こんち午の日 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「こんち午の日」です。この作品は昭和31年に雑誌に掲載され、昭和34年にテレビドラマ化されました。季節は十月の中旬の肌寒い頃、塚次は祝言して三日で出奔したおすぎの父母の世話と、豆腐屋「上洲屋」で商売に精を出します。田舎育ちの朴訥さ、どんなことでも黙ってやる働きものの塚地に幸せになってもらいたいと全力で応援したくなる作品です。
こんち午の日 主な登場人物
塚次・・・三年前、二十一歳の時江戸へ出てきて豆腐屋「上洲屋」に奉公にきた。主人の重平が卒中で倒れ、寝たきりになったので繰り上げて婿縁組をした。気がやさしく、きまじめで口下手。
おすぎ・・・豆腐屋「上洲屋」のひとり娘。塚次と祝言して三日後に男と出奔する。塚次のことを「うちのぐず次」と蔭で呼ぶ。
重平とおげん・・・おすぎの父母。
長二郎・・・おすぎと出奔したやくざな芝居の中売り。
お芳・・・重平の姪。十七歳で軀の丈夫なはきはきと働く娘。
こんち午の日のあらすじ(※ネタバレ含みます)
おすぎは塚次と祝言して三日目に家を出奔した。おすぎは塚次のことを蔭で「うちのぐず次」と云って嗤い者にしたり数々の不行跡があり、男も一人や二人ではなかった。塚次はおすぎを好きではなかった。婿縁組の話があった時よく考えてみた。重平は倒れ再起もおぼつかない。もしおすぎが男を連れ込めば、相手はまともに稼ぐような人間ではない。たちまち二人でこの家を潰してしまうだろう。もしも自分が婿に入ればそうはさせない。ことによるとそれでおすぎが落ち着くかもしれないし、そうでなくともこの家を潰すようなことはさせない。それだけは防ぐことができると思った。塚次も重平もおげんも、おすぎがいまに戻って来ると思っていたが、金剛院の老方丈さんもお芳も「今に戻って来たらどうする?」と聞いた。塚次は「その時になってみなければわからない。」と答えた。きまじめで働き者の塚次は豆腐作りも工夫し商売にも励んだが、得意先が減り暴漢に襲われたり、困難が次々と降りかかって来る。
こんち午の日 覚え書き
朴訥(ぼくとつ)・・・飾り気がなく口数が少ないこと。また、そのさま。
入費(にゅうひ)・・・物事をするのにかかる費用。
温気(うんき)・・・暑さ、特に蒸し暑さ。
渋紙色(しぶがみいろ)・・・渋紙のようなくすんだ赤色。
家探し(やさがし)・・・家の中を残らず探すこと。
吝嗇(りんしょく)・・・ひどく物惜しみをすること。また、そのさま。けち。
南鐐(なんりょう)・・・美しい銀。精錬した上質の銀。
算盤(そろばん)
兇状(きょうじょう)・・・凶悪な罪を犯した事実。罪状。
不行跡(ふぎょうせき)・・・身持ちが悪いこと。不行状。ふしだら。
耄碌頭巾(もうろくずきん)・・・焙烙の形をした頭巾。老人などが寒さしのぎに用いたもの。
女持ち(おんなもち)・・・大人の女が使うように作った品物。
九寸五分(くすんごぶ)・・・刃の部分の長さが9寸5分(約29㎝)の短刀。
昏倒(こんとう)・・・めまいがして倒れること。卒倒。失神。
縄付き(なわつき)・・・罪人として捕らえられること。また、その人。
訥々(とつとつ)・・・口ごもってつっかえながら言う。