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目次

三十二刻 山本周五郎 

三十二刻 山本周五郎 読み手 アリア

こんにちは 癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「三十二刻」です。この作品は1940年昭和15年に書かれた武家もの短編小説です。「三十二刻」は、良人 主馬の出府中に舅によって実家に帰された宇女が、疋田家と山脇家の騒動を知り、兄に見送られ実家へ戻っていくところから始まります。

三十二刻 主な登場人物

疋田宇女・・・主馬の出府中に実家に帰されるが、疋田家の大事に実家へ戻り、全ての火薬を水浸しにし、酒瓶を全て打ち壊す。         

疋田図書・・・秋田藩佐竹家の老職。自分の全ての希望をかけた自慢の息子を奪い取った家格の合わない嫁を憎んで実家に帰した。

疋田主馬・・・宇女の良人。中小姓で新婚半年で主君修理大夫義隆に持して江戸へ出府した。

六郎右衛門・・・疋田家の家扶。

三十二刻のあらすじ(※ネタバレ含みます)

疋田図書は譜代中での名門であり、山脇長門は廻座の肝入格である。二人は互いの性格が合わぬだけでなく、「廻座」と「譜代」と対立する勢力の代表的位置のため、長いあいだ悶着を繰り返してきた間柄だった。それがついに来るところへきた。長門は憤懣を暴力に訴え、図書はついに受けて起った。疋田図書は、七十二名の家士たちとともに門を閉ざし立て籠った。邸内には藩から委託された火薬製造所もあった。敵を屋敷に引き付け、機をみて一挙に決戦する考えだった。いよいよ合戦を待つばかりとなった時、火薬が全て水浸しになり、酒瓶も全て打ち壊されているという変事が起こる。屋敷内に敵と通謀する者があるのではないか・・・そこへ宇女が出てきた。黒髪を束ねて背に垂らし、白装束の腰紐をかたく締上げた凛々しい姿で、薙刀を右手に抱込んでいた。

かん太
宇女の家は平徒士で二百石余の小身だった。疋田家は秋田藩佐竹家の老職で二千三百石だから家格の相違に比例して生活の様式も違ったんだ。台所も家士と小者を加えて八十人に余る家族分だから随分苦心したんだよ。
アリア
主馬が主君に持して江戸へ去るときに宇女を呼んで云ったんだ。「初めての留守だ。父上と家のことを頼むぞ。」って。良人から初めて聞く「頼む」に宇女は心を引き締めたんだ。
かん太
戦いが始まってからの宇女がかっこいいんだ!図書はどうするんだろうね・・!

三十二刻 覚え書き

懸隔(けんかく)・・・二つの物事がかけ離れていること。非常に差があること。

叢林(そうりん)・・・樹木が群がって生えている林。

水盃(みずさかずき)・・・二度と会えないかもしれない別れのときなどに、互いに杯に水を入れて飲みかわすこと。

名聞(みょうもん)・・・名声が世間に広まること。世間での評判・名声。

転封(てんぽう)・・・江戸時代、幕府の命令で、大名の領地を他に移すこと。

随身(ずいじん)・・・つき従って行くこと。また、その人。お供。

食客(しょっかく)・・・客の待遇で抱えておく人。

矜持(きょうじ)・・・自負。プライド。

横車(よこぐるま)・・・横に車を押すように、道理に合わないことを無理に押し通そうとすること。

悶着(もんちゃく)・・・感情や意見の食い違いから起こるもめごと。

憤懣(ふんまん)・・・怒りが発散できずにいらいらすること。腹が立ってどうにもがまんできない気持ち。

逆茂木(さかもぎ)・・・敵の侵入を防ぐために、先端を鋭くとがらせた木の枝を外に向けて並べ、結び合わせた柵。

什器(じゅうき)・・・日常使用する器具・家具類。

別盃(べっぱい)・・・別れを惜しんで飲む酒。別れのさかずき。

痴者(しれもの)・・・愚か者。ばか者。

忿怒(ふんぬ)・・・ひどく怒ること。

敢然(かんぜん)・・・思い切ってことをするさま。

鬨声(ときのこえ)・・・士気を鼓舞するために、多数の人が一緒に叫ぶ声。

跫音(あしおと)

