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女は同じ物語 山本周五郎 

【朗読】女は同じ物語 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「女は同じ物語」(昭和30年)です。「どんな娘でも、結婚してしまえば同じようなものだ。娘のうちはいろいろ違うように見える、ある意味では慥かに違うところもある、が、或る意味では、女はすべて同じようなものだ。」と冒頭に書かれています。許嫁者がいるのに侍女を好きになってしまう広一郎。彼の恋の行方は・・・

女は同じ物語 主な登場人物

梶広一郎・・・二十六歳、女は嫌いだといって結婚しない。役料十五石で藩の文庫へ勤めている。とびぬけた才能はない。

梶竜右衛門・・・四十七歳、二千百三十石の城代家老。家の実権を妻に握られている。「女はみな同じ」と息子に教える。

さわ・・・四十二歳、竜右衛門の妻、広一郎の母。家の全ての実権を握り、女は嫌いだという広一郎が女に興味を持つように、きれいな侍女を彼につける。

よの(紀伊)・・・十七歳。城下の呉服屋の娘。名はよのだが、梶家では「紀伊」と呼んでいる。

安永つな・・・広一郎の許嫁者。幼い頃一緒に遊び、広一郎に悪戯を仕掛けるおませな「つな」に対して「気の強い、意地悪な娘だった。」と思い込んでいる。

佐野要平・・・貧乏で有名な中老の息子。十一人兄弟の長兄。あだ名は平家蟹。剣術が巧く腕っぷしが強い。呑み代がないので友人にたかり、至るところに勘定を溜めている。呉服屋のよのに縁談を申し込むが断られる。しかし・・・

女は同じ物語 あらすじ(※ネタバレを含みます)

梶竜右衛門は二千百三十石の城代家老で、一人息子の広一郎は二十六歳、藩の文庫勤めをしているが、女は嫌いで許嫁者がいたが結婚しようとしなかった。そこで母のさわ女が、広一郎にきれいな侍女をつければ女に興味を持つようになるだろうと、彼女によって厳重に選ばれた紀伊という侍女を広一郎につけた。竜右衛門としては未婚の息子に侍女をつけるというのは武家の習慣としてもどうかと思ったが、家の実権は全て妻が握っているため反対することはできなかった。紀伊が侍女になってひと月経つと広一郎は侍女の躰つきをみて温雅だなと好ましく思った。彼女の二の腕があらわに見えたとき、その美しさに胸がときめいた。ふた月目には紀伊の声がやわらかく落ち着いて澄んでいることに気付く。そして紀伊が器量よしだと気付いて目をみはった。翌月には広一郎は紀伊と話をするようになった。紀伊に話しかけるときには顔が赤くなり、紀伊も同じように赤くなった。その翌月のある日、紀伊がひどく沈んだ様子をしているのに気づく。どうしたのかと何度も聞くと紀伊は泣き出した。

かん太
広一郎は問い詰めると、紀伊に縁談があって、紀伊は嫌で断るのに相手はしつこく承知しない。それは家中であまり評判のよくない中老の長男、佐野要平であった。
アリア
広一郎は佐野要平と決闘するんだ。そして佐野は紀伊から手をひくことを承知する。その後、広一郎と紀伊は急接近し、結婚したいと思うようになる。しかし両親は大反対して・・・

女は同じ物語  覚え書き

由ありげ(よしありげ)・・・わけがあるようなさま。何か深い由緒や事情などがあるようなさま。

秋波(ながしめ)・・・美人の美しい目許。また、女性の媚を含んだ目つき。

奸悪(かんあく)・・・心がねじけていて悪いこと。また、そういう人や、そのさま。

嬌羞(きょうしゅう)・・・女性のなまめかしい恥じらい。

嘲弄(ちょうろう)・・・あざけり、からかうこと。

アリア
広一郎の「ずっと父と母の生活をみていて、父を気の毒に思った。表面上は旦那さまと立てて父は家長の座に座っている。しかし実際の私生活では母の思うままだ。全ての実権は母が握っている。父には、母のにぎっている鎖の長さだけしか自由はないし、その鎖で思うままに操縦されている。」どこもそうなのかなぁ・・・・

