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樅ノ木は残った 山本周五郎

【朗読】樅ノ木は残った 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「樅ノ木は残った」です。この作品は昭和29年から日本経済新聞に掲載されました。51歳の作品です。

樅ノ木は残った1の1 あらすじ

万治三年七月十八日。
幕府の老中から伊達家へ「逼塞」の命が下る。名門伊達家が幕府の不興を買い、藩主・綱宗が下屋敷に移されるという動乱のはじまりだった。しかしそれは、ただの謹慎処分ではなかった。その夜、伊達家の家臣である坂本八郎左衛門と渡辺九郎左衛門が、表向き「上意討」という名のもとに斬殺される。巧妙に偽られた訪問、抜き打ちの襲撃、そして無念の死。渡辺の死の場には、悲しみを堪えきれぬ若き側女・みやの涙が満ちた。

同じ夜、さらなる惨劇が襲う。納戸役・畑与右衛門の家にも不穏な影が迫り、父は妻と子を逃がそうとする。幼い宇乃と虎之助の姉弟を母が連れ出すが、母は一人戻り、やがて命を落とす。二人は偶然出会った青年・宮本新八に守られ、必死に逃れようとするが、またも追手に行く手を阻まれる。やがて真相の一端が語られる。「上意討」と称した謀略。命を奪われた家臣たちは、もはや真実を語れない。幕府の命令に見せかけて、裏で誰かが動いている――。わずか十三歳の宇乃は、恐怖の中でも毅然と弟を守ろうとする。その姿は、大人たちの乱れと陰謀のなかで、一筋の気高さを放っている。

登場人物

■ 伊達家・関係者

  • 伊達陸奥守綱宗(だて むつのかみ つなむね)
    伊達家の藩主。幕府から逼塞(ひっそく:自宅謹慎)を命じられる。

  • 伊達兵部少輔(だて ひょうぶしょうゆう)
    伊達家の一族で、幕府の通達を受ける役。

  • 大条兵庫(おおえ ひょうご)
    伊達家の宿老。

  • 茂庭周防(もにわ すおう)
    同じく宿老。

  • 片倉小十郎(かたくら こじゅうろう)
    宿老。片倉家は伊達家重臣の名家。

  • 原田甲斐(はらだ かい)
    宿老で、事件の背後に関わっている可能性もある人物。

  • 立花飛騨守(たちばな ひだのかみ)
    伊達家の親族。通達の場に同席。


■ 幕府側

  • 酒井雅楽頭(さかい うたのかみ)
    幕府の老中。伊達家への処分を通達。

  • 阿部豊後守(あべ ぶんごのかみ)
    老中。同席して通達を行う。

  • 稲葉美濃守(いなば みののかみ)
    同じく老中。

  • 太田摂津守(おおた せっつのかみ)
    上使として伊達家に通達を伝える役目を担う。


■ 被害者と周辺人物

  • 坂本八郎左衛門(さかもと はちろうざえもん)
    元浪人。伊達家の目付。屋敷内で殺害される。

  • 渡辺九郎左衛門(わたなべ くろうざえもん)
    元浪人で槍術の名手。「上意討」と称して殺害される。

  • みや
    渡辺の側女。渡辺の死に直面し、泣き崩れる若い女性。


■ 「上意討」を行った者たち

  • 渡辺金兵衛(わたなべ きんべえ)
    小人頭。渡辺九郎左衛門を襲撃・殺害。

  • 渡辺七兵衛(わたなべ しちべえ)
    同じく小人頭。襲撃に加わり、自らも負傷する。


■ 畑家と関係者

  • 畑与右衛門(はた よえもん)
    納戸役。自宅を襲われて殺害される。

  • 畑の妻
    夫の指示で子供を逃がすが、帰宅後に殺害される。

  • 宇乃(うの)
    畑家の13歳の娘。聡明で落ち着いた性格。弟を守りながら脱出。

  • 虎之助(とらのすけ)
    宇乃の弟で6歳。幼いながらも状況に不安を感じ取る。


■ 宮本家

  • 宮本又市(みやもと またいち)
    無役の家臣で、綱宗に近侍していた人物。殺害される。

  • 宮本新八(みやもと しんぱち)
    又市の弟(16歳)。宇乃たちとともに脱出を試みる。


■ 原田家・警護側

  • 村山喜兵衛(むらやま きへえ)
    原田家の家臣。宇乃たちを保護し、事件を上層部に報告。

  • 矢崎舎人(やざき とねり)
    若侍(21歳)。村山とともに動き、事件現場を確認。

相関図

【幕府】

├─ 酒井雅楽頭(老中) ─┐
├─ 阿部豊後守(老中) ─┤→ 伊達家への処分を決定・通達
└─ 稲葉美濃守(老中) ─┘

太田摂津守(上使)───→ 伊達家に逼塞を伝える

【伊達家】

├─ 伊達陸奥守綱宗(藩主) ← 幕府より逼塞命令を受ける

├─ 伊達兵部少輔(親族) ┐
├─ 大条兵庫(宿老) │
├─ 茂庭周防(宿老) │
├─ 片倉小十郎(宿老) ├─→ 酒井邸で通達を受ける
└─ 原田甲斐(宿老) │
└─ 村山喜兵衛(家臣) ─→ 宇乃たちを保護
└─ 矢崎舎人(若侍) ─→ 現場確認・応援

