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目次

椿説女嫌い 山本周五郎

【朗読】椿説女嫌い 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「椿説女嫌い」です。この作品は昭和23年娯楽世界に掲載されました。江戸から赴任してきた新しい勘定奉行、折岩弥太夫が勘定奉行の事務を執り始めた。弥太夫の女嫌いは江戸屋敷で知らない者はない。妻を持たないばかりか、召使も女を置かない。赴任してきてすぐ十年倹約の思し召しが出て表でも諸用切り詰めているところ、長局の畳替えをするように老女、浪尾ゆうが云いに来る。弥太夫は、これまでにも奥向の歳費が格外に多いこと、殊に目見以上の扶持外交費が目立っているため畳替えは削るように云った。この頃の幕府、大藩諸侯に共通して、藩主の婦人や側室を擁する「奥」の勢力はひじょうなもので、女官長は今日の某公卿からきているし、老女、中臈、若年寄、右筆、表使、御次、呉服などの目見以上が十二人、三之間、末がしら、中居、使番、火番、膳所番、茶所、子供、端下などの目見以下三十余人、ほとんど江戸屋敷と同じ組織を持っていた。政治の運営もこれら女官たちの好意と支持がなければうまくいかなかった。これは不均衡であり、不公正である。男女は同県でなければならない。たとえ封建伝統の世なりとて、男も人間であってみればそうそう女の専権に屈服してはいられない。弥太夫は男権確立のために戦う決心をした。畳替え拒否はその第一着手だったのである。

椿説女嫌い 主な登場人物

折岩弥太夫・・・二十六歳、二千石の老職の二男。美男でも醜男でもない、背丈は五尺七寸(173センチ)でがっちり肉の締まった体つき。面長でふっくりした顔、女嫌い。

浪尾ゆう女・・・老女。畳替えを拒否する新しい勘定奉行、折岩弥太夫が隣に越してきてから意地悪な嫌がらせを続ける。

(名前が面白い人物)

阿波照蔵(あわてるぞう)・・・弥太夫の家の家僕。

鎌谷千兵衛(かまやせんべい)・・・国老。弥太夫に「奥」に手を出さないよう忠告する。

鑓田宮内(やりたくない)・・・弥太夫の家の家扶

椿説女嫌い 覚え書き

蔑された(なみされた)

唯物的(ゆいぶつてき)・・・すべての根源を物質と考え、精神の実在を否定すること。

痴者(しれもの)・・・愚か者。

権高(けんだか)・・・プライドが高くて傲慢なこと。

嬌羞(きょうしゅう)・・・女性のなまめかしい恥じらい。

毒念(どくねん)・・・人に害を加えようとする心。

朴念仁(ぼくねんじん)・・・がんこで物の道理の分からない人。

優艶(ゆうえん)・・・やさしくしとやかなこと。

充溢(じゅういつ)・・・満ちあふれること。

嗜慾(しよく)・・・あることを好み、欲するままにそれをしようと思う心。

齟齬(そご)・・・物事がうまくかみ合わないこと。

 

 

楯輿(たてごし)山本周五郎

【朗読】楯輿(たてごし)山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「楯輿」です。槍組三十人頭を勤める神原与八郎は、豪快な生き方を好んでいました。彼は口癖のように「死にざま」ということを云いました。彼にはそう云うだけの経験があるので、出まかせの強弁ではなかった。しかし福島家には名高い勇士が多いので、与八郎くらいの身分や経歴では、さほど目立たなかった。慶長三年の秋、大崎玄蕃の屋敷で長陽の宴が催された時、長尾勘兵衛という三千五百石の老職にそれは偏狭な考え方だと批判されるが・・・

