癒しの朗読屋へようこそ 主に朗読作品の解説を書いています

赤緒の草鞋 山本周五郎

【朗読】赤緒の草鞋 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎「赤緒の草鞋」 昭和19年(1944年)41歳の作品です。

スポンサーリンク

赤緒の草鞋 山本周五郎 あらすじ

出羽国・鶴岡藩の軽格の武士、八森弥太夫は、田宮流居合の達人でありながら、無口で実直、地味な日常に身を沈める男だった。周囲に軽んじられながらも、己の信念と父の教えに従い、草鞋には常に「赤い緒」を結んでいた。その緒は、戦場で血に染まることに備える、武士の覚悟の象徴だった。

やがて、日々の勤勉と誠実な務めにより、重責を任されるようになった弥太夫。しかし、かつて無頼の徒に辱められ、土下座までして事を穏便に収めた出来事が、やがて藩の名に及ぶ形で公の場にさらされる。弥太夫はもはや個人の恥では済まぬとし、名誉を守るため、再びその地に戻り、自らの手で三人を斬り、そして潔く腹を切る。

死に臨む間際、彼はようやく気づく。「武士の嗜み」とは、外見や形ではなく、心の奥底に宿るものであると。赤い緒は草鞋につけるものではなく、己の魂に結ぶべきものだったと。そして、悔いなき死をもって、その道を証した。

その死は、世俗の目には哀れに映るかもしれない。しかし、己の信じた「武士の道」を貫いた弥太夫の最期は、友・神尾伊十郎に「まさしい生き方を知ったがゆえの死」として深く刻まれる。庭先に響く虫の音とともに、望郷の想いを胸に抱いたまま、静かに命を閉じた弥太夫の姿は、時代に埋もれぬ武士の魂そのものであった。

赤緒の草鞋 山本周五郎 登場人物

八森 弥太夫(やつもり やたゆう)
鶴岡藩・酒井家の近習番。田宮流居合の達人。無口で実直、「ばか律義」と称される性格。草鞋に赤い緒を結ぶ習慣を持つ。武士としての道を静かに、しかし貫いて生きた。

神尾 伊十郎(かみお いじゅうろう)
弥太夫の親友。二百石の書院番。既婚者で子持ち。弥太夫の人柄と信念に深く共感し、最期には遺書を読み涙する。

久七(きゅうしち)
弥太夫の下僕。忠義心が強く、弥太夫の受けた恥辱を晴らそうとする。主の死に深い哀しみを抱きつつも、その生き様を理解していく。

沼裏の松造(ぬまうら の まつぞう)
白坂で弥太夫を辱めた無頼の男。草鞋の赤い緒を目印に弥太夫を嘲笑う。のちに弥太夫に斬られる。

土生 之亟(はぶ の じょう)
白坂の庄屋。古風で義に厚い人物。弥太夫の覚悟を理解しつつも、斬首と切腹を思いとどまらせようとする。

酒井 左衛門尉 忠真(さかい さえもんのじょう ただざね)
鶴岡藩主。徳川家に近い名家の当主で、奥詰にも任じられる。弥太夫が仕える主君。

アリアの備忘録

弥太夫は、最期に「本当に大切なのは心の奥に赤い緒を結ぶこと」と気づきました。それは「かたちではなく、心こそが本質だ」という武士道の本義です。武士の道とは、外見や形式にとらわれず、静かに己の信念を貫き、名誉と忠義を心に深く結ぶことこそが真の強さであるということですね。深い余韻の残る話でした。

最新情報をチェックしよう!