【襲撃された家臣たち】

├─ 坂本八郎左衛門(目付)────→ 殺害される

└─ 渡辺九郎左衛門(槍術指南)
├─ 側女「みや」 ← 遺体に取り縋り、泣き崩れる
├─ 渡辺金兵衛(小人頭)← 偽装「上意討」加害者
└─ 渡辺七兵衛(小人頭)← 同上

【畑家】

├─ 畑与右衛門(納戸役)─────→ 殺害される
│ └─ 妻(名不明)────→ 子どもを逃がした後に殺害
│ ├─ 宇乃(13歳の娘)──→ 弟を連れて脱出・聡明
│ └─ 虎之助(6歳の弟)──→ 怯えながらも従う

【宮本家】

├─ 宮本又市(無役家臣)────→ 畑家へ警告後に殺害
└─ 宮本新八(16歳の弟)──→ 宇乃たちを守り行動する

【襲撃の動機】
表向き:「上意討」
実際:伊達家内部の粛清? or 権力闘争(詳細不明)

樅ノ木は残った 1の4 山本周五郎

【朗読】樅ノ木は残った 1の4 山本周五郎 読み手アリア

断章1と夕なぎ

樅ノ木は残った 1の4 山本周五郎 あらすじ

時は七月末、伊達家の宿老・原田甲斐のもとへ、密偵が静かに報告をもたらす。屋敷には伊東七十郎らの顔ぶれが集まり、ひとつの話題が浮上する――「甲斐の妻が、密かに江戸へ到着した」という一報だ。

それは甲斐さえも知らぬ出府であり、病気治療を名目とするも、その実は彼に会うためであった。女の愛情が突き動かした行動に、甲斐は静かに、そして少し困惑気味に眉を寄せる。その情報を携えて現れたのは、愛妾・おくみであったが、彼女自身もまた、心の奥底でその存在に揺れ動いていた。

一方、藩の中枢では緊迫した空気が張り詰めていた。幕命を受けた綱宗が逼塞となり、跡継ぎが未定という極めて不安定な中、七月十九日に起こった「四家臣の闇討ち事件」が静かに火種となっていた。

渡辺金兵衛・七兵衛ら三名の刺客は、「上意討」と称し、四人の側近を斬ったと自白。だがその「上意」が誰から下されたものかは曖昧なまま。その言葉の重さに、藩内は波紋を広げる。

ここにひとり、真っ向から疑問を投げかけた男が現れる。新任の評定役・遠山勘解由である。彼は冷静だが芯のある男で、「上意討の真偽を明らかにせねばならない」と主張する。多くの者が沈黙を貫く中、彼の問いは藩の根幹に踏み込もうとしていた。

やがて現れるのは、伊達家の実力者にして陰の支配者・兵部宗勝

樅ノ木は残った 1の4 登場人物

■ 原田甲斐(宿老・評定役)

  • 立場:重臣。伊達家中枢にあって冷静沈着な観察者。

  • 心情

    • 政治の荒波を避けつつ、事態の核心を見つめている。

    • 「人が良すぎる」と自ら語るように、情に厚く、人間らしい温かさを保っている。

    • 出府した正妻と愛妾おくみの間で静かな感情の揺れを見せつつも、理性で処している。


■ 遠山勘解由(新任の評定役)

  • 立場:奥山大学の弟。正義感の強い新参。

  • 心情

    • 正論を貫こうとする使命感と、自身の未熟さとの間で葛藤。

    • 「上意討」という偽りの正義を問いただす姿に、誠実で熱い志がにじむ。

    • 古参たちの黙認と空気に圧されながらも、孤独な正義を押し通そうとする。


■ 伊達兵部宗勝(一ノ関さま/重臣会議の実権者)

  • 立場:藩の実力者。藩内の決定権を実質的に握る。

  • 心情

    • 権威と秩序の維持を最優先とし、すべてを「穏便」に処理しようとする。

    • 勘解由の異論に苛立ちつつも、甲斐の一言には一目置く。

    • 原田甲斐の妻の出府を知り、何か「先を越された」ような感情を見せる。


■ 渡辺金兵衛・七兵衛(刺客)

