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花筵3 山本周五郎

【連載朗読】花筵3 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵3」です。そのころ美濃のくに大垣の城主は戸田うねめのしょう氏英という人であった。氏英は三十九歳でまだ壮年だが、近頃健康が思わしくなく、養嗣子のはなしが出ていた。大垣藩の国家老の大高舎人は馬廻りから昇進した出頭人であった。十余年も政治の中枢を握り、古くから名門や重臣たちの支持があった。その支持が政治の癌になったのだが、重臣や名門の人たちは舎人を支持することで自分たちの利益を確実にしていた。大垣は木曽川、長良川、揖斐川の三つの河の流域にあるためしばしば非常な洪水にみまわれていた。薩摩の島津氏によって大規模な治水工事が行われたことがあったが、大垣は大垣として年々かなり多額な費用を治水のために支出していた。そしてここに一種の利権のようなものが生じた。その治水工事は重臣たちの廻り持ちで、工事の監査が正確になされず、費用の使途に多くの疑問があった。そのうえ工費の予算追加が度々で、それを捻出するために年貢の増し上げが繰り返されるという悪政に近い状態が現れてきたのである。

かん太
陸田信蔵は、改革を行おうとする一派の勘定方元締まりという職で、財政上の私曲を押さえるには便宜な位置にいた。舎人の一派にはけむたかったに違いないが、奥村喬所はその最愛の娘を嫁にやりさえした。信蔵はこの結婚をどう考えたであろうか。奥村の娘を娶ることが自分の立場を有利にするという理由だけでお市を娶ったのだろうか。

花筵3 主な登場人物

奥村喬所・・・お市の父。大垣藩老職。

奥村弁之介・・・お市の四番目の兄。

戸田采女正氏英・・・大垣藩藩主。七歳のとき家を継いだ。幕府の奏者番と新将軍から諸大名に領地確認を意味する沙汰書を出す役を申し付かり、どちらも体も心も疲れる役目で、それ以来健康を衰えている。

大高舎人・・・馬廻りから昇進した出頭人。口巧者で人に執入ることがうまく小才がきく。人物も非凡で才能もあったが・・・

小原外記・・・大垣藩老職。

花筵3 覚え書き

出頭人(しゅっとうにん)・・・主君の寵愛を得て、権勢をふるっている者。

執入る(とりいる)・・・目上の人の期限をとって気に入られようとする。

小才(こさい)・・・ちょっとしたことをその場に合わせてうまく処理する能力。

情実(じょうじつ)・・・個人的な利害、感情がからんで公平な取り扱いができない状態や関係。

権益(けんえき)・・・権利と利益。

枢要(すうよう)・・・物事の最も大切なところ。

宰領(さいりょう)・・・監督する役。

私曲(しきょく)・・・自分の利益だけをはかること。

欺謀(ぎぼう)・・・策略によって欺かれること。

 

 

花筵2 山本周五郎

【連載朗読】花筵2 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵2」です。里の奥村からお市に宛てて、初めてのお産は実家でぜひぜひさせたいので迎えをやりたいという手紙が来た。しかしお市は里へは帰らずに、この家でお産をしたいとはっきり答えた。里に帰った時に聞いた弁之助の言葉が思い出されて「帰る」とは云えなかったのだ。お市は胎児の発育も母体も申し分のないほど順調だった。ある夜、奥村の母から送って来た安産のお守りを信蔵に見せていると、縁先に誰かが入って来た。それは江戸屋敷の戸田五郎兵衛だった。お市は洗足の支度をしながら暗い不安な気持ちでいっぱいになるのだった。

花筵2 主な登場人物

奥村喬所・・・お市の父。大垣藩老職。お市を鍾愛している。

奥村弁之助・・・お市の四番目の兄。

丈介・・・野菜を持ってくる百姓。お百姓というより町家の隠居風。印伝皮の莨入れから莨を出してひっきりなしに吸いながら辰弥といつもまるで友達同士のように話し込む。

戸田五郎兵衛・・・大垣藩士。突然、陸田家にやってくる。三十、三歳の痩せた中背の人で、下の前歯が一本欠け、左の二の腕に新しい傷がある。

花筵2 覚え書き

無音(ぶいん)・・・行き来がないこと。

こころ丈夫・・・心強いこと。

しなしな・・・弱弱しいさま。

うまが合う・・・気が合うこと。

町家・・・町人の家。

印伝皮(いんでんがわ)・・・ヒツジやシカのなめし皮に型染めをしたもの。

もの案じげに・・・心配げに。

忌み日・・・禍があるとして身を慎む日。

海馬(うみうま)=たつのおとしご

 

