【朗読】西品寺鮪介(にしほんじ しびすけ) 山本周五郎 読み手アリア
西品寺鮪介 山本周五郎 あらすじ
鳥取藩士・佐分利猪十郎は、村を通りかかった際に奇妙な若者・鮪介(しびすけ)に出会う。彼は地面に立てた一本の針を真っ二つに斬ることに執念を燃やし、三年間修行を続けていた。しかし、いくら挑戦しても針は斬れない。許嫁のお民は祝言を望むが、鮪介は「針を割るまで」と誓いを立て、彼女を待たせ続けていた。
その剣技を見込まれた鮪介は、猪十郎により城下へ招かれ、武士たちと試合をすることに。まるで神がかった剣速で次々と相手を倒し、鳥取藩主・池田光政に認められ士分に取り立てられる。しかし、家中では「馬鹿天狗」と嘲笑され、針割りに執着する姿は奇異の目で見られるようになる。
ある日、町で侍に理不尽な仕打ちを受ける商人を助けようとした鮪介は、殴られ、「分際を知れ」と罵倒される。その言葉に突き動かされ、彼は家へ駆け戻り、改めて針割りに挑戦する。すると――ついに、針が真っ二つに斬れた。執念こそが己を縛っていたのだと悟った鮪介は・・・・。続きは是非動画をご視聴ください。
西品寺鮪介 山本周五郎 主な登場人物
西品寺 鮪介(しびすけ)
西品治村の百姓の次男。剣の極意を求め、地面に突き立てた一本の針を真っ二つに斬る修行を三年間続ける。偶然見込まれて武士となるが、「分際を知れ」という言葉をきっかけに悟りを開き、百姓として生きる道を選ぶ。
お民(たみ)
鮪介の許嫁。百姓・長左衛門の娘。鮪介の剣術狂いに苦しみながらも、彼を信じて待ち続ける。母の死を前に祝言を願うが、一度決めた誓いを貫く鮪介に理解を示し、最後まで支え続ける。
佐分利 猪十郎(さぶり いじゅうろう)
鳥取藩士。釣りの帰りに鮪介の「針割り修行」を目撃し、その才能を見抜く。彼を城下へ招き、武士として取り立てるが、最終的に彼が百姓へ戻ることを見届ける。
池田 光政(いけだ みつまさ)
鳥取藩主。鮪介の非凡な剣技に興味を持ち、士分に取り立てる。しかし、彼の本質を見抜いており、試合を禁じることで内省を促す。後に農夫として成功した鮪介を称賛し、「一人の百姓は百人の武士よりも尊い」と評する。
戸田 市郎太(とだ いちろうた)
鳥取藩士。鮪介の剣技を見て、その異様さに気づき、猪十郎と共に城中へ報告する。
長左衛門(ちょうざえもん)
お民の父。初めは鮪介の剣術狂いに反対し、婚約の解消を申し出るが、最後は彼を受け入れ、婿として迎える。
沢平(さわへい)・六助(ろくすけ)
鮪介の父と兄。剣術にのめり込む鮪介に呆れながらも、見守っている。
吉原 不倒斎(よしわら ふとうさい)
城下に住む偽の剣術指南役。本当は剣術の心得がないが、大坂の陣で聞きかじった知識をもとに道場を開いている。彼の「昔、弓術者が針を射抜いて極意を得た」という作り話が、鮪介の針割り修行の発端となる。
桑島 八十八(くわじま やそはち)
鳥取藩の武士。家中で剛勇と評されるが、鮪介との試合で即死する。
岡田 甚五兵衛(おかだ じんごべえ)
城内の審判役。鮪介の異常な剣技を目の当たりにし、驚愕する。
土器売の商人
城下で侍に絡まれ、暴力を受ける。彼を助けようとした鮪介は侍に殴られ、「分際を知れ」と罵倒される。この言葉が、鮪介の悟りへとつながる。
備忘録
本当の強さとは、執着を捨て、自分の生きるべき道を見極めることなのですね。どれほど努力しても割れなかった針は、剣を捨てたその時、真っ二つに斬れた。強さとは力ではなく、何を手放し、何を選ぶかにあります。武士ではなく百姓として生きることを決めた鮪介は、剣よりも尊い「土を耕し、人を生かす力」を手に入れた。池田光政の「一人の百姓は百人の武士よりも尊い」という言葉が示すように、大切なのは地位や技ではなく、自分の役割を見極め、全うすることなのだーー!!