  • 立場:小者頭。事件の実行犯。

  • 心情

    • 「上意討」は自らの一存であり、無用な死傷を防ぐための戦術だったと弁明。

    • 威圧の中でも毅然とし、やや誇らしげな姿勢。

    • 正義とは何かを、自分なりに信じて行動していた様子がうかがえる。


■ おくみ(原田甲斐の愛妾)

  • 立場:湯島に住む、甲斐の側に仕えて8年の女性。

  • 心情

    • 甲斐の正妻の突然の出府に心が乱れ、嫉妬と不安に揺れる。

    • 長年の想いが報われないまま、女としての誇りと寂しさを抱えながらも、甲斐を慕い続けている。

    • 「怒ってなんかいません」と言いながら、涙をこらえる姿が切ない。


■ 原田甲斐の正妻(律)

  • 立場:茂庭家の娘。名家出身の賢婦。

  • 心情(間接描写):

    • 病気療養を名目に届け出なしで江戸入りしたことで、何か強い意志を持っていることがうかがえる。

    • 甲斐と再び向き合おうとする決意か、それとも政治的な裏意図があるのか、謎を含んだ存在。


■ 宇乃・虎之助(畑与右衛門の遺児)

  • 立場:両親を粛清で失い、甲斐に保護される。

  • 心情

    • 宇乃:すでに父母の死を悟りながらも気丈にふるまい、幼い弟を守ろうとする。

    • 虎之助:無邪気さと不安の狭間で、姉に頼りきっている。


■ 塩沢丹三郎(甲斐の小姓)

  • 立場:甲斐に仕える15歳の少年。

  • 心情

    • 宇乃たち遺児に深く同情し、母が「引き取りたい」と申し出るほど、家族ぐるみで哀れみを抱いている。

    • その純粋な気持ちが、政治の無情さと対照的に胸を打つ。

アリアの備忘録

伊達家の粛清事件をめぐり、評定所では「上意討」を僣称した刺客たちの審問が行われる。新任の遠山勘解由は真相解明を訴えるが、重臣たちは事を穏便に収めようとする。原田甲斐は静かに観察しつつ、孤児となった畑家の子供たちを保護し、また密かに出府した妻への対応に心を砕く。政と情が交錯する中、甲斐の静かな存在が、騒然とした藩内に一筋の人間味を与えていた。

樅ノ木は残った1の2 山本周五郎

【朗読】樅ノ木は残った 1の2 山本周五郎 読み手アリア

樅ノ木は残った 1の2 山本周五郎 あらすじ

七月二十五日、早朝の霧に包まれた江戸屋敷――

原田甲斐は静かに筆を取り、かつての国老・茂庭佐月に宛てた手紙を書いている。内容は、幕府からの伊達綱宗への逼塞命令、家臣四人の暗殺、そして家中の重臣たちによる事実のうやむやな処理についてだった。そこには、一ノ関兵部(伊達宗勝)が藩内で絶大な影響力を持ち、その影に怯えて誰も異を唱えぬ不穏な実情が、淡々と記されていく。

一方その背後では、里見十左衛門伊東七十郎が激しく舌戦を交わす。かつて目付としての職務に誇りを持っていた十左は、新参者・坂本八郎左衛門の進言に怒り、彼を決闘へ誘導したと語る。七十郎はあくまで冷笑的にそれを受け流しながら、「早く斬るべきだった」と吐き捨てる。その軽さと重さが、時代の乱れを象徴していた。

原田甲斐は、この対立や混乱から距離を置こうとするが、実際には深く巻き込まれていく。

樅ノ木は残った 1の2 山本周五郎 登場人物

■ 原田甲斐 宗輔(はらだ かい むねすけ)

  • 立場:伊達家宿老。冷静沈着で寡黙な策士。

  • 心理描写
     表面は温和で落ち着いているが、内心では藩内の混乱と権力闘争に深く憂慮している。多くを語らず、筆に思いを託す。
     一門宿老の反目と陰謀を冷静に観察しつつ、自身はあくまで「局外者」として振る舞うが、実際にはすでにその中心に巻き込まれている。
     おくみとのやり取りでは、私情を抑える姿勢がにじむが、彼女の感情に少し心を動かされる場面も。


■ 里見十左衛門(さとみ じゅうざえもん)

  • 立場:堀普請の目付。古参の実直者。

  • 心理描写
     律儀で頑固、忠義に厚いが、激情型で融通がきかない。
     坂本八郎左衛門に意見されたことで激怒し、意図的に怒らせて決闘に誘導したことを語るが、その裏には「自らの正しさを証明したい」というプライドと、自負心が強くにじんでいる。
     伊東七十郎に対しても強く当たるが、心の底では己の判断に自信が持てず、焦りも感じている。