かん太
朗読30分程度の短編です。与八郎の気付きが印象的です。

楯輿(たてごし) 主な登場人物

神原与八郎・・・十六歳で初陣し、征韓の役にも従軍した。その時の働きぶりを認められて、槍組三十人頭を命ぜられる。「死にざま」が口癖。

長尾勘兵衛・・・三千五百石の老職。

松・・・長尾勘兵衛の娘。与八郎に嫁していく。

楯輿(たてごし) 覚え書き

軒昂(けんこう)・・・意気が高く上がるさま。奮い立つさま。

小事に拘泥しない(しょうじにこうでいしない)・・・小さな事柄に必要以上に気にしないこと。

拘泥(こうでい)・・・こだわること。必要以上に気にすること。

大言壮語(たいげんそうご)・・・実力不相応な大きなことを云うこと。

辛辣(しんらつ)・・・云うことや、他に与える批評の手厳しいこと。

昂然(こうぜん)・・・意気の盛んなさま。自信に満ちて誇らしげなさま。

睥睨(へいげい)・・・にらみつけて勢いを示すこと。

壮志(そうし)・・・盛んな意思。勇ましい大志。

偏狭(へんきょう)・・・自分だけの狭い考えにとらわれること。

詠嘆(えいたん)・・・物事に深く感動すること。

満座(まんざ)・・・その座に人がいっぱいになっていること。

流布(るふ)・・・世に広まること。

呼集(こしゅう)・・・分散している人を呼び集めること。

敢闘(かんとう)・・・勇敢に戦うこと。

暁闇(ぎょうあん)・・・夜明け前。月がなく辺りが暗いこと。

 

 

 

榎物語 山本周五郎 

榎物語 山本周五郎 読み手 アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「榎物語」です。この作品は1962年昭和37年に雑誌に掲載されました。主人公さわは、「榎屋敷」で育ちます。榎屋敷の東南の隅に樹齢500年以上といわれる榎が高く梢を伸ばし、枝を広げていた。さわは、この榎の前で泣いたり、国吉と言葉を交わしたり、国吉と末の約束をします。また山津波で悲劇に遭うときも榎のそばにいた。物語の後半では、山津波でなくなった葉川村に唯一残った榎の前で野点の茶をすすめ、それで暮らしをたてる。そして足助の告白も榎のそばで聞き、そして最後は榎のそばで目が開きます。どんな時も揺るがない榎の存在が心に残る作品でした。

榎物語 主な登場人物

~前半~

河見さわ・・・躰がひよわく、器量もあまりよくない。河見家の長女らしくない人のうしろに隠れたり、どこかの隅にいる。

河見なか・・・さわの妹。姿かたちも美しく愛嬌もあり、頭もすばしっこい。小さい頃から人気者。

河見半左衛門・・・代々七カ村の庄屋を勤める。さわを「まるで貰われてきたようなおかしな子」と云っていた。

国吉・・・河見家の下男。雑役。さわと末の約束をする。

足助・・・河見家の飯炊き老僕。国吉とさわが榎のところで毎日のように逢っているのを、あるじ半左衛門に告げる。

~後半~

はつ・・・柏屋の女中

おすげ・・・柏屋の女中。山津波の前、木綿問屋の健次と夫婦約束をした。泥水の中で離ればなれになってから彼と再会する日を待っている。

越前屋重兵衛・・・絹物問屋、越重。小出で指折りの資産家。山津波の際、さわと他十人余りの避難者を自分の持ち家に引き取って世話をした。さわに身寄りがないので、榎のそばに住居と茶道具を用意してくれる。

越前屋安二郎・・・越重の若旦那。月に二、三度さわの安否と不足なものはないか気遣ってくれる。三年以上もさわと結婚したがっている。

佐平(国吉)・・・河見家を出て、江戸で絹糸商の店を持つようになる。名も佐平と改めた。

榎物語のあらすじ(※ネタバレ含みます)

