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「こいそ」と「竹四郎」 山本周五郎

【朗読】「こいそ」と「竹四郎」 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「こいそ」と「竹四郎」(昭和21年)です。本堂竹四郎は足軽組頭であった。それが去年の春、城代家老である藤川平左衛門にみいだされ助筆に任命された。その頃としては稀有な抜擢で、家中の耳目を驚かせた。彼は剣術が上手で、十九歳のときに藩の精明館の代師範に挙げられた。竹四郎の教授要目は、身じまい、服装、作法正しい挙措の三条であった。いざ立ち合いとなると簡単に済んでしまう。打ち合うことは殆どなかった。門下の人たちは云った。身だしなみだの行儀のことなんぞばかりうるさく云って、これではまるで舞の稽古みたようじゃないか。そして「代師範の舞い舞い剣術」という陰口が一般的になった。

「こいそ」と「竹四郎」 主な登場人物

本堂竹四郎・・・城代家老の助筆に抜擢される。助筆は難しい役で老職席と諸役所との取次と周旋に当たるので、めはしが効き、すばやい判断と洞察力が必要で、しかも勘定奉行が空席で城代の兼務で多忙だったので、彼はしばしば下城のあとで藤川邸につめて事務を執っていた。そのとき城代の娘「こいそ」を知り彼女を愛するようになる。

こいそ・・・十八歳。明るくはっきりした気性で、見るからに愛くるしくすがすがしい娘。二年前からたびたび縁談があるが「ゆかなくともいいのならゆかないほうがいい、もう少し娘のままのんびりしたい。」と云っている。

岡田金之助・・・良家の育ちだが、眼に落ち着きがなく軽薄な人間。竹四郎に対して「お前とは身分が違うぞ」と言いたげな様子をみせる。

藤川平左衛門・・・竹四郎を助筆に抜擢する。こいそをだらしのないほど可愛いがっている。

 

「日本婦道記」二十三年 山本周五郎

【朗読】「日本婦道記」より二十三年 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「日本婦道記」より二十三年です。この作品は昭和20年、婦人倶楽部に掲載されました。新沼靱負は会津の蒲生家が改易となったため浪人となる。産後病みついた妻は回復の見込みがなく、長男の臣之助は悪質の時疫にかかって僅か三日で急死し、不幸が次々と伴なっていた。靱負は会津を退転するとき貯えも多からず病妻を抱えていたため、家士召使にはみな暇をやったが、妻の愛するおかやだけは出て行かず一緒についてきた。男ひとりの手には余る子守り、病人の看護、炊事洗濯などおかやは疲れることを知らないかと思うほどよく働く娘で、靱負はおかやがいてくれなかったらどうしたろうと背筋が寒くなるのだった。

二十三年 主な登場人物

新沼靱負(にいぬまゆきえ)・・・会津蒲生家の家臣。御蔵奉行に属し、食禄二百石あまりで槍刀預を勤める。ごく温厚でぬきんじた才能もない代わりに真面目で謹直なところが上からも下からも買われて平凡な年月を過ごしていた。が・・・

おかや・・・十五歳から新沼家に奉公して二十歳になった時、奉公していた新沼の主人靱負から暇を出される。しかし・・・

みぎは・・・靱負の妻。おかやを妹のように愛していた。しかし乳飲み子と良人を残して病没する。

臣之助・・・靱負の長男。流行り病であっけなく死ぬ。

牧二郎・・・靱負の二男。

多助・・・おかやの兄。

二十三年 覚え書き

紛擾(ふんじょう)・・・ごたごたもめること。

寄る辺(よるべ)・・・たよりとするところ。

嬰児(えいじ)・・・乳飲み子

時疫(じえき)・・・流行り病。

襁褓(むつき)・・・おむつ

便々と(べんべんと)・・・何もせずに悪戯に時を過ごすこと。

懇ろ(ねんごろ)・・・心がこもっているさま。

恟々と(きょうきょうと)・・・おそれおののく様子。

辛労(しんろう)・・・つらい苦労をすること。

遅鈍(ちどん)・・・行動などがのろくて鈍いこと。

座食(ざしょく)・・・無職のまま生活すること。

枕頭(ちんとう)・・・枕元。

思量(しりょう)・・・いろいろと思いめぐらして考える。

殊遇(しゅぐう)・・・他より特別によい待遇。

 

