【朗読】噴き上げる花 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「噴き上げる花」(昭和17年)です。小姓組のきわめて平凡な、気の弱い男がこつこつと一人で火消し道具を試行錯誤しながら作り上げていく話です。
噴き上げる花 主な登場人物
伊藤右太夫・・・食録百石。小姓組、中畔六左衛門の支配内で「水がかり」をつとめる平凡で気の弱い善良な男。
中畔六左衛門・・・加賀家物頭六百石、上屋敷「二の手」支配。
立原玄蕃・・・加賀藩士。三女を伊藤右太夫に娶ってもらいたいと云う。
菊枝・・・十七八の美しい娘。立原玄蕃の三女。
伊藤右太夫・・・もう一人の同名異人。書院番で妻帯者。
噴き上げる花 あらすじ(※ネタバレを含みます)
火事は江戸の華と云われた。「華」という表現は江戸人のやけくそとから景気をまぜたもので、火事になると大きくなるし、いつも巨万の財物を灰燼し、人畜の命を失うのが例だった。その頃の消化法は幼稚なもので、さあ火事だというと何百となく手桶を持ち出し、井戸なり川なりまた用水なり、手都合によって汲み上げたものを、現場まで人を並べて順繰りに送って消したものである。だからおいそれと消えないし、烈風のときなどは役に立たなかった。伊藤右太夫は「水がかり」でその指揮をしたが、火に水をかけるのを見るたびに、これでは埒が明かぬことだという感を深くしていた。何か方法はないものか。もっと敏速に、もっと高く水を届かせる方法がありそうなものだ。それから彼は、こつこつと工夫を始めたのである。まずは誰でも思いつきそうなところから手を付けた。すなわち子どもの水鉄砲である。
噴き上げる花 覚え書き
同名異人(どうめいいじん)・・・名前が同じ人。
財物(ざいぶつ)・・・金銭と品物。たから。
灰燼(かいじん)・・・灰や燃え殻。建物などが燃えて跡形もないこと。
人畜(じんちく)・・・人間と畜類。人と家畜。
定火消(じょうびけし)・・・江戸幕府の職名。江戸市内の防火、警備を司り、若年寄の支配下にあった。
方角火消(ほうがくびけし)・・・江戸城を中心に5区に分けて担当の大名を決め、その方角に火災が発生すれば出勤した。
近所火消(きんじょびけし)・・・幕府が藩邸の近隣の町屋の消火への出勤を義務づけた。これを各自火消といい、近所火消ともいった。
大名火消(だいみょうびけし)・・・寛永20年に始まる火消。
敏速(びんそく)・・・反応・行動のすばやいこと。また、そのさま。
粗忽(そこつ)・・・軽はずみなこと。そそっかしいこと。また、そのさま。
雲泥月龞(うんでいげつべつ)・・・両者があまりにも異なっていること。天と地。月とすっぽんのように違いすぎる意。
湯壺(ゆつぼ)・・・温泉などで、湧き出る湯をたたえたところ。湯舟。
玄蕃(げんば)・・・水手桶。
緩怠(かんたい)・・・いいかげんに考えてなまけること。また、そのさま。
竜吐水(りゅうどすい)・・・江戸時代から明治時代にかけて用いられた消化道具。竜が水を吐くように見えたことからつけられた。