河見家は七代前に苗字帯刀をゆるされ、代々七カ村の庄屋を勤めていた。小出は会津藩に属し、絹と木材の集散地で、河見家でも広い木山を持っているため、庄屋のほかに藩の山方の差配を命ぜられ、榎屋敷の周りには樵たちの長屋があった。さわは躰がひよわく器量もあまりよくなかった。いつもどこかの隅か、人の後ろに隠れていた。妹のなかは姉とは反対で、姿かたちも美しく、愛嬌もあり、頭もすばしっこく小さい時から人気者だった。河見家には下男や雇人が十四五人いたが、国吉はなんにでも使われる雑役だった。男ぶりもぱっとせず、負けぬ気ばかり強くてめはしがきかず、人に親しまないので、誰にも好かれないばかりか山猿といってバカにされていた。国吉とさわの立場はどこかに共通したものがあり、早くからお互いの間に、哀れなというおもいが、ひそかにかよっていたようであった。さわが十五になった年、指に棘を刺したところに国吉が来て、何かの草の葉を焙ったのを患部に貼ってくれたことが愛情の芽生えとなった。それから二年経って、二人は榎の下で話をした。さわは、泣いていた自分を気にかけてくれた国吉に新しい感情がめざめる。それから二人はいつも榎の蔭で逢うようになった・・・周囲の者に殆ど関心を持たれていない二人は人目を忍ぶ必要はなかった。しかし、老僕足助だけはさわと国吉が榎のところで毎日逢っていることを、あるじ半左衛門に告げた。

かん太
国吉は河見家を放逐されてしまうんだ。さわは、国吉がこの土地から出てゆく前に、必ず一度は逢いにくると信じて、明け方と黄昏の人に気付かれない時刻に榎のところに行った。
アリア
数日後、二人は榎のところで逢うんだよ。初めて抱き合って末の約束をした。国吉は江戸へ行って出世し、さわを迎える。石にかじりついても出世するので待っていてくれと云った。さわも五年でも十年でも、たとえ一生涯でも国吉を待つと云った。さわはこの約束を何時も心に生きていくんだ。それは・・・続く

榎物語 覚え書き

饗応(きょうおう)・・・酒や食事などを出してもてなすこと。
機智(きち)・・・その場に応じて、とっさに適切な応対や発言ができるような鋭い才知。
叢林(そうりん)・・・樹木が群がっている林。
礫(つぶて)・・・小石を投げること。また、その石。
緩慢(かんまん)・・・動きがゆったりしてのろいこと。
劈く(つんざく)・・・勢いよく突き破る。つよく裂き破る。
咆哮(ほうこう)・・・猛獣などがほえたけること。また、その声。
土風炉(どぶろ)・・・茶の湯で土を焼いて作った風炉。
野点(のだて)・・・野外で茶または抹茶をいれて楽しむ茶会。
真間の手児奈(ままのてこな)・・・手児奈はうら若い乙女であったが、自分を求めて二人の男が争うのを見て、罪の深さを感じたか、自ら命を絶ったという伝説、万葉集に山部赤人に感興を覚えて詠んだ歌がある。
不調法(ぶちょうほう)行き届かず、手際の悪いこと。また、そのさま。

 

 

 

槍術年代記 山本周五郎

【朗読】槍術年代記 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「槍術年代記」です。この作品は昭和13年富士に掲載されました。雑誌「富士」は戦争中にキングが名前を変えたものです。家族みんなが読める内容が盛沢山で、文学、科学、大衆小説や為になるもの、お洒落や美容、家事やマナーなど掲載されて家族みんなが楽しめる大衆娯楽雑誌でした。(大正13年~昭和32年)この作品「槍術年代記」は早くに両親を亡くした兄妹二人の話です。兄の友右衛門は足軽ではあるが槍術に抜群の才があり藩の槍術指南役寺沢孫兵衛に早くから折り紙を付けられています。そして孫兵衛の一人息子孫次郎とは幼馴染で「友やん」「孫やん」と呼び合う間柄だった。しかしある時、士分に足軽を蔑まれたことから親友の孫次郎と立ち合い、孫次郎に怪我を負わせてしまう。

槍術年代記 主な登場人物

兵堂友右衛門・・・出羽国松山藩の足軽。父の代から十五石三人扶持。中村派の槍術に抜群の際がある。孫次郎を傷つけてから退身し、各地を転々としながら武士として仕官することを望んでいる。