 

【朗読】日本婦道記より 「不断草」 山本周五郎 読み手 アリア

【朗読】日本婦道記より「不断草」山本周五郎  読み手 アリア

こんにちは。 癒しの朗読屋アリアです。今回の朗読は、山本周五郎作 日本婦道記より「不断草」です。山本周五郎の日本婦道記は、昭和17年より女性を主人公にした連作として書かれ、講談社版と新潮社版があり収録作は同じではないが、現在はどちらからも31編全てを収めた完全版が出版されています。底本とされている新潮文庫版は「松の花」「梅咲きぬ」「節竹」「不断草」「藪の蔭」「糸車」「尾花川」「桃の井戸」「墨丸」「萱笠」「風鈴」の11編が収められています。Wikipediaより引用)私は完全版の31篇全てを朗読していきたいと思います。

ところで不断草はお好きですか?種を撒くとプランターでも簡単に育って春から秋まで楽しむことができます。形はホウレンソウに似ていますが茎の色が鮮やかです。誰でも簡単に育てやすいようで、我が家のずぼら家庭菜園にも簡単に根付いてくれ、青々と勢いのある葉色は観賞用でもあります。(料理せずに放置した結果かもしれませんが・・)小松菜、春菊、サニーレタス、不断草、これらは手軽に育ってくれるので我が家でも重宝しています。私は特に春菊のおひたしが好物なので春菊は欠かせません!

日本婦道記 不断草のあらすじ

菊枝は登野村三郎兵衛に嫁して半年、この頃良人の小言は多くなり、小さな過失も見逃さず棘のある調子で叱りつけるようになった。目が不自由だが思いやりのある優しい姑までがそうなった。ある日仲人の蜂屋伊兵衛が来てもしかしたらこのまま添え遂げない縁かもしれないと言われ菊枝は青ざめるのだった。

結局嫁して半年で離縁することになり菊枝は実家に戻るのだが、持ち帰った荷物の中に不断草の種がに入っていた。その香気ある葉は姑の好物だった。嫁した日々を思い返すと絶望が迫ってきて、もう人も世もわからないという気がして泣き伏すのであった。そうして間もなく離縁された理由がわかるのだがそれは、執政千坂対馬はじめ七名の旧重臣が連袂して御主君治憲を強要した事件だった。治憲は果断よく機先を制して七重臣を抑え大事にはいたらず鎮めたが、元夫の登野村三郎兵衛も扶持を返上して退身し、老母はしるべの農家に預けて退国した。

菊枝は良人が今度の事件の起こることと結果を知っているために、妻にその累を及ぼしたくないために離縁したのではないだろうか、良人の様子が変わりはじめたのも千坂対馬が登野村を訪ねてきた頃からだった。

菊枝は父に絶縁を申し出て、しるべの農家に老母の世話をするために向かった。目の不自由な老母に不縁になった自分を悟られないようにお秋と名乗り、新しい生活を始めたのであった。

かん太
そんなある日、良人から老母に文が届いたんだよ。目の悪い老母の代わりに菊枝が文を読むシーンは泣けるね。
アリア
菊枝はあとでこっそり一人で読み返したいと思ったんだね。なにものにも代えがたいただ一人の良人の書いた文だもの。

年が明けると菊枝は、良人が帰ってくる日まで姑と自分の生計を稼ぐため機場へ織子にでるようになる。、朝昼夜の食事の支度に片付け、解きものや縫いもの、洗濯などのこまごましたことに姑の世話に夜中は二度起きなければならなかった。その後も時折良人から文が届いたがいつも居所が違っていた。いつも母の安否を尋ねるだけで決して自分のことは精しく書かなかったが、文面には米沢藩と縁のつながっているらしいことは疑う余地はなかった。ことによると良人は帰参がかなうかもしれぬと希望を持つようになった。

