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抜打ち獅子兵衛 山本周五郎 

【朗読】抜打ち獅子兵衛 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「抜打ち獅子兵衛です。この作品は、昭和15年講談雑誌に掲載されました。37歳の作品です。寛永19年の江戸、両国広小路という目立つ場所に「賭け勝負、木剣真剣望み次第、試合は一本、申し込みは金一枚、打ち勝つ者には金十枚呈上。中国浪人天下無敵 抜打ち獅子兵衛」と大書された高札が立ち、町の人々の注目を浴びます。なぜ目立つところに高札を立てたのか?最後までごゆっくりお聴きください。

抜打ち獅子兵衛 主な登場人物

舘ノ内佐内(獅子兵衛)・・・改易された主人の元家臣であり、主人の遺族を護るために「抜打ち抜打ち獅子兵衛」として賭け勝負に挑む。若く美貌で剣の腕前も非常に高い。

妙泉院・・・旧主人、柘植但馬守直知の未亡人。遺族を代表する存在であり、佐内の行動を戒める。

倫子姫・・・旧主人、柘植但馬守直知の一人娘。十七歳。純真で無垢な存在。佐内にとって最も大切な存在であり、彼女を護るために佐内は尽力している。

柘植但馬守直知・・・備中新見で二万石だったが、幕府の忌諱に触れることがあって3年前に改易された。

松平虎之助・・・出雲国広瀬三万二千石、松平壱岐守の子で21歳、御連枝の気品は争えぬ威厳を備え、鬼若殿と呼ばれている。

藤兵衛・・・松平虎之助の家臣。。虎之助の命で佐内に挑むが敗北する。

抜打ち獅子兵衛 あらすじ

江戸の両国広小路で獅子兵衛は挑戦者を次々と打ち負かしています。ある日、松平壱岐守の子である虎之助が現れ、彼の命で家来の藤兵衛が獅子兵衛に挑むも、彼にあっさりと打ち負かされてしまいます。

物語はさらに進み、獅子兵衛の名が「佐内」であり、持輪寺にて主人の後室である妙泉院さまと対面し、賭け試合の件で叱責を受けます。寺を去る佐内に主人の娘である倫子姫が彼を引き留め、彼が去ってしまうことを悲しみます。佐内は倫子姫のために真実を語ることはできないが、心の中で永遠に彼女を護り続けて行くことを誓い、再び江戸の闇の中へ消えていくのでした・・。

 

改訂御定法 山本周五郎 

【朗読】改訂御定法 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「改訂御定法」(昭和37年)です。藩の行き過ぎた御定法改新によって起こった一商人の藩士訴えが、町奉行一人の責任で裁ききれないところまで進んでしまいます。そこで、中所直衛がこの件だけについての町奉行として立ち上がり、解決していきます。幼なじみの婚約者・佳奈との場面も愛情いっぱいで読みどころです。

改訂御定法 主な登場人物

中所直衛・・・中所はこの藩の筋目の家で、彼は、二十三歳で家老になる序席の「連署」になるが、藩法改新の問題が起こり、藩史編纂頭取に左遷される。矢堂玄蕃の借財不払い訴えの解決にあたる。

河本佳奈・・・直衛の幼馴染み。良人に死なれて実家に戻り、妻に死なれた直衛と再婚の婚約をする。

河本宗兵衛・・・佳奈の兄。直衛の友人。町奉行。

矢堂玄蕃・・・ほとんど有名無実のような屋敷地割方肝煎という役についている。放埓者で高利貸しから借財不払いで町奉行に訴えられる。

要屋喜四郎・・・呉服、染物、什器の商いに両替と質屋、裏で金貸しをやっているという噂がある商人。

改訂御定法のあらすじ (※ネタバレを含みます)