妻の中の女 山本周五郎

【朗読】妻の中の女 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「妻の中の女」(昭和30年)(あとのない仮名/新潮文庫)です。江戸から前触れなしに不意をついて帰国してきた江戸家老・信夫杏所(58歳)は代々の城代家老で、その「並びなき威勢」と底抜けの「わがまま」と、絶え間なしの「遊蕩」とで誰知らぬ者はなかった。また城代家老としての過去を知っている者は(老職や当時の側近は)、そのきわだった業績と、まれにみる俊敏さと、「軽薄に隠れた」老獪さを忘れてはいなかった。杏所は「御用金調達」のために予告なしに来たのだが、帰国して五日目に開いた老職会議では黒書院の上座に座り、初めから威猛高で会議というよりは、一方的に要求を押し付けるという感じだった。そんな信夫杏所に物申したのは三年前、殿じきじきに任命された勘定奉行・若杉泰二郎だった。

かん太
泰二郎が大村のしほのと婚約するまでは、娘を持っている親たちが、上下を問わず彼に熱をあげていたんだよー!

妻の中の女 主な登場人物

信夫杏所・・・58歳・代々城代家老だが、八年前に自分から無理に望んで江戸家老として赴任する。自由に遊蕩するために43歳まで独身だった。結婚した初世に対して冷淡で、江戸へも同伴しなかった。

若杉泰二郎・・・27歳・勘定奉行。国許で誰よりも人望がある、役目にはきわめて忠実で、才腕と実行力があるし、年には似合わぬほど温厚で謙遜。

初世・・・41歳・杏所の妻。面長のおっとりした顔立ちで、地蔵眉と、やや尻下がりの眼とに、こぼれるような愛嬌があった。

しほの…19歳・泰二郎の婚約者。大村直人(年寄役肝入)の娘。堀普請の手伝いで力仕事もするし、陽に焼けるから浅黒い肌が引き締まって、眼つきにも口ぶりにも健康で爽やかな力感が満ち満ちていた。

大沢五郎太夫・・・二十代・江戸邸の剣術師範。抜刀流(田宮派)の上手で、杏所の推挙によって召し抱えられた。杏所に心酔している。

妻の中の女 覚え書き

碁笥(ごけ)・・・碁石を入れる丸い容器。

後刻(ごこく)・・・しばらく時間の経ったのち。のちほど。

山方(やまかた)・・・山のある地方。

威勢(いせい)・・・人を恐れ従わせる力。

孤閨(こけい)・・・ひとり寝の部屋。転じて、夫の長い留守の間、妻が一人で暮らすこと。

本卦返り(ほんけがえり)・・・生まれた年の干支と同じ干支の年がくること。数えで61歳になること。

雛妓(しゃく)・・・すうぎ。一人前でない芸妓。半玉。

一顰一笑(いちびんいっしょう)・・・ちょっとした表情の変化。人の顔色、機嫌。

蕩児(とうじ)・・・正業を忘れて酒色にふける者。

老獪(ろうかい)・・・いろいろ経験を積んでいて、悪賢いこと。また、そのさま。

末席(ばっせき)・・・最も立場の低い人が座る席。

繁多(はんた)・・・物事が非常に多いこと。また、そのさま。

土性骨(どしょうほね)・・・性質・根性を強調、または、ののしっていう語。ど根性。

多寡(たか)・・・多いことと少ないこと。その量、額、多少。

適否(てきひ)・・・適すること、適さないこと。

徒食(としょく)・・・働かないで遊び暮らすこと。

助勢(じょせい)・・・力を添えて援助すること。

傲岸(ごうがん)・・・おごり高ぶって、いばっていること。

人望(じんぼう)・・・信頼できる人物として、人々から慕い仰がれること。

威猛高(いたけだか)・・・相手を威圧するような態度をとるさま。

査問(さもん)・・・調べ問いただすこと。

周旋(しゅうせん)・・・売買・交渉などで、当事者間に立って世話をすること。

名聞(みょうもん)・・・名声が世間に広まること。世間での評判。

踏査(とうさ)・・・実際にその地へ出かけて調べること。

畚(もっこ)・・・ふご。竹、わら・縄などで網状に編み、四隅につりひもをつけ、物を入れて運ぶ道具。

瑣末(さまつ)・・・重要でない、小さなことであるさま。

一揖(いちゆう)・・・軽くおじぎをすること。

野天(のてん)・・・屋根のないところ。家の外。

生きた空もない・・・生きた心地がしない。恐怖や苦しみを表現する言い方。

 

