【連載朗読】花筵8 山本周五郎 読み手アリア
こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵8」です。奥村の母は、信蔵が暴虐を企てた重科で奥村の家名にも瑕がつきかねない、お市は奥村に帰ってくるように云った。お市は信を連れてくるといい、できるだけさりげなく母の乞いを避けて別れを告げた。お市は家に戻るとすぐに、弁之助に鳥江で会ったからこの付近を捜されるに相違ないという理由で丈助に移転の相談をし、明くる早朝まだ暗いうち信を背負い姑の手を曳いて丈助の住居を出た。そしてそれから十余日にわたって笠松郷ぜんたいに厳しい捜索の手がまわったが行方はつきとめられずにすんだ。丈助の心当たりで茂左衛門の家に身を寄せたお市は、七月に入ると雨の日を選んで美濃甚へ出かけた。断りかたがたもう暫く遠のいているからと話す積もりだったのだが、美濃甚の主・貞二郎は、お市の作った花筵を大垣の殿様に献上したところ、殿さまがたいへんお喜びでおめどおりを仰付けられるというお達しが下がったというのだった。それは名誉なことであるが、これを拒むことは絶対にできない。しかしお市が大垣へ行けば誰だかすぐにわかってしまう。貞二郎はお市の顔にやけどの痕のようなものを作ることをすすめた。外は荒れ狂う暴風雨になっていた。
花筵8 主な登場人物
茂左衛門夫妻・・・もと丈助の家で作男をしていた。今は一町ほどの稲田を作り、蓮田に鯉を飼っている。夫婦ともまるであいそっけがなく、篤実というより愚直な、そして稼ぐほかには喜びも楽しみも知らないといった人柄。
へい・・・茂左衛門夫婦の子供。五歳。顔かたちも気質も夫婦に似て、野良に行っても家にいても一人でコツコツ何かしては遊んでいる。
花筵8 覚え書き
杞憂(きゆう)・・・心配する必要のないことをあれこれ心配すること。取りこし苦労。
審問(しんもん)・・・事情などを詳しく問いただすこと。
涸沢(かれさわ)・・・洪水に備えて突き上げた防水堤。
篤実(とくじつ)・・・情が深く誠実なこと。
愚直(ぐちょく)・・・正直なばかりで臨機応変の行動をとれないこと。