御定法が改正されて以来、七年間で町奉行の交代が河本宗兵衛でもう三度めになる。訴訟が多く、町奉行が幾たびも苦境に立たされています。しかし触出された法令をたやすく変えることはできません。中所直衛が、矢堂玄蕃の借財不払いを訴えた要屋の裁きを利用して、新しい御定法にはっきりした威厳と基準を与えようと奮闘する話です。幼なじみで親戚以上のつきあいを続ける町奉行・河本宗兵衛と、その妹で婚約者・佳奈と中所直衛のやりとりがあたたかく思い遣りを感じます。

アリア
今回の植物は野木瓜(のぼけ)です!庭に亡くなった妻が植えた野生の野木瓜があり、春には朱色の見事な花を咲かせます。彼女が、実を塩漬けにすると香りのよい箸休めになると云っていたが、生きている間には一つか二つしかならなかった。そして今、数えてみると二十八個もなっていた。この実が佳奈の手によって砂糖漬けにされますが・・・
かん太
雨のシーンは初めてのお白洲の日、「朝のうち降っていた小雨は止んだけれども、空は雨雲で覆われていて、いつまた降りだすかわからないような空模様であった。」と描かれています。

 

改訂御定法の覚え書き

煩瑣(はんさ)・・・こまごまとしてわずらわしいこと。また、そのさま。

事跡(じせき)・・・物事が行われたあと。事件のあと。

稿閲(こうえつ)・・・原稿に書かれている文章の意味や内容を読み、誤りを正すこと。

時服(じふく)・・・四季の時候に合わせて着る衣服。

什器(じゅうき)・・・日常使用する器具・家具類。

偏狭(へんきょう)・・・自分だけの狭い考えにとらわれること。度量の小さいこと。そのさま。

頑強(がんきょう)・・・自分の態度や考えをかたくなに守って、外からの力に容易に屈しないさま。

後難(こうなん)・・・あとに起こる災難。後日の災い。

白洲(しらす)・・・江戸時代の奉行所で、法廷が開かれた場所。

褄先(つまさき)・・・和服の褄の先。衿下と裾の出会う角のところ。

下吟味(したぎんみ)・・・罪状を調べただすこと。

剛腹(ごうふく)・・・度量が大きく、こせこせしないこと。大胆でものおじしないこと。また、そのさま。

些末(さまつ)・・・重要でない、小さなことであるさま。

放埓(ほうらつ)・・・身持ちの悪いこと。酒色にふけること。

志操(しそう)・・・自分の主義や主張などを固く守って変えない心。

内福(ないふく)・・・見かけよりも内実が豊かなこと。内証の裕福なこと。

 

 

 

新三郎母子 山本周五郎

【朗読】新三郎母子 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「新三郎母子」(昭和8年)周五郎先生30歳の作品です。幼い頃から父御は死んだと聞かせれていた新三郎。しかし彼の父は・・・・

新三郎母子 主な登場人物

平井新三郎・・・父に会うため母親と二人、江戸から岡山へ十日ほど前に移ってきた浪人。

貞江・・・永松勘兵衛の娘。毎日、平井の家の食事の支度や、病床にある母の世話をする。

永松勘兵衛・・・五十一歳。岡山池田藩士。性剛直で交際も少なく、早く妻を失って娘貞江と二人暮らしている。

津禰(つね)・・・新三郎の母。娘時分、お城に上がって殿様の御傍仕えを勤めていた。

江神楚雲(えがみそうん)・・・母の伯父で町儒者。膝下に漢籍を教える。新三郎と母がずっと世話になっていた。

池田新太郎少将光政公・・・岡山藩主。

新三郎母子 あらすじ(※ネタバレを含みます)

新三郎は江戸で、母と伯父の楚雲の元で生まれ育った。楚雲は折あるごとに「新三、今こそ落魄して居るが、そちは由緒ある人の子なのだ。一心に修行して立派な武士にならねばならぬぞ!」と云い云いした。新三郎はこれを幼な心に深く銘して忘れなかった。彼は文武ともに進歩は速やかであった。新三郎が二十三歳になった時、余命幾許もない楚雲が、自分が死んだあと、岡山にいる父に会いに行き、父子の名乗りをするがいいと遺言した。かねて父は亡き人と聞かされていた新三郎は驚いた。