かん太
最後は感動の展開で涙なしには読めないよ。
アリア
良人と姑が妻を思い、妻も良人と姑を思う心温まるはなしでした。

覚え書き

折衝(せっしょう)・・・利害関係が一致しない相手と問題を解決するために、かけひきをすること。

禍(わざわい)・・・災い。ふしあわせ。

英明(えいめい)・・・すぐれて賢いこと。また、そのさま。

罷免(ひめん)・・・職務をやめさせること。免職。

機先(きさき)・・・前兆、前触れ。

みとり・・・病人のそばにいて、色々と世話をすること。

義絶(義絶)・・・親子・兄弟など、肉親の関係を絶つこと。

筧(かけい)・・・雨どいのこと。

閑寂(かんじゃく)・・・物静かで趣のあること。ひっそりとして落ち着いていること。

帰参(きさん)・・・帰ってくること。一度ひまをとった主人のもとに再び仕えること。

病臥(びょうが)・・・病気で床につくこと

 

【朗読】日本婦道記より「松の花」山本周五郎 読み手アリア

日本婦道記より「松の花」山本周五郎 読み手 アリア

 

こんにちは! 癒しの朗読屋アリアです。今回の朗読は、山本周五郎作 日本婦道記より「松の花」です。日本婦道記の第1作にふさわしい山本周五郎の生母をモデルに書かれた作品です。千石の老職・藤右衛門の妻のやす女は、三十年も寝起きを共にした夫の目には何の苦労も心配もなく、いつまでも嫁いできたときと同じのびやかさ、明るくおっとりとしているように見えていたのに、やす女が亡くなってから次々と夫の知らぬ面が見つかります。いつも蔭で終わることのない努力に生涯をささげ、自分のことは置いておいて、まずは周囲のことを考え、見返りさえ求めなかったやす女の姿に読みながら涙が止まりませんでした。読み終えて背筋がピンと端座した話でした。(写真は松の花です)

 

松の花

日本婦道記 松の花のあらすじ

老年の佐野藤右衛門はお勝手係の役目から解かれて藩譜編纂の係を命ぜられた。以来書斎で下役の者たちが書き上げた「松の花」という稿本に目を通している。やがて妻やす女の臨終が伝えられた。30年連れ添った妻は去年の夏から病の床につき、治る見込みのない病におかされ当人も周りの者たちも覚悟はできていた。妻が亡くなると藤右衛門は妻の唇にまつごの水を取り、ふと夜具の外に出たまだあたたかみのある妻の手を夜具にいれてやろうとそっと握った。その時その手がひどく荒れてざらざらしているのに気付いた。その手の荒れているのを見つけたとき、自分の知らない妻の一面を見たような気がした。

アリア
ここから藤右衛門は次々に妻やす女の真の姿を知っていくんだ。
かん太
弔問客の帰った通夜の深夜、書斎で机に向かう藤右衛門の耳に看経の声が聞こえる。息子を呼ぶと家士しもべの女房たちだった。彼らはやす女を実の親のように慕っていたという。藤右衛門はまたしても自分の知らぬ妻の一面をみつけて驚いた。
アリア
やす女の形見分けで引き出しから衣類を出してみると全て木綿の着古して継のあたったものばかりだった。生前嫁に「武家の奥はどのようにつましくとも恥にならぬが、身分相応の御奉公をするためには、つねに千石千両の貯蓄を欠かしてはならぬ。」とさとしていたんだ。
かん太
武家の格式のため千石の体面を保ちながら、決まった食録でやりくりするのはたやすいことではないんだ。藩の御勝手都合で食録のないことが続くとか、非常な物価高騰とか百人近い家士だちの武具調達など全て佐野家では無事に過ごしてきたんだ。
アリア
藤右衛門は今までどんな場合にも心を労することなく、打ち込んで御奉公することを当たり前なことで誰のたまものとも考えたことはなかった。自分のすぐそばにいる妻がどんな人間か知らず、妻が亡くなるまでまるで違う妻しか知らなかったんだ。
最後に藤右衛門が稿本「松の花」に序すべき章句を思いつき、妻やす女が彼の心の中に紙一重の隙もないほどぴったりと溶け込み生きていると感じます。