 

 

 

 

嫁取り二代記 山本周五郎

【朗読】嫁取り二代記 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「嫁取り二代記」です。この作品は昭和12年婦人倶楽部に掲載されました。昭和21年講談雑誌に掲載された「明暗嫁問答」の祖型のような作品です。周五郎作品に嫁と舅の話はいくつかありますが、読後すっきり爽やか軽めの話です。福山藩の国家老、牧屋勘兵衛の甥・直次郎が夫婦約束をした芸妓を叔父に預けて参勤の共に発足します。残された元芸妓のお笛と勘兵衛のやりとりに心があたたかくなります。

嫁取り二代記 主な登場人物

牧屋直次郎・・・ひととおりの青年ではない。色白の美男で武芸もでき、学問にも秀でている。性質は眼から鼻へ抜けるような質。お笛を勘兵衛に預けて江戸へいく。

牧屋勘兵衛・・・国家老七百石、頑固一徹だが分かりのよいところがあるので若い連中に人気がある。数年前妻に死なれ、子がないので弟の子、直次郎を養子にする。

お笛・・・十八歳。生まれた時から父母の顔を知らず十四歳から座敷勤めをしていた。

伝吉・・・無頼者。お笛のストーカー的存在。

孤島 山本周五郎

【朗読】孤島 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「孤島」です。(昭和10年)父の敵に命を救われるという点が「雪崩」と同じですが、大暴風雨の中で船が転覆する様子や火山の噴火の描写など迫力満点です。主人公、曽根欣之助と妹の夏江は、父の敵を二年この方苦心を重ねて探していた。そして鳥羽の港から西海丸が出帆したとき、父の敵、栖埼重次郎と同じ船に乗り合わせていることを知ります。欣之助と十次郎は二つ違いで、少年時代から普通につきあってきました。夏江も十次郎とはしばしば会って話したことがありました。しかし二年前、ふとしたことから欣之助の父と十次郎が口論になり、仕掛けられてやむなく抜き合わせた結果、十次郎はついに欣之助の父を切ってしまったのでした。三人が乗り合わせた船はやがて大暴風雨に合うのでした。

孤島 主な登場人物

曽根欣之助・・・父、曽根藤左衛門を十次郎に切られ、仇討ちのため十次郎を探し回っていた。十次郎に「父親に似て頑固」と云われる。

夏江・・・欣之助の妹。海で気を失ったところを十次郎に助けられる。

栖埼十次郎・・・高山藩で百五十石を取る江戸詰めの馬廻りで、若いに似合わず思慮が深く、朋輩の間にも人望があった。しかし上役を斬ったため藩を立ち退いた。

孤島  覚え書き

舷(ふなばた)・・・船の両側面。ふなべり。

理非(りひ)・・・道理にかなっていることと外れていること。

仮令(たとえ)・・・たとえば

疾風(はやて)・・・速く激しく吹く風。

飛礫(つぶて)・・・小石を投げること。また、その小石。

海面(うみずら)

竜骨(りゅうこつ)・・・船底の中心を、船首から船尾へ貫く主要部材。

奔騰(ほんとう)・・・非常な勢いであがること。

海松(みる)・・・海藻の一種。

暗澹(あんたん)・・・薄暗くはっきりしないさま。暗く陰気なさま。

邂逅(かいこう)・・・思いがけなく会うこと。

鳴動(めいどう)・・・大きな音を立てて揺れ動くこと。

潮鳴り(しおなり)・・・海の波が岸に寄せたり返したりするときの音。

帆影(ほかげ)・・遠くに見える船の帆。

落ち潮(おちしお)・・・引き潮

悩乱(のうらん)・・・悩み苦しみ心が乱れること。

 

かん太
久夫十蘭の「藤九郎の島(昭和27年)も無人島に漂着して何年も暮らすという話ですが、こちらも生活の様子が詳細で面白かったです。いずれ読みたいと思います!