新三郎母子 覚え書き

襤褸(つづれ)・・・使い古して役に立たなくなった布。

凡下(ぼんげ)・・・平凡ですぐれたところのないこと。

機会(しお)・・・事をするのに最も都合のよい時期。

竹光(たけみつ)・・・竹を削って刀身にみせかけたもの。

怒罵(どば)・・・怒りののしること。

落魄(らくはく)・・・おちぶれること。

膝下(しっか)・・・身に近いところ。

漢籍(かんせき)・・・中国の書物。中国人によって書かれた漢文形態の書物。

稟質(ひんしつ)・・・天からうけた性質。

幾許(いくばく)・・・いくら、どれほど。

境涯(きょうがい)・・・この世に生きていく上でおかれている立場。

陋巷(ろうこう)・・・狭くむさくるしい町。

不念(ぶねん)・・・注意が足りないこと。考えが足りないこと。

狼藉者(ろうぜきもの)・・・乱暴をはたらくもの。

詮方(せんかた)・・・なすべき方法。てだて。

 

 

 

 

 

 

新女峡祝言 山本周五郎

【朗読】新女峡祝言 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「新女峡祝言(よめきょうしゅうげん)」(昭和14年)です。

 

新女峡祝言 主な登場人物

松室伊兵衛・・・郷士。私財を投げ出して新女峡(よめきょう)の治水工事を起こそうと計る。

村右衛門・清吉・・・松室家の家僕。

松室信右衛門・・・本家の当主。伊兵衛の伯父。新女峡の治水工事に反対し、伊兵衛の邪魔をする。

絹江・・・伊兵衛の従兄妹で、伊兵衛を想っている。信右衛門の娘。

乙二郎・・・十五歳。信右衛門の息子。

大村市之丞・・・美濃の国本江藩の家老の子息。色が白く眉目秀でた端麗な若侍。伊兵衛の学友。

新女峡祝言 あらすじ(※ネタバレを含みます)

奥飛騨の山々の水を集めて木曽川へ注ぐ新女峡は切立った深淵で、雪解期になると一時に水が溢れるから、三年に一度くらいずつ川下の倉江郷付近は一帯にひどい氾濫を起こしていた。高山藩では御内政の都合よろしからず、新女峡治水策には一顧も与えてくれなかった。益田郡で指折りの古い郷士の松室伊兵衛は私財を処分し、新女峡の治水工事を起こそうと計った。しかし、松室の本家の当主松室信右衛門は治水工事に反対だった。信右衛門の娘、絹江と伊兵衛は幼い頃からお互いに想い合っていた。ある時、見廻りに出ていた伊兵衛は、祖師の温泉へ保養に来た遊学した折の学友、市之丞に会う。市之丞は、伊兵衛の絹江に対する気持ちに気付きながら、彼女に求婚する。