■ 伊東七十郎(いとう しちじゅうろう)

  • 立場:新参の武士。小野家の「厄介者」。

  • 心理描写
     飄々として皮肉屋。言葉の端々に冷笑と刃を含ませる。
     身分は低いが、胆力と頭の切れはあり、状況を見通す目を持つ。十左に対しても臆せず「先に斬るべきだった」と断言するなど、過激で合理的な考えを持つ。
     「侍の命は鴻毛よりも軽し」と語る彼の姿からは、侍としての理想と現実の落差への諦念が感じられる。


■ おくみ

  • 立場:原田甲斐に仕える女性。愛人のような存在。

  • 心理描写
     嫉妬と哀しみに揺れる女心を率直に表現する。
     甲斐の妻の来訪に激しく動揺し、自分の立場の儚さを痛感して涙を見せる。「八年も仕えていて…」という言葉には、甲斐への長年の想いと報われなさが込められている。
     しかしそれを正面から訴えるのではなく、軽口と笑顔で包もうとする彼女の姿が、切なさと健気さを際立たせる。


■ 丹三郎(たんざぶろう)

  • 立場:原田甲斐の身の回りを世話する少年。

  • 心理描写
     まだ若く、素直で感情を隠しきれない性格。
     畑家の孤児となった姉弟に心を寄せ、母が彼らを引き取ることを願っている。無邪気さと優しさ、そして家族を思う心の繊細さが感じられる。

  • アリアの備忘録

  • 「静かなる不安と、言葉に出せぬ葛藤」です。
    登場人物たちは、それぞれの「正しさ」や「忠誠」、「立場の葛藤」に囚われながら、表では平静を装い、内には火種を抱えています。静かな会話と筆の音の背後で、血と権力の匂いが確かに漂っている――そんな緊張感に満ちた章でした。

樅ノ木は残った1の3 山本周五郎 

【朗読】樅ノ木は残った 1の3 山本周五郎 読み手アリア

朝粥の会

樅ノ木は残った1の3 あらすじ

「朝粥の会」――原田甲斐の屋敷で、毎朝のように静かに開かれるこの集いには、不思議と心が和らぐ空気が流れる。そこでは身分の隔たりも、争いも、ほんのひととき忘れられる。その朝、集ったのは、仙台への使者・里見十左衛門、穏やかな蜂谷六左衛門、そして型破りで舌鋒鋭い伊東七十郎。さらに甲斐の愛妾・おくみも客として座をともにした。最初は穏やかな酒と会話だったが、七十郎の言葉が、場の空気を次第に鋭く変えていく。藩主綱宗の逼塞、そして四人の家臣の暗殺――それらが本当に「放蕩」や「上意討ち」に値するのか、誰がそれを決めたのかと、七十郎は突きつける。

樅ノ木は残った1の3 登場人物

原田甲斐 船岡藩主・宿老。朝粥の会の主催者 温和・理知的で聞き手に徹するタイプ。誰にも好かれる存在。微笑みの裏で全てを見抜く冷静さと洞察力を持つ。
伊東七十郎 他藩の武士。原田家に親しい客人 奔放・鋭敏・兵学にも通じる放浪者的な青年。場をかき乱すが核心を突く発言力を持つ。
里見十左衛門 仙台藩士・重臣、仙台へ使者として赴く 生真面目で頑固。冗談が通じず、七十郎の言葉に内心深く傷つき動揺する。奥山大学に対する憎しみを抱く。
蜂谷六左衛門 仙台藩士・物頭、江戸定番勤務 穏やかで控えめ。会の雰囲気に戸惑いつつも、静かに料理や会話を楽しむ。
おくみ 甲斐の愛妾、湯島に住む女性 しとやかで気立ての良い女性。正妻の存在に揺れるが、甲斐を一途に思い続ける。
成瀬久馬 給仕の少年、小姓 無口ながら礼儀正しく、静かに甲斐を支える存在。
塩沢丹三郎 同じく給仕の少年、小姓 無邪気さと誠実さを持つ若者。宇乃ら孤児にも情を持つ優しい心の持ち主。
綱宗(名のみ) 藩主・逼塞を命じられた若君 直接登場しないが、放蕩の主因とされる。真相は七十郎の言葉で疑問が投げかけられる。
奥山大学(名のみ) 江戸家老、実権を握る人物 陰で藩を動かす存在。十左が内心憎んでいる人物として名指しされる。

