【朗読】扇野 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「扇野」です。(昭和29年)こんど鳥羽の城中で御殿を修築するにあたって角屋金右衛門の熱心な推薦で襖絵を描くことになった栄三郎。襖絵の主題は「武蔵野の冬」でその年の二月から五月にかけて下絵は出来上がった。しかし四五日間をおいてみると何かしら足りないものがある。何が足りないのか、何をそこに描き加えたらいいのか。それからしばらく栄三郎は考え続けるが、頭の中でいろんな思いが絡み合って彼の気持ちをぐらつかせたり絶望的にさせたりした。そんな中、おけいのすすめで出かけた栄三郎は「桑名屋」という古い造りの料理茶屋に入り、おつるという芸妓に出会う。二人は一目会ったときから互いに惹かれあう。
扇野 主な登場人物
栄三郎・・・三十一歳。旗本の三男。少年じぶんから絵を描くのが好きで、学問所へ行くとみせては絵師のもとに通い、十六から八年ばかり教えを受けた。絵の稽古は初めの三年くらいで、あとは飲むことと遊蕩のほうが主になる。やがて勘当されて富豪の角屋金右衛門の世話になるようになる。
角屋金右衛門・・・志摩のくに鳥羽港で回船と海産物の問屋を営み、藩家稲垣氏の御用商。栄三郎の絵師としての将来を高く評価し、彼が勘当になったと聞いてすぐ生活から小遣いまで面倒をみている。
おけい・・・十八歳。角屋金右衛門の娘。愛嬌のある丸顔で、おちょぼ口やよく動くいたずらっぽい目許にまだ子供らしい感じが残るが、五尺三寸ばかりある躰は形よくのびのびと成熟して、何気ない動作にも自然と女らしい媚が表れている。
石川孝之介・・・二十六七歳。藩の家老石川舎人の長男。家老職の息子らしい落ち着きと一種の威厳がある。躰も顔もやや肥えて丸く、色が白いが大きなまたたきをしない眼には意地の悪い鋭い光がある。
おつる・・・二十四五歳の芸妓。上背のあるすらっとした躰つきで、色が白く透き通るような肌をしている。やや角ばった面長で、表情の多い小さな眼と少ししゃがれた切り口上の言葉つきに特徴がある。
扇野 覚え書き
閑寂(かんじゃく)・・・もの静かで趣のあること。
権柄ずく(けんぺいずく)・・・権力に任せて強引に事を行うこと。
壺坂霊験記(つぼさかれいげんき)・・・浄瑠璃の演目。盲人とその妻の夫婦愛を描いた世話物。
切り口上・・・一語ずつ区切ってはっきりいう言い方。
不義者(ふぎもの)・・・同義に外れた人。
揮毫(きごう)…文字や絵を頼まれて書くこと。
しもたや・・・商店ではない普通の家。
画竜点睛(がりょうてんせい)・・・最後の大切な仕上げ、ほんの少し手を加えることで全体が引き立つこと。
点景・・・風景画などで画面を引き締めるために添えられた人や物。
落籍せる(ひかせる)・・・抱え主への前借金などを払ってやって芸者や娼妓の稼業から身を引かせること。
詠嘆(えいたん)・・・物事に深く感動すること。