総身(そうしん・そうみ)・・・からだ全体。

窺み視(ぬすみみ)

平明(へいめい)・・・わかりやすくはっきりしていること。またそのさま。

蓆(むしろ)・・・い・わらなどで編んで作った敷物。

衾(ふすま)・・・布などで長方形に作り、寝るときにからだに掛ける夜具。

齟齬(そご)・・・物事がうまくかみ合わないこと。食い違うこと。

撓直し(ためなおし)・・・曲がっているものを伸ばしてまっすぐに直す。

定法(じょうほう)・・・こういう場合はこうするものと、決まっているやり方。

下知(げじ)・・・上から下へ指図すること。

先途(せんど)・・・これから進む先。行き先。

譴責(けんせき)・・・しかり責めること。不正や過失などを厳しくとがめること。

 

 

 

上野介正信 山本周五郎

【朗読】上野介正信 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。昭和23年(1948年)45歳のときに執筆され、小説新潮に掲載された時代小説です。孤独に生きる庭番・茂助と、質素倹約を貫く殿さま・堀田正信。武士の本分を重んじるあまり、周囲から浮いてしまう二人だが、静かに心を通わせていく。しかし、ある出来事をきっかけに茂助は屋敷を追われ、やがて殿さまの身にも波乱が訪れる。信念と誇りを賭けたその生き様を、茂助は最後まで見届けようとするが――。

上野介正信 あらすじ

無口で人付き合いを避け、ひっそりと暮らす庭番の茂助。堀田家の庭で果樹を育てる彼は、武士たちから「爺さん」と呼ばれ、孤独に生きていた。しかし、そんな彼の静かな日々に、殿さまである堀田正信がしばしば訪れるようになる。倹約と質素を貫き、正義を信じる正信は、家臣たちに疎まれながらも、茂助には心を許し、己の想いを語った。

ある日、茂助は突然屋敷を追われる。理由も知らされぬまま、彼は生家へ戻るが、心は殿さまの孤独を思い続けた。そんなある日、正信が幕府に逆らい、城に立てこもったという報せが届く。だが、戦うことなく降伏した正信は「発狂」とされ、領地を奪われ、遠くへ流される。茂助は絶望しながらも、淡路島に幽閉された殿さまに会うため旅立つ。そして「御好物の干柿を持ってあがりました、――殿さま、茂助でござります」そう語りかける茂助の声は、静寂の中に消えていった。

上野介正信 主な登場人物

茂助(もすけ)

・堀田家の庭番として果樹畑の世話をしていた男。
・無口で人付き合いを避け、孤独に生きる。
・殿さま(堀田正信)から信頼を得て、心の内を打ち明けられる。
・屋敷を追われた後も正信のことを思い続け、最期の地・淡路島へ旅立つ。

堀田正信(ほった まさのぶ)

・佐倉藩(十二万石)の領主で、「上野介」と称される。
・倹約と質素を貫き、武士の本分を重んじるが、家臣や周囲から疎まれる。
・幕府の政治に疑問を持ち、諫言をした末に幕府に反逆するも、家臣の説得により降伏。
・幕府から「発狂」とみなされ、各地を転々とした末、淡路島で幽閉され、自害する。

茂助の家族

市兵衛(いちべえ) … 茂助の甥で、植木職の家を継いでいる。茂助を気にかける。
お直(おなお) … 茂助の兄嫁。長年家を守り続ける。
茂助の兄(源助) … すでに亡くなっている。
お菊(おきく) … 茂助の元妻。職人と不義を働き、茂助に捨てられる。

堀田家の関係者

家臣たち … 正信の厳しい倹約生活に不満を抱き、陰口を叩く。
国家老 … 佐倉城で正信を説得し、城門を開かせず、謹慎させることで謀反を未然に防ぐ。
組頭(くみがしら) … 茂助を屋敷から追い出した人物。「出る杭は打たれる」と忠告する。

