【朗読】樅ノ木は残った 1の12 柳の落葉 山本周五郎 読み手アリア
樅ノ木は残った 1の12 柳の落葉 あらすじ
八月の夕暮れ、湯島の屋敷では、原田甲斐が静かに覚書をしたためていた。横では伊東七十郎が、酒を手に語り続ける。空には早くも雁の姿――それは、夏の終わりと不穏な兆しを告げるようだった。藩の家督問題では、茂庭周防が命を懸けた答弁により、幼い亀千代が伊達家を継ぐことが幕府に認められた。政宗の血筋を守るという誇りと一門の覚悟が、ついに実を結んだのだ。一方で、甲斐と妻・律の間には、15年分の距離があった。別れの時、律は涙ながらに問いただす――「あなたは本当に私のことをわかっているのですか?」甲斐は静かに応える。「私はおまえの良人だ。それだけだ」愛とも冷淡ともつかぬ言葉を残し、甲斐は去っていく。柳の葉が風もないのに舞い込み、律はその背に言葉をかけられず、ただ立ち尽くしていた――やがて、駕籠に乗り込む甲斐のもとに七十郎が笑いながら近づく。「じいさん(涌谷)を丸め込んでみせますよ」と軽口を叩く彼の背に、夕焼けが揺れていた。その夜、浜屋敷では、すでに酒宴が始まっていた――。
樅ノ木は残った 1の12 柳の落葉 主な登場人物
● 原田 甲斐(はらだ かい)
伊達家の重臣。冷静沈着で政務に長けた人物。
妻・律とは長年連れ添うも、心を閉ざしている。
覚書により幕府とのやり取りや藩の行く末を詳細に記録。
● 茂庭 周防(もにわ すおう)
伊達家の宿老。幕府に対し亀千代の家督を強く主張し、命がけの発言を行った。
伊達家を守るために命を賭す覚悟の人物。
● 涌谷(わくや)どの
伊達家の有力一門。茂庭の発言に驚きつつも、結果をともに喜ぶ。
「じいさん」扱いされる年長の人物。
● 久世(くぜ)侯
将軍の側衆。茂庭の主張を支持する発言を行い、藩内にとって重要な支えとなる。
● 酒井(さかい)侯、阿部(あべ)侯、稲葉(いなば)侯
幕府老中。家督問題の裁定を下す立場。酒井侯は特に厳しい追及を行う。
● 保科 正之(ほしな まさゆき)侯
将軍補佐として、伊達家の相続に関わる。公正な判断を求められる立場。
🕵️♂️ 情報・策略に関わる人物
● 伊東 七十郎(いとう しちじゅうろう)
甲斐の腹心のような存在で、情報収集・諜報を担う。
飄々とした性格で、皮肉と軽口を交えつつ、重要な情報をもたらす。
● 新妻 隼人(にいづま はやと)
兵部の家老。七十郎のうたた寝中の会話に登場し、刺客を放った疑惑がある。
● 渡辺 七兵衛(わたなべ しちべえ)
新妻に使われた刺客とされる人物。前回の章で柿崎六郎兵衛を襲撃。
👩🦰 家族・家庭に関わる人物
● 律(りつ)
原田甲斐の妻。船岡への帰国を前に、甲斐に本心を問う。
長年の夫婦生活の中で、心の距離に苦しみ、涙ながらに訴える。
● おくみ
律付きの侍女。宴の準備・接待を担う。冷静に主を支える存在。
● 中黒 達弥(なかぐろ たつや)
原田家に仕える若者。律が「暇を出してほしい」と願い出る謎の存在。
本人は帰国を願うが、甲斐は江戸に残るよう命じる。
🎎 宴の参加者・その他
● 里見 十左衛門(さとみ じゅうざえもん)
甲斐の家臣。宴の段取りなどを担う実務派。
● 岡本 次郎兵衛(おかもと じろべえ)
甲斐の供を務める者。
● 矢崎 舎人(やざき とねり)、成瀬 久馬(なるせ きゅうま)
甲斐のお供として駕籠の外で待つ。
● 後藤 孫兵衛(ごとう まごべえ)、真山 刑部(まやま ぎょうぶ)
堀普請の奉行。律の宴に誤って招かれ、主賓とされる。