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御意討ち秘伝 山本周五郎

【朗読】御意討ち秘伝 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒やしの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「御意討ち秘伝」です。この作品は、昭和12年34歳の作品です。藤次郎の恋によく似てますが終わり方が違っています。どうぞその違いをお楽しみください。

御意討ち秘伝 主な登場人物

高松絃次郎・・・温厚で控えめな性格の武士。深江に心を寄せていたので彼女の頼みを聞いてしまう。

藤枝清三郎・・・絃次郎と共に道場の「三羽烏」と呼ばれていた。酒に溺れてしまう。

深江・・・絃次郎と藤枝の師匠、貝原次郎左衛門の娘二十歳。藤枝をずっと前から愛している。

文枝・・・深江の妹で18歳。派手ではないが、思慮深く、温かい心を持つ。

貝塚次郎左衛門・・・小田原藩で道場を構える剣術の名手。深江と文枝の父親。総試合で勝った者に深江を目合わせることを決める。

堀越市松・・・三羽烏の一人。酒癖が悪く破門になる。魔剣の市松と呼ばれた。

倉本孫市・・・絃次郎の友人。

御意討ち秘伝 あらすじ

物語の中心は、剣術道場の心優しく穏やかな武士、高松絃次郎と、その師匠の娘である深江、そして深江の心を掴んだもう一人の武士、藤枝清三郎の複雑な関係です。師匠の長女、深江は酒癖が悪く、心が乱れがちな藤枝を愛し、彼を立派な武士に戻したいと願っています。そのため彼女は絃次郎に、明日の試合でわざと藤枝に負けて彼を勝たせてほしいと懇願します。しかし武士として誇り高き絃次郎はこれを断り、自分の信念を貫こうとします。試合では藤枝が勝利し、深江と結ばれますが、その後も藤枝は立ち直ることなく再び堕落します。最終的に藤枝は、三羽烏の一人で破門になった堀越市松に斬られて命を落としますが、実際には藤枝の名誉を守るために・・・・・という話です。物語は絃次郎の深い義理と愛情、そして彼の心を密かに見守り続けた深江の妹の文江の愛情がぴったり合ういい話です。

アリアの感想と備忘録

剣術道場の若い武士たちの人間模様と感情の揺れ動きが繊細に描かれていて、特に「武士道の誇り」と「人間としての弱さや愛情」が交錯するところに心を動かされました。特に絃次郎の誠実で温厚で控えめで誇り高き性質というのは正に武士らしい武士でとても好ましいです。自己犠牲を払っても藤枝の名誉を守ることを選んだ武士の誇りと人間としての優しさのバランスが絃次郎の魅力ですね。物語の最後に描かれていた深江の妹、文江と絃次郎の新たな関係で、絃次郎も新たな道を歩み始めることになります。この結末が、物語全体の緊張感や悲劇的な展開の中で、一つの希望や救いを感じさせました。

御馬印拝借 山本周五郎

【朗読】御馬印拝借 山本周五郎 読み手アリア

御馬印拝借 山本周五郎  あらすじ

三村勘兵衛は、沈黙を貫く武士の誇りと親の情愛の間で葛藤します。彼は娘・信夫を、信頼する甥であり勇猛な若武者・土田源七郎の妻にと願っていました。しかし、言葉少なな彼にはその想いを直接伝える勇気がなかなか湧かない。ようやく伝えたその想いは、源七郎にもしっかりと届いたはずでした。

けれども運命は、ひとつの「はい」という言葉で大きく揺らぎます。戦場へと旅立つもう一人の若武者・河津虎之助が、命を賭けた告白を信夫にぶつけたのです。幼く優しい心を持った信夫は、その激情に「はい」と答えてしまう。そしてそのたった一言が、彼女自身の未来も、源七郎の胸の内も、取り返しのつかない方向へ動かしてしまうのでした。

