【朗読】生きている源八 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「生きている源八」(昭和19年)です。この作品は終戦少し前に発表されました。一億玉砕がスローガンだった時に、「どんな戦いでも死なずに生きて還る源八郎の話」は、周五郎先生の反戦の思いが感じられます。
生きている源八 主な登場人物
兵庫源八郎・・・徳川家康旗下の酒井左衛門尉忠次に属する徒士組三十人がしら。どんな激戦にも必ず生きて還る。
酒井左衛門尉忠次・・・徳川家康の武将。源八の戦いぶりに苦笑し、武田軍の偵察に行かせると復命は精しく明確でひそかに舌を巻く。
小林大六・・・源八の同輩でつねづね源八郎を白い目で見、とかく悪評をふりまきたがる男。
太田助三郎・・・徒士組の旗がしら。源八の戦いぶりを見て源八を評価している。
生きている源八郎のあらすじ (※ネタバレを含みます)
兵庫源八郎は、五尺そこそこの小男で、色の黒い目じりの下がった、しかんだような顔つきで、どうひいき眼にみても豪勇の風格とはいえない。いくたびも合戦に出ているが、これといってめざましい功名をたてたことはなかった。しかし、だんだん存在を認められて、二十五歳で三十人がしらに取り立てられた。源八はどんな激しい合戦にも必ず生きて還る。その隊が殆ど全滅しても彼だけは不思議に生きて還るのだ。あいつ藪にでも潜り込んでいたのだろう、五たびのうち三どまで隊士を全滅させて、些かも忸怩たる風がないことが、おのれ一人のめのめと生きていると同輩の小林大六は面と向かって悪口を云った。元亀三年、三方ヶ原の合戦に敗れた徳川軍にとって長篠はまさにその報復戦だった。酒井左衛門尉忠次は武田軍の配備を偵察する必要を感じたが、厳重な哨戒を突破して偵察することは困難だった。誰をやるべきか・・・考えるうち、源八の名を思い出した。さっそく源八を呼ぶと、一人では難しいので小林大六を連れて行くと云った。
生きている源八 覚え書き
旗下(きか)・・・大将の旗印のもと、また大将の支配下。
しかんだ・・・顔や額にしわが寄る。
悪口(あっく)
迫合(せりあい)・・・勝負などにおいて激しくやり合うこと。
瀕した(ひんした)・・・ある重大な事態に今にもおちいろうとする。
屍山血河(しざんけつが)・・・死体が山のように積み重なり、多くの血が川に流れること。激しい戦闘のあったあとのようす。
惨憺(さんたん)・・・いたましいこと。なげかわしいこと。
血刀(ちがたな)・・・血のついている刀。
忸怩(じくじ)・・・深く恥じ入ること。
糾す(ただす)・・・事の是非、真偽、事実や真相などを追及すること。
緊密(きんみつ)・・・物と物とがすきまなくくっつくこと。
詳述(しょうじゅつ)・・・くわしく述べること。
哨戒(しょうかい)・・・敵の襲撃を警戒して、見張りをすること。
五月闇(さつきやみ)・・・陰暦五月の、梅雨が降るころの夜の暗さ。またその暗闇。
草臥れ(くたびれ)
葉末(はずえ)・・・葉の先。先端。
暁闇(ぎょうあん)・・・あかつきやみ。夜明け前、月がなく辺りが暗い事。
誰何(すいか)・・・相手が何者かわからないときに、呼び止めて問いただすこと。
杣道(そまみち)・・・杣人(きこり)しか通らないような細くて険しい道。
夜陰(やいん)・・・夜のやみ。夜の暗さ。
過言(かげん)・・・言い過ぎ。かごん。
笑殺(しょうさつ)・・・大いに笑わせること。また、あざ笑うこと。
挺進(ていしん)・・・他の大勢に先んじて進むこと。
叱呼(しっこ)・・・大声で呼ぶこと。怒鳴ること。
究竟(くっきょう)・・・きゅうきょう。物事をきわめた最高のところ。
哄笑(こうしょう)・・・大口を開けて笑うこと。どっと大声で笑うこと。