花筵4 山本周五郎

【連載朗読】花筵4 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵4」です。お市は妊娠八ケ月に入った。冲夫人に診せた時、母子ともに順調で、出産予定日が少し早まるだろうということだった。その日は続けさまの眠り不足と神経過敏で、昼餉の後ぐっすりと居間で眠ってしまった。そこへ目をぎらぎらさせ白っぽく血の気を失って歪んだ顔をした久之助がやってきて「此処を立ち退くことになった、すぐに必要な品だけ纏めるように」と云った。お市は良人が死んだことをはっきり直感した。そしてすぐに良人の部屋へ行き、良人に隠しておくよう頼まれた包を取って荷物に入れた。嫁に来るとき持ってきた金目のものも、できるだけ多く持ってゆこうと思った。家を出るまでの事はごたごたとなにもかもいちどきで、後で思い出そうとしても前後の判別がつかないくらい混沌としている。ゆく先も知らずに歩いていくお市は腹部にこれまでに経験したことのない痛みを感じるのだった。

花筵4 覚え書き

すが眼・・・斜視。

しきりなし・・・絶え間のないさま。

懸念(けねん)・・・気にかかって不安に思うこと。

過去帳・・・先祖の法名や死亡年月日などを記したもの。

片明かり・・・ほのかなあかり。

よもや・・・まさか。

世故(せこ)に疎い・・・世間の事情に疎い。

 

 

 

 

花筵5 山本周五郎

【連載朗読】花筵5 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵5」です。丈助老人の家で妻女げんにとりあげてもらってお市は女の子を産んだ。丈助はその小笠村でも富裕な地主の一人だった。隠居してからも手作りの蔬菜や柿、梨などという季節のものを大垣まで担いでゆき、小遣いくらいはけっこう稼いでいた。妻女のげんもお産のとりあげとか治りにくい病人のある家などに絶えず呼ばれてゆく。どちらも相当ひろく知られていた。姑と相談して「信」と名付けた赤子は、五十日余りも早く生まれたが、霜の下りる頃には驚くほど肉付いて、誰の眼にも月足らずとはみえないくらい発育がよくなった。辰弥は赤児が産まれてからまるでもう彼はたましいを奪われたかたち彼の可愛がりようはちょっと桁外れで、見ていても吹き出すようなことがしばしばあった。

花筵5 主な登場人物

丈助・・・五十七歳。小笠村でも富裕な地主の一人。大垣に蔬菜などを売りに来ては、いつも辰弥と話し込んでいた。

げん・・・五十七歳。髪も黒くたっぷりして、頬はいつも赤みがさして艶つやしている。子を取り上げるのがうまい。

 

 

 

 

花筵6 山本周五郎

【連載朗読】花筵6 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵6」です。二月になってお市は島田村の美濃甚へかようようになった。産褥から起き出した時分に なにか草のようなものを堆高く積んだ車がしきりに通るのを見かけて げんに聞いてみたところ、それは藺とも燈心草ともいうもので多く畳表にするのだが、島田村の美濃甚という家で花筵をつくるのだという。お市はなにか適当な仕事を見つけて生活を立てていこうと考えていたので姑の磯女の承諾を得るとすぐにげんにたのんで中継ぎを頼み、機子として雇われることになった。げんに伴れられて訪ねた美濃甚は、茅葺合掌造りの母屋と大きな長細い箱に屋根と切窓を付けたような変わった作りの二棟があった。お市は通い始めて三十日ほどしてから手代の万吉老人にその望みを話し、他の女たちとは別に自分の工夫仕事をさせてもらうことにした。ある日、仕事の相談で主の貞二郎に呼ばれて母屋の二階に上がっていくと、そこは建物の見つきも飾りつけもひどく眼馴れないものだった。

花筵6 主な登場人物

お市・・・帰参に希望が持てるか分からず、信は女子なので、新しく自分で生きる方法を立てるため仕事を探していた。そして機子になると決心したのは、これまでにない柄模様の花筵を作りたいという望みがあったからだった。

