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古今集巻之五 山本周五郎 

【朗読】古今集巻の五 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「古今集巻之五」(昭和33年)です。周五郎先生55歳の名作です。主人公、永井主計の妻が結婚三年目で理由も分からない自殺をします。主計は妻に死なれてから始めて、自分が妻に気をつかったこともなく無関心であったこと、妻を娶り、妻がそこにいるというだけで安心し、妻と人間と人間との芯からのつながりを持とうとしなかったことに気が付き、妻のことが少しづつ分かっていきます。妻の自殺の理由が全てわかったとき主計は・・・・。

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古今集巻之五 主な登場人物

永井主計・・・現在は無役だが、近いうち旧禄を復活され中老職にあげられる。開放的で卑屈なところもなく少しもかげのない性質。だが妻に死なれたいたでが深く、妻が自殺した理由をつきとめない限り本当に立ち直ることはできないと思っている。

杉江・・・主計の妻。遺書も手紙も残さず、長持、箪笥などすべてを驚くほどきれいに始末して自殺する。ただ枕の下に一冊の「古今集巻之五」を残していた。

岡本五郎太・・・大目付役。主計の親友で自殺した妻を発見したときからずっと彼の力になる。杉江の自殺理由を探る。

六左衛門・・・主計の父。先代の藩主のときに、課役騒動の責任を負って、家禄削減、役目罷免となっていた。卒中で倒れ、隠居所で療養中。

細野源三郎・・・小柄な、いかにも賢そうな顔立ちで目が際立ってすずしく澄んでいる。学才があり、松崎塾の教授助手をつとめていた。

古今集巻之五のあらすじ (※ネタバレを含みます)

寛延二年三月八日の夕方五時から永井主計の送別の宴を催した。主計は十五日に参勤の供で江戸へゆくことになったのだが、他に、こんど永井家が旧禄を復活され、主計が中老職にあげられることになっていた。宴の翌日早朝、岡本五郎太宅に永井より急の使いがきた。五郎太が永井を訪ねると主計が仮面のような顔をしていた。案内されて妻の寝所へ行くと、夜具の上で白無垢を着、脛を水浅黄の扱帯で縛り、短刀を左の乳房に柄まで突き刺し、柄を両手でしっかり握ったまま自殺していた。五郎太は理由を聞いたが、主計には何も分からなかった。遺書も手紙もなく、長持、箪笥、手文庫、文箱、鏡筥など全て驚くほどきれいに始末してあった。五郎太は夜具の枕の当たる位置の下から一冊の本を見つけた。それは「古今集巻之五」だった。五郎太は町医を呼び、杉江は病死ということになった。

かん太
杉江の葬儀の後、主計は予定通り参勤の供に加わって江戸へ立ったよ。五郎太は出立する主計に死んだ者はもうかえらない、取り返せないことで思い悩むのは未練だ。「こんどのことを早く忘れろ」と繰り返したよ。そして手紙で江戸にいる旧友、河森と丹野に主計のことを頼んだんだ。
アリア
河森と丹野はたびたび五郎太に手紙をよこした。河森は主計が怒りっぽくなり、すぐに人と喧嘩をすると、丹野は主計が疑い深く陰気になったと書いてきた。そして河森は丹野をしきりに茶屋遊びに誘い、酒や女に溺れさせ堕落させると書いてよこし、丹野は河森をおせっかいしすぎると書いてきた。河森と丹野は身分や役目にも差があり、だんだん不和になっていった。
主計は柳橋の年増の芸妓の・お袖に話を聞いた。木綿問屋の主人にひかされて八年夫婦でいたこと。主人の留守に手代とあやまちをおかしたこと。今でも旦那があっても浮気をしたいときは平気でする、それでこれっぽっちも苦しいとか辛いなんて思ったことはありゃしません。それは旦那とも浮気をする相手とも本気じゃあないから。でも幼なじみの米さんとは違った。三度しか逢っていないのにお互いに火がついてしまった。二人は寝るどころか手を握りさえしなかった。両方がこっちはお嫁さんになるひとに済まない、主人に済まないと思うから、逢っても苦しい思いをするばかりだった。それは本気だったから、本気で恋をすると、まわりの人たちのことも本気で考えるから。
かん太
お袖の話を聞いて、主計は自分が杉江に対して無関心で気をつかった覚えもなく、気持ちがすすまなかったこと、人間と人間の芯からのつながりを持とうとしなかったことに気が付いて涙が出そうになるんだ。
アリア
主計は、杉江が恋しくって、憎くって、自分が自分のようでなくなって、あらゆるものが疑わしく、何が真実かわからなくなって、ただ途方にくれているだけなんだ。
そして九月になると、病父の容態が悪いという理由で国許へ帰った。江戸を立つ前に側用人の戸田蔵人に呼ばれ、いろいろ目に余る行跡が多いにもかかわらず寛大に扱われているのは殿の御意によるもので、それを忘れては相済まぬぞと云われた。若き藩主、播磨守正成は、家督前から課役騒動の件を調べ、永井六兵衛が銭でなく、困窮する百姓たちに米を与えたことは実情に即する判断であったことをつきとめられた。よって、早く永井家を旧に復するようにと仰せ出された。殿のおぼしめしがわかったら、これからはよくよく思案して、中老職として恥ずかしからぬよう行状を改めてもらいたい。と戸田蔵人は云った。主計は国許へ帰る旅中、若い藩主が十年の余も経ってから自らそれを調べ、改めて父の功を挙げることは困難で尊いことで、藩主にそれだけの情熱があったということが主計の心を深く揺り動かし、もうこのへんで立ち直らなければなるまいと思った。
かん太
そして感動のクライマックスだよ!杉江の自殺の理由が全て明らかになるんだ。——苦しかったわ、本当に辛かったわ、と云ったお袖の言葉が杉江を代弁するかのように思い出され、すべてを悟ったんだ。そして最後に主計がとる行動は・・・・!周五郎先生ありがとうございました(涙)

古今集巻之五 覚え書き

鋭鋒(えいほう)・・・言葉や文章による鋭い攻撃。

母堂(ぼどう)・・・他人の母を敬っていう語。母君、母上。

胡蝶装(こちょうそう)・・・糊付けした面を開くと、胡蝶が羽を開いたようになる書籍の装丁の一種。

蘭法(らんぽう)・・・オランダの医学。

蕩児(とうじ)・・・正業を忘れて酒色にふける者。

脇息(きょうそく)・・・座った脇に置いて肘をかけ、身体をもたせかける道具。

行跡(ぎょうせき)・・・行状。身持ち。こうせき。

英明(えいめい)・・・すぐれて賢いこと。また、そのさま。

差し控え(さしひかえ)・・・江戸時代の刑罰の一つ。不祥事があった時、出仕を禁じ、自邸に謹慎させたこと。

課役(かえき)・・・仕事を割り当てること。

郷蔵(ごうぐら)・・・凶作に備えて穀類を保存した共同倉庫。

罷免(ひめん)・・・職務をやめさせること。免職。

妄執(もうしゅう)・・・迷いによる執着。

学才(がくさい)・・・学問の才能。

 

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