新女峡祝言 覚え書き

雪塊(せっかい)・・・雪のかたまり。

雪煙(せつえん・ゆきけむり)・・・積もっていた雪が風のために煙のように舞い上がること。

話頭(わとう)・・・話をするきっかけ。話の糸口。

急峻(きゅうしゅん)・・・傾斜が急で険しいこと。

深淵(しんえん)・・・深い淵。

衰微(すいび)・・・勢いが衰えて弱くなること。衰退。

遊学(ゆうがく)・・・故郷を離れ、よその土地や国に行って勉学すること。

我執(がしゅう)・・・自分中心の考えにとらわれて、そこから離れられないこと。

頑強(がんきょう)・・・自分の態度や考えをかたくなに守って、外からの力に容易に屈しないさま。

踏査(とうさ)・・・実際にその地へ出かけて調べること。

憂悶(ゆうもん)・・・思い悩み、苦しむこと。

嘯いて(うそぶいて)・・・とぼけて知らないふりをする。平然と言う。

暗鬱(あんうつ)・・・気持ちが暗く、ふさぎこんでいること。

耳底(じてい)・・・耳の底。耳の奥。

叩頭(こうとう)・・・頭を地につけておじぎすること。

下賤(げせん)・・・いやしいこと。身分が低いこと。

蕭殺(しょうさつ)・・・物寂しいさま。秋の末の草木の枯れて物悲しいさま。

仰臥(ぎょうが)・・・あおむけに寝ること。

黙然(もくぜん)・・・口をつぐんでいるさま。もくねん。

自在鉤(じざいかぎ)・・・囲炉裏やかまどの上に吊り下げ、それに掛けた鍋・釜などと火との距離を自由に調節できる鉤。

足袋跣(たびはだし)・・・下駄や草履を履かないで、足袋のまま地面を歩くこと。

薪炭(しんたん)・・・たきぎと炭。

飛礫(つぶて)・・・小石を投げること。また、その小石。

水落(みずおち)・・・みぞおち。

悄然(しょうぜん)・・・元気がなく、うちしおれているさま。しょんぼり。

才知(さいち)・・・才能と知恵。

斯様(かよう)・・・このような、この通り。

頑愚(がんぐ)・・・おろかで強情なこと。

哄笑(こうしょう)・・・大口を開けて笑うこと。どっと大声で笑うこと。

 

 

 

 

 

 

 

日日平安 山本周五郎

【朗読】日日平安 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「日日平安」です。この作品は昭和29年サンデー毎日に掲載されました。尾羽打ち枯らした姿の浪人、菅田平野が腹を空かせて切腹の真似をしているところへ通りかかった井坂十郎太と、共に藩の内紛にかかわっていく話です。菅田平野は、特に強いわけでも頭がいいわけでもないのに軍師となり知恵を絞って大活躍します。やがて菅田平野は初めは仕官のために「この蔓は放さないぞ。」と思っていたのに・・・

 

日日平安 主な登場人物

菅田平野(すがたひらの)・・・名前も苗字のような男。二十九歳。北越浪人。放浪に疲れ、わずか一食の銭を得るために切腹のまねをしている。十郎太と出会い、彼にひと騒動おこさせ手柄を立てさせ、自分もついでに仕官しようと奮闘する。

井坂十郎太・・・二十六歳。陸田精兵衛の甥。一人娘の千鳥の婿養子に入る予定。城下で同志を集めて奸臣誅殺しようとしている。

陸田精兵衛・・・城代家老。「日日時事みな平安なり。」が口癖。

千鳥・・・十七歳。陸田精兵衛の娘。十郎太の許嫁者。背丈が高く躰は成熟しているが、目鼻立ちのおおらかな丸顔やのびやかな身ごなし、甘えた言葉つきで子供っぽく見える。

黒藤源太夫・・・五十二歳、次席家老。

仲島弥五郎・・・四十五歳、留守役上席。

前林久之進・・・五十歳、国許用人。

こいそ・・・千鳥の侍女。十八歳、小柄で目鼻立ちのちまちましたはしこそうな顔。

日日平安  覚え書き

憤懣(ふんまん)・・・怒りを発散できずにイライラしていること。

紙入(かみいれ)・・・鼻紙や紙幣を入れるもの。

業腹(ごうはら)・・・非常に腹がたつこと。

苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)・・・情け容赦なく税金などを取り立てること。

五風十雨(ごふうじゅうう)・・・世の中が安泰であること。

日日平安(にちにちへいあん)・・・なんの心配もなく平穏無事なこと。

露見(ろけん)・・・秘密や悪事がばれること。

奸物(かんぶつ)・・・悪知恵のはたらく心のひねくれた人。

首魁(しゅかい)・・・悪事や謀反の首謀者。かしら。

粛清(しゅくせい)・・・厳しく取り締まって整え清めること。

逆手(ぎゃくて)・・・予想されるのとは反対に応じること。

諸兄(しょけい)・・・男性が多くの男性を親しみや敬意をこめていう。

誅殺(ちゅうさつ)・・・罪を咎めて殺すこと。

汗顔(かんがん)・・・顔に汗をかくほど恥ずかしいこと。

 