 

 

宗近新八郎 山本周五郎

朗読】宗近新八郎 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、「宗近新八郎」(昭和16年)です。主人公の新八郎は尺八の名人です。新八郎の尺八と婚約者のおぬいの琴で合奏する場面がおすすめです。音が目に見えるように美しく描かれ何度も読み返したくなります。

宗近新八郎 主な登場人物

宗近新八郎・・・二百石の書院番で、そのすぐれた男ぶりと、ずば抜けた剣の名手とで家中に知られている。道楽に尺八をたしなむ。

おぬい・・・十九歳。新八郎の許嫁者。外村剛兵衛の娘。琴にたんのうで。にくづきのすぐれたからだつきで、赤いつまんだような唇もとと、まつ毛のながい目があり、ときどき艶やかな表情をみせる。

平林六郎右衛門・・・藩政を握る戸沢堅物の反対派。新八郎を利用して・・・

平林啓二郎・・・六郎右衛門の長男。前におぬいを貰いたいと熱心に申し込んだことがある。

戸沢監物・・・六十三歳。常陸ノ国手綱藩、中村信濃守の城代家老。藩政の中心を握る。中条流の小太刀の名人。

宗近新八郎 あらすじ(※ネタバレを含みます)

徳川幕府はじまって百年、享保年代になると、純然たる消費生活にはいった諸大名の財政は、目に見えて窮乏の一途をたどりだしていた。手綱藩四万石も、監物が家老職についたとき、藩の財政は手のつけようもないほど紊乱していた。戸沢監物はご主君信濃守に執政一任のおすみつきを乞い財政建て直しの大鉈をふるいはじめた。しかしその専制的な執政が一部の家中の者に評判が悪く、「斬ってしまえ」という過激な論さえでているくらいだった。宗近新八郎は、反対派に監物を御意討ちせよと命ぜられる。一命を捨てて監物を糺しにいった新八郎は、監物の身命をなげだして主家万代の策を断行した態度の壮烈さに感動し、命を懸けて監物に命ぜられた役目にあたることになる。

 
かん太
六郎右衛門は城代家老の席がほしくて、息子の啓二郎はおぬいがほしかったんだね・・・・

宗近新八郎 覚え書き  

御意(ぎょい)・・・貴人や目上の人などを敬って、その考え・意向をいう語。

専横(せんおう)・・・好き勝手にふるまうこと。また、そのさま。

一身一家(いっしんいっか)・・・一人の人間、ひとつの家族。

病臥(びょうが)・・・病気で床につくこと。

陶然(とうぜん)・・・うっとりとしてよい気持ちであるさま。

結託(けったく)・・・互いに心を通じて助け合うこと。力を合わせ団結すること。

徒費(とひ)・・・金銭・時間・労力などを無駄に使うこと。

重代(じゅうだい)・・・先祖代々伝わっていること。また、そのもの。

後事(こうじ)・・・あとのこと。将来のこと。

想夫恋(そうふれん)・・・新八郎とおぬいが合奏した曲の題名。

姚冶(ようや)・・・顔かたちが美しくなまめかしい。

憂愁(ゆうしゅう)・・・うれえ悲しむこと。気分が晴れずに沈むこと。

点綴(てんてい)・・・進行方向を変えること。

無念無想(むねんむそう)・・・一切の想念を離れること。

感興(かんきょう)・・・何かを見たり聞いたりして興味がわくこと。

小歇み(こやみ)・・・雨や雪などがしばらくの間降りやむこと。

火急(かきゅう)・・・火のついたように、差し迫った状態にあること。

擡頭(たいとう)・・・勢いを増してくること。

紊乱(びんらん)・・・秩序・風紀が乱れること。また乱すこと。

諮問機関(しもんきかん)・・・行政庁の諮問に応じて学識経験者などが審議・調査を行い意見を答申する機関。

蕭条(しょうじょう)・・・ひっそりと物寂しいさま。

幽玄(ゆうげん)・・・物事の趣が奥深くはかりしれないこと。

奸物(かんぶつ)・・・悪知恵のはたあらく心のひねくれた人物。

疾呼(しっこ)・・・口早に激しく呼び立てること。

発止(はっし)・・・堅いものどうしがぶつかるさま。

歎息(たんそく)・・・悲しんだりがっかりしたりして、ため息をつくこと。

 