アリアの備忘録

誰もが何かを抱え、言えぬ思いを飲み込んで、またそれぞれの場所へ戻っていく――
それが「原田の朝粥」の静かな、しかし深い味わいだった。

樅ノ木は残った1の5 山本周五郎

【朗読】樅ノ木は残った 1の5 山本周五郎 読み手アリア

挿花

樅ノ木は残った 1の5 山本周五郎 あらすじ

両親を失い、寄る辺なくなった宇乃と虎之助は、江戸・芝の良源院へと移されることになった。別れ際、世話になった塩沢家のたつ女や丹三郎は、心からの思いとささやかな贈り物を託す。丹三郎は宇乃たちを案じつつ、彼女に淡い感情を抱きながらも距離を置こうとする。

良源院の庭にある一本の樅ノ木。それは原田甲斐が自らの故郷・船岡から移し、三度目の試みにようやく根づき始めた木だった。宇乃はその樅ノ木に、ひとり耐えて生きる者の姿を見出し、甲斐の心にも静かに触れる。甲斐は父のようにやさしく、けれどどこか孤独な影を抱え、宇乃と弟を守ることを誓う。

樅ノ木は残った 1の5 山本周五郎 登場人物

畑 宇乃(はた うの)

  • 両親を亡くし、弟・虎之助と共に塩沢家に預けられる。

  • しっかり者で、弟思いの姉。

  • 原田甲斐から船岡への移住を提案される。

畑 虎之助(はた とらのすけ)

  • 宇乃の弟。幼さゆえに無邪気で、姉に甘えることが多い。

  • 原田甲斐から出家を勧められる。

塩沢 丹三郎(しおざわ たんざぶろう)

  • 塩沢家の一人息子。神経質で気配り上手。

  • 宇乃と虎之助の世話をよくし、特に虎之助には弟のように接する。

  • 宇乃に対して仇討ちの支援を約束する。

塩沢 たつ女(しおざわ たつじょ)

  • 丹三郎の母。宇乃と虎之助の面倒を見てきた。

  • 宇乃に女性としての心得や、将来への準備を教える。

原田 甲斐(はらだ かい)

  • 伊達家の重臣。宇乃と虎之助の後見人となる。

  • 虎之助に出家を勧め、宇乃には船岡への移住を提案する。

  • 宇乃にとって、心の支えとなる存在。

村山 喜兵衛(むらやま きへえ)

  • 原田甲斐の供。

アリアの備忘録

樅ノ木が出てきた!

歔欷く仁王像(すすりなく) 山本周五郎

【朗読】歔欷く仁王像 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「歔欷く仁王像」です。この作品は昭和13年少女倶楽部に掲載されました。周五郎35歳の作品です。この年の少女ものは「美少女一番乗り」「牡丹花譜」「藤次郎の恋」「武道宵節句」や「朝顔草紙」などが書かれています。題名の「歔欷」が読めなかったんですが、「きょき」と読むそうですすり泣きのことだそうです。また大岡越前守も登場する珍しい作品で、主人公のお通はお決まりの目鼻立ちの整った美少女。清吉も孤児という設定で美少年でした。

歔欷く仁王像 主な登場人物

お通・・・十三歳。近所で評判の器量よし。日本橋通油町で有名な骨董商の一人娘。しもぶくれの京人形のような面差しに唐人髷の似合うかぐや姫のような少女。

清吉・・・十五歳。お通とは従兄にあたる孤児。お通の家に引き取られ小僧たちと一緒に働いている。口数の少ない利口な性質でお通の遊び相手になっている。

治兵衛・・・骨董屋、和泉屋の主人。お通の父。手入れのために預かった島津家の冑を失くしてしまい、島津家に押込められてしまう。

藤兵衛・・・和泉屋の番頭。

与吉・・・和泉屋の手代。

津田直記・・・島津家の用人。

歔欷く仁王像 覚え書き

中の間・・・家の中心にある部屋。店と奥との間にある部屋。

眉庇(まびさし)・・・兜の鉢の前方に庇のように出て、額を覆う。

万々(ばんばん)・・・十分に、完全に。

床柱(とこばしら)・・・床の間のわきに立つ化粧柱。

気随気儘(きずいきまま)・・・勝手気ままにふるまうこと。

 

 

 

 

 

正雪記 まとめ1 山本周五郎 

【朗読】正雪記まとめ1 山本周五郎 読み手アリア

【朗読】正雪記まとめ1 あらすじ 

第1部 1の1〜3の2まで

駿河の田舎道を揺れながら進む一台の馬車。夜の帳が下りたその中で、小さな少年・小太郎は星を見上げ、甘い棗の実をしゃぶっていた。父・与兵衛の酒酔いに付き合わされ、遅くなった帰り道。その荷車には何者かに追われるもう一組の父子がいた。見知らぬ浪人・矢橋忠左衛門とその幼い息子。同じ年頃の二人の少年は、隣り合いながらも交わることのない心を抱えていた。

