【朗読】晩秋 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「晩秋」(昭和20年/講談雑誌)です。進藤主計は冷酷な人間として定評があった。岡崎藩主、水野忠善の用人として、20年近く藩政の実権を握っていたが、常に専断、頑迷、暴戻などと云われ、ことに最近は領内の寺院に対する圧迫と年貢の重課で非常な怨嗟の的になっていた。都留の父は勘定奉行所に勤めていたが、主計の重税政策をみかねてしばしば上申書を呈出し、その肯かれざるを怒って城中にこれを刺そうとした。しかし不幸にも邪魔が入って失敗し、切腹を命ぜられて死んだのである。その後、十三歳の都留と母親は密かに老職の中村惣兵衛に引き取られた。母は二年前に病死し、十五歳になった都留は、いつかは父の遺志を果たそうと固く心に誓っていた。そんな都留に惣兵衛は、老職の水野外記の家に江戸からお上の御不審のかかっている進藤主計がお預けになってやってくる為、都留に身の回りの世話をするようにと云う。
晩秋 主な登場人物
都留・・・父の仇を討つために、母の遺愛の懐剣を懐に忍ばせて進藤主計の世話をする。お預かりの身の主計の日常を見ることで、少しずつ主計の執った藩政を理解する。
進藤主計・・・水野忠義の用人、小柄で痩せた髪もほとんど灰色で、朽葉色の顔は皺が多くたるんで、頬のあたりに醜い老年性のしみがある。着物も袴も粗末で、全体がいかにもみすぼらしく貧しい農家の老翁という感じ。
水野外記・・・老職。「岡崎の柱石」と呼ばれる。中年の背の高い武士。無理に引き結んでいるような口つきに特徴のある、頬骨の尖った冷たい感じの男。別墅に主計を預かる。
中村惣兵衛・・・都留と母親を預かる。
鈴木主馬・・・目付役。国許で俊敏の名の高い人。
晩秋 覚え書き
端近(はしぢか)・・・家の中で出入口に近いところ。
私曲(しきょく)・・・不正な手段で自分の利益をはかること。
別墅(べっしょ)・・・別荘。
塵芥(じんかい)・・・ごみとあくた。
咳(しわぶき)・・・せき。
遺愛(いあい)・・・死んだ人が生前に愛用していたもの。
朽葉色(くちばいろ)・・・枯れた落葉のような色。
老翁(ろうおう)・・・年老いた男。
夜を日に継ぐ(よをひにつぐ)・・・昼夜を問わずに
奸譎(かんけつ)・・・よこしまで心の偽りが多い。
佞臣(ねいしん)・・・口先巧でへつらう家臣。
専断(せんだん)・・・自分だけの考えで物事を決定する。
頑迷(がんめい)・・・かたくなで物の道理のわからない。
暴戻(ぼうれい)・・・荒々しく道理に反する行為をする。
怨嗟(えんさ)・・・うらみ嘆くこと。
秕政(ひせい)・・・悪政。殻ばかりで実がない。
然なり(しかなり)・・・そうである。
壟断(ろうだん)・・・いやしい人間が利益や権利を独占すること。
行蔵(こうぞう)・・・進んで世に出て手腕をふるうこと。
糾明(きゅうめい)・・・罪や不正を糾問し、真相を明らかにすること。
剔抉(てっけつ)・・・えぐり出すこと。
可憐誅求(かれんちゅうきゅう)・・・情け容赦なく税金を取り立てること。