貞二郎・・・美濃甚の主。三十四五くらいの痩せた青白く沈んだ顔つきで、疲れ倦んだような眸子と気味の悪いほど細くて長い指が眼につく。お市を想っている。

万吉・・・美濃甚の手代。

花筵6 覚え書き

花筵・・・色んな色に染めた藺で、草花や風景などを織り出した花茣蓙。

卍くずし・・・卍の児を変形した模様。

別墅(べっしょ)・・・別宅

目はしのきかない・・・機転が利かない。

洛中四季・・・京都の四季。

見つき・・・外観。

寸厚み・・・厚さ三センチ

機子(はたこ)・・・機を織る女性。

慇懃(いんぎん)・・・きわめて丁寧なさま。

気を計る・・・相手の気持ちをおしはかる。

ひとかどの・・・一人前の。

おおしく・・・力強く。

儀々しい(ぎぎしい)・・・堅苦しい。

金殿玉楼(きんでんぎょくろう)・・・非常に美しくて立派な建物。

 

 

花筵7 山本周五郎

【連載朗読】花筵7 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵7」です。お市は花筵のことで貞二郎の部屋に呼ばれた時、「こちらへ移ってこないか」と誘われた。お市は返事をしないことが返事であるという風に、なるべくさりげない容子で家と機場とを往復した。貞二郎も返事を求めなかったが、遠くから通わせる好意は段々繁くなっていった。しかしそれはお市にとって気持ちの負担となるものだった。夏のかかりにはやや気に入った花筵が二枚だけ仕上がり、その一枚はかなり自信のもてるものだった。周囲に唐草模様を繋ぎ、中いっぱいに蘭の葉と花を散らした図柄で、色も十三種もちいてある。これまでの品とは段違いに美しいものだった。万吉老人はもちろん、貞二郎も予期していた以上だったのだろう「これは献上品だな」と呟いた。お市はいちど姑に見せたかったので家へ借りて帰った。辰弥と磯女のよろこんでくれる気持ちがお市には温かく感じられた。自分の仕事がともかくも確められ、幾人かの人たちに感動を与えた、これほど人を力づけ勇気を与えるものはない。お市は弾んだ気持ちと活き活きと緊張したでひと夜を送った。梅雨明けの爽やかな風の日、機場の帰りに信の玩具を買いに鳥江の船着き場に近い雑貨を売る家に寄ったとき、里の奥村の母にばったり会った。

花筵7 主な登場人物

奥村の母・・・信蔵が暴逆を企て一味徒党の処分を受けるとお市に伝える。

弁之助・・・お市と年も近く、以前は気性も一番あって、心やさしく感情の豊かな兄だったが、今は変わってしまった。

花筵7 覚え書き

厭悪(えんお)…ひどく嫌に思うこと。

夏のかかり・・・夏の初め

疑俱(ぎぐ)・・・疑いと恐れ。

追廻し・・・使い走り

暴逆(ぼうぎゃく)・・・はなはだしい反逆。

 

花筵8 山本周五郎

【連載朗読】花筵8 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵8」です。奥村の母は、信蔵が暴虐を企てた重科で奥村の家名にも瑕がつきかねない、お市は奥村に帰ってくるように云った。お市は信を連れてくるといい、できるだけさりげなく母の乞いを避けて別れを告げた。お市は家に戻るとすぐに、弁之助に鳥江で会ったからこの付近を捜されるに相違ないという理由で丈助に移転の相談をし、明くる早朝まだ暗いうち信を背負い姑の手を曳いて丈助の住居を出た。そしてそれから十余日にわたって笠松郷ぜんたいに厳しい捜索の手がまわったが行方はつきとめられずにすんだ。丈助の心当たりで茂左衛門の家に身を寄せたお市は、七月に入ると雨の日を選んで美濃甚へ出かけた。断りかたがたもう暫く遠のいているからと話す積もりだったのだが、美濃甚の主・貞二郎は、お市の作った花筵を大垣の殿様に献上したところ、殿さまがたいへんお喜びでおめどおりを仰付けられるというお達しが下がったというのだった。それは名誉なことであるが、これを拒むことは絶対にできない。しかしお市が大垣へ行けば誰だかすぐにわかってしまう。貞二郎はお市の顔にやけどの痕のようなものを作ることをすすめた。外は荒れ狂う暴風雨になっていた。

花筵8 主な登場人物

茂左衛門夫妻・・・もと丈助の家で作男をしていた。今は一町ほどの稲田を作り、蓮田に鯉を飼っている。夫婦ともまるであいそっけがなく、篤実というより愚直な、そして稼ぐほかには喜びも楽しみも知らないといった人柄。