小夜・・・友右衛門の妹。兄の親友孫次郎に想いを寄せている。

寺沢孫次郎・・・友右衛門の親友。槍術指南役寺沢孫兵衛の一人息子。小夜を想っている。

寺沢孫兵衛・・・藩の槍術指南役。友右衛門の腕を見込んでいる。

槍術年代記 覚え書き

後半出てきた湯治宿の女のことや、高島で隣に住む足軽の老人のことなど、もう少し深堀りで話が広がってほしかったです!ページ数の問題でしょうかね。続きを読みたい気がします。

 

 

 

歔欷く仁王像(すすりなく) 山本周五郎

【朗読】歔欷く仁王像 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「歔欷く仁王像」です。この作品は昭和13年少女倶楽部に掲載されました。周五郎35歳の作品です。この年の少女ものは「美少女一番乗り」「牡丹花譜」「藤次郎の恋」「武道宵節句」や「朝顔草紙」などが書かれています。題名の「歔欷」が読めなかったんですが、「きょき」と読むそうですすり泣きのことだそうです。また大岡越前守も登場する珍しい作品で、主人公のお通はお決まりの目鼻立ちの整った美少女。清吉も孤児という設定で美少年でした。

歔欷く仁王像 主な登場人物

お通・・・十三歳。近所で評判の器量よし。日本橋通油町で有名な骨董商の一人娘。しもぶくれの京人形のような面差しに唐人髷の似合うかぐや姫のような少女。

清吉・・・十五歳。お通とは従兄にあたる孤児。お通の家に引き取られ小僧たちと一緒に働いている。口数の少ない利口な性質でお通の遊び相手になっている。

治兵衛・・・骨董屋、和泉屋の主人。お通の父。手入れのために預かった島津家の冑を失くしてしまい、島津家に押込められてしまう。

藤兵衛・・・和泉屋の番頭。

与吉・・・和泉屋の手代。

津田直記・・・島津家の用人。

歔欷く仁王像 覚え書き

中の間・・・家の中心にある部屋。店と奥との間にある部屋。

眉庇(まびさし)・・・兜の鉢の前方に庇のように出て、額を覆う。

万々(ばんばん)・・・十分に、完全に。

床柱(とこばしら)・・・床の間のわきに立つ化粧柱。

気随気儘(きずいきまま)・・・勝手気ままにふるまうこと。

 

 

 

 

 

正雪記 まとめ1 山本周五郎 

【朗読】正雪記まとめ1 山本周五郎 読み手アリア

【朗読】正雪記まとめ1 あらすじ 

第1部 1の1〜3の2まで

駿河の田舎道を揺れながら進む一台の馬車。夜の帳が下りたその中で、小さな少年・小太郎は星を見上げ、甘い棗の実をしゃぶっていた。父・与兵衛の酒酔いに付き合わされ、遅くなった帰り道。その荷車には何者かに追われるもう一組の父子がいた。見知らぬ浪人・矢橋忠左衛門とその幼い息子。同じ年頃の二人の少年は、隣り合いながらも交わることのない心を抱えていた。

馬車が東海道へ出ると、提灯の灯が両側から迫る。追手だ。浪人の運命は尽きたのかもしれない。彼は静かに決意する。幼い息子だけは生かしたいと。小太郎はその願いを聞きながら、自分と同じ名前を持つ少年の震える体を感じていた。そして・・・激しく切り裂かれる夜の静寂。浪人・矢橋忠左衛門は果敢に飛び出し、刀を振い、そして散った。浪人の息子、小太郎少年の祈りにも似た嗚咽を聞きながら、小太郎は彼を抱きしめ、「泣いちゃダメだよ」と囁いた。それから数日の間、矢橋小太郎少年は小太郎の家に匿われるが、すぐに江戸へと旅立ち、二人の道は分たれる。のちの久米与四郎は、この夜の恐怖と悲しみを胸に刻み、己の生きる道を探し始める。