菩提山の砦では、源七郎が命を懸けて守る戦が始まります。家康本陣の旗を偽って掲げる策略、散ってゆく仲間たち、そしてすべての苦悩を心に封じ込めて最後まで闘う誇り高き姿。その姿は壮烈にして静謐、まさに武士道の極致でした。

御馬印拝借 山本周五郎 登場人物

土田 源七郎(つちだ げんしちろう)

  • 榊原康政の家臣で、信夫の母方の甥。

  • 無口で、内に情熱と誠意を秘めた武士。勘兵衛の信頼も厚い。

  • 信夫への想いを胸に秘めたまま、菩提山の戦で壮絶な最期を遂げる。

  • 亡くなる直前に信夫と虎之助の結びつきを受け入れ、鏡を譲る。

三村 勘兵衛(みむら かんべえ)

  • 信夫の父。武士でありながら、寡黙で繊細な性格。

  • 土田源七郎に娘を嫁がせたいと望むが、不器用な性格ゆえになかなか切り出せない。

  • 最後には源七郎の心を理解し、信夫と虎之助を結ばせる。

お萱(おかや)

  • 勘兵衛の妻。家庭を温かく見守る穏やかな母。

  • 勘兵衛の気持ちを敏感に察し、娘の未来を案じながらも静かに支える。

信夫(しのぶ)

  • 勘兵衛の娘。18歳。情け深く、優しすぎるほど優しい性格。

  • 源七郎を婿と意識していたが、出陣前の虎之助の告白に「はい」と答えてしまい、自らの運命を揺らしてしまう。

  • 最後は源七郎の大きな愛に涙し、虎之助の妻となる覚悟を決める。

河津 虎之助(かわづ とらのすけ)

  • 源七郎と同じく榊原家の家臣。若く血気盛んな武士。

  • 信夫への強い想いを抱き、出陣前に命がけの告白をする。

  • 戦場でも命を懸けて戦い、のちに生還する。

  • 源七郎の遺志によって信夫と結ばれる。

榊原 康政(さかきばら やすまさ)

  • 徳川家康の重臣で、源七郎や虎之助の主君。

  • 源七郎を信頼し、重要な砦の任務を任せる。

  • 戦後、源七郎の死を悼み、家康の陣羽織を与える。

徳川 家康(とくがわ いえやす)

  • 戦の全体を指揮する大将。

  • 菩提山の戦いの重要性を理解し、源七郎たちの忠義に深く感動する。

  • 無断で馬印を使った源七郎の行為を許し、陣羽織を与える。

弥五兵衛(やごべえ)

  • 先手組の兵士。飄々とした性格で、戦場でもユーモアを忘れない。

  • 戦死の間際にも冗談を言い、仲間との温かいやりとりが印象的。

刀根 五郎太(とね ごろうた)

  • 組頭の一人。実直で忠義に厚く、源七郎に進言する場面も。

  • 補給や戦略において現場の声を届ける役割を果たす。

アリアの備忘録

「何が正解か」ではなく、「どう生き、どう思い、何を選ぶか」に込められた心の真実と、本当に強い人間とは、他人を思いやることのできる人だと描かれています。どの人物も決して完璧ではない「人間らしさ」を持っていて、それがこの物語に深いリアリティと情感を与えていました。

忠弥恋日記 山本周五郎

【朗読】忠弥恋日記 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。昭和13年、34歳の作品、講談雑誌に掲載されました。今回の忠弥恋日記の主人公、丸橋忠弥はとにかく短気で真っ直ぐな性格。「女なんぞ」と言いながらも、お富美のことで心が揺れ、無茶な行動に出るのが見どころ。片桐安房守の屋敷へ単身乗り込む場面は、まるで時代劇のヒーローのようでワクワクします。

