばく)・・・心を満たすものがなく、物寂しく感じるさま。荒涼として気の滅入るさま。

風貌(ふうぼう)・・・風采と容貌。身なりや顔つきなど、外から見たその人のようす。

訥弁(とつべん)・・・話し方がなめらかでないこと。また、そのさま。

訥々(とつとつ)・・・口ごもって、つかえながら云う。

根太(ねだ)・・・床板を支える横木。

 

 

 

水の下の石 山本周五郎

【朗読】水の下の石 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「水の下の石」(昭和19年)です。(深川安楽亭/新潮文庫)ゆるされた時日はあと一日しかないのだ。どんな犠牲をはらってもあと一日のうちに攻め落とさなくてはならぬ。だがはたしてそれが可能だろうか?問題はただひとつ、あのめぐらした濠だ。あの濠さえ突破できればあとに困難はない!今夜しかるべき者を五六人、橋桁づたいに潜入させて、矢倉、城館へ火をかけさせる。そして合体した兵たちが集めた板を桁へうちかけて一斉に斬りこむ。決死隊に選ばれた大七は、一緒に連れていく者の中に「加行小弥太」を選んだ。その名を聞いた旗がしらは眉をひそめた。

水の下の石 主な登場人物

加行 小弥太・・・二十二歳。大七と幼友達。足軽の子。幼い頃から挙措が鈍重で、言葉つきもはきとしない。すばらしく張り出た顎を持っていて「あご」という綽名をつけられたが、それがいつか「能無し」という意味に通ずるほど凡々たる存在だった。

安部大七・・・二十四歳。小弥太の幼友達。足軽の子。積極的な性質で、ぐんぐん前へ出ることを好む。たびたびの戦陣で功名を立て、長篠で格別の手柄があったので十人がしらに挙げられた。

水の下の石 覚え書き

如法暗夜(にょほうあんや)・・・本当の暗闇のこと。真っ暗な状態のこと。

泥濘(でいねい)・・・道などのぬかっているところ。ぬかるみ。

歩度(ほど)・・・歩く速度や歩幅の程度。

謀者(ちょうじゃ)・・・敵の内情などをひそかに探る者。スパイ。

霖雨(りんう)・・・何日も降り続く雨。

暁闇(ぎょうあん)・・・夜明け前、月がなくあたりが暗いこと。

痛痒(つうよう)・・・精神的、肉体的な苦痛や、物質的な損害。さしさわり。

向背(きょうはい)・・・背きあうこと。仲たがい。

遅疑(ちぎ)・・・疑い迷って、すぐに決断しないこと。

初更(しょこう)・・・およそ現在の午後7時または8時から二時間をいう。

僥倖(ぎょうこう)・・・思いがけない幸い、偶然に得る幸運。

不退転(ふたいてん)・・・信念を持ち、何事にも屈しないこと。

 

 

 

水戸梅譜 山本周五郎

【朗読】水戸梅譜 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「水戸梅譜」(昭和17年)です。寛文五年の秋のある日、徳川光圀の水戸の館へ、貧しげなひとりの浪人者が、仕官をたのむためにおとずれた。光圀が水戸家を継いだのは寛文元年のことであるが、若い時分からそのすぐれた風格は世に知れ渡っていたので、いよいよ水戸二代の宰相をついだとなると、風を慕って随身をたのむさむらいたちがひきもきらなかった。

水戸梅譜 主な登場人物

徳川光圀・・・三十八歳、明敏英邁な名宰相。水戸藩主。

鈴木主税・・・水戸家の執事、仕官を願いにきた五百旗五郎兵衛の応接をする。

五百旗五郎兵衛(いおきごろべえ)(父)・・・奥州でつかえた主家が御改易で浪人となり、徳川光圀に仕官を願うが断られる。御当家水戸さまに仕官がかなわなければ、もはやこの世に望みがないと、庭うちで腹を切る。

小次郎(五百旗五郎兵衛)・・・五百旗五郎兵衛の息子。のちに父の名を継ぐ。

やす女・・・五百旗五郎兵衛の妻。小次郎の母。

くるまや六造・・・強欲、無道者の豪農。千波ヶ原の地主。

水戸梅譜 覚え書き

辛労(しんろう)・・・つらい苦労をすること。大変な骨折りをすること。

主家(しゅか)・・・主君、主人の家。しゅけ。

改易(かいえき)・・・大名の領地や身分などの没収・剥奪。

随身(ずいじん)・・・つき従っていくこと。

明敏(めいびん)・・・頭の働きが鋭いこと。物事の要点や本質をすばやくさとること。

英邁(えいまい)・・・特別に才知がすぐれていること。また、そのさま。

峻烈(しゅんれつ)・・・非常に厳しく激しいこと。

厚志(こうし)・・・深い思いやりの気持ち。心のこもった親切。

直覚(ちょっかく)・・・推理や考察によらずに瞬間的に物事の本質をさとること。

壮健(そうけん)・・・健康で元気なこと。また、そのさま。

蕭々(しょうしょう)・・・ものさびしいさま。

野守り(のもり)・・・立ち入りを禁じられている野原の見張りをする人。

落漠(らくばく)・・・ものさびしいさま。

瓶子(へいし)・・・酒を入れて注ぐのに用いる器。

害意(がいい)・・・他人を傷つけよう、害を与えようという気持ち。

 

 

 

泥棒と若殿 山本周五郎

【朗読】泥棒と若殿 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「泥棒と若殿」です。この作品は、昭和24年講談倶楽部に掲載されました。家督問題で鬼塚山の廃屋御殿に幽閉されている成信のところにある夜、泥棒が入る。廃屋ですべてを投げ出し、飢え死ぬつもりで寝ていた成信は、悪人に見えない素人泥棒伝九郎と共同生活をすることとなる。

泥棒と若殿 主な登場人物

成信・・・24歳。家督問題から廃屋にただ一人幽閉される。たびたび刺客に狙われ、食料もつき、すべてを投げ出し飢え巣にしようと思っている。

伝九郎・・・34歳。幼い頃からひどい目にばかりあっている泥棒。成信と暮らすようになって人間らしくなっていく。

 

泥棒と若殿 覚え書き

渇しても盗泉の水を飲まず・・・自分がいかに困窮していても、不正や不義理なことは一切かかわらないこと。

身銭(みぜに)・・・自分の金。

小書院(こじょいん)・・・母屋から張り出した部屋。

定日(じょうじつ)・・・前もって決めてある日。

杣道(そまみち)・・・細くて険しい道。

量見(りょうけん)・・・考えて選ぶこと。

樽ひろい・・・酒屋のでっち。

嘆息(たんそく)・・・悲しんだりがっかりして溜息をつくこと。

前栽(せんざい)・・・草木を植えた庭。または植込み。

艱難(かんなん)・・・困難にあって苦しみ悩むこと。

瘋疾(ふうしつ)・・・気がおかしくなる。