【長編朗読】柳橋物語 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「柳橋物語」(昭和21年)です。主人公おせんは研屋を営む祖父と二人でつましく暮らしています。おせんは幼い頃、隣に住んでいた大工の頭梁杉田屋で可愛がられます。おせんは病身の母が寝たり起きたりの鬱陶しく沈んだ家よりも、一日じゅう杉田屋で遊び暮らすことが多かった。そしておせの母が亡くなったが九つ頃、幸太と庄吉と知り合った。二人は杉田屋の徒弟であり、ライバルであり、どちらもおせんを好いていたのでした。おせんはある日庄吉に突然呼び出され、「明日から上方に行くが、自分が帰ってくるまで待っていてくれ」と告白されます。「待っているわ」と自分では何をいうのかほとんどわからずに答えるおせんに庄吉は、「幸太もおせんちゃんを欲しがっているから自分がいなくなれば幸太が云い寄ってくるだろう。でもおせんちゃんはおれを待っていてくれるんだよな。」と念を押して江戸から去るのでした。その後おせんは庄吉との約束を守って、杉田屋からきた幸太との縁談も断り、祖父のところへ通ってくる幸太にも来ないでくれと冷たく云うのでした。そんな折、おせんの祖父は卒中で倒れてしまうのでした。はじめは見舞客も多かったが段々少なくなり近所の人もあまり顔を見せなくなった。そのころから幸太がしばしば見舞いに来はじめ、中風に効く薬や食べ物を持ってきては薬を飲ませたり、額の濡れ手ぬぐいを絞りなおしたり、時には足をさすってくれたりした。しかしおせんは切羽詰まった苦しい場合につけ込まれてはならないと、ここでも幸太を拒絶するのでした。やがておせんは病床の層の面倒をみながら足袋のこはぜかがりで稼ぎ始めた。祖父もぼつぼつ起きはじめたが、左半身は不自由で舌のもつれもとれなかった。薬も祈祷も効果がなかった。そして十一月二十九日の夜、江戸に大火事が発生した。病身の祖父を抱えて火から逃げることもならず、途方にくれるおせんの前に幸太が現れる。(前篇より)
柳橋物語 主な登場人物
おせん・・・十七歳~。九つで母を、十二で父を亡くして祖父の源六と暮らす。幼い頃は杉田屋でよく遊び暮らしたが、十三四歳から家事や祖父の使い走りなどをし、祖父が病床についてからは足袋のこはぜかがりをする。やがて松造の手助けで八百屋を始める。
源六・・・六十七歳。おせんの祖父。研屋。
幸太郎・・・おせんが大火事のとき拾った子。
幸太・・・おせんと幼馴染。杉田屋の巳之吉の遠い親戚すじにあたる。十三の春から徒弟に入りのちに養子となる。口のききかたもすることもはしっこい少年だった。おせんを想っているが拒絶される。
庄吉・・・おせんと幼馴染。両親も兄妹もない不仕合せな身の上で幸太の半年後に杉田屋へ入る。ごくおとなしい性分で背丈も低くひ弱そうな感じ。おせんと夫婦約束をして上方へ稼ぎに行く。
杉田屋・・・巳之吉・お蝶夫妻は子供がなく、おせんを可愛がり養女にと望むが断られる。幸太との縁談も断わられる。
勘十・お常・・・元煎餅屋で大火の後藁屋を始める。大火で記憶のない、赤子を抱えたおせんを助けて面倒をみてくれる。
松造・・・お常の兄。お常が死ぬ前までおせんの面倒をみていたことを引き継いで親身に世話をしてくれる。無愛想。
おもん・・・おせんの針仲間で親友。大火から身を持ち崩す。
友助夫妻・・・勘十の友人。妻に幸太郎が乳をもらう。人が良く何かと面倒をみてくれるが、ある時から態度が変わる。
栁橋物語 覚え書き
かもじ屋・・・地髪が短くて結えないときに足す添え髪を作って売るところ。髢
荷足(にたり)・・・船底に積む思い荷物。
下風(かふう)・・・ほかの支配を受ける低い地位。
諸式(しょしき)・・・物価。
惘然(ぼうぜん)・・・気抜けしてぼんやりすること。
徒弟(とてい)・・・親方の家に住み込んで技術を学ぶ少年、
訥々(とつとつ)・・・口ごもりながらつっかえながら云う。
酷薄(こくはく)・・・残酷で薄情なこと。
仮藉(かしゃく)・・・許すこと、見守ること。
風霜(ふうそう)・・・世の中の厳しい苦難や試練。
妾宅(しょうたく)・・・めかけを住まわせる家。
慄然(りつぜん)・・・恐れおののくさま。
荷葉飯(かようめし)・・・蓮の葉で巻いたモチ米を蒸した飯。
後架(こうか)・・・便所。
定命(じょうみょう)・・・前世の因縁によってきまる寿命。
逼塞(ひっそく)・・・落ちぶれて世間から離れてひっそり暮らすこと。
疱瘡(ほうそう)・・・天然痘。
朴直(ぼくちょく)・・・かざりけがなく正直なこと。
賃餅(ちんもち)・・・賃銭をとって餅をつくこと。
気ぶっせい・・・気づまりな感じ。
野分(のわき)・・・秋から冬にかけて吹く暴風。