 

日本婦道記 墨丸 山本周五郎

【朗読】日本婦道記 墨丸 山本周五郎 読み手アリア

 

日本婦道記 墨丸 あらすじ

正保三年、十一歳の平之丞の家に引き取られてきた五歳のお石は、色黒で痩せたみすぼらしい孤児でした。少年の目には「みっともない子」に映ったものの、物静かで真っ直ぐな性質を持つお石は、やがて家族や周囲の人々の心に少しずつ受け入れられていきます。だが、どこか陰を秘めたまま、大人びた態度で振る舞うお石の内には、誰にも明かせぬ想いがありました。平之丞は成長のなかで、お石への見方が変わっていきます。とりわけ、雅号「墨丸(すみまる)」という名に、お石が過去に自分たち少年がつけた綽名(あだな)を記憶し、それを自分の名として使っていると知ったとき、彼は言い知れぬ哀しみと後悔を覚え、彼女に対する態度をあらためるようになります。やがてお石は琴の才能を見出され、厳しい師に師事します。平之丞が彼女の成長に目をみはり、次第に愛情を深めていくなか、彼はお石を妻に迎えたいと母に告げます。しかしお石はその申し出を断り、理由も告げぬまま家を出て京へと旅立ちます。

日本婦道記 墨丸 主な登場人物

■ お石(おいし)

  • 5歳の時、色黒で痩せた孤児の少女として鈴木家に引き取られる。幼少期は「みっともない子」と呼ばれるが、芯の強さとまっすぐな性格、琴や歌の才能を開花させてゆく。

■ 鈴木平之丞(すずき へいのじょう)

  • 鈴木家の一人息子。当初はお石をみすぼらしいと思っていたが、成長するにつれてその人柄や才能に惹かれていく。

■ 鈴木惣兵衛(そうべえ)

  • 平之丞の父。江戸詰めの年寄役から岡崎に戻り、国老格となる。お石を家に引き取った張本人。お石の出自を知りながらも黙して語らず、素性に関する証拠も遺さずに死去。

■ 平之丞の母

  • お石を実の娘のように大切に育てた。

■ 松井六弥(まつい ろくや)

  • 平之丞の幼なじみで親友。鈴木家とは近くに住む家柄。お石と親しくする。平之丞の結婚相手・そでの兄。

■ そで

  • 松井六弥の妹。後に平之丞の妻となる。明るく元気な性格で子を三人もうけるが、三人目を身ごもったまま病死。

■ 榁尚伯(むろ しょうはく)

  • お石の和学の師匠。お石に国学の才能を見出す。

■ 検校(けんぎょう)

  • 琴の名手で、目が見えない老人。鈴木家に4年間滞在し、お石に琴を教える。お石の琴の才能を高く評価するが、教えるには「格調が高すぎる」と言う。

■ 小出小十郎(こいで こじゅうろう)

  • お石の実父。かつての藩士で、忠義の士。水野家世子の出自についての直諌により、忠善の怒りを買い、蟄居を命じられたのち切腹。名誉より真実を選んだ武士らしい最期を遂げる。

■ 水野忠善(けんもつ ただよし / 鉄性院)

  • 岡崎藩の主君。お石の父・小出小十郎に重科を科した人物。忠春の父。藩の家督に関わる秘密を抱えていたとも示唆される。

■ 水野忠春(みずの ただはる / 右衛門佐)

  • 水野家の世子。出自にまつわる疑惑が噂される。平之丞が仕えることになる人物。

■ 樋口藤九郎(ひぐち とうくろう)

  • 平之丞の友人のひとり。水野家の秘話を語る。

■ 三寺市之助(みてら いちのすけ)