人の世の非情と生きるための知恵。久米(小太郎)は貧しさの中で学び、働き、己を鍛えた。久米を江戸まで連れてきた酒浸りの細工師・又兵衛との縁。彼が捨てた「歩く蟹」に象徴される職人の誇りと絶望。江戸の喧騒の中で、久米(小太郎)は武士としての未来を夢見ながら時代の激流に身を投じていく。

しかし、どれほど知恵を巡らせても彼を惑わせるものがあった。剣術よりも学問よりも強く、彼の心を揺さぶるもの・・・それは石川主税助の娘・はんの存在だった。浄らかで優しく微笑む彼女。その姿を見るたびに久米は、自らの汚れを思い知り、触れてはならないものとして心を引き裂かれる。

力こそが善、賢さこそが正義。そう信じてきた道のりの中で、久米は初めて己の無力さと、人の心の奥深さに向き合おうとしていた。

正雪記まとめ1 主な登場人物

久米与四郎・・・

幼名は小太郎。駿河国、由比の染物職人・与兵衛の息子。幼い頃、馬車の中で浪人・矢橋忠左衛門の死をその息子と目の 当たりにする。その後、江戸へ出て学問を修め、武士としての道を模索する。冷静で賢く、知略を重んじるが、主税助の娘・はんの存在に心を揺すぶられる。

与兵衛・・・

小太郎(久米与四郎)の父。由比で染物屋を営む職人。酒好きで粗野な性格だが、息子に学問を学ばせ将来を案じている。浪人・矢橋忠左衛門の最期を目撃し、その息子・小太郎をしばらく匿う。

矢橋小太郎・・・

浪人・矢橋忠左衛門の息子。小太郎と同じ名前、同じ七歳。馬車の中で震えていたが、小太郎に励まされる。父の死後、しばらく小太郎の家に匿われたが、のちに江戸へ旅立つ。

又兵衛・・・

細工師。かつて名工と呼ばれたが、酒に溺れ、無気力に生きる。久米を江戸に連れてきてくれた恩人。自作の「歩く蟹」に誇りを持っていたが、それを川へ捨て、自らの人生を捨てるように姿を消す。

石川主税助・・・

浪人で楠木流の軍学者。江戸で講義を開き、久米を引き取って学問と武士の心得を教える。実は将来を悲観し、騒乱を望んでいる節がある。

はん・・・

主税助の娘。幼少期は母方の実家で育ち、十五歳で父の元へ来る。浄らかで温かい性格で、久米心を大きく揺さぶる。

金井半兵衛・・・

蒲生家の旧臣で浪人。叔父の和泉屋に寄食し、道楽にふける。久米を遊びに誘い、吉原へ連れていく。軽薄だが義理堅い面もある。

和泉屋久兵衛・・・

半兵衛の叔父。裕福な太物商。主税助に十軒店の家を提供し、彼の講義を支援するパトロン。

 

正雪記まとめ1 備忘録

久米が江戸で、貧しさと孤独の中で学問を積みながら、「どうすれば生き残れるか」「どんな力が必要か」を学んでいきます。一緒に江戸に来た細工師・又兵衛は、社会から認められず酒に溺れていく。彼が「歩く蟹」を捨てる場面は、夢や執着を断ち切り、「無駄なものに囚われるな」「人間は食う琴に追われたら終わりだ」という現実を久米に痛感させる。久米が「どう生きるか?」「何を捨て、何を守るべきか?」はんの存在によって「本当にそれだけでいいのか?」と葛藤しました。

 

 

 

 

正雪記まとめ2 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ2 山本周五郎 読み手アリア

【朗読】正雪記まとめ2 ここまでのあらすじ

第1部 3の3〜4の5

与四郎は、半兵衛と共に吉原へ通い、冷静に周囲を観察していた。しかし彼の内には孤独と虚しさが広がっていた。ある夜、はんが静かに彼の部屋を訪れ、茶を差し出しながら生国を訪ねる。与四郎は動揺しながらも自らの素性を隠し、「大望がある」と答える。しかし心の奥では、自分の出自を恥じ、嘘をついたことに苦しむのだった。