幕府・他藩の関係者

酒井空印(さかい くういん) … 正信の外祖父。幕府の重臣であり、彼の影響力が強い。
伊豆守松平信綱(まつだいら のぶつな) … 幕府の重鎮。正信の反逆を「発狂」と処理することを決定する。
脇坂淡路守(わきさか あわじのかみ) … 幕府の命で正信を預かる大名。
松平阿波守(まつだいら あわのかみ) … 正信の預かり先を管理する大名。

淡路島での関係者

中老の侍 … 正信の最後を茂助に伝えた人物。
番士(ばんし) … 正信の謫居を管理する兵。茂助を中老の侍へ取り次ぐ。

総括
孤独な庭番・茂助と、孤高の殿さま・堀田正信の交流を中心に、堀田家の家臣たちや幕府の権力者が物語の背景を形作る。茂助の家族も彼の孤独な生き方に関わりながら、最後には正信の悲劇的な運命が茂助の人生に深い影を落とす。

 

並木河岸 山本周五郎

【朗読】並木河岸 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「並木河岸」(昭和31年)です。何度かTVドラマ化された作品で、若い夫婦になかなか子ができないことから二人の間に溝ができてしまう・・切ない話です。

並木河岸 主な登場人物

銀次・・・三十一歳。無口で無愛想な性分。船大工で帳場は深川平野町にある。家から四半刻あまりかけて歩いて通う。十三の頃に弟子入りし、今では一番年長で仕事場のことは任され、職人たちに指図をする立場になっている。

おてい・・・銀次の女房。三度目の流産で弱っている。子どもができたら、銀次が結婚前の彼に戻ってくれるだろうと期待していた。

お梶・・・飲み屋の女中。銀次と幼なじみでおていのこともよく知っているが、銀次はお梶を覚えていない。

多助・・・稼ぎのいい船頭だったが、三度博奕で捕まり、牢に入っている。

おみよ・・・躰が弱いが、多助が牢に入っているため、生活の為日雇いの仕事をしている。

長吉・・・五歳。多助とおみよの子。

かん太
二人は結婚前にいつも並木河岸で逢引きをしたんだ。おていは奉公先から抜けてきてね。おていは銀次ひとすじなんだよ。読んでいて哀しくなるくらいだよ。二人は三度続く流産で夫婦の溝が深くなるんだ。
アリア
銀次にはもっとおていをいたわって欲しかったなぁ。そしてそんな時に、銀次は居酒屋で幼なじみの女に会うんだ。話し上手で魅力的なお梶姐さん。うーん危険な香りが・・・

並木河岸 覚え書き

小女(こおんな)・・・旅館などで下働きをする若い女性。

癇癪筋(かんしゃくすじ)・・・癇癪を起したときにこめかみなどに浮き出る血管の筋。

手銭(てせん)・・・自分の金銭。身銭。

奉書包(ほうしょづつみ)・・・奉書紙で包むこと。また、そのもの。ここではお守り。

地虫(じむし)・・・コガネムシ科の昆虫の幼虫の総称。

おかぼれ・・・他人の恋人や親しい交際もない相手をわきから恋すること。自分のほうだけが密かに恋していること。

溜(ため)・・・江戸時代において、病気になった囚人などを保護する施設。病牢。

仰臥(ぎょうが)・・・あおむけに寝ること。

斜交い(はすかい)・・・ななめ。はす。

惘然(もうぜん)・・・呆然に同じ。

不決断(ふけつだん)・・・心を決めかねて物事を定めないこと。躊躇すること。

 

 

乱刃ふたり蔵人 山本周五郎

【朗読】乱刃ふたり蔵人 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回の作品、乱刃ふたり蔵人は、昭和11年新少年に掲載されました。

 

乱刃ふたり蔵人 山本周五郎 あらすじ

厳しい霜の朝、薩摩の片隅に暮らす土岐家。亡き夫の遺志を胸に、後妻のお弓は、まだ若き義子・蔵人を立派な武士に育て上げようと、密かに神に祈りを捧げていた。小雪という娘もまた、蔵人の許婚として彼の行く末を案じ、祈りに加わる。

