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樅ノ木は残った 1の4 山本周五郎

【朗読】樅ノ木は残った 1の4 山本周五郎 読み手アリア

断章1と夕なぎ

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樅ノ木は残った 1の4 山本周五郎 あらすじ

時は七月末、伊達家の宿老・原田甲斐のもとへ、密偵が静かに報告をもたらす。屋敷には伊東七十郎らの顔ぶれが集まり、ひとつの話題が浮上する――「甲斐の妻が、密かに江戸へ到着した」という一報だ。

それは甲斐さえも知らぬ出府であり、病気治療を名目とするも、その実は彼に会うためであった。女の愛情が突き動かした行動に、甲斐は静かに、そして少し困惑気味に眉を寄せる。その情報を携えて現れたのは、愛妾・おくみであったが、彼女自身もまた、心の奥底でその存在に揺れ動いていた。

一方、藩の中枢では緊迫した空気が張り詰めていた。幕命を受けた綱宗が逼塞となり、跡継ぎが未定という極めて不安定な中、七月十九日に起こった「四家臣の闇討ち事件」が静かに火種となっていた。

渡辺金兵衛・七兵衛ら三名の刺客は、「上意討」と称し、四人の側近を斬ったと自白。だがその「上意」が誰から下されたものかは曖昧なまま。その言葉の重さに、藩内は波紋を広げる。

ここにひとり、真っ向から疑問を投げかけた男が現れる。新任の評定役・遠山勘解由である。彼は冷静だが芯のある男で、「上意討の真偽を明らかにせねばならない」と主張する。多くの者が沈黙を貫く中、彼の問いは藩の根幹に踏み込もうとしていた。

やがて現れるのは、伊達家の実力者にして陰の支配者・兵部宗勝

樅ノ木は残った 1の4 登場人物

■ 原田甲斐(宿老・評定役)

  • 立場:重臣。伊達家中枢にあって冷静沈着な観察者。

  • 心情

    • 政治の荒波を避けつつ、事態の核心を見つめている。

    • 「人が良すぎる」と自ら語るように、情に厚く、人間らしい温かさを保っている。

    • 出府した正妻と愛妾おくみの間で静かな感情の揺れを見せつつも、理性で処している。


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■ 遠山勘解由(新任の評定役)

  • 立場:奥山大学の弟。正義感の強い新参。

  • 心情

    • 正論を貫こうとする使命感と、自身の未熟さとの間で葛藤。

    • 「上意討」という偽りの正義を問いただす姿に、誠実で熱い志がにじむ。

    • 古参たちの黙認と空気に圧されながらも、孤独な正義を押し通そうとする。


■ 伊達兵部宗勝(一ノ関さま/重臣会議の実権者)

  • 立場:藩の実力者。藩内の決定権を実質的に握る。

  • 心情

    • 権威と秩序の維持を最優先とし、すべてを「穏便」に処理しようとする。

    • 勘解由の異論に苛立ちつつも、甲斐の一言には一目置く。

    • 原田甲斐の妻の出府を知り、何か「先を越された」ような感情を見せる。


■ 渡辺金兵衛・七兵衛(刺客)

  • 立場:小者頭。事件の実行犯。

  • 心情

    • 「上意討」は自らの一存であり、無用な死傷を防ぐための戦術だったと弁明。

    • 威圧の中でも毅然とし、やや誇らしげな姿勢。

    • 正義とは何かを、自分なりに信じて行動していた様子がうかがえる。


■ おくみ(原田甲斐の愛妾)

  • 立場:湯島に住む、甲斐の側に仕えて8年の女性。

  • 心情

    • 甲斐の正妻の突然の出府に心が乱れ、嫉妬と不安に揺れる。

    • 長年の想いが報われないまま、女としての誇りと寂しさを抱えながらも、甲斐を慕い続けている。

    • 「怒ってなんかいません」と言いながら、涙をこらえる姿が切ない。


■ 原田甲斐の正妻(律)

  • 立場:茂庭家の娘。名家出身の賢婦。

  • 心情(間接描写):

    • 病気療養を名目に届け出なしで江戸入りしたことで、何か強い意志を持っていることがうかがえる。

    • 甲斐と再び向き合おうとする決意か、それとも政治的な裏意図があるのか、謎を含んだ存在。


■ 宇乃・虎之助(畑与右衛門の遺児)

  • 立場:両親を粛清で失い、甲斐に保護される。

  • 心情

    • 宇乃:すでに父母の死を悟りながらも気丈にふるまい、幼い弟を守ろうとする。

    • 虎之助:無邪気さと不安の狭間で、姉に頼りきっている。


■ 塩沢丹三郎(甲斐の小姓)

  • 立場:甲斐に仕える15歳の少年。

  • 心情

    • 宇乃たち遺児に深く同情し、母が「引き取りたい」と申し出るほど、家族ぐるみで哀れみを抱いている。

    • その純粋な気持ちが、政治の無情さと対照的に胸を打つ。

アリアの備忘録

伊達家の粛清事件をめぐり、評定所では「上意討」を僣称した刺客たちの審問が行われる。新任の遠山勘解由は真相解明を訴えるが、重臣たちは事を穏便に収めようとする。原田甲斐は静かに観察しつつ、孤児となった畑家の子供たちを保護し、また密かに出府した妻への対応に心を砕く。政と情が交錯する中、甲斐の静かな存在が、騒然とした藩内に一筋の人間味を与えていた。

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