【朗読】「艶書」 山本周五郎 読み手 アリア
こんにちは。癒しの朗読屋アリアです。今回の朗読は、山本周五郎作 「艶書」(昭和29年)です。艶書とは恋文のことです。恋心を書き送る手紙です。この作品は「花匂う」(昭和23年)によく似ています。どちらものんびりした性質で部屋住みの三男なのだけど、好きで始めた自己流の郷土誌集めをきっかけに変わっていく好短編です。
艶書 主な登場人物
岸島出三郎・・・二十一歳、部屋住みの三男。幼い頃からのんびりしたおとなしい性格、剣術は好きでない。毎日領内を歩き回って郷土史の資料を集めている。七重に招かれた宵節句で、艶書を袂に入れられるが誰からのものか分からない。
七重・・・隣家に住む中老の娘。のんびりおとなしい性格。出三郎と幼馴染。隠し子のある忠也と結婚する。
笠井忠也・・・出三郎の友人で、家が裕福、一人息子、男ぶりがよく、花街でも遊び上手と評判。七重を妻にするが隠し子がある。
定高半兵衛・・・出三郎の兄の旧友。三年まえ藩侯の側近にあげられ藩政の改革を計画する。出三郎の郷土史に興味を持ち、協力を頼む。
艶書のあらすじ (※ネタバレを含みます)
出三郎は毎年となり屋敷の宵絶句に招待されていた。末娘の七重とは幼なじみ、二人ともおとなしく無口だが、ちょっとした手まねや身振りでもお互いの気持ちをよくわかりあっていた。宵節句には出三郎のほかにもう一人男の客があった。派手な性格で調子がよく、花街でも遊び手といわれる笠井忠也だった。彼は陽気で拘りのない性分で、その宵節句でも座持ちがよく、娘たちを巧みな遊びぶりで興がらせた。出三郎はそんな彼のことを思うと、羨ましいよりはむしろ悲しい、泣きたい気分になった。先に家に帰り、脱いだ着物をたたんでいると、袂から一通の封じ文が出てきた。開けてみると恋文であった。「誰だろう‥‥。」部屋住みの気の利かない自分に恋する娘があるはずない。これは悪戯かもしれない・・・と思うのであった。
艶書 覚え書き
艶書(えんしょ)・・・恋文のこと。
閑職(かんしょく)・・・仕事の暇な職務。重要でない職務。
壮観(そうかん)・・・規模が大きくてすばらしい眺め。
部屋住み(へやずみ)・・・次男以下で家督を相続できない者。それがまだ分家・独立せず親や兄弟の家に留まっている。
矢立(やたて)・・・携帯用の筆記用具。墨壺についた筒の中に筆を入れ、帯に差し込んだりして持ち歩く。
宵節句(よいぜっく)・・・ひな祭りの前日の晩。
知己(ちき)・・・自分のことをよく理解してくれている人。親友
机辺(きへん)・・・机の辺り。
広汎(こうはん)・・・広く行き渡るさま。力や勢いの及ぶ範囲が広いさま。
林相(りんそう)・・・木の種類や生え方などによる森林の様相。
空閑地(くうかんち)・・・利用されずに放置されている土地。まだ開墾・整地されていない荒れ地。
水利(すいり)・・・田畑のかんがいや、飲用・消化などに水を利用すること。
迂愚(うぐ)・・・物事に疎く愚かなこと。愚鈍なこと。
露悪(ろあく)・・・欠点や悪いところをわざとさらけ出すこと。
相貌(そうぼう)・・・顔かたち。容貌。
黙契(もっけい)・・・無言のうちに合意が成り立つこと。また、その合意。
硬論(こうろん)・・・物事の道理を解き明かし論じること。
呻吟(うめき)・・・苦しんでうめくこと。