しかし蔵人は、武芸や戦を忌み嫌い、継母に対して深い誤解と不信を抱いていた。「戦場に送り出して死なせ、甥に家を継がせるつもりだ」と。恐れから逃げたい一心で、自らの留守役という命を甘んじて受け入れようとする。

それを察したお弓は、命を賭けてでも蔵人を男にする覚悟を見せ、自ら嘆願して出陣の許可を取りつけるのでした。

乱刃ふたり蔵人 山本周五郎 主な登場人物

土岐 蔵人(とき くらんど)
物語の主人公。18歳の若武者。心優しく、武芸や戦を嫌う性格。父を早くに亡くし、継母・お弓に育てられるが、その愛情を理解できず、長らく誤解と反発の念を抱いていた。

お弓(おゆみ)
蔵人の継母。故・十郎兵衛の後妻。気丈で強い女性でありながら、蔵人のために夜明け前から神社に通い続け、祈願を捧げていた。蔵人に代わって戦場に赴く覚悟を持つ深い愛情の持ち主。

山内 小雪(やまのうち こゆき)
蔵人の許嫁。武家の娘で聡明かつ心優しく、蔵人とお弓の間に立って真実を伝える。

土岐 十郎兵衛(とき じゅうろうべえ)
蔵人の実父。島津家きっての勇士として名を馳せた人物。死に際に「蔵人を立派な武士にせよ」とお弓に託す。

朝岡 三之丞(あさおか さんのじょう)
蔵人の友人。朗らかで快活な青年。白松城攻めの報せを伝える。

菅谷 菊之助(すがや きくのすけ)
お弓の甥。蔵人と同年齢。

アリアの備忘録

お弓は継母でありながら、実の子以上に蔵人を愛し、育てようと心を砕きます。祈り続けた社の階段に残る「手の跡」は、目に見えぬ愛情が年月をかけて石をも穿つことを象徴しています。蔵人は継母の愛を疑い、卑劣な誤解さえ抱きますが、それでもお弓は最後まで彼を信じ、戦場に身を投じます。

作者は血縁に頼らぬ「育ての母の愛」を通じて、人の心の美しさや深さを伝えたかったのでしょう。いい話でした。

 

五月雨日記 山本周五郎 

五月雨日記

五月雨日記 山本周五郎 読み手 アリア

 

こんにちは 癒しの朗読屋アリアです。 今回の朗読は、山本周五郎作「五月雨日記」です。この作品は1947年昭和17年に書かれました。五月雨とは旧暦5月頃の雨、梅雨のことです。「五月雨日記」は、主人公 伊兵衛と老僕 弥助が五月雨あけ(梅雨)で水かさが増した大須川で夜釣りをする場面から始まります。

五月雨日記 主な登場人物

中根伊兵衛・・・紀伊徳川家の郡奉行、中根吉郎兵衛の長男。剣法の才分に恵まれ、生涯を剣の求道に捧げようと家を出奔する。

弥助   ・・・伊兵衛を背に負って守をする時代から、ほとんど側を離れたことのない老僕。

小夜   ・・・大須川へ身投げをした身重の女

介川なぎさ・・・介川外記の娘。美しく、気質も凛として怜悧で、伊兵衛と縁談がある。

介川外記 ・・・城番本多家の老職。駿州田中に来て病気にかかり、困窮していた伊兵衛を助ける。

介川伊織 ・・・介川外記の長男で、色白で女性的な感じのする美男。伊兵衛の道場に稽古に通っている。

五月雨日記のあらすじ(※ネタバレ含みます)

伊兵衛と老僕 弥助は五月雨あけで水かさが増した大須川で夜釣りをしていた。

伊兵衛は紀伊徳川家の郡奉行 中根吉郎兵衛の長男で、剣法の才分に恵まれ、生涯を剣の求道に捧げようと決心していたが、父・吉郎兵衛に反対され、家を出奔し修行の旅に出た。老僕 弥助は、若主人の落ち着く先を見届けぬ限り、骨になってもついてゆくと一緒についてきた。遍歴四年で病気にかかり、困窮しているところを城番本多家の老職、介川外記に救われ、この駿州田中で道場を持った。

