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樅ノ木は残った 1の13 菊 山本周五郎

【朗読】樅ノ木は残った 1の13 菊 山本周五郎 読み手アリア

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樅ノ木は残った 1の13 菊 あらすじ

伊達家の重臣たちが集う夜、茂庭周防の屋敷には、家老や宿老、格式ある家柄の男たちが顔を揃えていた。その宴席の空気は、酒と笑いに包まれながらも、密やかに火花を散らしていた。原田甲斐はわずかに遅れて到着し、古内主膳と言葉を交わす。「お家が壊れるかと覚悟した」と語る主膳の声には、藩を救った一言の重みが滲んでいた。その裏には、影から動いた者の存在――板倉侯の奔走があった。だが、甲斐はそれに関しては言葉を濁す。やがて、奥山大学が声高に語り出す。聡明すぎる一ノ関(綱宗)の存在が、家にとっては災いの種になる――その考えは父の代から受け継がれていたものだ。そして、かつての後継者選びで、誰が誰に「札」を入れたかという過去の暗闘を暴露し、宴席を不穏な空気で満たしてゆく。甲斐は黙して酒を飲み、やがて酔いつぶれたふりをして席を外される。明け方近く、周防に呼び起こされ、涌谷の私室へと連れて行かれる。そこには伊達安芸がいた。白装束の彼の背には、艶やかな女の影が残る。三人は密かに語り合う――危機は一応去ったものの、真の問題はこれからだ。一ノ関を後見に据えたのは幕府の思惑、外からの圧と、家中の分断はまだ続く。信じられる者が少ない中、彼らは「敵同士を装う」策略に出ることで合意する。

そして、別れ際。甲斐は周防に向かって言う――「これ以上、偽りの不和では足りぬ。私は、もっと深く分かたれる形を取る」それは、己を孤独に追いやる覚悟でもあった。「私は、誰にもかかわらず、そっとしておいてもらいたい」そう言いながらも、周防の言葉に胸を打たれ、心に波が立つ。最後に交わされた言葉は、そっと置かれた白い一輪の菊への一言。――「床の間の菊はみごとだった」その静かな言葉に、すべての感情と、甲斐の孤独な矜持が込められていた。

樅ノ木は残った 1の13 菊 主な登場人物

■ 原田 甲斐(はらだ かい)

冷静沈着な重臣。表面上は静かに、礼儀を守り、感情を押し殺している。
しかし内には、矛盾する思いが渦巻く。
――忠義と距離、戦略と嫌悪、そして孤独。
「私は誰にもかかわらず、そっとしておいてもらいたい」
そう願いながらも、己の行動が藩を救ってしまうことを否定できない。
酔いつぶれる演技にさえ、彼の孤独と悲しみが滲む。

🕊️ 心の声:「望んだのは静かな日々だったのに、なぜ私は策の渦中にいるのか…」


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■ 茂庭 周防(もにわ すおう)

誠実で、真っ直ぐな熱情を持つ宿老。
甲斐とは少年時代からの縁で、心の奥で強く敬愛している。
だからこそ、甲斐の「手を引きたい」という冷めた言葉に、心が裂けるような衝撃を受ける。

💢 心の声:「原田…お前が、そんな冷たい人間だとは思わなかった」

その声は怒りではなく、悲しみに近かった。


■ 伊達 安芸(だて あき)

冷静な戦略家。涼やかに笑い、女を従えながらも、心は藩の未来に向いている。
一ノ関を後見に据えられた現状に、静かだが確かな危機感を抱き、
「戦はこれからだ」と覚悟を決める。

🐉 心の声:「最も恐ろしいのは、外の敵ではない。家の中にいる、信じがたい者たちだ」

だからこそ、甲斐と周防という異なる気質の二人に、あえて“離反”を演じさせる。


■ 古内 主膳(ふるうち しゅぜん)

年老いた宿老。父は忠宗に殉死した。
物静かで控えめな語り口の中に、かつての家を憂う深い思いを秘める。
甲斐にそっと問いかけながらも、自分が踏み込んではならぬと感じている。

🌙 心の声:「あのとき、誰が板倉侯に訴えたのか…いや、もうよそう。言葉は剣より鋭い」


■ 奥山 大学(おくやま だいがく)

直情型の家老。激情のまま言葉を放ち、周囲を圧倒する。
綱宗(=一ノ関)への強い不信と警戒を隠さず、札の話を持ち出して追及する。
ただし、その激しさは「家を守りたい」という純粋な思いの裏返しでもある。

🔥 心の声:「黙っていてはまた陰謀に巻き込まれる。今ここで、白黒つけねば」

しかし、その熱は人々の心に疲労を与えることにもなる。


■ 富塚 内蔵允(とみづか くらのじょう)

穏やかで空気を和らげようとする人物。大学の激しさの陰で、冷静な視点を保つ。
だが、宴席ではその意見も遮られ、やや影の薄い存在となっている。


■ 片倉 小十郎(かたくら こじゅうろう)

格式ある家柄の代表格として席にいるが、言葉少なく、観察者に徹している。
ただし、一言一言には重みがあり、大学の発言にも耳を澄ませる。


■ 成瀬 久馬(なるせ きゅうま)

原田甲斐に仕える若侍。
物語の終盤、密談のあとに甲斐に呼ばれたことにより、
「この会話を誰が聞いていたか」という周防の心の隙を突くような登場をする。
甲斐にとって、信頼の証でもあり、警告の演出でもある。

      ┌─────────────┐
│ 一ノ関(綱宗)      │ ←前藩主・現在の後見役(幕府推挙)
└───┬───────┬──┘
疑惑・警戒   陰謀か?
│       │
┌───▼───┐  ▼
│ 奥山大学   │  板倉侯
│(宿老)    │  (藩の外部に働きかけた援助者)
└────┬──┘

批判的     │ 政敵   茶席で接触(疑い)

┌────────────┐
│ 原田甲斐      │← 本作の中心人物。冷静・中庸・非協力的に見せかけて…
└──┬───────┬──┘
密議(協力)  冷淡・距離
│       ▲
▼       │
┌────────────┐
│ 茂庭周防      │← 甲斐の従兄弟。情熱的で誠実。甲斐に深い敬意
└────┬──────┘
│     盟友・同陣営
密議・協力   ┌────────────┐
│ 伊達安芸(涌谷)   │← 政略の中心人物。冷静沈着な知略家
└────────────┘


信頼・依頼

▼        ▼       ▼
古内主膳   大条兵庫   富塚内蔵允   片倉小十郎
(穏健派)   (静観)    (中立)     (格式あり)
▲              │
└─────────────┘
宴席に同席


成瀬久馬(甲斐の舎人)……甲斐が密談後に呼び出す。周防への牽制として機能。

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