覚え書き

稿本 (こうほん)・・・更に良くするつもりで、いったん書いた原稿。

煩務 (はんむ)・・・わずらわしくて忙しい勤務。

壮者 (そうしゃ)・・・働き盛りの者。

烈女 (れつじょ)・・・信念を貫きとおす激しい気性の女子。

節婦 (せっぷ)・・・節操をかたく守る女性。

空隙 (くうげき)・・・すきま。

看経 (かんきん)・・・禅宗で声を出さずにお経を読むこと。

誦経 (ずきょう)・・・経文をそらで覚えて唱えること。

回向 (えこう)・・・死者の冥福を祈ること。

頌む (ほむ)・・・ほめる、たたえる。

蕭殺(しょくさつ)・・・もの寂しいさま。

洒脱(しゃだつ)・・・あかぬけしていること。

 

【朗読】日本婦道記より「風鈴」山本周五郎 読み手 アリア

日本婦道記より「風鈴」山本周五郎    読み手 アリア

 

こんにちは 癒しの朗読屋アリアです。今回の朗読は、山本周五郎作 日本婦道記より「風鈴」です。風鈴といえば夏の風物詩ですが、私は南部鉄の風鈴の音が好きです。子どもの頃、夏になって母が窓辺に南部鉄の吊鐘風鈴を掛けてくれるのが楽しみでした。風が吹くたびに涼やかな音が鳴って、風がなければ音はならないのですが、寝苦しい夜も涼やかに感じます。山本周五郎の日本婦道記といえば、直木賞に推されるも辞退し直木賞史上唯一の授賞決定後の辞退者となったことでも知られています。日本婦道記は全部で31話あるのですが、コツコツと読み進めていきたいと思います。どうぞ気長にお付き合いください。

 

日本婦道記「風鈴」のあらすじ

弥生は勘定所づとめの三右衛門と息子の三人暮らしでつましい生活をしている。弥生は15歳で父を亡くし、それより数年前に母を亡くしていたので、15歳で二人の妹たちの世話や家政の全てを背負って立った。生活は苦しく、衣類や調度はむろん日用のものもすべて不足しがちで、一片の塩魚を買うにも味噌や醤油を買うにさえ銭嚢の中を数えなければならなかった。また妹たちが、ふた親のない貧しい暮らしで卑屈になったり陰気な性質にならないよう、のびのび育てたい、世間へ出て笑われないよう読み書き、作法を身に着けてやりたいと若い弥生には無理なことを克服してきた。やがて二人の妹たちは良家に嫁して少しづつ性質が変わっていった。

アリア
二人の妹を恵まれた結婚生活に送り出してほっとした弥生。亡き父母も満足して下さるだろう。妹たちも、いつかは姉の苦労を知って感謝してくれるだろうと信じていた弥生。15歳で本当に大変だったろうね。頭が下がるよ。
かん太
妹たちは実家へ来るたびに、実家の貧しさを厭うようになり、貧しい実家を持つことを恥じるような口ぶりさえみせるようになるんだ。でも弥生はね、妹たちがそういう考えをするのは現在の生活が豊かで恵まれているから。生活が豊かで恵まれているんだから、それを怒ってはならないと思うんだ。
アリア
でもね、次第に弥生に迷いが出てくるんだ。こうして苦しい日を送り、苦しい日を迎えて自分の一生が経ってしまう。これで生き甲斐があるのかと絶望するんだよ。妹たちは夫に頼んで三右衛門の役替えを上役に頼むんだよ。弥生も夫の役替えを願うようになる。私だったらもうすでに夫にはっぱをかけてるな。ここからがこの話のクライマックスだよ。ぜひ朗読を聴いてください。

主な登場人物

 

