【朗読】御馬印拝借 山本周五郎 読み手アリア
御馬印拝借 山本周五郎 あらすじ
三村勘兵衛は、沈黙を貫く武士の誇りと親の情愛の間で葛藤します。彼は娘・信夫を、信頼する甥であり勇猛な若武者・土田源七郎の妻にと願っていました。しかし、言葉少なな彼にはその想いを直接伝える勇気がなかなか湧かない。ようやく伝えたその想いは、源七郎にもしっかりと届いたはずでした。
けれども運命は、ひとつの「はい」という言葉で大きく揺らぎます。戦場へと旅立つもう一人の若武者・河津虎之助が、命を賭けた告白を信夫にぶつけたのです。幼く優しい心を持った信夫は、その激情に「はい」と答えてしまう。そしてそのたった一言が、彼女自身の未来も、源七郎の胸の内も、取り返しのつかない方向へ動かしてしまうのでした。
菩提山の砦では、源七郎が命を懸けて守る戦が始まります。家康本陣の旗を偽って掲げる策略、散ってゆく仲間たち、そしてすべての苦悩を心に封じ込めて最後まで闘う誇り高き姿。その姿は壮烈にして静謐、まさに武士道の極致でした。
御馬印拝借 山本周五郎 登場人物
◆ 土田 源七郎(つちだ げんしちろう)
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榊原康政の家臣で、信夫の母方の甥。
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無口で、内に情熱と誠意を秘めた武士。勘兵衛の信頼も厚い。
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信夫への想いを胸に秘めたまま、菩提山の戦で壮絶な最期を遂げる。
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亡くなる直前に信夫と虎之助の結びつきを受け入れ、鏡を譲る。
◆ 三村 勘兵衛(みむら かんべえ)
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信夫の父。武士でありながら、寡黙で繊細な性格。
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土田源七郎に娘を嫁がせたいと望むが、不器用な性格ゆえになかなか切り出せない。
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最後には源七郎の心を理解し、信夫と虎之助を結ばせる。
◆ お萱(おかや)
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勘兵衛の妻。家庭を温かく見守る穏やかな母。
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勘兵衛の気持ちを敏感に察し、娘の未来を案じながらも静かに支える。
◆ 信夫(しのぶ)
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勘兵衛の娘。18歳。情け深く、優しすぎるほど優しい性格。
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源七郎を婿と意識していたが、出陣前の虎之助の告白に「はい」と答えてしまい、自らの運命を揺らしてしまう。
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最後は源七郎の大きな愛に涙し、虎之助の妻となる覚悟を決める。
◆ 河津 虎之助(かわづ とらのすけ)
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源七郎と同じく榊原家の家臣。若く血気盛んな武士。
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信夫への強い想いを抱き、出陣前に命がけの告白をする。
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戦場でも命を懸けて戦い、のちに生還する。
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源七郎の遺志によって信夫と結ばれる。
◆ 榊原 康政(さかきばら やすまさ)
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徳川家康の重臣で、源七郎や虎之助の主君。
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源七郎を信頼し、重要な砦の任務を任せる。
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戦後、源七郎の死を悼み、家康の陣羽織を与える。
◆ 徳川 家康(とくがわ いえやす)
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戦の全体を指揮する大将。
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菩提山の戦いの重要性を理解し、源七郎たちの忠義に深く感動する。
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無断で馬印を使った源七郎の行為を許し、陣羽織を与える。
◆ 弥五兵衛(やごべえ)
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先手組の兵士。飄々とした性格で、戦場でもユーモアを忘れない。
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戦死の間際にも冗談を言い、仲間との温かいやりとりが印象的。
◆ 刀根 五郎太(とね ごろうた)
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組頭の一人。実直で忠義に厚く、源七郎に進言する場面も。
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補給や戦略において現場の声を届ける役割を果たす。
アリアの備忘録
「何が正解か」ではなく、「どう生き、どう思い、何を選ぶか」に込められた心の真実と、本当に強い人間とは、他人を思いやることのできる人だと描かれています。どの人物も決して完璧ではない「人間らしさ」を持っていて、それがこの物語に深いリアリティと情感を与えていました。