  • 若者のひとり。花見の席などで軽口を叩くが、お石の姿に言葉を失う。

アリアの備忘録

お石は身寄りもなく、名家の娘でもなく、最終的に琴の道も選ばず、寺子屋の師としてひっそりと暮らします。それでも彼女は、誰よりも高潔で誇り高く生き抜きました。どんなに小さく見える存在でも、その人の「生き方」や「心根」によって、人生は美しく輝くものなのですね。そして何より、愛とは、ただ好きという感情ではなくて、相手の未来を思いやることだと書かれていました。表に出ることなく、人知れず誰かを想い、黙って何かを背負っている人間の尊さ。やっぱり日本婦道記でした。

日本婦道記 墨丸 山本周五郎

【朗読】日本婦道記 墨丸 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作 日本婦道記より墨丸です。この作品は昭和20年婦人倶楽部に掲載されました。お石は五歳の時、みなしごとして鈴木家へ引き取られた。その時、平之丞は11歳、ずいぶん色の黒いみっともない子だと思った。お石ははきはきして立ち居もきちんとして、明るいまっすぐな性質に恵まれていた。色が黒いので平之丞の友達からは「お黒どの」とか「鳥丸」などと呼ばれていたが、平之丞はある時哀れになり、「黒いから墨丸がいい」と云い出し、それ以来少年たちは「墨丸」と呼ぶようになった。お石が十三歳になった年、平之丞の大切にしている翡翠の文鎮を貸してくれという。お石が思いつめた顔をしているのを見て平之丞は苦笑して「失くしてはいけないぞ」と云いながら取ってやった。お石は鈴木家に滞在する琴の名手、検校に師事して琴を習い始める。検校はお石は恵まれた才能を持つと云って絶賞した。そのころから平之丞はお石を見なおすようになり、だんだん心を惹かれるようになる。そしてそれがもっとも自然であり望ましくもあると信じたから鈴木家の嫁にと母に頼んだのだった。

かん太
お石は話があったとき、考えてみようともせずに断るんだ。そして琴で身を立てたいからと断って家を出ていくんだ。
アリア
お石のひとすじな心と、愛する人のために自分の幸福を捨てて、どんなおもいだったんだろうと思いました。でも平之丞と再会できてよかったよ!

日本婦道記 墨丸 主な登場人物

お石(墨丸)・・・5歳の時鈴木家へ引き取られる。琴も和学も才能があり、見かけも大きくなるにつれ肌は小麦色に、艶々と健康なまるみを帯びて髪もいつか赤みがとれ背丈も高くなった。下女に代わって風呂場を掃除したり、釜戸の火を焚いたり、薪を作ったり、料理は特に巧みで、粗末な材料からどんな高価なものかと思わせるようなものをよく拵えた。

平之丞・・・お石が来た時11歳だった。お石がいなくなってはじめてお石の存在の大きさに気づく。二十七歳で友人松井六弥の妹そでと結婚する。

鈴木宗兵衛・・・平之丞の父。吟味役。お石が誰の子か誰にも伝えないまま死ぬ。日記にも書かれておらず、証拠は何もなかった。

松井六弥・・・平之丞の友人。妹そでが平之丞と結婚する。

小出小十郎・・・お石の父。浪人者だったが、島原の陣でめざましくはたらき、前藩主忠善に見いだされて篤く用いられた。しかし、一徹な奉公ぶりで諫言をずばずば云い、忠義の怒りに触れて生涯蟄居となり、その日のうちに切腹して死んだ。

日本婦道記 墨丸 覚え書き

古雅(こが)・・・古風で優雅なこと。またそのさま。

文箱(ふばこ)・・・書状などを入れておく手箱。

琅玕(ろうかん)・・・翡翠の中でも最高級品のこと。

貶られる(そしられる)・・・けなす、おとしめる。

雪白(せっぱく)・・雪のように白いこと。

観桜(かんおう)・・・桜の花を観賞すること。

機微(きび)・・・表面だけでは知ることのできない、微妙な趣や事情。

御胤(おたね)