忠弥恋日記 山本周五郎 あらすじ

江戸の槍術指南・丸橋忠弥は、武士の誇りに生き、女色を嫌うと言い続けていた。だが、日々道場の世話をしてくれる娘・お富美の姿が、いつしか心の奥底に刻まれていたことに気づかぬまま、ただひたすら武芸に励んでいました。

ある日忠弥は、お富美が片桐安房守の屋敷に奉公に出されると知ります。しかしそれは単なる奉公ではなく、彼女が殿の愛妾にされる運命にあることを知った忠弥は、激しい怒りとともに、たった一人で大名屋敷へと一人乗り込んでいきます。

主な登場人物

丸橋 忠弥(まるばし ちゅうや)

主人公。出羽国山形の郷士の出身で、宝蔵院流槍術の達人。江戸に出て道場を開くが、粗忽で性急な性格から「せかちば(性急坊)」とあだ名される。女色を嫌うと公言していたが、道場を手伝うお富美に無意識のうちに惹かれていた。お富美を救うため片桐安房守の屋敷へ単身乗り込み、彼女と結ばれる。

お富美(おとみ)

近所の商家「金満津屋」の娘。忠弥の道場で台所仕事を手伝っていた。美しく慎ましいが、忠弥への一途な想いを秘めている。片桐安房守の屋敷に奉公に出されるが、実は殿の妾にされる運命だったと知り、助けを求める。忠弥と結婚するも、五年足らずで病死する。

兼松 又四郎(かねまつ またしろう)

旗本五千石の武士で、宝蔵院流の槍の名手。武勇に優れるが風流を解し、絵の才能もある。忠弥とは槍を交えて互いを認め合い、親友となる。忠弥の戦いを助けるべく、自家の宝である「権現様拝領の鉢巻」を貸し、その結果、忠弥の突入が成功する。

宝蔵院 胤舜(ほうぞういん いんしゅん)

宝蔵院流槍術の師範で、当代随一の槍の名手。かつて忠弥に槍術を指南した師であり、彼の成長を見守る。兼松又四郎と通じて忠弥の力を試し、結果的に彼の運命を導くことになる。

金満津屋 伝五郎(きんまんつや でんごろう)

お富美の父で、江戸で名の知れた商人。忠弥の人柄を見込み、娘を道場に手伝いに出していたが、お富美を片桐安房守の屋敷に奉公に出すことになる。実は彼自身、お富美の忠弥への想いを理解していた。

三百屋 米吉(さんびゃくや よねきち)

江戸で悪口の代弁や口利きを商売にする男。片桐安房守の屋敷の悪評を広める仕事を引き受け、忠弥と関わる。お調子者だが、人情があり、忠弥にお富美の危機を知らせる。

進藤 鬼源太(しんどう おにげんた)

片桐安房守の家臣で、三十人力と称される巨漢の武士。忠弥の乱入に立ちはだかるが、一槍で倒されてしまう。

片桐 安房守(かたぎり あわのかみ)

十一万石の大名で、幕府の旗本。お富美を屋敷に迎え、側女にしようとするが、忠弥の襲撃により失敗し、結局泣き寝入りすることになる。

杉原(すぎはら)

片桐安房守の用人。お富美を見初めて奉公を持ちかけ、彼女を主君の妾に仕立てようとする黒幕的存在。

多助(たすけ)

忠弥の老僕(召使い)。故郷の山形から忠弥に従って江戸へ来た。忠弥が荒れてゆく様子を見守りつつも、深い理解と憐れみの眼差しを向ける。

松三(まつぞう)