覚え書き

文筥(ふばこ)・・・書状などを入れておく手箱。

火桶(ひおけ)・・・木製の丸型の火鉢。

厨(くりや)・・・台所。

遊山(ゆさん)・・・野山に遊びに行くこと。

題簽(だいせん)・・・和漢の書籍の表紙に題名などを記してはる細長い紙。

重陽 (ちょうよう)・・・五節句の一つで9月9日のこと。旧暦では菊が咲く季節であることから菊の節句とも呼ばれる。

詠嘆 (えいたん)・・・感動を声に出すこと。

険のある(けんのある)・・・冷たくきつい印象や感じのこと。

惘然(もうぜん)・・・あきれて、あっけにとられたさま。

覇気(はき)・・・物事に積極的に取り組もうとする意気込み。

徒労(とろう)・・・無駄な骨折り、無益な苦労。

慚愧(ざんき)・・・自分の見苦しさや過ちを反省して心に深く恥じること。

霏々(ひひ)・・・雪や雨が絶え間なく降るさま。

 

 

 

 

【朗読】花匂う 山本周五郎 読み手 アリア

【朗読】花匂う 山本周五郎 読み手 アリア

こんにちは。癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作 「花匂う」(昭和23年)です。部屋住みの三男の話で「艶書」(昭和29年)によく似ています。どちらも部屋住みで、自分の趣味?から役付きになり、諦めていたことが叶っていきます。

花匂う 主な登場人物

瀬沼直弥・・・幼い頃から「三男の甚六」と云われる呑気なたちの部屋住みの三男。領内全部の風土資料を集める。土地土地の古老を訪ねたり、社寺、古蹟を探ったり、林相や気候や作物なども調べ克明に記録していた。

庄田多津・・・燐家の幼なじみ。成長してもずっと往来していた。直弥を想っているが、直弥の友人・信一郎の妻になる。

矢部信一郎・・・御庫奉行。直弥の藩の学問所からの親友の一人。直弥を介して多津を知り縁談となった。隠し子があるという秘密があった。

竹島半兵衛・・・めざましく出世している藩の学問所からの親友の一人。江戸詰だが帰国すると必ず直弥の集める領内の風土資料を見に来る。

花匂うのあらすじ

直弥は小さい頃から「三男の甚六」などと云われたが、誰の目にも適評で、人を憎んだり恨んだり、激しく怒る感情がほとんどなかった。三男坊の部屋住みでも悩んだり僻んだりせず、与えられた平凡な月日をきわめて従順に過ごしていた。しかし、矢部信一郎と庄田多津との縁談が決まったと聞かされた直後から、直弥の眠れない日がはじまった。信一郎は藩の学問所からの親友で、ずっと親しい行き来が続いていた。多津も幼なじみで、成長してからもずっと往来していた。信一郎が多津を知ったのも直弥を介してのことだった。直弥は二人の縁談を喜んだが、突然身震いをした。信一郎に隠し子があることを思い出したからだ。直弥はそれを多津に話した方がいいか悩んだ。しかし話そうとしたとき、直弥は自分が多津をずっと前から愛していたことに気づき話せなくなってしまった。

かん太
「花匂う」って蜜柑の花の匂いだよ。話の中に何度も繰り返し出てくる。直弥の気持ちをよく表しています。直弥が手紙を渡すとき多津が「おおーいい香り」と云う。信一郎と多津が結婚してから直弥にとって蜜柑の花の匂いは「ゴミ捨て場で物のすえるような厭な匂い」に変わる。しかし・・・
アリア
雨の場面も心に残ります。梅雨のかえったように細かい雨が降り、木陰に立ち止まり、水面に雨が描く細かい波紋を眺めながら直弥は、多津の身に起こったことから自分に何ができるだろうかと一生部屋住みの自分を自嘲するんだ。切ないよ。