馬車が東海道へ出ると、提灯の灯が両側から迫る。追手だ。浪人の運命は尽きたのかもしれない。彼は静かに決意する。幼い息子だけは生かしたいと。小太郎はその願いを聞きながら、自分と同じ名前を持つ少年の震える体を感じていた。そして・・・激しく切り裂かれる夜の静寂。浪人・矢橋忠左衛門は果敢に飛び出し、刀を振い、そして散った。浪人の息子、小太郎少年の祈りにも似た嗚咽を聞きながら、小太郎は彼を抱きしめ、「泣いちゃダメだよ」と囁いた。それから数日の間、矢橋小太郎少年は小太郎の家に匿われるが、すぐに江戸へと旅立ち、二人の道は分たれる。のちの久米与四郎は、この夜の恐怖と悲しみを胸に刻み、己の生きる道を探し始める。

人の世の非情と生きるための知恵。久米(小太郎)は貧しさの中で学び、働き、己を鍛えた。久米を江戸まで連れてきた酒浸りの細工師・又兵衛との縁。彼が捨てた「歩く蟹」に象徴される職人の誇りと絶望。江戸の喧騒の中で、久米(小太郎)は武士としての未来を夢見ながら時代の激流に身を投じていく。

しかし、どれほど知恵を巡らせても彼を惑わせるものがあった。剣術よりも学問よりも強く、彼の心を揺さぶるもの・・・それは石川主税助の娘・はんの存在だった。浄らかで優しく微笑む彼女。その姿を見るたびに久米は、自らの汚れを思い知り、触れてはならないものとして心を引き裂かれる。

力こそが善、賢さこそが正義。そう信じてきた道のりの中で、久米は初めて己の無力さと、人の心の奥深さに向き合おうとしていた。

正雪記まとめ1 主な登場人物

久米与四郎・・・

幼名は小太郎。駿河国、由比の染物職人・与兵衛の息子。幼い頃、馬車の中で浪人・矢橋忠左衛門の死をその息子と目の 当たりにする。その後、江戸へ出て学問を修め、武士としての道を模索する。冷静で賢く、知略を重んじるが、主税助の娘・はんの存在に心を揺すぶられる。

与兵衛・・・

小太郎(久米与四郎)の父。由比で染物屋を営む職人。酒好きで粗野な性格だが、息子に学問を学ばせ将来を案じている。浪人・矢橋忠左衛門の最期を目撃し、その息子・小太郎をしばらく匿う。

矢橋小太郎・・・

浪人・矢橋忠左衛門の息子。小太郎と同じ名前、同じ七歳。馬車の中で震えていたが、小太郎に励まされる。父の死後、しばらく小太郎の家に匿われたが、のちに江戸へ旅立つ。

又兵衛・・・

細工師。かつて名工と呼ばれたが、酒に溺れ、無気力に生きる。久米を江戸に連れてきてくれた恩人。自作の「歩く蟹」に誇りを持っていたが、それを川へ捨て、自らの人生を捨てるように姿を消す。

石川主税助・・・

浪人で楠木流の軍学者。江戸で講義を開き、久米を引き取って学問と武士の心得を教える。実は将来を悲観し、騒乱を望んでいる節がある。

はん・・・

主税助の娘。幼少期は母方の実家で育ち、十五歳で父の元へ来る。浄らかで温かい性格で、久米心を大きく揺さぶる。

金井半兵衛・・・

蒲生家の旧臣で浪人。叔父の和泉屋に寄食し、道楽にふける。久米を遊びに誘い、吉原へ連れていく。軽薄だが義理堅い面もある。

和泉屋久兵衛・・・

半兵衛の叔父。裕福な太物商。主税助に十軒店の家を提供し、彼の講義を支援するパトロン。

 

正雪記まとめ1 備忘録

久米が江戸で、貧しさと孤独の中で学問を積みながら、「どうすれば生き残れるか」「どんな力が必要か」を学んでいきます。一緒に江戸に来た細工師・又兵衛は、社会から認められず酒に溺れていく。彼が「歩く蟹」を捨てる場面は、夢や執着を断ち切り、「無駄なものに囚われるな」「人間は食う琴に追われたら終わりだ」という現実を久米に痛感させる。久米が「どう生きるか?」「何を捨て、何を守るべきか?」はんの存在によって「本当にそれだけでいいのか?」と葛藤しました。

 

 

 

 