へい・・・茂左衛門夫婦の子供。五歳。顔かたちも気質も夫婦に似て、野良に行っても家にいても一人でコツコツ何かしては遊んでいる。

花筵8 覚え書き

杞憂(きゆう)・・・心配する必要のないことをあれこれ心配すること。取りこし苦労。

審問(しんもん)・・・事情などを詳しく問いただすこと。

涸沢(かれさわ)・・・洪水に備えて突き上げた防水堤。

篤実(とくじつ)・・・情が深く誠実なこと。

愚直(ぐちょく)・・・正直なばかりで臨機応変の行動をとれないこと。

花筵9 山本周五郎

【連載朗読】花筵9 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「花筵9」です。藩主戸田うねめのしょう氏英が水害地方を巡視しているという噂をお市は聞いた。島田村へもおいでになるに違いない。お市はこう思い、もしそうだとしたらそれが最善の機会ではないかと考え、一日も早くおめどおりするため梶田へと走った。お市は美濃甚へ着くと空腹と疲れと暑気に当たったのとでふらふらと気を失ってしまったが、貞二郎が見舞いに来るとすぐ「御成りになったらおめどおりのできるように」と頼んだ。彼はお市の様子が唯事でないのを察し承知した。

花筵9 主な登場人物

戸田采女正氏英・・・藩主。面長で浅黒いやつれたような顔の人。お市のつくった花筵の見事さを賞し、お市にねぎらいの言葉をかける。めどおりの際、お市が渡した五冊の調書を見る。

戸田主税・・・お側衆の重役。政争渦中の人ではない。

花筵9 覚え書き

若き日の摂津守(せっつのかみ) 山本周五郎

【朗読】若き日の摂津守(せっつのかみ) 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「若き日の摂津守」(昭和33年)です。摂津守光辰は幼少のころから知恵づくことがおくれ、からだは健康であったが意力が弱く、いつも涎を流し、人の助けがなければなにひとつできなかった。」十九歳のとき家督を相続して摂津守に任ぜられた。彼の祖父も父も政治には無関心だった。祖父は若い頃から焼き物に凝り、下屋敷に窯を作らせて焼き物を焼いて一生を終わった。父は趣味さえ持たず、二十九歳で家を継いでからずっとまるで隠居のような生活を送っていた。光辰の兄、源三郎光央は二十六歳になっていたが、十五歳のとき精神異常という理由で廃嫡され江戸の下屋敷にこもっていた。国許の藩政は安定し、地勢も極めてよく、五万六千石の表高より実収は二万石は多いだろうといわれていた。領内にことの起こることもないから政治のために藩主をわずらわす必要もない。そして職制は世襲の交代制で、四十年ちかい間、同じ諸家がその席を占めていた。このような中に光辰は二十一歳で国入りをしたのだった。

若き日の摂津守 主な登場人物

摂津守光辰(みつとき)・・・いつも涎をたらし、物事の判断も鈍く自分の意思を表すことができない。十歳で世子に直り、十七歳で松平信濃守の娘を娶った。十九歳で家督を相続し摂津守に任ぜられた。二十一歳で国許入りをし側室を娶る。藩の平穏無事を支えるために犠牲を強いられているものがあること、それが重臣たちの私曲の具に供されていることに気付き、自分のしなければならないことがわかるようになる。

永井民部・・・十四歳の頃から小小姓に上がって、ずっと側近に仕えた。光辰より一つ年下。

源三郎光央(みつなか)・・・十五歳のとき「狂気の質」という理由で廃嫡されるが、実際は非常に頭がよくて早くから藩政に興味を持ち学友や若い近習番の中から頼むにたるという人を選び、藩政の事情をひそかに検討していた。それを当時の側用人栗栖采女に知られ、重臣たちの手によって廃嫡される。

浅利重太夫・・・側用人。光辰を意のままに操る。

おたき(みち)・・・光辰の側室に上がる。吉田屋作兵衛の侍女の替え玉。貧しい農家の娘。

若き日の摂津守 覚え書き

正史(せいし)・・・国家などが編纂した歴史。

意力(いりょく)・・・意思の力、精神力。

暗愚(あんぐ)・・・物事の是非を判断する力がなく愚かなこと。

奇矯(ききょう)・・・言動が普通と違っていること。

廃嫡(はいちゃく)・・・嫡流を継ぐ相続権を廃すること。

沃野(よくや)・・・地味の肥えた平野。

孝子(こうし)・・・親孝行な子。

篤農(とくのう)・・・農業に熱心で研究する人。

佩刀(はかせ)・・・刀を腰におびること。

閨閥(けいばつ)・・・妻の親類を中心に結ばれている勢力。

峻烈(しゅんれつ)・・・非常に厳しく激しいこと。

哀憐(あいれん)・・・悲しみ憐れむこと。

いたわしい・・・気の毒で憐れみをかんじるさま。

杣道(そまみち)・・・杣人しか通らないような細くてけわしい道。

内帑(ないど)・・・君主の所有する財貨。

生得(しょうとく)・・・生まれながらにしてそういう性質を持っていること。

誅求(ちゅうきゅう)・・・租税などを厳しく取り立てること。

 