花匂う 覚え書き

甚六(じんろく)・・・お人よし、おろかもの。

後手(ごて)・・・他に先を越されること。また、相手に先に攻められて受け身の立場になること。

古老(ころう)・・・老人。特に昔のことや故実に通じている老人。

古蹟(こせき)・・・歴史的な建築物や事件などのあった場所。

林相(りんそう)・・・木の種類や生え方などによる森林の様相。

蒐める(あつめる)・・・趣味や研究のために、あちこちに散らばっているものを一つのところにまとめること。

僻み(ひがみ)・・・ひがむこと。ひめくれた考えや気持ち。

勤倹(きんけん)・・・勤勉で倹約なこと、仕事に励み、無駄な出費を少なくすること。

実直(じっちょく)・・・誠実でかげひなたのないこと。またそのさま。

労咳(ろうがい)・・・肺結核。

呼声(こせい)・・・相手を呼ぶ声。

妾婢(しょうひ)・・・めかけや下女。

濠端(ほりばた)・・・城などの堀のほとり。堀の岸。

逮夜(たいや)・・・仏教で、葬儀の前夜。また忌日の前夜。

周旋(しゅうせん)・・・とりもち。なかだち。事をとり行うために動きまわること。

流連(いつづけ)・・・りゅうれん。遊興にふけって家に帰ることを忘れること。夢中になること。

茫漠(ぼうばく)・・・広々としてとりとめのないさま。

讃仰(さんぎょう)・・・聖人や偉人の徳を仰ぎ尊ぶこと。

蘚苔(せんたい)・・・こけ。

野末(のずえ)・・・野のはずれ。野のはて。

事蹟(じせき)・・・物事が行われたあと。事件のあと。

墓畔(ぼはん)・・・墓のほとり。墓のそば。

経綸(けいりん)・・・国家の秩序をととのえ治めること。またその方策。

 

 

 

 

 

あだこ 山本周五郎

あだこ

あだこ 山本周五郎 読み手 アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は山本周五郎作「あだこ」です。この作品は昭和33年作者が55歳の時に書かれました。人気作品で何度もドラマ化・舞台化されています。あだこは名前ではなく津軽で子守りとか下女のことをいうそうです。許嫁者に男と出奔され自暴自棄に病んでいる半三郎の屋敷へ、同じくどこにも行き場のないあだこが突然やってきて、半三郎の屋敷へ置いてくれと云います。

あだこ 主な登場人物

あだこ(いそ)・・・わけがあって津軽を飛び出し、江戸で一年ばかり五か所で奉公するが、五か所ともいやなこと(セクハラ)をされ飛び出     す。行くところがなくなり、奉公人が誰もいない主人半三郎がひとりきりの小林の屋敷へ自ら雇われにいく。

小林半三郎・・・許嫁者が男と出奔してから出仕もせず、酒を飲んだり遊び歩いたりするばかりで家扶も家士も下男小者も出ていき、借財も嵩むだけ嵩み友人たちも匙を投げたところへ「あだこ」がやってくる。

曾我十兵衛・・・二百五十石の使番、半三郎の友人。

金森みすず・・・半三郎の許嫁者。別の男と出奔した。

あだこのあらすじ(※ネタバレ含みます)

小林半三郎は、許嫁者みすずが男と出奔して以来、自暴自棄な生活を送り、六日も食事をせずに餓死するつもりでいた。そこへ見知らぬ女がやってきて、庭を片付け、食い物の都合をつけ食事の支度をし、自分には行くところがない、どんなことでもするから屋敷に置いてほしいと云った。それが「あだこ」だった。半三郎は、いたいならいてもいいが、自分は何もしてやれないと云った。あだこはよく働き、半三郎の世話もよくした。彼が退屈していると繕い物などを持ってそばに来て針を動かしながら妙な訛りで話をする。半三郎は、あだこが津軽出身だと知って、あだこは、曾我十兵衛が津軽に国目付として行った、そのとき伴れてここへ入りこませた者だなと思った。

かん太
半三郎は、金も曾我十兵衛があだこに預けて米屋酒屋に支払っているに相違ないと思うんだ。借が相当溜まっているのに商人たちが貸す道理はない。
アリア
それから段々本当のことがわかっていくんだけれど、半三郎の周囲にいる人たちがやさしく、温かで、読んでいて幸せな気持ちになります。アリアも「あだこ」が好きです。

あだこ 覚え書き

小普請(こぶしん)・・・幕府直参の旗本・御家人のうち、家禄3000石以下で無役の者がこれに属す。

書院番(しょいんばん)・・・若年寄に属し、江戸城の警護、将軍外出時の護衛などの任にあたった。馬廻衆(親衛隊)として高い格式を持ち、同様の小姓組と共に両番と称された。書院番の番士には幕府内での出世の道が開かれていた。(Wikipediaより引用