正雪記まとめ2 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ2 山本周五郎 読み手アリア

【朗読】正雪記まとめ2 ここまでのあらすじ

第1部 3の3〜4の5

与四郎は、半兵衛と共に吉原へ通い、冷静に周囲を観察していた。しかし彼の内には孤独と虚しさが広がっていた。ある夜、はんが静かに彼の部屋を訪れ、茶を差し出しながら生国を訪ねる。与四郎は動揺しながらも自らの素性を隠し、「大望がある」と答える。しかし心の奥では、自分の出自を恥じ、嘘をついたことに苦しむのだった。

そんな折、紀州藩の高貴な人物から、兵学を講じるように求められる。与四郎は、自信満々で臨むが、老臣・安藤帯刀から「下郎」と一喝され、誇りは粉々に砕け散る。屈辱のあまり酒と遊びに溺れるが、夜明けの河岸で涙を流し、「このままでは終われない」と決意する。そして修行のため、密かに石川家を去る夜、はんに待っていてくれと伝えて静かに別れる。

2年の放浪を経て、信濃・木曽で剣士・勾坂喜兵衛と出会い、決闘の寸前まで至る。しかし隻眼の浪人・味平兵庫が介入し、与四郎の剣の才を見抜く。自らの未熟さを悟った与四郎は、さらなる修行を誓い、新たな道を歩み始めるのだった。

 

正雪記まとめ2 主な登場人物

由井与四郎・・・主人公、駿河の郷士の出と称するが、実は染物屋の息子。大望を抱きながらも出自に苦悩し、兵学や武芸を修める。紀州藩の安藤帯刀に侮辱され、自らを鍛え直すために旅に出る。

はん・・・石川主税助の娘。与四郎に静かな愛情を寄せ、旅立つ彼を見送る。誠実で心優しい女性。

石川主税助・・・楠木流兵学者で与四郎の師。彼を義理の息子として迎え、後継者にしようと考えている。

=紀州藩の人々=

徳川頼宣・・・紀州藩主。兵学に興味を持ち、与四郎を屋敷に招く。

安藤帯刀・・・紀州けの重臣。頼宣の信頼厚く、与四郎を「下郎」と見抜き、厳しく叱責する。

=旅先での新しい出会い=

勾坂喜兵衛・・・信濃松代の郷士の息子。武芸修行中の剣士で、短気で直上的な性格。与四郎と決闘寸前となる。

味平兵庫・・・伯耆の浪人。隻眼の剣士で、与四郎の才能を見抜く。荒々しいが、剣の実力は確か。

 

正雪記まとめ2 備忘録

与四郎にとって紀州家での出来事が大きな転機となりました。安藤帯刀から受けた屈辱をただの絶望で終わらせずに、むしろ自分を鍛え直すきっかけとする姿に、彼の強い意志と負けん気を感じました。一方で、はんの深い愛情と信頼が、与四郎の己の成長を誓うことに繋がったのでしょう。旅先では、これから大きく関わっていく勾坂喜兵衛と味平兵庫との出会いがありました。ここで与四郎が剣の真理に気づく場面は興味深かった。彼は単なる武勇ではなく、精神の在り方こそが武芸の本質であることを学んだ。その瞬間、与四郎は以前の彼とは違う、一つ上の境地に達したと思った。

 

正雪記まとめ3 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ3 山本周五郎 読み手アリア

正雪記まとめ3 あらすじ

福島の宿で、与四郎、味平兵庫、勾坂喜兵衛の三人は語り合う。兵庫は幕府のキリシタン弾圧が徳川の滅亡を招くと主張し、「奇跡や超自然の力は人の理性を酔わせる」と語る。その言葉は与四郎の心に強く残った。その後、紀州藩の実力者・安藤帯刀の死を知り、与四郎は「自分はまだ生きている」と実感する。

三人は松代の勾坂家に向かい、与四郎は喜兵衛の妹・小松と出会う。彼女は魅力的だが、兵庫は「妖婦の相がある」と警告する。小松に誘われた与四郎は、「紫金洞」と呼ばれる洞窟へ入る。そこはかつて異国の血を引く下僕・小藤次が、叶わぬ恋の末に幽閉されて岩に溶け込んだとされる場所だった。小松はここで与四郎を誘惑するが、彼は拒み、洞窟を抜け出す。

しかし与四郎は、迷い込んだ洞窟の中で幻覚を見る。美しい花園、浄らかな川、そして手招きする少女・・・それは死への誘いなのか。意識を失った彼を助けたのは山の猟師・勘次だった。勘次は紫金洞について何か知っている様子を見せる。与四郎は、洞窟の秘密を探るため、再び紫金洞への道を探し始めるのだった。

正雪記まとめ3 主な登場人物

🔸与四郎(由井正雪)・・・主人公。聡明で理性的な若者。兵庫の言葉に影響を受け、幕府の行末や、「奇跡、超自然の力」の意味について考えを深める。松代の勾坂家に滞在中、勾坂喜兵衛の妹・小松に誘惑されるが拒み、紫金洞の謎に惹かれていく。