自分の竿先を見守っていた伊兵衛と弥助の耳に、上手で何か川に中へ落ちた音がぎょっとするほど高く響いた。二人は人が落ちたことに気付き、伊兵衛はとっさに川へ飛び込んだ。やがて救い上げたのは若い身重の女であった。

住居に連れ帰ると数日うちに女は子を産んだ。女の名は小夜。子を産んでも誰にも知らせたがらない。自分一人の子だと云う。

続く・・・

かん太
秘めた恋で子ができ、男の心が去って死を求めた小夜に伊兵衛が静かに云ったんだよね。
アリア
どんな過でも、この世で取り返しのつかぬことはない。人間はみな弱点を持っている。誰にも過失はある、幾度も過を犯し、幾十度も愚かな失敗をして、少しずつ、本当に生きることを知るのだ。それが人間の、もって生まれた運命なのだ、ってね。
かん太
この言葉が小夜の胸に響いたんだね。
アリア
次の夜、子を産んだ後で伊兵衛に云うんだ。昨夜のお言葉が、なによりの力になりました。もう弱い心は起しませんわ。わたくし、自分の過の取り返しをいたします。この子を立派に育ててまいります、ってね。

五月雨日記 覚え書き

矢も楯もたまらず ・・矢でも楯でも勢いが抑えきれないということで気持ちがあせって我慢できない、じっとしていられない様子。
懇望 (こんもう)・・・切に希望すること、ひたすら願い望むこと。
べた一面(べたいちめん)・・・物の表面全体にすきまなく及んでいるさま。
濃緑(こみどり)・・・深緑、濃い緑色。
陶物(すえもの)・・・やきもの、陶器。
嬰児(えいじ)・・・生まれたばかりの赤ん坊。
肥立ち(ひだち)・・・産婦が日増しに健康を回復すること。
扶持(ふち)・・・主君から家臣に給与した俸禄。
怜悧(れいり)・・・賢いこと。利口なこと。また、そのさま
破約(はやく)・・・約束を破ること。また、契約を取り消すこと。
知己(ちき)・・・自分のことをよく理解してくれている人、知り合い、知人。
凄艶(せいえん)・・・ぞっとするほどなまめかしいさま。
舌峰(ぜつぽう)・・・言葉つきの鋭いことを、ほこさきにたとえていう語。
詰問(きつもん)・・・相手を責めて厳しく問いただすこと。
白刃(しらは)・・・鞘から抜いた刀。抜き身。
峰打ち(みねうち)・・・刀のみねで相手を打つこと。
青眼につける(せいがん)・・・剣術の基本となる中段の構え。
死地(しち)・・・死ぬべき場所。死に場所。
木根(きね)・・・樹木の根
高邁(こうまい)・・・志などがたかく、衆にぬきんでていること。またそのさま。

五瓣の椿 連載第1回 山本周五郎

【朗読】五瓣の椿 序章と1の1 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、山本周五郎作「五瓣の椿」です。この作品は昭和34年講談倶楽部に連載されました。56歳の作品です。何度も舞台化、映画化された人気の名作です。天保五年の冬、奇人として知られた中村仏庵が病死し、その直後、不思議な事件が白河端で起こる。仏庵の近隣にあった「むさし屋」の寮が火事で消失し、焼け跡から三人の焼死体が見つかった。男女の区別もつかないほどの焼死体はおそらく、むさし屋の主人、喜兵衛と妻おその、そして娘のおしのだろうということになった。

五瓣の椿 序章と1の1 主な登場人物

中村仏庵・・・84歳で他界した奇人。大工と畳職の棟梁であり、書を好み「雲介舎弥太夫」と号していた。あまり世間から好かれてはいず、死後の四日目に近隣で火事が起こる。

