あなたも私も2 久生十蘭 仕事と遊び・職場
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は連載朗読で、久生十蘭作「あなたも私も2」です。この作品は、毎日新聞夕刊に1954年10月~1955年3月まで掲載されました。戦後すぐの頃の話で、中村吉右衛門は海軍にいました。溺れた愛一郎を探し続けたのは「作戦の都合で、助ければ助けられる部下を、何人か目の前で溺れさせた、命を見捨てばかりでなく、死体ひとつひきあげられなかった。その時の無念の思いが忘れられずに心のどこかに残っている・・」からだったが、サト子はそんな彼に「戦争の話、もういいわ」と強い口調で言うのでした。(仕事と遊びより)ショウバイニンの女たちが出てきたり、サト子はモデルの出稼ぎのようなことをしてショウバイニンと間違えられたりします。
あなたも私も2 仕事と遊び・職場 あらすじ (ネタバレあります!)
あの夜、サト子は海から上がって寝室に入ったが、目をつぶると、いらざる庇い立てをしたために、死なせなくともすんだ人を死なせてしまったという思いと、やさしい顔の青年が浮かんで眠れなかった。叔母も帰ってきたし、サト子はそろそろ東京へ帰ろうと思った。そんなサト子の所へ、あの時の中年の私服、中村吉右衛門が訪ねてくる。彼は海軍にいたことがあるらしい。今日も青年の死体を探しに来たようだった。
叔母の住むこの別荘はお祖父さんのものだった。サト子が小さかったころは、毎年この別荘にきて長い夏の日を遊び暮らしたものだった。お祖父さんはアメリカに行ったっきり、別荘は空いたままになっていた。サト子の両親は戦争中に死に、離婚でゴタゴタした叔母がここに居座っていた。叔母はサト子にモデルなんてやめて子供の頃ここで泳いだ「お別荘組」の山岸芳夫との結婚をすすめるのだった。
サト子は、鎌倉八幡宮の辺りで外国人観光客相手に風景と一緒に写るモデルのアルバイトをしていた。それには客引きとモデルの二役をやってのけなくてはならなかった。今日も彼の死体があがらないと聞いて、青年の追憶に浸ってる愁い顔のサト子に声をかける観光客はいなかった。美術館のティールームでお茶を飲もうと歩き出したサト子に若い警官が声をかけた。「ショウバイニン」と勘違いしているらしい。サト子はそのまま古陶磁の展覧会を見に美術館へ入った。ゆっくりと美しい壺どもをながめていると・・・・。
あなたも私も2 覚え書き
女賊(にょぞく)・・・女の盗賊
嫌疑(けんぎ)・・・疑わしいこと。特に犯罪の時日があるのではないかという疑い。
邪推(じゃすい)・・・他人の心意を悪く推量すること。
黙然(もくぜん)・・・口をつぐんでいるさま。もくねん。
惨害(さんがい)・・・いたましい被害。むごたらしい災害。
御寝(ぎょし)・・・寝ることの敬語。
請託(せいたく)・・・内々で特別の計らいを頼むこと。
肺腑(はいふ)・・・心の奥底。心底、転じて急所。
述懐(じゅっかい)・・・思いを述べること。過去の出来事や思い出などを述べること。