🔸味平兵庫・・・諸国を巡る剣客。隻眼で豪胆で毒舌だが、与四郎には敬意を示す。幕府の転覆を信じ、鋭い洞察力を持つ。喜兵衛の剣術の師となる。

勾坂喜兵衛・・・松代家の旧家・勾坂喜兵衛の若当主。体が大きく素朴な性質。兵庫に剣術の指南を乞い、与四郎を自宅に招く。

🔸小松・・・喜兵衛の妹。美しく妖艶な娘で、与四郎を誘惑す流。紫金洞の伝説を語り洞窟へ誘う。兵庫は彼女を「妖婦」と警戒する。

🔸勘次・・・山に暮らす猟師。怪我で倒れている与四郎を助けるが何かを隠している様子。紫金洞について詳しい知識を持つが、真相を語ろうとはしない。

🔸安藤帯刀・・・紀州藩の家老。徳川家康の信頼を受けた人物で、頼宣を厳しく監視していた。与四郎と因縁があるがすでに死去している。

🔸石川主税助・・・与四郎の師。病に伏せており、娘のはんと暮らしている。

🔸はん・・・主税助の娘。与四郎を想い続けている。心優しく、逃亡中のキリシタン母娘を匿う。

🔸とく・・・平戸出身の女、キリシタンで、娘・鼎と共に幕府の弾圧から逃れる。

🔸かなえ・・・とくの娘。異国の血を引く美少女。信仰心が厚く、「マリア様・・」と祈る。

🔸小藤次・・・昔、勾坂家に仕えた異国の血を引く下僕。千鳥という女性を慕い、紫金洞に幽閉され、ついには岩に溶け込んだと伝えられている。

 

正雪記まとめ4 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ4 山本周五郎 読み手アリア

正雪記まとめ4 あらすじ

第1部6の6〜7の5まで

かなえは夜ごと「くるすの御旗が見える」と叫び、やがて夜の闇に消えた。母のとくは「西で何かが起こる」と直感し、娘をおう決意を固める。やがて京では「天守の軍勢が来る」と叫びながら屋根を駆け回る女の噂が広まり、はんはそれがかなえではないかと胸をざわめかせる。ほどなく天草でキリシタンの反乱が勃発し、かなえの言葉が現実となる。

一方、御嶽山で修行する与四郎は、星を読み運命を知る老人と出会う。だが、そしてその老人から天象の学問を学ぶ。老人は与四郎に「おぬしには運命を司る星がある」と言い残して老人は山を去る。与四郎が、自らの星を見つけられぬまま疑念を抱き始めた頃、男装した小松が現れ、「あなたがどこへ逃げても必ず追いつく」と執念を燃やす。与四郎は戦慄しながらも夜空を見上げ、ふとこれまで気が付かなかった一つの星を見つける。その星は彼の運命を示すものなのか・・・

かなえの狂気、小松の執念、天草の乱、運命の歯車は静かに動き始めていた。

正雪記まとめ4 主な登場人物

ー江戸はんの周辺ー

🔸はん・・・江戸で寺子屋を開く。冷静で聡明でありかなえの行方を案じている。

🔸テレーズかなえ・・・キリシタンの少女。夜毎「くるすの御旗」を見たと叫び、家を飛び出す。後に京都で異様な予言をする女として噂される。

🔸とく・・・かなえの母親。夫トーマスが捉えられた際の予感を信じ、娘を追って西へ向かう。

🔸弥五・・・はんの家に父が生きている頃から仕える男。かなえを追うが見つけられない。

🔸鳴海平蔵・・・銭座支配。京の妖しい女の噂を語る。

🔸鳴海つな・・・平蔵の娘。かなえの噂話をはんに伝える。

🔸金井半兵衛・・・浪人。天草の乱を鎮圧するために九州へ向かう。はんに想いを寄せているが口にしない。

ー御嶽山・与四郎の周囲ー

🔸与四郎・・・御嶽山で修行しながら星を観察する。自らの運命の星を探し続ける。

🔸老人(老)・・・星を読み、未来を予見する謎の老人。与四郎に天象の学びを授け、「自分の星を見つけよ」と諭す。

🔸小松・・・勾坂家の娘。与四郎に執着し、男装して御嶽山まで追ってくる。

🔸藤吉・・・勾坂家に仕える若い下僕。荷物持ちをする。

🔸猪之助・・・勾坂家の元奉公人で、御嶽山の先達。

ーその他ー

🔸天草四郎・・・天草の乱の指導者。作中では名前だけ登場。

🔸幕府・板倉家・・・天草の乱鎮圧い動く。