塵芥(ちりあくた)・・・ごみ、くず、かす。

斟酌(しんしゃく)・・・相手の事情や心情をくみとること。また、くみとって手加減すること。

不徳義(ふとくぎ)・・・徳義に背くこと。また、そのさま。

眩惑(げんわく)・・・目がくらんで正しい判断ができなくなること。また、目をくらまして、まどわすこと。

あずましい・・・東北弁で居心地がいい、落ち着く。

ごっぺがえした・・・大失敗をする。

桟俵(さんだわら)・・・米俵の両端に当てる円いわらのふた。

叺(かます)・・・わらむしろを二つ折りにし、縁を縫いとじた袋。

糺した(ただした)・・・事の是非、真偽、事実や真相などを追及すること。

 

 

 

あなたも私も1 久生十蘭

【朗読】あなたも私も1 久生十蘭 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、久生十蘭作「あなたも私も1」です。1954年10月~1955年3月まで毎日新聞夕刊に連載された彼の代表作である長編小説です。久生十蘭はパリでレンズ工学を二年、演劇を二年学んだ経歴を持っています。その作品は多彩なジャンルにわたり、「小説の魔術師」「多面体作家」と呼ばれています。「あなたも私も」は主人公、三流モデルの水上サト子とその周りの人間模様を生き生きと描きながら、お金、原子力というテーマに集約されていきます。登場人物が多めですので、各回ごとに相関図をまとめていきたいと思います。

あなたも私も1  クラゲの海・月の光で 読み手アリア

夏は終わったが、まだ秋ではない。その間ぐらいの季節・・・沖波が立ち、海はクラゲの花園になっている。渚に犬がいる。子どもがいる。猟師が大きな魚籃をかついで、波打ちぎわを歩いている。秋波のうちかえす鎌倉の海は、房州あたりの鰯くさい漁村の風景と、すこしもちがわない。(本文出だしより。)

再相関図

水上サト子・・・三流のファッションモデル。夏の終わり鎌倉の叔母の家に遊びに行く。

由良ふみ子・・・サト子の叔母。アメリカに行って連絡もないサト子の祖父の別荘に、自分の持ち家のような顔をして居座っている。

愛一郎・・・すごい美青年。二人の警官の前で、サト子の庭から海に飛び込み、溺れて死ぬ真似をする。

私服警官・中村吉右衛門・・・久慈の家に入った空き巣を探してサト子の庭にやってくる。飛び込んで溺死したとみられる青年を探す。

久慈の家・・・元・神月の家→帝銀の沢村さんの家→久慈の家

坂田青年・・・荻窪で清浄野菜を牛車で売る。サト子と顔見知り。

身なりのいい中年の紳士・・・青年を探し回るサト子に久慈の家はどこかと道を尋ねる。

あなたも私も1  覚え書き

魚籃(ぎょらん)・・・魚を入れるかご。びく。

切通し(きりどおし)・・・山・丘などを切り開いて通した道路。

土用波(どようなみ)・・・夏の土用のころ、海岸に打ち寄せる大波。はるか沖合にある台風の影響によるうねりがやってきたもの。

稗搗節(ひえつきぶし)・・・宮崎県の民謡。

底意(そこい)・・・心の奥に潜む考え。

地境(じざかい)・・・所有者などの異なる土地と土地の境界。

地虫(じむし)・・・コガネムシ科の昆虫の幼虫の総称。

 

 

あなたも私も2 久生十蘭

あなたも私も2 久生十蘭  仕事と遊び・職場

 

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は連載朗読で、久生十蘭作「あなたも私も2」です。この作品は、毎日新聞夕刊に1954年10月~1955年3月まで掲載されました。戦後すぐの頃の話で、中村吉右衛門は海軍にいました。溺れた愛一郎を探し続けたのは「作戦の都合で、助ければ助けられる部下を、何人か目の前で溺れさせた、命を見捨てばかりでなく、死体ひとつひきあげられなかった。その時の無念の思いが忘れられずに心のどこかに残っている・・」からだったが、サト子はそんな彼に「戦争の話、もういいわ」と強い口調で言うのでした。(仕事と遊びより)ショウバイニンの女たちが出てきたり、サト子はモデルの出稼ぎのようなことをしてショウバイニンと間違えられたりします。

 

あなたも私も2 仕事と遊び・職場 あらすじ (ネタバレあります!)