そんな折、紀州藩の高貴な人物から、兵学を講じるように求められる。与四郎は、自信満々で臨むが、老臣・安藤帯刀から「下郎」と一喝され、誇りは粉々に砕け散る。屈辱のあまり酒と遊びに溺れるが、夜明けの河岸で涙を流し、「このままでは終われない」と決意する。そして修行のため、密かに石川家を去る夜、はんに待っていてくれと伝えて静かに別れる。

2年の放浪を経て、信濃・木曽で剣士・勾坂喜兵衛と出会い、決闘の寸前まで至る。しかし隻眼の浪人・味平兵庫が介入し、与四郎の剣の才を見抜く。自らの未熟さを悟った与四郎は、さらなる修行を誓い、新たな道を歩み始めるのだった。

 

正雪記まとめ2 主な登場人物

由井与四郎・・・主人公、駿河の郷士の出と称するが、実は染物屋の息子。大望を抱きながらも出自に苦悩し、兵学や武芸を修める。紀州藩の安藤帯刀に侮辱され、自らを鍛え直すために旅に出る。

はん・・・石川主税助の娘。与四郎に静かな愛情を寄せ、旅立つ彼を見送る。誠実で心優しい女性。

石川主税助・・・楠木流兵学者で与四郎の師。彼を義理の息子として迎え、後継者にしようと考えている。

=紀州藩の人々=

徳川頼宣・・・紀州藩主。兵学に興味を持ち、与四郎を屋敷に招く。

安藤帯刀・・・紀州けの重臣。頼宣の信頼厚く、与四郎を「下郎」と見抜き、厳しく叱責する。

=旅先での新しい出会い=

勾坂喜兵衛・・・信濃松代の郷士の息子。武芸修行中の剣士で、短気で直上的な性格。与四郎と決闘寸前となる。

味平兵庫・・・伯耆の浪人。隻眼の剣士で、与四郎の才能を見抜く。荒々しいが、剣の実力は確か。

 

正雪記まとめ2 備忘録

与四郎にとって紀州家での出来事が大きな転機となりました。安藤帯刀から受けた屈辱をただの絶望で終わらせずに、むしろ自分を鍛え直すきっかけとする姿に、彼の強い意志と負けん気を感じました。一方で、はんの深い愛情と信頼が、与四郎の己の成長を誓うことに繋がったのでしょう。旅先では、これから大きく関わっていく勾坂喜兵衛と味平兵庫との出会いがありました。ここで与四郎が剣の真理に気づく場面は興味深かった。彼は単なる武勇ではなく、精神の在り方こそが武芸の本質であることを学んだ。その瞬間、与四郎は以前の彼とは違う、一つ上の境地に達したと思った。

 

正雪記まとめ3 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ3 山本周五郎 読み手アリア

正雪記まとめ3 あらすじ

福島の宿で、与四郎、味平兵庫、勾坂喜兵衛の三人は語り合う。兵庫は幕府のキリシタン弾圧が徳川の滅亡を招くと主張し、「奇跡や超自然の力は人の理性を酔わせる」と語る。その言葉は与四郎の心に強く残った。その後、紀州藩の実力者・安藤帯刀の死を知り、与四郎は「自分はまだ生きている」と実感する。

三人は松代の勾坂家に向かい、与四郎は喜兵衛の妹・小松と出会う。彼女は魅力的だが、兵庫は「妖婦の相がある」と警告する。小松に誘われた与四郎は、「紫金洞」と呼ばれる洞窟へ入る。そこはかつて異国の血を引く下僕・小藤次が、叶わぬ恋の末に幽閉されて岩に溶け込んだとされる場所だった。小松はここで与四郎を誘惑するが、彼は拒み、洞窟を抜け出す。

しかし与四郎は、迷い込んだ洞窟の中で幻覚を見る。美しい花園、浄らかな川、そして手招きする少女・・・それは死への誘いなのか。意識を失った彼を助けたのは山の猟師・勘次だった。勘次は紫金洞について何か知っている様子を見せる。与四郎は、洞窟の秘密を探るため、再び紫金洞への道を探し始めるのだった。