 

 

将監さまの細みち 山本周五郎

【朗読】将監さまの細みち 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「将監さまの細みち」(昭和31年)です。人気作で、何度もTVドラマ化・舞台化された作品です。病夫と子どもを抱え、生活のために岡場所に「通い」で勤めるおひろの話です。

将監さまの細みち 主な登場人物

おひろ(おその)・・・二十三歳。「染井家」という岡場所で病夫と子どものために通いで働く。

利助・・・病気で三年も寝ている。実は怠け者。

政次・・・四歳。おひろと利助の子。

おまさ・幾世・文弥・・・岡場所「染井家」のおんな。

源平・・・駕籠屋・染井家の経営者。

常吉・・・おひろと利助の幼なじみ。妻に死なれ、おひろを後妻にしたいと探していた。

将監さまの細みち あらすじ(※ネタバレを含みます)

おひろには三年も寝ている病夫と四つになる子供があった。良人の医薬と生活をたてていくために、どうしてももう少し稼ぎを増やさなければならなくなっていた。それはどうにもならぬほど差し迫っていたし、ほかに芸のない女にはそれをきりぬける手段は一つしかなかった。おひろは働いていた料理茶屋で知り合った客の源平に相談し、彼の経営する岡場所「染井家」で通いで稼ぐようになった。おひろはいつも自分の力に及ばないことは「どうしようもないじゃないの」と自分にそう云いきかしていた。

かん太
おひろは辛い時いつも「五十年まえには、あたしはこの世に生れてはいなかった。そして、五十年あとには、死んでしまって、もうこの世にはいない。・・・あたしってものは、つまりはいないのも同然じゃないの、苦しいおもいも辛いおもいも、僅かにそのあいだのことだ、たいしたことないじゃないの。」って思うんだよ。

夫の利助は三年も寝ている割には体に肉もついていたし、膚の艶もよかった。半分は嘘のような咳をしたり、かみさんに働かせて自分は寝てるなんて死んじまいたくなる・・など愚痴る。おひろはうんざりしていた。利助は子どもの頃、幼なじみの常吉とよく喧嘩したがいつも負けていた。利助は子どもの頃から弱虫で、口でいばったり強がったりしても、いざとなると弱虫で、いくじがなかった。おひろは常吉の方が好きだったが、表通りの大八百屋の常吉と、裏長屋の子ではどうしても隔てがあり、おひろは弱虫な利助の味方になり庇ってやった。ある時、幼なじみの常吉が岡場所におひろを訪ねてくる。そんな利助とは別れて自分と一緒になろう・・子どもも引き取って構わない・・・二年もおひろを探していたという。

アリア
常吉がおひろに「五十年先には死んでしまうものなら、生きている今をいきなければならない。生きているうち仕合せに生きることを考えよう。」って云うんだ。そしておひろは常吉に・・・

将監さまの細みち 覚え書き

岡場所(おかばしょ)・・・江戸で、幕府公認の遊女屋を集めた遊郭である吉原に対して非公認の私娼屋が集まった遊郭のこと。

盃洗(はいせん)・・・酒席でやり取りする杯を洗いすすぐための器。

 

山だち問答 山本周五郎

【朗読】山だち問答 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「山だち問答」(昭和21年)です。郡玄一郎はごく平凡な人間でとりたててこれという能才もない。「おれの取柄はただ出しゃばらないのと口数が少ないことだ。」自分でそう信じていた。しかしそこを高く評価され、「郡は人物だ」と評判がたってから書院番のときにはいつかしら肝入りに推されていたし、番頭に目をつけられて馬廻り扈従に引き抜かれ、槍奉行の女との結婚が決まった。ある日、彼は主君の仰せつけで使者に立つが、峠の路高みへ出た時山賊に出会い身ぐるみ置いていけと云われる。しかし御主君の御用で行く途中なので、ここで裸になっては御用が果たせない、衣服大小は帰りに渡すからそれまで自分に貸してほしい、武士に二言はないと交渉する。

 

かん太
この作品は世評によって自分を見失った小雪と、同じく世評によって推し挙げられ、叩きのめされる玄一郎の話だよ。最後に二人の本質が明らかになるスカッとする話です。楽しんでね!