落ち梅記 山本周五郎

【朗読】落ち梅記 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「落ち梅記」(昭和24年/講談倶楽部)です。幼馴染で父親同士も昵懇の間柄の金之助と由利江。家族も古くから近しく往来していた。金之助の母は、彼の妻には由利江をと考えていたし、由利江のほうでもうすうすと気づいてそのつもりであった。しかし今は自堕落な生活を送る金之助の古くからの友人、半三郎が「由利江を妻に迎えることができれば立ち直る」と云い出し、半三郎の妹で由利江の友人千秋が「それがたった一つの兄を救う道」だと云って兄の嫁に来てくれるように頼む。由利江は公郷へ嫁してゆき、金之助も卒中で倒れた父の仕事を継承するために出府する。そして幼い頃学友としてお相手に上がった若殿、民部康継に再会する。康継は藩の紊乱した政治を立て直す方法を話すが決定的な証拠はまだ掴んでいないのだった。

かん太
テンポよい話でグイグイ惹きつけられます。それぞれの立場で見る現実、そして成長。信じるということを考えた作品でした。

落ち梅記 主な登場人物

沢渡金之助(さわたり)・・・小さい頃から学問が好きで、半三郎と兄弟のように親しく往来した。藩校でも二人は双俊と呼ばれ、9歳から13歳まで藩主の世子の学友に選ばれて、江戸邸で起居を共にした。

公郷半三郎(くごう)・・・二十歳の時から藩校の助教を勤めていたが、教官の嫉視から追われ、酒と賭博に耽るようになる。

由利江・・・大柄なゆったりとした体つきで、全体が柔らかく丸い線に包まれて、いつも笑っているような落ち着いたもの云いで、明るく温かい雰囲気をもっている。

沢渡助左衛門・・・金之助の父。次席家老と側用人を兼務する、酒も嗜まず趣味も道楽もない御用専一の篤実実直な質。卒中で倒れる。

若狭守貞継・・・藩主。卒中で倒れる。

民部康継(亀之助)・・・若殿。紊乱した藩政を立て直すため起つ。

 

落ち梅記 覚え書き

耗弱(こうじゃく)・・・すり減って弱っていること。

昵懇(じっこん)・・・親しく打ち解けて付き合うこと。

八花形(やつはながた)・・・花弁のような角が八つある形。

竜紋(りゅうもん)・・・竜をかたどった文様。

漢鏡(かんきょう)・・・中国の銅鏡。

異母弟(いぼてい)

駘蕩(たいとう)・・・のびのびしてさえぎるものがないこと。

地袋(じぶくろ)・・・小さい袋戸棚。

枢要(すうよう)・・・物事の最も大切なところ。

篤実(とくじつ)・・・誠実で情が深いこと。

衆望(しゅうぼう)・・・たくさんの人から寄せられる期待と信頼。

双俊(そうしゅん)

嫉視(しっし)・・・ねたみ憎む気持ちで見ること。

疎隔(そかく)・・・うとくなって、へだたりができること。

逼塞(ひっそく)・・・落ちぶれて世間から離れてひっそりと暮らすこと。

情誼(じょうぎ)・・・人とのつきあいに必要な人情や誠意。

特旨(とくし)・・・主君の特別な考え。

賜暇(しか)・・・願い出て休暇を許可されること。

愁眉(しゅうび)・・・心配もために眉をしかめること。

唐櫃(からびつ)

慌忙(こうぼう)・・・あわただしいこと。

剛毅(ごうき)・・・意思が強くて堅く、くじけない。

悪弊(あくへい)・・・悪い習わし、悪習。

紊乱(ぶんらん)・・・秩序、風紀が乱れていること。

譴責(けんせき)・・・叱り責めること。

謫居(たっきょ)・・・罪により自宅に引きこもったり、遠くへ流されたりすること。

詩経(しきょう)・・・中国最古の詩集