【連載朗読】花筵4 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵4」です。お市は妊娠八ケ月に入った。冲夫人に診せた時、母子ともに順調で、出産予定日が少し早まるだろうということだった。その日は続けさまの眠り不足と神経過敏で、昼餉の後ぐっすりと居間で眠ってしまった。そこへ目をぎらぎらさせ白っぽく血の気を失って歪んだ顔をした久之助がやってきて「此処を立ち退くことになった、すぐに必要な品だけ纏めるように」と云った。お市は良人が死んだことをはっきり直感した。そしてすぐに良人の部屋へ行き、良人に隠しておくよう頼まれた包を取って荷物に入れた。嫁に来るとき持ってきた金目のものも、できるだけ多く持ってゆこうと思った。家を出るまでの事はごたごたとなにもかもいちどきで、後で思い出そうとしても前後の判別がつかないくらい混沌としている。ゆく先も知らずに歩いていくお市は腹部にこれまでに経験したことのない痛みを感じるのだった。
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花筵4 覚え書き
すが眼・・・斜視。
しきりなし・・・絶え間のないさま。
懸念(けねん)・・・気にかかって不安に思うこと。
過去帳・・・先祖の法名や死亡年月日などを記したもの。
片明かり・・・ほのかなあかり。
よもや・・・まさか。
世故(せこ)に疎い・・・世間の事情に疎い。