【朗読】古い樫木 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「古い樫木」(昭和23年)です。福島正則は邸内で扈従組の富井主馬が、表使いの女中と奥庭で密会しているところを発見する。正則は一言叱りつけて許すつもりだったが、主馬は恥じる様子がなく「自分たちは末を誓った仲で不義ではない。」と昂然と額を挙げて云った。正則はそれが気に入らず、彼らを納戸部屋に檻を作らせそこに監禁した。
かん太
豊家はえぬき武将だった福島正則は五十九歳になり、肉体も感情も衰耗し、常に漠然とした不安と絶望的な寂しさに追われています。若い頃は女や酒、弓をひき馬をせめ、家臣たちと語ることで気が紛れたが、今はどれも彼を満たしてくれない。虚礼や追従ごまかしが見えてしまう。
アリア
正則のそういった心情が、監禁した二人の愛のあり方や古い枯れた樫木を通して丁寧に描かれています。
古い樫木 主な登場人物
福島正則・・・豊臣秀吉の武将。五十九歳。安芸備後五十万石の領主。幾十たびの合戦で数知れぬ高名てがらを立て、死んだ後に名が残るとしても「それで何か得たものはあったか。」「誰かを本当に愛し愛されたことがあるか。」「人を亡ぼし城を焼き領地を奪っただけではないか。」と自問する。今は古い樫木の側にいるときだけ落ち着いた安らかな気持ちになることができる。
古い枯れた樫木・・・奥庭の泉のほとりにある樹齢八九百年、枯れてからも年月が経ち、遠くから見ると巨人の枯骨のようにも見える。正則はその姿に激しく心惹かれている。
富井主馬・・・扈従組の若侍。気はしの利くみどころのある男。女中と奥庭で密会しているところを発見されるが悪びれない。
女・・・主馬の恋人。表使いの女中。主馬に「互いにめぐり逢い、互いに愛し合ったというだけで五十年生きるよりも真実に善く生きた。」と云う。
佐太兵衛・・・庭番の老僕。正則と同郷で百姓だった。正則が二十五歳で伊予のくに二十万石の領主になった時、頼ってきて身を寄せた。
保乃・・・正則の側女。六歳と四歳の女の子を産む。正則に向かって何でもずけずけと云う。
夫人・・・正則を深く理解する。牧野忠成の妹。
鳥居忠政・・・正則と親しい人。幕府の上使。正則の娘たちの行く末を頼まれる。
古い樫木 覚え書き
御館(おたち)・・・御屋敷
密通(みっつう)・・・ひそかに通じ合うこと。
糺明(きゅうめい)・・・罪や不正を糾問し、真相を明らかにすること。
悪心(おしん)・・・恨みを抱き、悪事をしようとするよこしまな心。
不義(ふぎ)・・・男女が道に背いた関係を結ぶこと。
昂然と(こうぜん)・・・意気の盛んなさま。自信に満ちて誇らしげなさま。
草創期(そうそうき)・・・新しく物事の始まった時期、初期。
琅玕(ろうかん)・・・美しいもののたとえ。暗緑色、または青碧色の半透明の硬玉。
枯骨(ここつ)・・・死人の朽ち果てた骨。
霜雪(そうせつ)・・・霜と雪。
孤峭(こしょう)・・・きびしく一人だけでいること。
衰耗(すいもう)・・・衰え弱ること。
虚礼(きょれい)・・・うわべばかりで誠意を伴わなわない礼儀。形式的な礼儀。
追従(ついしょう)・・・他人の気に入るような言動をすること。こびへつらうこと。
栄枯(えいこ)・・・栄えることと衰えること。
変遷(へんせん)・・・時の流れとともに移り変わること。
卓抜(たくばつ)・・・他のものをはるかに抜いてすぐれていること。
輾転反側(てんてんはんそく)・・・悩みや心配のために眠れず、何度も寝返りを打つこと。
気色(きしょく)・・・心の状態が外面に表れた様子。顔色。
井水(せいすい)・・・井戸の水。
米塩(べいえん)・・・人間の生活んい欠くことのできない米と塩。
笑殺(しょうさつ)・・・大いに笑わせること。また、あざ笑うこと。
久闊(きゅうかつ)・・・久しぶりの挨拶をする。
譴責(けんせき)・・・しかり責めること。不正や過失などを厳しくとがめること。
虐政(ぎゃくせい)・・・人民を苦しめるむごい政治。
配流(はいる)・・・刑罰のひとつ。罪人を辺境や島に送る追放刑である。
流謫(るたく)・・・罪によって遠方へ流されること。
幽鬼(ゆうき)・・・死者の霊魂。
騒擾(そうじょう)・・・集団で騒ぎを起こし、社会の秩序を乱すこと。