金満津屋の若い者。お富美の危機を忠弥に伝えるため、彼女の手紙を持ち出して助けを求める。忠弥と共に片桐屋敷に乗り込む。

怒らぬ慶之助 山本周五郎

【朗読】怒らぬ慶之助 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「怒らぬ慶之助」です。この作品は昭和10年冨士増刊号に掲載されました。昭和21年に講談雑誌に掲載され備前名弓伝の祖形のようです。新潮文庫の「怒らぬ慶之助」には「怒る新一郎」もあって、読み比べが面白かったです。「怒らぬ慶之助」は、へその緒切って以来、まだ一度も怒ったことがなく寡黙で無愛想でむっつり。一方「怒る新一郎」は癇癪持ちで腹の虫が随時随所暴れ出して、ついに江戸詰をしくじってしまい国許へ返されてしまう、と主人公の性格が反対ですね。冨士=キングなので家族みんなが楽しめる登場人物が好ましいです。

怒らぬ慶之助 主な登場人物

御堂慶之助・・・薩摩守家久の家臣、三百石の小身。十七歳で家督する。弓術に達し二十五歳で藩の師範格に補せられる。

鬼鞍庄兵衛・・・慶之助の叔父。後見人。

伊能源八郎・・・梶派の剣で屈指の勇名がある。美しい端麗な容姿を持つ二十五歳。江戸で家久は召し抱えた新参の小身。

梢・・・庄兵衛の娘。十九歳。慶之助と幼馴染でずいぶんわがままを云いあって育った仲。

かね・・・庄兵衛の妻。梢の母。婿にするなら慶之助と密かに心を決めている。

怒らぬ慶之助 覚え書き

諌死(かんし)・・・死んでいさめること。

老杉(ろうさん)・・・長い年月を経た杉の木。

飛耳長目(ひじちょうもく)・・・観察が鋭く深いこと。

斃死(へいし)・・・のたれ死ぬこと。

埒(らち)・・・馬場の周囲にめぐらした柵。

端麗(たんれい)・・・姿形が整って美しいこと。

疎音(そいん)・・・長い間便りをしないこと。

手斧(ちょうな)

弱法師(よろぼうし)・・・よろよろ歩く法師。

 

怒る新一郎 山本周五郎

【朗読】怒る新一郎 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「怒る新一郎」です。新潮文庫「怒らぬ慶之助」に掲載されています。まだ若い頃の作品とみられ、その後の作品の祖型ともいえます。谷沢新一郎は三年前に江戸詰になったのだが、持ち前の癇癖が祟って江戸を失策り、つい先ごろ国許へ帰ったばかりである。父亡き後の親代わりの伯父の谷沢十兵衛は彼を激しく叱責し,喧嘩ばかりする新一郎に、人間はなにより我慢が大切だと諭す。

怒る新一郎 主な登場人物

谷沢新一郎・・・

思い違い物語 山本周五郎

【朗読】思い違い物語 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!いつもご視聴ありがとうございます、癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「思い違い物語」です。この作品は、昭和25年労働文化に掲載されました。朗読の長さが2時間40分ほどあるのでだいぶ長い作品です。ぜひ目次で区切ってお楽しみください。江戸からきた典木泰助は寄合格で奉行総務という職につき、山治家に寄宿して毎日精勤した。

思い違い物語 主な登場人物

典木泰助(兄)・・・温厚で大人しい性格。石仏とか昼のろうそくとか云われていたが大賢人に落ち着く。

典木泰三(弟)・・・二十三歳。がっちりと固太りで濃い眉毛と尻下がりな目尻と白い大きな歯を持つ。粗忽者でしゃべりすぎるため藩で厄介者となる。しかし喧嘩がめっぽう強い。