正雪記まとめ3 主な登場人物

🔸与四郎(由井正雪)・・・主人公。聡明で理性的な若者。兵庫の言葉に影響を受け、幕府の行末や、「奇跡、超自然の力」の意味について考えを深める。松代の勾坂家に滞在中、勾坂喜兵衛の妹・小松に誘惑されるが拒み、紫金洞の謎に惹かれていく。

🔸味平兵庫・・・諸国を巡る剣客。隻眼で豪胆で毒舌だが、与四郎には敬意を示す。幕府の転覆を信じ、鋭い洞察力を持つ。喜兵衛の剣術の師となる。

勾坂喜兵衛・・・松代家の旧家・勾坂喜兵衛の若当主。体が大きく素朴な性質。兵庫に剣術の指南を乞い、与四郎を自宅に招く。

🔸小松・・・喜兵衛の妹。美しく妖艶な娘で、与四郎を誘惑す流。紫金洞の伝説を語り洞窟へ誘う。兵庫は彼女を「妖婦」と警戒する。

🔸勘次・・・山に暮らす猟師。怪我で倒れている与四郎を助けるが何かを隠している様子。紫金洞について詳しい知識を持つが、真相を語ろうとはしない。

🔸安藤帯刀・・・紀州藩の家老。徳川家康の信頼を受けた人物で、頼宣を厳しく監視していた。与四郎と因縁があるがすでに死去している。

🔸石川主税助・・・与四郎の師。病に伏せており、娘のはんと暮らしている。

🔸はん・・・主税助の娘。与四郎を想い続けている。心優しく、逃亡中のキリシタン母娘を匿う。

🔸とく・・・平戸出身の女、キリシタンで、娘・鼎と共に幕府の弾圧から逃れる。

🔸かなえ・・・とくの娘。異国の血を引く美少女。信仰心が厚く、「マリア様・・」と祈る。

🔸小藤次・・・昔、勾坂家に仕えた異国の血を引く下僕。千鳥という女性を慕い、紫金洞に幽閉され、ついには岩に溶け込んだと伝えられている。

 

正雪記まとめ4 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ4 山本周五郎 読み手アリア

正雪記まとめ4 あらすじ

第1部6の6〜7の5まで

かなえは夜ごと「くるすの御旗が見える」と叫び、やがて夜の闇に消えた。母のとくは「西で何かが起こる」と直感し、娘をおう決意を固める。やがて京では「天守の軍勢が来る」と叫びながら屋根を駆け回る女の噂が広まり、はんはそれがかなえではないかと胸をざわめかせる。ほどなく天草でキリシタンの反乱が勃発し、かなえの言葉が現実となる。

一方、御嶽山で修行する与四郎は、星を読み運命を知る老人と出会う。だが、そしてその老人から天象の学問を学ぶ。老人は与四郎に「おぬしには運命を司る星がある」と言い残して老人は山を去る。与四郎が、自らの星を見つけられぬまま疑念を抱き始めた頃、男装した小松が現れ、「あなたがどこへ逃げても必ず追いつく」と執念を燃やす。与四郎は戦慄しながらも夜空を見上げ、ふとこれまで気が付かなかった一つの星を見つける。その星は彼の運命を示すものなのか・・・