山だち問答 主な登場人物

郡玄一郎・・・大垣藩、馬廻り扈従。出しゃばらず口数の少ない男。世評に振り回される。

佐田権太夫・・・槍奉行。玄一郎を見込んで娘と婚約させる。

小雪・・・老職・戸田内記の娘で男勝りで薙刀、小太刀は達者で馬にはひじょうに堪能。我儘で男そっくりという評判。

赤松六郎左衛門・・・伊吹山住人の山賊の頭。

かね・・・郡家の老婢。

なつ・・・戸田家の侍女。暇を出されて郡家を訪ねてくる。

山だち問答 覚え書き

追手門(おおてもん)・・・城の正門。

権高(けんだか)・・・気位が高く傲慢なこと。

野放図(のほうず)・・・人を人とも思わない図々しい態度。

犬馬の労(けんばのろう)・・・主君や他人のために力を尽くして働くこと。

追従(ついしょう)・・・人の気に入るような言動をすること。

斟酌(しんしゃく)・・・相手の事情や心情をくみとること。

哄笑(こうしょう)・・・大口をあけて笑うこと。

志操(しそう)・・・かたく守って変えない志。

高潔(こうけつ)・・・人柄が立派で利欲のために心を動かさないこと。

伊曽保物語(いそほものがたり)・・・イソップ物語。室町末期にポルトガル語から口語に訳された。

奇知(きち)・・・すぐれた知恵。

胆力(たんりょく)・・・ことにあたって恐れたり尻込みしたりしない精神力。

落首(らくしゅ)・・・風刺や批判、嘲りの意を含めた匿名のざれ歌。

面罵(めんば)・・・面と向かってののしること。

嘲罵(ちょうば)・・・あざけりののしること。

 

 

 

 

平八郎聞書 山本周五郎

【朗読】平八郎聞書 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「平八郎聞書」です。この作品は昭和17年39歳の作品です。山だち問答(昭和21年)に似てますが山賊に衣服大小身ぐるみ渡した後の展開が違います。神君家康公の教えを本多平八郎が聞書きした筆録「武士は武士臭く、百姓は百姓臭くあるべきだ、臭みをなくせば元も失う。臭みなどを恐れては真の道に入ることはできぬ。」を読んだ新兵衛が、家中で評判が下がり婚約を解消されても武士臭い武人になろうと水野監物忠善に語ります。

彦左衛門外記10 山本周五郎

【連載朗読】彦左衛門外記10 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作 (連載朗読)「彦左衛門外記10」(昭和34年)です。姫の安否はどうだ。彼が頭を殴られて失神したとき、姫は誘拐されたに違いない。しかしまた、「誘拐された」という確証もなかった。

彦左衛門外記10 新しい登場人物

まち・・・倉持善助の妻。顔かたちも姿もなかなかよく、着物も派手で、近寄ると白粉や香油が強く匂う。

来島帯刀(くるしまたてわき)・・・奥平家中屋敷の家老。

彦左衛門外記10 覚え書き

知覚神経(ちかくしんけい)・・・感覚神経。

猿芝居(さるしばい)・・・すぐ見透かされてしまうような、あさはかなたくらみ。

天地神明(てんちしんめい)・・・天地の神々。全ての神々。

叩頭(こうとう)・・・頭を地につけておじぎをすること。

茶菓(さか)・・・茶と菓子。

香油(こうゆ)・・・頭髪につけたり体に塗ったりする、においのよい油。

板(ばん)