廉直(れんちょく)・・・心が清らかで私欲がなく、正直なこと。

無比(むひ)・・・ほかに比べるもののないこと。

諫言(かんげん)・・・目上の人の過失などを指摘して忠告すること。

重科(じゅうか)・・・重い罪科。重罪。

直諫(じきかん)・・・遠慮することなく率直に目上の人をいさめること。

嘆賞(たんしょう)・・・すぐれたものとして感じ入ること。

条理(じょうり)・・・物事の筋道。

惘然(もうぜん)・・・呆然と同じ。

述懐(じゅっかい)・・・思いを述べること。

讒訴(ざんそ)・・・他人をおとしいれようとして事実を曲げて言いつけること。

鞠問(きくもん)・・・罪を問いただすこと。

卒爾(そつじ)・・・だしぬけに。突然に。

蕭々(しょうしょう)・・・ものさびしい。

蒼茫(そうぼう)・・・見渡す限り青々として広いさま。

 

 

日本婦道記 小指 山本周五郎

【朗読】日本婦道記 小指 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「日本婦道記」より小指です。この作品は昭和21年講談雑誌に掲載されました。山瀬平三郎は極めておっとりとした気質で、川越藩秋元家の小姓組で書物番を勤めていました。平三郎には放心癖があって、(平三郎は十八歳で書物番を命ぜられてから始まったと信じているが)失敗というほどではないが時々顔を赤くする場合があります。袴の前後ろが分からなくなったり、出仕の支度で紙入れの代わりに旅を懐中したり、扇子を忘れて文鎮をもっていったりする例がいくらもありました。父の新五兵衛はそれをおおらかに笑っていましたが、母のなお女には心痛の種で、自分の愛していた小間使の八重を彼に附けることに定めたのでした。それから八重は平三郎の着替えの世話や、持ち物の心配や、寝床の面倒など身の回りのすべての世話をしました。平三郎は父の友人に勧められた縁談を承知した後で、出仕の支度で八重を見た時、自分の本当の気持ちに気が付くのでした。

日本婦道記 小指 主な登場人物

山瀬平三郎・・・小姓組書物番。父の友人からの縁談を承知したあとで八重に対する自分の気持ちに気付き、八重に結婚を申し込む。

八重・・・平三郎の母なお女に愛され、放心癖のある平三郎の身の回りの世話を五年間している。

山瀬新五兵衛・・・藩の中老。平三郎の父。挙措の静かな温厚一方の人。かつて怒ったり荒い声を立てたことはない。

なお女・・・平三郎の母。

日本婦道記 小指 覚え書き

式日(しきじつ)・・・儀式を執り行う日。

白扇(はくせん)・・・模様などのない白地のままの扇。

嬌態(きょうたい)・・・女性の媚を含んだなまめかしいふるまいや態度。

常着(つねぎ)・・・家にいて日常着る服。

挙措(きょそ)・・・立ち振る舞い。

放心(ほうしん)・・・心を奪われたりして魂が抜けたようにぼんやりすること。

心痛(しんつう)・・・心配して深く思い苦しむこと。

いなや・・・承知か不承知かということ。

病歿(びょうぼつ)

朴訥(ぼくとつ)・・・かざりけがなく口数がすくないこと。

柔和(にゅうわ)・・・性質や態度がものやわらかであること。

 

 

日本婦道記 春三たび 山本周五郎

【朗読】日本婦道記 春三たび 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「日本婦道記」より「春三たび」です。この作品は昭和18年婦人倶楽部に掲載されました。十七歳で和地へ嫁して三十日に足らない伊緒は、ある日、夫の伝四郎に天草の征討軍に加わることを知らされる。伝四郎は、自分が討ち死をしたら、もしまだ身ごもっていなかったら離別して実家へ帰れと云った。伊緒はみめかたちの美しい生まれつきで、早くから縁談が起こったが、容貌で望まれるものは、やがて容貌で疎んじられると云って父の八郎右衛門は頭を振り続けた。父の勧めで嫁した和地家は貧しく、御恩田を耕して細々と暮らしていた。父は伊緒を栄達させようとはしなかった。安楽な生涯をとも望まなかった。まことの道に沿っておのれの力で積み上げてゆく人生を与えてくれようとしたのだ。乱を平定して将兵が凱旋しても伝四郎は帰ってこなかった。戦場から逃げたと噂が絶えなかった。兄や玄蕃が進めたが、伊緒は実家へは帰らず、和地家を守った。それから三年・・・

