【朗読】樅ノ木は残った 1の2 山本周五郎 読み手アリア
樅ノ木は残った 1の2 山本周五郎 あらすじ
七月二十五日、早朝の霧に包まれた江戸屋敷――
原田甲斐は静かに筆を取り、かつての国老・茂庭佐月に宛てた手紙を書いている。内容は、幕府からの伊達綱宗への逼塞命令、家臣四人の暗殺、そして家中の重臣たちによる事実のうやむやな処理についてだった。そこには、一ノ関兵部(伊達宗勝)が藩内で絶大な影響力を持ち、その影に怯えて誰も異を唱えぬ不穏な実情が、淡々と記されていく。
一方その背後では、里見十左衛門と伊東七十郎が激しく舌戦を交わす。かつて目付としての職務に誇りを持っていた十左は、新参者・坂本八郎左衛門の進言に怒り、彼を決闘へ誘導したと語る。七十郎はあくまで冷笑的にそれを受け流しながら、「早く斬るべきだった」と吐き捨てる。その軽さと重さが、時代の乱れを象徴していた。
原田甲斐は、この対立や混乱から距離を置こうとするが、実際には深く巻き込まれていく。
樅ノ木は残った 1の2 山本周五郎 登場人物
■ 原田甲斐 宗輔(はらだ かい むねすけ)
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立場:伊達家宿老。冷静沈着で寡黙な策士。
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心理描写:
表面は温和で落ち着いているが、内心では藩内の混乱と権力闘争に深く憂慮している。多くを語らず、筆に思いを託す。
一門宿老の反目と陰謀を冷静に観察しつつ、自身はあくまで「局外者」として振る舞うが、実際にはすでにその中心に巻き込まれている。
おくみとのやり取りでは、私情を抑える姿勢がにじむが、彼女の感情に少し心を動かされる場面も。
■ 里見十左衛門(さとみ じゅうざえもん)
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立場:堀普請の目付。古参の実直者。
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心理描写:
律儀で頑固、忠義に厚いが、激情型で融通がきかない。
坂本八郎左衛門に意見されたことで激怒し、意図的に怒らせて決闘に誘導したことを語るが、その裏には「自らの正しさを証明したい」というプライドと、自負心が強くにじんでいる。
伊東七十郎に対しても強く当たるが、心の底では己の判断に自信が持てず、焦りも感じている。
■ 伊東七十郎(いとう しちじゅうろう)
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立場:新参の武士。小野家の「厄介者」。
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心理描写:
飄々として皮肉屋。言葉の端々に冷笑と刃を含ませる。
身分は低いが、胆力と頭の切れはあり、状況を見通す目を持つ。十左に対しても臆せず「先に斬るべきだった」と断言するなど、過激で合理的な考えを持つ。
「侍の命は鴻毛よりも軽し」と語る彼の姿からは、侍としての理想と現実の落差への諦念が感じられる。
■ おくみ
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立場:原田甲斐に仕える女性。愛人のような存在。
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心理描写:
嫉妬と哀しみに揺れる女心を率直に表現する。
甲斐の妻の来訪に激しく動揺し、自分の立場の儚さを痛感して涙を見せる。「八年も仕えていて…」という言葉には、甲斐への長年の想いと報われなさが込められている。
しかしそれを正面から訴えるのではなく、軽口と笑顔で包もうとする彼女の姿が、切なさと健気さを際立たせる。
■ 丹三郎(たんざぶろう)
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立場:原田甲斐の身の回りを世話する少年。
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心理描写:
まだ若く、素直で感情を隠しきれない性格。
畑家の孤児となった姉弟に心を寄せ、母が彼らを引き取ることを願っている。無邪気さと優しさ、そして家族を思う心の繊細さが感じられる。 -
アリアの備忘録
- 「静かなる不安と、言葉に出せぬ葛藤」です。
登場人物たちは、それぞれの「正しさ」や「忠誠」、「立場の葛藤」に囚われながら、表では平静を装い、内には火種を抱えています。静かな会話と筆の音の背後で、血と権力の匂いが確かに漂っている――そんな緊張感に満ちた章でした。