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日本婦道記 墨丸 山本周五郎

【朗読】日本婦道記 墨丸 山本周五郎 読み手アリア

 

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日本婦道記 墨丸 あらすじ

正保三年、十一歳の平之丞の家に引き取られてきた五歳のお石は、色黒で痩せたみすぼらしい孤児でした。少年の目には「みっともない子」に映ったものの、物静かで真っ直ぐな性質を持つお石は、やがて家族や周囲の人々の心に少しずつ受け入れられていきます。だが、どこか陰を秘めたまま、大人びた態度で振る舞うお石の内には、誰にも明かせぬ想いがありました。平之丞は成長のなかで、お石への見方が変わっていきます。とりわけ、雅号「墨丸(すみまる)」という名に、お石が過去に自分たち少年がつけた綽名(あだな)を記憶し、それを自分の名として使っていると知ったとき、彼は言い知れぬ哀しみと後悔を覚え、彼女に対する態度をあらためるようになります。やがてお石は琴の才能を見出され、厳しい師に師事します。平之丞が彼女の成長に目をみはり、次第に愛情を深めていくなか、彼はお石を妻に迎えたいと母に告げます。しかしお石はその申し出を断り、理由も告げぬまま家を出て京へと旅立ちます。

日本婦道記 墨丸 主な登場人物

■ お石(おいし)

  • 5歳の時、色黒で痩せた孤児の少女として鈴木家に引き取られる。幼少期は「みっともない子」と呼ばれるが、芯の強さとまっすぐな性格、琴や歌の才能を開花させてゆく。

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■ 鈴木平之丞(すずき へいのじょう)

  • 鈴木家の一人息子。当初はお石をみすぼらしいと思っていたが、成長するにつれてその人柄や才能に惹かれていく。

■ 鈴木惣兵衛(そうべえ)

  • 平之丞の父。江戸詰めの年寄役から岡崎に戻り、国老格となる。お石を家に引き取った張本人。お石の出自を知りながらも黙して語らず、素性に関する証拠も遺さずに死去。

■ 平之丞の母

  • お石を実の娘のように大切に育てた。

■ 松井六弥(まつい ろくや)

  • 平之丞の幼なじみで親友。鈴木家とは近くに住む家柄。お石と親しくする。平之丞の結婚相手・そでの兄。

■ そで

  • 松井六弥の妹。後に平之丞の妻となる。明るく元気な性格で子を三人もうけるが、三人目を身ごもったまま病死。

■ 榁尚伯(むろ しょうはく)

  • お石の和学の師匠。お石に国学の才能を見出す。

■ 検校(けんぎょう)

  • 琴の名手で、目が見えない老人。鈴木家に4年間滞在し、お石に琴を教える。お石の琴の才能を高く評価するが、教えるには「格調が高すぎる」と言う。

■ 小出小十郎(こいで こじゅうろう)

  • お石の実父。かつての藩士で、忠義の士。水野家世子の出自についての直諌により、忠善の怒りを買い、蟄居を命じられたのち切腹。名誉より真実を選んだ武士らしい最期を遂げる。

■ 水野忠善(けんもつ ただよし / 鉄性院)

  • 岡崎藩の主君。お石の父・小出小十郎に重科を科した人物。忠春の父。藩の家督に関わる秘密を抱えていたとも示唆される。

■ 水野忠春(みずの ただはる / 右衛門佐)

  • 水野家の世子。出自にまつわる疑惑が噂される。平之丞が仕えることになる人物。

■ 樋口藤九郎(ひぐち とうくろう)

  • 平之丞の友人のひとり。水野家の秘話を語る。

■ 三寺市之助(みてら いちのすけ)

  • 若者のひとり。花見の席などで軽口を叩くが、お石の姿に言葉を失う。

アリアの備忘録

お石は身寄りもなく、名家の娘でもなく、最終的に琴の道も選ばず、寺子屋の師としてひっそりと暮らします。それでも彼女は、誰よりも高潔で誇り高く生き抜きました。どんなに小さく見える存在でも、その人の「生き方」や「心根」によって、人生は美しく輝くものなのですね。そして何より、愛とは、ただ好きという感情ではなくて、相手の未来を思いやることだと書かれていました。表に出ることなく、人知れず誰かを想い、黙って何かを背負っている人間の尊さ。やっぱり日本婦道記でした。

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