 

あの夜、サト子は海から上がって寝室に入ったが、目をつぶると、いらざる庇い立てをしたために、死なせなくともすんだ人を死なせてしまったという思いと、やさしい顔の青年が浮かんで眠れなかった。叔母も帰ってきたし、サト子はそろそろ東京へ帰ろうと思った。そんなサト子の所へ、あの時の中年の私服、中村吉右衛門が訪ねてくる。彼は海軍にいたことがあるらしい。今日も青年の死体を探しに来たようだった。

叔母の住むこの別荘はお祖父さんのものだった。サト子が小さかったころは、毎年この別荘にきて長い夏の日を遊び暮らしたものだった。お祖父さんはアメリカに行ったっきり、別荘は空いたままになっていた。サト子の両親は戦争中に死に、離婚でゴタゴタした叔母がここに居座っていた。叔母はサト子にモデルなんてやめて子供の頃ここで泳いだ「お別荘組」の山岸芳夫との結婚をすすめるのだった。

サト子は、鎌倉八幡宮の辺りで外国人観光客相手に風景と一緒に写るモデルのアルバイトをしていた。それには客引きとモデルの二役をやってのけなくてはならなかった。今日も彼の死体があがらないと聞いて、青年の追憶に浸ってる愁い顔のサト子に声をかける観光客はいなかった。美術館のティールームでお茶を飲もうと歩き出したサト子に若い警官が声をかけた。「ショウバイニン」と勘違いしているらしい。サト子はそのまま古陶磁の展覧会を見に美術館へ入った。ゆっくりと美しい壺どもをながめていると・・・・。

 

あなたも私も2  覚え書き

女賊(にょぞく)・・・女の盗賊

嫌疑(けんぎ)・・・疑わしいこと。特に犯罪の時日があるのではないかという疑い。

邪推(じゃすい)・・・他人の心意を悪く推量すること。

黙然(もくぜん)・・・口をつぐんでいるさま。もくねん。

惨害(さんがい)・・・いたましい被害。むごたらしい災害。

御寝(ぎょし)・・・寝ることの敬語。

請託(せいたく)・・・内々で特別の計らいを頼むこと。

肺腑(はいふ)・・・心の奥底。心底、転じて急所。

述懐(じゅっかい)・・・思いを述べること。過去の出来事や思い出などを述べること。

 

 

 

 

あなたも私も3 久夫十蘭

【朗読】あなたも私も3 テラスに吹く風 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、連載朗読、久夫十蘭作「あなたも私も3」です。ことしの夏こそは、この海岸でなにか素晴らしいことが起こるはずだったのに、叔母にはぐらかされて夏の終わりになって鎌倉に呼ばれたサト子。秋波のうちかえす誰もいない海岸で退屈していたサト子のもとへひょんなことから隣にいた、すごい美青年がやってくる。そして空き巣の捜査に警官も数名やってくる・・・・。美青年は逃げ出し、目の前の海に飛び込んで死んでしまう。サト子はいらざる庇い立てで死ななくともよい人を死なせてしまったという気持ちで憂いていた。しかし彼は・・・

あなたも私も3 テラスに吹く風 新しい登場人物

秋川 良作・・・澗の海で死んだはずの愛一郎の父親。

大矢シズ・・・飯島の土地っ子で漁師の子。子供の頃、澗の海で一緒に遊んだ。今はショウバイニンをしている。

 

あなたも私も3 テラスに吹く風  覚え書き

不興(ふきょう)・・・興味がなくなること。しらけること。

すげなく・・・愛想がなく、冷淡に、そっけなく、あっさりと、などといった意味の言い回し。

哀願(あいがん)・・・事情を述べて相手の同情心に訴え、ひたすら頼むこと。

当節(とうせつ)・・・この時節、このごろ。現今。

扇ケ谷(おうぎがやつ)・・・神奈川県鎌倉市中部の地名。

糊塗(こと)・・・一時しのぎにごまかすこと。