かなえの狂気、小松の執念、天草の乱、運命の歯車は静かに動き始めていた。

正雪記まとめ4 主な登場人物

ー江戸はんの周辺ー

🔸はん・・・江戸で寺子屋を開く。冷静で聡明でありかなえの行方を案じている。

🔸テレーズかなえ・・・キリシタンの少女。夜毎「くるすの御旗」を見たと叫び、家を飛び出す。後に京都で異様な予言をする女として噂される。

🔸とく・・・かなえの母親。夫トーマスが捉えられた際の予感を信じ、娘を追って西へ向かう。

🔸弥五・・・はんの家に父が生きている頃から仕える男。かなえを追うが見つけられない。

🔸鳴海平蔵・・・銭座支配。京の妖しい女の噂を語る。

🔸鳴海つな・・・平蔵の娘。かなえの噂話をはんに伝える。

🔸金井半兵衛・・・浪人。天草の乱を鎮圧するために九州へ向かう。はんに想いを寄せているが口にしない。

ー御嶽山・与四郎の周囲ー

🔸与四郎・・・御嶽山で修行しながら星を観察する。自らの運命の星を探し続ける。

🔸老人(老)・・・星を読み、未来を予見する謎の老人。与四郎に天象の学びを授け、「自分の星を見つけよ」と諭す。

🔸小松・・・勾坂家の娘。与四郎に執着し、男装して御嶽山まで追ってくる。

🔸藤吉・・・勾坂家に仕える若い下僕。荷物持ちをする。

🔸猪之助・・・勾坂家の元奉公人で、御嶽山の先達。

ーその他ー

🔸天草四郎・・・天草の乱の指導者。作中では名前だけ登場。

🔸幕府・板倉家・・・天草の乱鎮圧い動く。

 

 

正雪記まとめ5 山本周五郎

【朗読】正雪記まとめ5 山本周五郎 読み手アリア

正雪記まとめ5 あらすじ

第1部8の1〜第2部1の3

夜明け前、与四郎は西へ向かう決意をし、小松と従者たちも後を追う。険しい山道を進むうち、猪之助は道の危険を訴えるが、与四郎は黙して答えない。森の奥深くで野宿した夜、小松はそっと寄り添い、「決してあなたを離さない」と囁くが、与四郎は冷たく沈黙する。

疲労と飢えが一行を襲い、ついに猪之助と藤吉は武器を取り、与四郎と対峙する。剣が閃き、猪之助は倒れ、藤吉も無力化される。狂気のように迫る小松を与四郎は突き放し、小松は「決してあなたを諦めない」と叫ぶ。

その後、傷を負った与四郎は意識を失い、隠れキリシタンの部落で救われる。そこで与四郎は、信仰に生きる人々の静かな暮らしを目の当たりにし、やがて天草の乱の勃発を知る。彼は運命を感じ、再び旅立つ。夜空には、御嶽山で見た自身の星が輝いていた。

正雪記まとめ5 主な登場人物

🔸与四郎・・・孤高の旅人で剣士。寡黙で冷徹な一面を持つが、内には強い意志を秘めている。小松や従者たちと山を越えるが、彼らと衝突し、ついには決別する。彼も傷を負い、隠れキリシタンの村で救われる。

🔸小松・・・名家勾坂家の娘。気高く、情熱的な性格で、与四郎への激しい執着を持つ。過酷な旅にも耐えるが、次第に精神的に追い詰められ、ついには与四郎に刃を向ける。最後まで彼を自分の手に入れることを誓う。

🔸猪之助・・・勾坂家に仕える従者。忠義に厚く、武術にも長ける。険しい道を進む与四郎に反発し、ついに戦いを挑むが敗北する。負傷し、与四郎の前から姿を消す。

🔸藤吉・・・もう一人の勾坂家の下僕。投げ笄の名手で、猪之助と共に与四郎と戦うが敗れる。戦闘の後、気絶して動けなくなる。

🔸増六・・・隠れキリシタンの部落・田島の長。落ち着いた人格者で与四郎を救い、信仰の教えを説く。やがて天草の乱の決起を知り、戦いへ向かう覚悟を決める。

🔸才助・・・増六の息子。父と共にキリシタンの信仰を守り、天草の乱への参加を決意する。

🔸天草四郎・・・神の使いとされ、キリシタン信徒たちを率いる。

ーその他ー

🔸シュモン善兵衛・・・隠れキリシタンの伝令。天草四郎の決起を知らせにくる。

🔸松倉氏・・・苛烈な統治を行う領主。一気の原因だと言われる。

🔸寄せての武将たち・・・幕府軍側の大名や武士たち。島原の乱鎮圧に動く。