日本婦道記 春三たび 主な登場人物

伊緒・・・伝四郎の妻。十七歳、みめかたちの美しい、まことの道を進む女。

伝四郎・・・戸田大垣藩の二十石徒士。天草征討軍に加わり行方不明となるが、戦場から逃げたと噂が立つ。

郁之助・・・伊緒よりひとつ年下の義弟。病弱で衰弱していく。

日本婦道記 春三たび 覚え書き

伊緒の父が遺してくれた「大空を 照りゆく月し 清ければ 雲隠せども 光なけくに」・・・大空を渡る月は、清らかに照るので、雲が隠してもその光は消えないのです。古今和歌集より

 

 

日本婦道記 箭竹 山本周五郎

【朗読】日本婦道記 箭竹 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「日本婦道記」より箭竹です。この作品は、昭和17年婦人倶楽部に掲載されました。将軍家光に世子が生まれた祝儀として、水野けんもつ忠善は久能山東照宮に石の鳥居を奉納することとなり、茅野百記はその事務頭として久能山に出張していた。百記はその出張先で私の争いで刃傷に及び、勤役中の不始末を申し訳なく思って切腹した。知らせを聞いた百記の妻みよは、召使たちにその旨を伝えて家内の始末をし、領内追放となって二歳の息子、安之助を連れて土地を去った。みよはその時から二十年、良人の遺志を継いで、微塵もゆるがぬ一心を貫きとおして良人の仕残した奉公をつぐない、安之助を育てるのだった。

日本婦道記 箭竹 主な登場人物

みよ・・・水野けんもつ忠善の家臣、茅野百記の妻。水野家の移封について行きながら安之助を育てる。

茅野百記・・・書院番、出張先で刃傷に及び切腹する。

安之助・・・百記とみよの子

六兵衛・・・茅野家の下僕。領内追放となったみよの世話をする。農家が自分のために作る丈夫な草鞋の作り方をみよに教える。

熊造・・・髭だらけで目が鋭い男。昔は海道を馬を曳いて往来した暴れ者だったが、今は伝馬問屋の主人でみよの長屋の主人。困っている人には身を剥いでも面倒をみている。

水野けんもつ忠善・・・岡崎藩主。

徳川家綱・・・十九歳、家光の闊達な気性をうけてうまれ、父に似てなかなか峻厳なところがおおかった。みよのつくった大願の文字のある弓に気付き、どこの誰が作ったものか調べさせる。

 日本婦道記 箭竹 覚え書き

筈巻(はずまき)・・・弓の矢筈の下の糸を巻いて固めたところ。

大願(たいがん)・・・大きなことを成し遂げようという願い。

闊達(かったつ)・・・広く物事にこだわらない様子。

峻厳(しゅんげん)・・・非常にきびしいこと。

不興(ふきょう)・・・機嫌がわるいこと。

精選(せいせん)・・・多くの中から良い物をよりすぐること。

粗忽(そこつ)・・・軽はずみなこと。

生害(しょうがい)・・・自害。

主従は三世(しゅじゅうはさんぜ)・・・現在、過去、未来にもわたる深い因縁があるものだということ。

安閑(あんかん)・・・のんびりとして静かなさま。

野風呂(のぶろ)・・・露天風呂。

難儀(なんぎ)・・・苦しみ悩むこと。

畷道(なわてみち)・・・田の間の道、まっすぐに長い道。

壮烈(そうれつ)・・・勇ましくて立派なこと。