夜番(よばん・やばん)・・・夜、番をすること。その人。

柝(き)・・・拍子木。また、拍子木を打つこと。

夜討ち(ようち)・・・夜、不意に敵を攻撃すること。

物具(もののぐ)・・・武具。兵具。

煽動(せんどう)・・・気持ちをあおり、ある行動を起こすようにしむけること。

城郭(じょうかく)・・・城の周囲に設けた囲い。

狡猾(こうかつ)・・・ずる悪賢いこと。また、そのさま。

老獪(ろうかい)・・・いろいろ経験を積んで、悪賢いこと。また、そのさま。

騒乱(そうらん)・・・事変が起こって、社会の秩序が混乱すること。

友誼(ゆうぎ)・・・友人としての情愛。友達のよしみ。

諌止(かんし)・・・いさめて思いとどまらせること。

尻馬(しりうま)・・・人の言動に便乗してことを行うこと。

恭順(きょうじゅん)・・・命令につつしんで従う態度をとること。

御錠口(おじょうぐち)・・・将軍や大名の邸宅などで表と奥との境に設けた出入口。

下賤(げせん)・・・いやしいこと。身分が低いこと。

末世(まっせ)・・・道義のすたれた世の中。

小半刻(こはんとき)・・・現在の30分。

哀訴(あいそ)・・・同情をひくように、強く嘆き訴えること。

咆哮(ほうこう)・・・猛獣などが、ほえたけること。

慨嘆(がいたん)・・・うれいなげくこと。憤り嘆くこと。

恩顧(おんこ)・・・情けをかけること。よく面倒を見ること。

向背(こうはい)・・・従うこと、背くこと。

鋭鋒(えいほう)・・・鋭いほこ先。

石塊(いしくれ)・・・石のかけら。小石。

ふんとに・・・本当に。

 

 

彦左衛門外記8 山本周五郎

【連載朗読】彦左衛門外記8 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、連載朗読「彦左衛門外記8」です。大御所が他界し、天下に争乱が起こるかもしれない!と大久保彦左衛門は本格的に動き出した。御前評定で、松平信綱、酒井忠勝、土井利勝、井伊、本多その他、帷幄の人々の前で彦左衛門は家光とやりあい、家光が、将軍の威光をひけらかすと、彦左衛門は家康の墨付きを出して対抗した。墨付は、東照公の御直筆であり、大御所も副署をなすっている。彦左衛門はそれを披いて、声さわやかに読み上げたのち、列座の人々に掲げて見せた。そして、「ここではっきり云っておくが、自分は天下の意見番としてどこへでも乗り込んでゆく、心得がたき事があれば容赦はしない、どうかその覚悟でいるように。」と云った。一方数馬は、奥平家の中屋敷で二人の叔父が何を企んでいるか探っていた。そして二月五日、ちづか姫を訪問する定日に、数馬は一種の前兆を感じながら奥平邸に行くと・・・

彦左衛門外記8 覚え書き

愚昧(ぐまい)・・・おろかで道理に暗いこと。そのさま。

眩惑(げんわく)・・・目が眩んで正しい判断ができなくなること。また、目をくらまして惑わすこと。

喝破(かっぱ)・・・大声でしかりつけること。

ちり毛もと・・・襟首の辺り。

一刻ちかく・・・約二時間。

平癒(へいゆ)・・・病気が治ること。

霊験(れいげん・れいけん)・・・人の祈請に応じて神仏などが示す霊妙不可思議な力の表れ。

奥・・・身分の高い者が妻をいう語。

精根(せいこん)・・・精力と気力。物事を成し遂げようと集中した体力と精神力。

直参(じきさん)・・・主君に直接仕えること。

英明(えいめい)・・・すぐれて賢いこと。

つめびらき・・・詰め開き。談判すること。

色をなして・・・怒りで顔色を変える。

帷幄(いあく)・・・作戦を立てるところ。本営、本陣。

大下馬(おおげば)・・・江戸城大手門外の下馬所。

男子三日会わざれば・・・刮目してみよ。男子は三日会わないでいると驚くほど成長しているものだの意。

箙(えびら)・・・矢を入れる武具。

頓死(とんし)・・・突然死ぬこと。

殴打(おうだ)・・・ひどくなぐりつけること。

瞞着(まんちゃく)・・・ごまかすこと。だますこと。