山治右衛門・・・九百二十石の中老で年寄役を兼ねる。泰助と泰三を寄宿させる。姉妹のどちらかと泰助を結婚させることにしている。泰三の粗忽に参っている。

満信文左衛門・・・城代家老。温厚な徳人、思慮綿密、喜怒を色に表さず、かつて人を叱ったことがなく、声を上げて笑わず、沈着寛容、常に春風駘蕩という人柄。

千賀・・・山治右衛門の長女。十八歳。泰助のようなおとなしい人と結婚したいと思っている。

都留・・・十七歳。勘が敏速で口が達者。白を黒と云いくるめる巧みさと、云いくるめるまでの精力的なねばり強さとは無敵である。

思い違い物語 覚え書き

大愚(たいぐ)・・・非常に愚かなこと。

大賢(たいけん)・・・非常に賢いこと。

春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)・・・春風がのどかに吹くさま。

泰然自若(たいぜんじじゃく)・・・落ち着いていて物事に動じないさま。

反噬(はんぜい)・・・動物が恩を忘れて飼い主に噛み付くこと。恩ある人に背いてはむかうこと。

乖離(かいり)・・・そむいて離れること。

頑是ない(がんぜない)・・・分別がない。

綱紀粛正(こうきしゅくせい)・・・国家の規律や秩序、また政治のあり方や政治家や役人の態度をただすこと。

清高(せいこう)・・・清らかで優れていること。

慷慨(こうがい)・・・世間の悪しき風潮や社会の不正などを怒り嘆くこと。

廉潔(れんけつ)・・・私欲がなく、心や行いが正しいこと。

艱難辛苦(かんなんしんく)・・・人生でぶつかる困難や苦労。

紊乱(びんらん)・・・秩序や風紀が乱れること。

活眼(かつがん)・・・物事の道理や本質を見分ける眼識。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋芙蓉 山本周五郎

【朗読】恋芙蓉 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「恋芙蓉」です。(昭和10年キング)伊達政宗の家臣で、朱兜隊の谷屋鞆之助と主兜隊長・杉森勘三郎は幼馴染みで、勘三郎が鞆之助を弟のように馴れ愛してきた間柄だった。悲しみも喜びも分かち合い、互いに精励しつつ、死すとも離れじと固く友情で結ばれていた。朱兜隊というのは百騎をもって組まれ、大使はいずれも果敢豪勇の人物を選び、また隊の目印ともいうべき鉢金を朱色に塗った兜は、政宗からじきじきに下賜されるという名誉の遊撃部隊であった。戦場で手傷を負って帰郷していた鞆之助は、戦場へ戻る前に小菊と夫婦約束をする。勘三郎もまた朱兜隊長に任ぜられた出世の喜びを、留守役の親族とわかってこいと五日の休暇をもらって帰郷していた。勘三郎は小菊の素振りで自分が小菊に愛されていると思い込んでしまう。

恋芙蓉 主な登場人物

小菊・・・甚左衛門の娘、勘三郎の従姉妹。

谷屋鞆之助・・・二十五歳。朱兜隊士。戦場に行く前に小菊と夫婦約束をする。

杉森勘三郎・・・朱兜隊長、小菊の従兄。早く母を失い、続いて父軍兵衛に先立たれ、甚左衛門を父とも母とも思って育った。小菊を愛している。

恋芙蓉 覚え書き

いきれ・・・蒸されるような熱気、ほてり。

夜鳥(やちょう)・・・夜鳴く鳥。

先鋒(せんぽう)・・・戦闘で部隊の先頭に立って進む者。

下賜(かし)・・・身分の高い人から低い人にものを与えること。

袂別(べいべつ)・・・別れ

精励(せいれい)・・・勉学や仕事などに精を出して勤め励むこと。

転戦(てんせん)・・・あちこちと場所を変えて戦うこと。

荏苒(じんぜん)・・・なすことのないまま時が過ぎていくこと。

月余(げつよ)・・・ひと月以上。

淋雨(りんう)・・・長雨。

奮然(ふんぜん)・・・ふるい立つさま。

険路(けんろ)・・・けわしい道。

死地(しち)・・・生きて帰れないほど危険な場所。

鞍上(あんじょう)・・・鞍の上。

闇天(あんてん)・・・暗い空。

無二無三(むにむさん)・・・わき目もふらずに一途になること。

鏖殺(おうさつ)・・・皆殺し。

 

 