喜兵衛・・・45歳。むさし屋の主人。3年前に労咳で倒れ、娘おしのと暮らし、妻おそのとは別居していた。娘おしのをとても大切に思っている。

おその・・・喜兵衛の妻。彼が倒れてからは、看病を娘のおしのに任せっきりで、自分はむさし屋の寮で勝手気ままに暮らしていた。

おしの・・・18歳。喜兵衛とおそのの娘で、美しくおっとりとした性格で、父の看病を献身的にしている。

おまさ・・・むさし屋の寮の女中。家事当日、弟の家へ帰っていたため難を逃れる。

五助・・・むさし屋の寮の下男、普段は通いで仕事をしているため難を逃れる。

嘉助・・・むさし屋の番頭。37歳で、妻子持ちの通い勤めの番頭。喜兵衛の体調を気遣い、おしのに報告する。

忠三・・・21歳のむさし屋の手代。店を分けて独立する予定の若手。

徳次郎・・・23歳のむさし屋の手代。忠三同様、暖簾分けを控えている。

むさし屋・・・日本橋本石町三丁目の薬種屋で、隣に油屋も兼業している。老舗としても資産家としても、市中に広くその名を知られていた。

五瓣の椿 備忘録など

帳合(ちょうあい)・・・帳簿に現金や商品の出入りをつけること。。

第1回ですが、おしのの静かな献身的な父の看病をする姿と、父も厳格ながら娘を深く愛しているのが伝わってきました。また母のおそのは夫の看病から距離を置き、自分勝手に別居生活をしています。おしのの純粋で優しい心が強調される一方、下女おまさがおそのの死を天罰と冷たく言い放つ言葉がここまでの話に影を落としました。

 

 

五瓣の椿 連載第2回  山本周五郎

【朗読】五瓣の椿 連載第2回 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は五瓣の椿、連載第二回です。喜兵衛は長く患い、命が危うい状態にありながらも店の仕事を続けようとします。彼は病気に対する頑なな態度を崩さず、寮での療養を勧める娘の提案を断固として拒みます。その一方で、心配する娘おしのは、何とかして父を安心して休ませようと母おそのに助けを求めます。しかしおそのは全く無関心で自分の身なりや楽しみを優先させる態度を見せるのでした。おしのはその母の無関心さに苦悩しつつも・・・

五瓣の椿 連載第2回 主な登場人物

喜兵衛・・・おしのの父で「むさし屋」の主人。長い間労咳を患っている。療養の提案を拒否して商売を続けようという強い意志を持つ。

おしの・・・喜兵衛の娘。父の病状を心配し、医者の指示に従って療養を勧めるが、父の頑固さと母の無関心さに苦しめられる。

おその・・・喜兵衛の妻でおしのの母。美しい自分の容姿と外見、趣味にしか興味を持たない。まず自分。

横山参得・・・喜兵衛のかかりつけ医。彼の病状を重く見て、仕事から離れて療養することを強く勧める。薬ではなく、環境の改善と休養が必要だと診断している。

おたみ・・・むさし屋の若い女中。

おまさ・・・亀戸のむさし屋の寮にいる使用人で、おそのに仕えている。

徳次郎・・・むさし屋の手代。若いが喜兵衛が信用している。

五瓣の椿 連載第2回 備忘録

病性(びょうせい)・・・病気の勢い。病気の進む具合。

勇を振るう(ゆうをふるう)・・・勇気を出し尽くす。

拾い足(ひろいあし)・・・道の比較的良いところを選んで歩くこと。またはその足取り。

痘瘡(とうそう)・・・天然痘

盾にとる・・・防御物としてその陰に隠れる。

今回は、労咳に倒れた父、喜兵衛と、それを支える娘おしのの関係が、家族の愛情と葛藤として描かれていました。頑なに店を守ろうとしする喜兵衛と、何とかして父を助けたいと願うおしのの日ぅしな姿が痛々しく心を打ちました。

