いしが奢る 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「いしが奢る」です。この作品は1952年昭和27年に雑誌に掲載された短編小説です。「いしが奢る」の主人公いしは、周五郎先生の描かれる皆に愛されるかわいい女性です。外見は、十七か八で面長のすっきりした顔立ちで、背丈が高く、胸も腰もまだ少年のように細かったとあります。性分は、いしは明るくさっぱりした、そして思い遣りの深く、知っている者みんなに愛されていた、むずかしい客、酒癖の悪い客などは、いしがさばくものにきまっていた。酒ものませればかなり飲むし、少し酔うと笑い上戸になって「ようし、いしが奢る。」と云うのが口癖であった。とこれだけ読んでも魅力たっぷりですね。
いしが奢る 主な登場人物
いし・・・廻船と問屋、望湖庵を経営する青木重右衛門の養女で仲居をしている。外島又兵衛と末の約束を交わしている。
本信保馬・・・江戸邸の次席家老の子で俊才で美男、学問も群を抜き、柳生道場では三傑の一という誂えたような評判である。国許へ戻ったの は勘定吟味役としてではないかと噂になる。
外島又兵衛・・・外島家の婿養子。おいしの情人気どりで小遣いをせびる、金と女にだらしのない男。
仲田千之助・堀勘兵衛・・・保馬の査察の手伝いに来た供。
八幡屋万助(海産物、橋立楼)・青木重右衛門(廻船、問屋、望湖庵)・島屋真兵衛(米穀商、掬水亭)・・・藩の御用商人で各自の業で独占 株を許されていた。藩に対する貸金も巨額だった。
能登屋伊平、角屋仁右衛門、作間忠太夫、渡島屋六兵衛・・・新しい勢力で、独占株を開放させるため、江戸の重臣にはたらきかけていた。
いしが奢るのあらすじ(※ネタバレ含みます)
六月中旬のある日、江戸から本信保馬が到着した時、旅装を解くより早く、藩の用足しや商人、各役所からの使者が進物や金を持って挨拶にきた。それは、彼が勘定吟味役としてきたという噂があったからである。藩の財政が極度にゆき詰まって、政策の大きな転換が予想されていたから、それぞれの挨拶も何らかの意味を含むものだった。明くる日、保馬は登城して重臣たちへ挨拶にまわった。ここでも城代家老が話の合間にそれとなくかまをかけるようなことを云った。保馬は軽く見合いに来たと答えた。しかし人々の頭には「勘定吟味役」がひっかかっていた。
城代家老の招待に続いて重職の人々が保馬を招待した。ひとわたり招待が済むと保馬は遊びに出始めた。初めて天橋立に行ったとき、掬水亭という料亭で休んだ。そこには水の上へ張り出した床があった。保馬は床の端のところに屈んでぼんやりと下の水を眺めていた。そこに娘が驚かすつもりで忍び寄ってきた。「わっ」と驚かすつもりが力が入りすぎて、保馬といしは水の中へ落ちてしまう。
いしが奢る 覚え書き
俊才(しゅんさい)・・・並外れて優れた才能。またその持ち主。
不即不離(ふそくふり)・・・二つのものが強く結びつきもせず、また離れもしない関係にあること。つかずはなれず。
不拘束(ふこうそく)・・・なんの束縛も受けず、自由にふるまうこと。
帷子(かたびら)・・・裏をつけないひとえもの。夏に着るひとえの着物。
用達(ようたし)・・・官庁・会社などに商品を納めること。またそれをしている商人。
情誼(じょうぎ)・・・人とつきあう上での人情や誠意。
籠絡(ろうらく)・・・巧みに手なずけて、自分の思いどおりに操ること。
大身(たいしん)・・・身分がたかいこと。
衆人(しゅうじん)・・・大勢の人。
僭上(せんじょう)・・・身分を超えて出過ぎた行いをすること。また、そのさま。
斜交い(はすかい)・・・ななめ。また、ななめに交わること。
嬌羞(きょうしゅう)・・・女性のなまめかしい恥じらい。
賄賂(まいない)・・・自分の利益になるよう取り計らってもらうなど、不正な目的で送る金品。
縞の財布が空になる・・・京都の民謡・宮津節の歌詞。各地の船乗りや商人たちが宮津の遊郭で散財した結果、「二度と行こまい丹後の宮津、縞の財布が空になる」と泣き言を言って旅立ったという宮津節の歌詞。(世界の民謡・童謡より引用)
辣腕(らつわん)・・・物事を躊躇することなく的確に処理する能力のあること。また、そのさま。
浮沈(ふちん)・・・浮いたり沈んだりすること。うきしずみ。
糊塗(こと)・・・一時しのぎにごまかすこと。
哀訴(あいそ)・・・同情を引くように、強く嘆き訴えること。
籠居(ろうきょ)・・・家に閉じこもって外に出ないこと。
敏速(びんそく)・・・反応・行動のすばやいこと。また、そのさま。
督促(とくそく)・・・約束の履行や物事の実行を促すこと。