愚鈍物語 山本周五郎

【朗読】愚鈍物語 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「愚鈍物語」です。この作品は昭和18年講談雑誌に掲載されました。40歳の作品です。父が遺した金を次々と人に貸し下されしてしまう平山三之丞を、叔父の加地鶴所は愚鈍だと云って家の出入りと娘美代との婚約も破談にしてしまいます。人に愚鈍といわれる三之丞が治水工事の六回のやり直しの原因を独力で解決するという話なのですが、三之丞の愚鈍があまり書かれていないので愚鈍なところがよくわからなかったかな。いや、誰にでも金を貸す好人物ぶりを人が嗤って愚鈍というのでした。しかし最後の終わり方は周五郎先生らしく楽しく読み終わることができました。

愚鈍物語 主な登場人物

平山三之丞・・・加地鶴所の甥。娘の美代とは許嫁者。塀も門もひどく朽ちた柱も根太もゆるんだ雨漏りのひどい廃屋のような住居に住んでいる。亡父が節倹して遺した源銀を他人によく貸し与えるため愚鈍と云われる。

加地鶴所・・・三之丞の叔父。気性の激しい感情を爆発させる老人。三之丞が金を次々と他人に借り取られることに肚を立てている。

美代・・・鶴所の娘。三之丞の許嫁者。

加地主水・・・鶴所の息子。美代の兄。鶴所と三之丞の間を和解させようとするが、つかみどころのない三之丞の態度にも愛情を持つ。

黒板猪七郎・・・堤普請の人事支配役。肩のいかった六尺近い巨躯で、酒焼けのした頬骨の高い顔に、へんな眸の据わったぎろりとした目をしている。三之丞に度々かねを借りる。

愚鈍物語 覚え書き

節倹(せっけん)・・・出費を控えめにして質素しすること。

そくばく・・・まとめてしばること。

酒色(しゅしょく)・・・飲酒と色事。

禍根(かこん)・・・わざわいの起こるもとや原因。

奇観(きかん)・・・珍しい眺め。他ではみられないような風景。

茫漠(ぼうばく)・・・ぼうっとしてはっきりしないさま。

賄賂(まいない)

 

 

 

戦国会津唄 山本周五郎

【朗読】戦国会津唄 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「戦国会津唄」です。(昭和12年/少女倶楽部増刊号)上杉景勝の重臣岡野左内は、猪苗代城代を勤める一万石の大身だったが、実に思い切った倹約家で吝嗇に近い生活をしていた。もちろん自然と莫大な金が溜まる道理である。左内はそれがまた何より楽しいとみえ、月に一度ずつ金蔵へ入っては、あるほどの金銀を山と積んでただ一人それを数えるのが例だった。豪放と恬淡を持って誇りとした戦国武士のあいだにあって、左内のような吝嗇や金銭を愛する気風は蔑まれ、「左内ではない、吝内殿だ」「いかにも稗野吝内であろう」と陰口を云われていた。左内自身は世間にいかなる悪評が飛ぼうが平気だった。しかし、まだ髪上げをしたばかりで、ようやく羞ずかしさを知り始めた十五の乙女小房には、それは辛く悲しいことだったのである。