特に印象的だったのは、母おそのの無関心さです。美しくて魅力的なおしのは、家族の危機には距離を置き、自分の生活を優先する様子におしのの孤独感が一層際立ちます。それでも母に助けを求めるおしのの姿には、家族を一つにしようとする健気な思いが溢れていました。次回は、果たしておそのは戻ってくるのか?喜兵衛の病はこのまま悪化してしまうのか?そしておしのの苦悩はまだ続くのでしょうか・・・

 

五瓣の椿 連載第3回 山本周五郎

【朗読】五瓣の椿 連載第3回 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回は、連載第3回です。おしのは父の重病に向き合いながら、家族や店の責任を背負って苦悩します。医者からは父の命がもう長くないと告げられるが、父はそれを受け入れず、絶対に回復するという信念を持ち続けています。しかしその裏で、喜兵衛はおしのに妻や店の事情、そして隠してきたことをおしのに告白します。おしのはそんな父の死を拒絶しながら祈り続けます。父の生涯の苦労と不遇、そして父を愛し支えようとする娘おしのの深い愛情が、悲しみと無力感を伴って描かれています。

五瓣の椿 連載第3回 主な登場人物

おその・・・喜兵衛の妻でおしのの母。重病の夫を残して江ノ島へ若い男と遊びにいく。おしのから、その行動は裏切りだと思われている。

横山参得・・・喜兵衛のかかりつけ医。喜兵衛の容体を、どんな名医でも助けられないと宣告する。

お孝・・・一番年上のむさし屋の女中、

忠三・・・むさし屋の手代。

五瓣の椿 連載代3回 備忘録

今回は父が語った秘密が(ネタバレしないよう書きません)今後の物語にどう関わっていくかが気になります。そしておしのが「おっかさんに騙された」と感じたその瞬間から、母娘の間に生じた亀裂が物語の次なる波乱を起こす予感があります。そして何よりもおしの自身の成長と変化に注目したいです。これから一体どのように運命に立ち向かっていくのか、続きがますます楽しみです。

 

 

 

五瓣の椿 連載第4回 山本周五郎

【朗読】五瓣の椿 連載第4回 山本周五郎 読み手アリア

こんにちは!癒しの朗読屋アリアです。今回の連載第4回は、懐かしい過去と現在の葛藤が交錯する情景を描いています。喜兵衛は幼少期の記憶に浸り、特に家の近くにあった椿の咲く池で孤独を癒した思い出を語ります。喜兵衛はその美しい椿が心に染み込むように幾度となく池の側で悲しみや不安を静かに抱きしめたと振り返り、涙を浮かべます。彼は人生の大半を仕事に捧げ、椿のことを忘れていたという告白は、失われたものへの郷愁と未練とを滲ませます。一方おしのは、母親の不道徳な行動に直面して衝撃と苦悩を抱くのでした。

五瓣の椿 連載第4回 主な登場人物

喜兵衛・・・川崎在の農家で育ち、幼少期の思い出に強い郷愁を感じている。奉公先で婿入りをし、仕事に追われて他のことを後回しにしてきた。

おしの・・・父の病状を心配し、母が若い役者と関係を持っていることを知り、怒りと悲しみを抱きつつ、父が亡くなる前に母を連れ戻そうと決心する。

おその・・・おしのの母親。夫が危篤であるにもかかわらず、若い役者と箱根へ出かけて行き、おしのとの約束を破る。

おとよ・・・瀬戸物問屋の主婦で、おそのの友達。派手で遊び好き。軽薄で不快な話し方をする。

島村東蔵・・・若い女形の役者。おそのと関係はないが、母の浮気相手として最初に疑われる。彼はおしのに対して誠実な態度を示し、母親が本当は誰といたのか教える。

菊太郎・・・子役から引退した役者。

佐吉・・・中村座に勤める出方でおしのの知人。おしのに真実を伝える。

備忘録

群葉(むらば)

しんしょう・・・心の中で思いめぐらすこと。

悪心(あくしん)・・・恨みを抱き、悪事をしようとするよこしまな心。

乱行(らんぎょう)・・・ふしだらな振る舞い。