【連載朗読】花筵7 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵7」です。お市は花筵のことで貞二郎の部屋に呼ばれた時、「こちらへ移ってこないか」と誘われた。お市は返事をしないことが返事であるという風に、なるべくさりげない容子で家と機場とを往復した。貞二郎も返事を求めなかったが、遠くから通わせる好意は段々繁くなっていった。しかしそれはお市にとって気持ちの負担となるものだった。夏のかかりにはやや気に入った花筵が二枚だけ仕上がり、その一枚はかなり自信のもてるものだった。周囲に唐草模様を繋ぎ、中いっぱいに蘭の葉と花を散らした図柄で、色も十三種もちいてある。これまでの品とは段違いに美しいものだった。万吉老人はもちろん、貞二郎も予期していた以上だったのだろう「これは献上品だな」と呟いた。お市はいちど姑に見せたかったので家へ借りて帰った。辰弥と磯女のよろこんでくれる気持ちがお市には温かく感じられた。自分の仕事がともかくも確められ、幾人かの人たちに感動を与えた、これほど人を力づけ勇気を与えるものはない。お市は弾んだ気持ちと活き活きと緊張したでひと夜を送った。梅雨明けの爽やかな風の日、機場の帰りに信の玩具を買いに鳥江の船着き場に近い雑貨を売る家に寄ったとき、里の奥村の母にばったり会った。
花筵7 主な登場人物
奥村の母・・・信蔵が暴逆を企て一味徒党の処分を受けるとお市に伝える。
弁之助・・・お市と年も近く、以前は気性も一番あって、心やさしく感情の豊かな兄だったが、今は変わってしまった。
花筵7 覚え書き
厭悪(えんお)…ひどく嫌に思うこと。
夏のかかり・・・夏の初め
疑俱(ぎぐ)・・・疑いと恐れ。
追廻し・・・使い走り
暴逆(ぼうぎゃく)・・・はなはだしい反逆。
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