戦国会津唄 主な登場人物

小房・・・十五歳、岡野左内の娘。土岐市之丞とのあいだに許嫁の約束が結ばれている。

市之丞・・・十七歳の美少年。小房の父、左内に劣らぬ武士になろうと、いつも心に誓っている。

菊枝・・・小房の親友。

岡野左内・・・一万石の大身だが吝嗇に近い生活をしている。蔭で「稗野吝内」「金貸商人」と呼ばれている。

戦国会津唄 覚え書き

吝嗇(りんしょく)・・・ひどいけち。

恬淡(てんたん)・・・欲がなく、物事に執着しないこと。

豪放(ごうほう)・・・度量が大きく大胆で、細かいことにこだわらないこと。

猩々緋(しょうじょうひ)・・・やや青みを帯びた鮮やかな深紅色。

兜の錣(かぶとのしころ)・・・兜の鉢の左右・後方につけて垂らして、首から衿の防御をするもの。

狂奔(きょうほん)・・・狂ったように走りまわること。

述懐(じゅっかい)・・・思いを述べること。

交誼(こうぎ)・・・友人としての親しいつきあい。

出精(しゅっしょう)・・・精を出して勤めること。

雪ぐ(そそぐ)・・・恥や名誉を新たな名誉で消す。

凝議(ぎょうぎ)・・・熱心に相談を重ねること。

亀鑑(きかん)・・・手本。

 

 

 

 

 

扇野 山本周五郎

【朗読】扇野 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「扇野」です。(昭和29年)こんど鳥羽の城中で御殿を修築するにあたって角屋金右衛門の熱心な推薦で襖絵を描くことになった栄三郎。襖絵の主題は「武蔵野の冬」でその年の二月から五月にかけて下絵は出来上がった。しかし四五日間をおいてみると何かしら足りないものがある。何が足りないのか、何をそこに描き加えたらいいのか。それからしばらく栄三郎は考え続けるが、頭の中でいろんな思いが絡み合って彼の気持ちをぐらつかせたり絶望的にさせたりした。そんな中、おけいのすすめで出かけた栄三郎は「桑名屋」という古い造りの料理茶屋に入り、おつるという芸妓に出会う。二人は一目会ったときから互いに惹かれあう。

扇野 主な登場人物

栄三郎・・・三十一歳。旗本の三男。少年じぶんから絵を描くのが好きで、学問所へ行くとみせては絵師のもとに通い、十六から八年ばかり教えを受けた。絵の稽古は初めの三年くらいで、あとは飲むことと遊蕩のほうが主になる。やがて勘当されて富豪の角屋金右衛門の世話になるようになる。

角屋金右衛門・・・志摩のくに鳥羽港で回船と海産物の問屋を営み、藩家稲垣氏の御用商。栄三郎の絵師としての将来を高く評価し、彼が勘当になったと聞いてすぐ生活から小遣いまで面倒をみている。

おけい・・・十八歳。角屋金右衛門の娘。愛嬌のある丸顔で、おちょぼ口やよく動くいたずらっぽい目許にまだ子供らしい感じが残るが、五尺三寸ばかりある躰は形よくのびのびと成熟して、何気ない動作にも自然と女らしい媚が表れている。

石川孝之介・・・二十六七歳。藩の家老石川舎人の長男。家老職の息子らしい落ち着きと一種の威厳がある。躰も顔もやや肥えて丸く、色が白いが大きなまたたきをしない眼には意地の悪い鋭い光がある。

おつる・・・二十四五歳の芸妓。上背のあるすらっとした躰つきで、色が白く透き通るような肌をしている。やや角ばった面長で、表情の多い小さな眼と少ししゃがれた切り口上の言葉つきに特徴がある。

扇野 覚え書き

閑寂(かんじゃく)・・・もの静かで趣のあること。

権柄ずく(けんぺいずく)・・・権力に任せて強引に事を行うこと。

壺坂霊験記(つぼさかれいげんき)・・・浄瑠璃の演目。盲人とその妻の夫婦愛を描いた世話物。

切り口上・・・一語ずつ区切ってはっきりいう言い方。

不義者(ふぎもの)・・・同義に外れた人。

揮毫(きごう)…文字や絵を頼まれて書くこと。

しもたや・・・商店ではない普通の家。

画竜点睛(がりょうてんせい)・・・最後の大切な仕上げ、ほんの少し手を加えることで全体が引き立つこと。

点景・・・風景画などで画面を引き締めるために添えられた人や物。

落籍せる(ひかせる)・・・抱え主への前借金などを払ってやって芸者や娼妓の稼業から身を引かせること。

詠嘆(えいたん)・・・物事に深く感動すること。